-4

□File11
1ページ/2ページ

『涙…?』
ジャンボットの言葉に、心を動かされてくジャンキラー。
その話は、同じように話を聞いていたゼロたちにとってもあまりにも大きすぎるものだった。
『かつて我々のふるさとでもあるM80さそり座星団の惑星に、ビーストの大群が襲ってきた。その驚異に対抗するため、元は宇宙を渡るただの飛行機だった我々は鋼鉄の武人として改造され、生まれ変わった。そして戦った。だが、数が多く我々の力を終結させても敵わなかった。
そんな時、ウルトラマンノアが我々を救いに現れ、そのエネルギーを使い切るまで我々と共に戦ってくれた。結果、我々はビーストを全滅させ勝利した』
『俺ハ…俺ハ…!!』
話を聞いていくうちにジャンキラーの様子が、さっきまで驚異を感じるものから別のものに変わっていた。失った過去を思い出そうとしている人間のように頭を抱えている。
―――ジャンキラー、何をしている?有機生命体に味方するそのロボットも敵だ。抹殺せよ!
ジャンキラーの頭の中では、別の人物の声が響いていた。
―――何も考えなくていい。有機生命体は混沌しか招かぬ。お前は私の手によってその呪縛から解き放たれたのだ。さあ、早く目の前の知的生命体ども諸共そいつを抹殺せよ!
ギギギ…と金属音をきしませながらジャンキラーは右拳をジャンボットに向ける。
それでも兄として、ジャンボットは続けた。
『そして我々の主人にして、その世界の最高指導者だったお方は、新たに開発した虚無魔法「生命」を使って、リーヴスラシルの体を媒体に『奴』を作り上げた。
その結果が、かえって我々の星を消すことになるとは思いもせずに…。
あの時、お前は何も守れなくて悔しがっていた。そして涙した。
思い出すんだ、ジャンナイン!あの時のような、生意気で素直ではなかったが、それでも誰かのために戦う誇りを持っていたお前を!
人を愛し、慈しむ正義の心を!!』
段々必死に語りかけるジャンボット。話をしていくうちに、ジャンキラーは頭を抱え、その場で膝を着いて苦しみ出した。
―――思い出せぬ記憶にとらわれるな。そんないらぬ記憶などお前には必要ない。さあ、早く破壊しろ!
『ア…オ…お…俺…は…』
洗脳によってふうじられた過去の記憶が掘り起こされようとして、声の主はそれを防ごうとジャンキラーに言う。
―――さあ!
『思い出すんだ!弟よ!!』
ジャンキラーは頭の中に直接語りかけてくる声と、ジャンボットの必死の訴えの板挟みの中で、ただ頭を抱える。
『う、うるさああああああい!!』
自暴自棄となった彼はジャンボットたちに、そしてその背後にいたゼロたちに向けて胸から無数のエネルギー弾を、そして目からレーザーを撃ち込んだ。
〈ジャンキャノン!〉
〈ジャンフラッシャー!〉
ゼロたちはジャンキラーの攻撃をガードしようと思ったが、予想外なことに攻撃が当たらず、彼らのすぐ足元の地面に当たるだけだった。
「攻撃が、外れた?」
アンリエッタは目を細めた。さっきまで攻撃の意思が大きく見られたあのジャンキラーが、ここに来て攻撃を外すなんて…。
彼女は意を決した目つきで、前に出た。
それを見つけたジャンキラーは、今度はアンリエッタに向けてビームを放った。
〈ジャンレザー!〉
「アン!」
ミラーナイトは妻の危機に、本能的に向かおうとするが、その足をすぐに止めた。
さっきと同じように、彼の攻撃は、狙った標的のすぐ近くの地面をひっくり返すだけで直撃していなかった。普通なら怖がって縮こまるはずなのに、アンリエッタは堂々と両手を広げ、一歩も動こうとしなかった。
『ナゼ…なぜ命中しないんだ!?』
「ジャンキラー…と言いましたね?ご覧なさい。あなたは確かに私を狙って攻撃しています。ですが、決してあたりはしません。当たりはしないのです!なぜなら、あなたにもジャンボットと同じ心が…正義の心があるからです!!」
『正義ノ…心…だと…?』
「焼き鳥弟、お前はもうわかってるんじゃないのか?てめえには、震える心があるんならよ」
グレンファイヤーが口を挟み、ファーヤーコアの輝くその強靭な胸元をドン!と叩く。
「ジャンキラーとやら、あれを見るといい」
今度はミラーナイトが前に出てジャンキラーに、オストラント号に向けて指した指先を見せつけた。
「甲板上に、この世界の人間とエルフがいるのが見えるだろう?エルフと人間は長きに渡る種族間の対立によって深すぎる溝を掘った。だが、こうして同じ船に乗って君と戦った。たとえ憎みあった種族同士でも、わかりあおうとする心があれば分かり合うことができる
!」
彼が強く言い放った時、オストラント号の甲板の上にいるギーシュたちは、アリィーとルクシャナを見てコクっと頷き合っていた。確かにずっと対立したもの同士、だが今はこうして分かり合えるのだ。
「うん、オイラの方も見てくれ!」
続いてグレイが、新たにゴルザとキングバモスをモンスロードし、ジャンキラーに見せつけた。
「怪獣にも心はある。こうして一緒に歩き、道を行くことだってできるんだ!!」
「そして、たったひとつしかない命を慈しみ、支え合って生きる!」
無線でヒュウガも、ジャンキラーに向けて訴えた。
「ジャンキラー、お前自身はどうしたいんだ?このまま嫌なこと全て忘れて得体の知れないやつのいいなりになるか、それともお前自身が心の底で本当に守りたいもののために前をむいて歩くか!」
ゼロが胸に手を当て、そしてジャンキラーに向けて手を伸ばして言う。ジャンボットの体内にいるハルナと、そしてルイズもジャンキラーに向けて強く言い放った。
「やっと会えたお兄さんの思いを無碍にして私たちを倒したとして、あなたはその先何のために戦うの?何のために血を浴びていくの!?」
「心を開いて、ジャンキラー!!!」
『……………………』
攻撃を中止し、ジャンキラーはゆっくりと手を下ろした。
彼の胸に、緑色に輝く光の粒が流れ落ちていく…。
「…見て!!」
キュルケが甲板からジャンキラーに向けて指をさした。
「ジャンキラー…」
タバサは、思わず声を漏らした。
なんて光景なのだろうか。全身無機物で出来上がり、そしてただ攻撃することしか知らなかった鋼鉄のゴーレム(正確にはロボットだが、この世界にロボットという存在は確立していない)。
その目から緑色の光の雫…涙が溢れ出していた。
『あ…あ…兄…者…』
「ジャンナイン…」
ジャンボットがジャンキラーに近づこうとしたその時だった。
「「「「「「!!!!」」」」」」
ジャンキラーが突然右手の銃口をこちらに向け、同時にゼロ・ジャンボット・ミラーナイト・グレンファイヤー・ゴルザがジャンキラーに向けてそれぞれの遠距離型の必殺技を放った。
〈ジャンキャノン!〉〈ワイドゼロショット!〉〈ビームエメラルド!〉〈ミラーナイフ!〉〈ファイヤーフラッシュ!〉〈超音波光線!〉
だが、彼らは互いを攻撃していなかった。彼らの攻撃対象、それは…。
ギギギギギギ!!ズオオオオン!!
いつの間にか彼らを取り囲んでいた、ロボット怪獣の群れだった。ゼロたちの攻撃を受け、ロボット怪獣たちは爆発四散した。
「へ、いい腕してるぜ!なあデルフ、地下水」
「相棒を手こずらせたことだけはあんな」
『…計算外だな。本来ならもっと一瞬早く始末できるはずだった。操られていたことも含めてな』
ゼロと、ゼロスラッガー(デルフ)の彼らなりの褒め言葉に対して素直さを見せず、少し生意気な態度でジャンキラーは言う。そんな彼の態度にグレンファイヤーはため息をついた。
「かーっ、頭の固い野郎だぜ。素直に喜べっての」
「君はやわらかすぎじゃないかな?」
「それ言えてる」
ミラーナイトが王族らしからぬあしらいに続いてグレイがかなり馬鹿にしたニヤつき顔でグレンファイヤーを見ると、悔しさとムカッ腹をにじませた様子でグレンは握り拳を作る。いじられキャラ確定である。
「てんめええらあああ…」
『目を覚ましてくれたんだな、ナイン』
『ああ、だが…』
すると、ジャンキラーもといジャンナインが突然地面に膝を着いた。赤から金色に色が変わった目の輝きも、電池切れ寸前のライトのように鈍くなっている。弟の元に駆け寄るジャンボットは、その肩に手を添えた。
『やつの…「ビートスター」の洗脳を解くために体内のパワーボンジェッタを自分で焼き切った。これでもう洗脳される心配はないが、修理が完了するまで動くことは出来ないな…』
『なんて無茶を…』
『あのまま操られているよりはずっとマシだ。兄者も同じ立場だったら、俺と同じことをしたはずだろ?』
『むぅ…』
そう言われると確かに言い返せない。自分も操られていたとしたら、自殺してでも自分を停止させなくてはと考えてしまうに違いない。
「とにかく、今は休んでおいたほうがいいわ。クマノさんたちに修理をお願いしてもらうといいですよ」
ジャンボットの体内でハルナがいうと、「頼む」とジャンボットは頼んだ。
ゼロが、ジャンナインの前に歩み寄ってきた。
『ジャンキラ…いやジャンナイン。今ビートスターと言っていたな?そいつがお前を操っていたんだよな。一体どこにいるんだ?』
ギギギ…と腕をきしませながら、ジャンナインは空の方を指さす。その方向にあったのは、地下世界から彼と共に這い出てきた、半分に割れてしまった月だった。
「地下世界にあった月か」
『気をつけろ。ビートスターは多くのロボットたちを従えている。さっき不意打ちで俺たちを襲って来た比にはならない。やられないように気をつけておけ。
万が一お前たちが負けることがあれば奴の計画通り、あの時に保有されたロボットたち約千体が魔を覚まし、この地上から生命体を完全に消去する』
キュウウウン…と音を立て、ジャンキラーは停止した。死んだわけではない、さっき彼の言う『ビートスター』の洗脳を解くために彼の思考と体を接続するパワーボンジェッタを切ったことで、一旦休眠をとったのだ。
「約千体…」
グレイはゴクっと唾を飲み込んだ。流石にそれだけの数を相手にすると、勝ち目は薄い。だが、グレンファイヤーは怖気づく素振りを見せるどころか気合を入れていた。
「千体?だったら無双を決めてやるよ」
「バーカ、阻止するために行くんだ。普通に考えれば無謀だってわかるだろ?」
ゼロに指摘され「わーってるっつーの」とぶっきらぼうに言い返した。
「今ジャンナインは動けない。私たちでビートスターを止めに行きましょう。
クマノさん、ジャンナインの修理をお願いできますか?」
ハルナは通信回線をペンドラゴンにつなぎ、その先にいるクマノにいうと、「ああ」と快く頷いた。続いてオストラント号甲板にいるギーシュと、地上にいるアンリエッタに回線をつなげた。
「ギーシュと姫様は地上の人たちを見てあげてください」
『了解した』
『わかりました』
これで背中は安心だろう。ゼロたちは、空の上に浮かぶ、エメラダ星の第三の月となった地下世界の月を見上げる。
「よし、行くぜ!」
彼らは一斉に空に飛び立ち、その月に一直線に向かった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ