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□File7
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大聖堂。
聖地に存在していたアカシックレコードを確かめ、それを使ってこの世界を裏から支配しようと企んだガルト星人を倒し、暴走していたジュリオを止めたサイトたちは、アンリエッタ・ウェールズ・テュリューク・クリスと付き添いでいたリシュ、他にも話を聞いてく
れる国の重要人物たちを集め、改めて会談を行なった。
「そうですか、私たちはガルト星人に踊らされて、結果的に自分の同族を危険に晒していたというわけですか…」
サイトたちの口からアカシックレコードの事実を聞かされ、ヴィットーリオは落胆した様子だった。
6000年間に及ぶ対立の原因が、ガルト星人が先住民であるヴァリヤーグが守っていたアカシックレコードの書き換えが原因で、それがやがてエルフとの対立にまで発展した。自分たちは侵略者の子孫ではなく、ただの難民の血を継ぐ者たちだったのだ。
今まで自分たちがこの星に生きる同族たちを守るために人知れず行なってきたことが、実際には星人の侵略を許していたということに、ショックを隠しきれなかった。
「ふう…全く巻き込まれたオイラの身になってよ…」
「そうね…」
グレイとジョゼットはため息をつく。ほぼ教皇と、彼を裏で操っていたガルト星人に振り回されていい迷惑だ。
「でもジュリオを止めてくれてありがとうございます、みなさん」
ジョゼットはサイトたちに向かって頭を下げた。なんだかんだで窮地の間柄であるジュリオを助けてもらったから、感謝せずにはいられなかったようだ。
「いいんだ。あいつにはちょっとだけ世話になったことがあるし」
気にするな、とサイトは手を振って礼を言ってきたジョゼットに言う。
「グレイも、ありがとう」
「あ、いや…いいんだ。オイラって、君の使い魔として召喚されたんだろ?」
ジョゼットからのお礼でてれたのか、グレイは妙にヘラヘラしながら頭の後ろを掻いている。サイトとハルナ、ヒュウガとオキにクマノ、そして恋に過敏なキュルケはそれを見て、ははーんといやらしい笑を浮かべたのは秘密。
「ノロケやがって、まったく」
「クマさん、誰がのろけてるって!?ところで、ジュリオはどうしたんだよ?」
ムキになって怒り出すグレイ。ふと辺りを見渡して尋ねると、主人であるヴィットーリオがそれに答えた。
「まだ目覚めていませんから、彼の部屋で医者をつけて安静しています。ただ、自分のしたことが無駄に終わったから…」
目が覚めたら精神的に自分を追い込むかもしれない。表情を曇らせながら教皇は言った。
「もう我々が、星に偽る理由はなくなりました。サイト殿、あなたの望み通り多世界への攻撃をすべて中止とします。まずはそれで、よろしいですか」
「はい、でも…誤解から生じたといってもこの世界の人が侵略を働いたことは事実です。だからこの星の侵略を知った人たちに分かってもらうには時間がかかります。
でもこのまま偽れば、いずれ俺たちの同族からも狙われることになっていたから正しい選択だと俺は思います」
「そう言ってくだされると、幾分心が楽になります…」
安心したようにホッと息を付いた教皇。まだ自分たちにチャンスがあることに安心感を抱かずにはいられなかった。
今度はハルナが口を開いて説明する。
「このことは、まだ先住民たちには伝わっていません。いつ先住民たちが地上を攻撃するか分かりません。だから早いうちに、平賀君が手に入れたアカシックレコードのミニチュアをヴァリヤーグたちに見せていかないと…」
「先住民の方々が、分かってくださるといいのですが…」
不安げにアンリエッタが言う。自分たちは彼らから見れば憎むべき存在。果たして彼らが守ってきた記録が、彼ら先住民とルイズたちブリミルの子孫たちの共存を示したとしても信じてもらえるかどうか…。
「でも何もしないでいるよりはマシだ。この大地に住む民たちのために、僕たちが動かなければならない。貴族以前に、人としての自覚を放り出してきたツケを少しでも払うために」
強く頷くようにウェールズが言う。すると、ギーシュが疑問を投げかける。
「確か地下に先住民たちがいるんだろ?どうやって向かうんだ?」
「そうね…いくら魔法でも地下に深さ何メイルもの穴なんて掘れっこないわ」
キュルケが悩ましげに首をかしげる。確かに、この世界の文明の力でどこまで掘れば見えてくるかわからない地下へ行くなんて無謀な話だ。
「なら、私たちがガルト星人の助力で使っていた兵器を使って地下に向かうのはどうです?」
「え?」
「6000年前の始祖の時代、始祖はその兵器を移動手段として用い、この世界に降り立ったと聞いています。それを使って地面に穴を開け、その中に飛びこ込めば地下へ行くことができるはずです」
「そんなものが、あるのですか!?」
信じられない、と誰もが思った。サイトが使っているウルトラホークだけでも、自分たちの文明をはるかに超えた代物だというのに、自分たちの祖先であるブリミルがそれに近いものを使ってこの世界に来たなんて。それだけのものをどうして作らなかったのだろうと疑問を抱かずにいられない。
「ええ、これの存在を知る者は私とジュリオを含め、ブリミル教信者の上部の、それも一部の者しか知りません。もともと始祖は今の時代より優れた文明の存在した世界の出身だったという説が大きいです。それだけの世界で作られたのなら、きっとあなたがたの力になると信じています」
「でも、どうしてそんな立派なものを隠していたのかしら…?そもそも本当なんですか?そんなもの作れたなら、この世界だって、怪獣の危機に対抗できたかもしれないのに」
「そればかりは始祖に直接聞いてみなければわからないですね。それよりも、着いてきてください。普段はカタコンベの地下に安置していますので」
ヴィットーリオはそう言ってサイトたちを先導する姿勢を見せた時だった。
「お待ちください」
ここでまたしてもサイトたちを取り囲む集団がいた。カルロたち聖堂騎士である。他にもサイトを目の敵にしている、サイトの処刑の賛同する貴族たちが揃っていた。
「聖下、まさかあなたまでこの売国奴の味方をするのですか?」
処刑に賛同していた貴族の一人が、サイトに杖を向けながら教皇に言う。
「英雄を演じ、聖下やアンリエッタ女王たちをたぶらかした売国奴ウルトラマンゼロ!
貴様、よくもまあ戻って来おったな!」
「今まで陛下の擁護で我慢していたが、もう我慢ならん。始祖の裁き、その身に焼き付け…」
「こいつら…こんな時に、何世迷いごとを…」
グレイは今まで貴族と関わったことがあまりなかったが、この時初めて嫌な者ばかりが揃っていると思った。
「残念だが、その役目は君たちにはできない」
カルロたちとサイトたちの間をウェールズが隔てるように立った。
「どういうつもりです、ウェールズ様?あなたは彼らの味方をするというのですか?こんな醜い売国奴などに…」
「では聞くが、君たちが裏で働いたことは醜くないと言えるのですか?特に、ゴンドラン殿」
彼の鋭い視線に、囲んでいた団体の中にいたゴンドランは絶句した。
「お、おっしゃる意味がわかりませんが…」
「そうか、ならこれはなんだろうな?」
「!!!」
ウェールズが彼らに一枚の紙を見せつけた。その紙に、あまりにも信じがたいことが最初に書き込まれていた。
『サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ天誅』。
「これをみると、前々からサイト殿を暗殺しようと企み、それに賛同する者たちが内部にいたということになるが、ここに多くの貴族の名前が記名され、最後に『灰色卿』とコードネームも書かれている。そして、これをくれたのは元北花壇騎士メンバーの『元素の兄
弟』。この紙の持ち主である灰色卿からサイト殿の暗殺を依頼されたそうだ。
犯行の動機は、おそらくあなたの言う売国奴の成敗ではなく、単に手柄を妬んでのことだった…」
「な、なにをバカな…私は敬謙なるトリステイン貴族で、アカデミーの議長ですよ。そんな悪巧みのような…それに灰色卿だなんて聞き覚えがございませんが…」
図星を突かれて内心慌てているゴンドランはシラを切ろうとする。
だが、それは結局無駄な抵抗だった。なぜなら、自分たちの横から承認である『元素の兄弟』が、アニエス率いる銃士隊に引き連れられていたからだ。
ちゃんとダミアン・ジャック・ドゥードゥー・ジャネットの四人が勢ぞろいしている。
この時、レイナールが複雑な顔をしながらジャネットを見ていたのは、誰も知らないままだった。
「俺たちは確かにこの男、灰色卿ことゴンドラン議長と彼に賛同する数名の貴族から暗殺を依頼された。そしてサイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガの暗殺を行なった。失敗したがな」
次男であるジャックがゴンドランたちを見て言った。
「な、なんのことです?私にはさっぱり身に覚えが…」
それでもシラを切るゴンドラン。と、この会話にまた別の飛び入り参加者が現れた。
ルクシャナとアリィーである。
「あ、そうそう。確か私たちエルフは質問されたことには必ずお答えさせられるようにする薬が調合できるのよ。それを飲んで『違う』って言えば、あなたの暗殺疑惑は晴れるわ」
「ハッタリは止せ。そんな薬あるわけ…」
「あら、こんなところに『自白剤』が」
まるでわざとらしく、ルクシャナは一本の小さな薬瓶を取り出した。中身はどろりとしている真っ白の液体が入っている。
「あなたが首謀者じゃないっていうのなら、これを飲んでも『違う。私ではない』って言えるはずだけど、飲む?」
「そ、そんなもの飲めるわけがなかろう!貴様ら砂漠の悪魔であるエルフの作るものだ。ろくでもない毒薬の一種なのだろう!?」
「試しに毒見してやってもいいわよ?」
「な…?」
毒見してもいいと堂々という彼女に、段々ゴンドランは恐怖を感じた。
自分が、サイト暗殺の首謀者であることがバレてしまうという、恐怖。これを知ればアンリエッタたちが黙っているはずがない。間違いなく貴族の位を剥奪されてしまうだけでは済まされない。
「さあ飲むの?飲まないの?まあ、容疑者が自分の無実を訴えるには、それなりの行動を示してもらわないとダメだというのは、私たちエルフでも同じことなんだけど」
「…………!!!!」
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