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□File6
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暴走するゴモラの戦い方は、まさに相手をいたぶるだけいたぶる拷問のような戦い方だった。敢えて威力の大きい技を使わず、相手を踏みつけては踏みつけ、しばらく続けたら一度手を離し、そして相手が立ち上がったところでまた相手の頭を掴み、顎を蹴り上げた。
「グァ!」
グレイモンにいたぶりまくる戦い方でゴルザの痛みが、じわじわとダメージが伝わっていく。
「くくく…はははは…消えろ消えろ!!」
今のジュリオは姿だけでなく、心さえも人間らしいものではなくなっていた。相手を痛めつけることにとてつもない快感を覚えている。
「ジュリオ…?」
あまりのジュリオ、もといレイモンの変貌にジョゼットは呆然としている。
「くははははは!!!」
「キシャアアアアアアア!!!!」
ゴモラのリンチは時間を経るに連れて苛烈さを増した。宙を飛び回るメルバに向けて岩を次々と投げつけていった。素早く宙を舞いながら岩の連射を回避していくが、予想以上に弾数が多く、二発ほどメルバに直撃してしまい、メルバは地上に墜落してしまう。キング
バモスも仲間を傷つけられて怒ったのか、雄叫びを轟かせながらゴモラに突撃する。
だが、ゴモラは爪を振り上げてきたバモスの手を軽く受け流し、逆にバモスの首筋にがぶり付いた。
「ギェエエエエェェェェ!!!!!」
「ぐあああああああ!!!」
その痛みもまた、グレイモンに伝わり、グレイモンは激しすぎる痛みを首筋に味わった。首が無理やり千切られそうな痛みは、考えただけでもぞっとしてしまいそうだ。
「ははははは!!」
「キシャアアアアアアア!!」
ゴモラの、バモスへの噛む力がだんだん強まっていき、歯もだんだんバモスの首の肉に食い込んでいく。
「キェエエ!!」
〈メルバニックレイ!〉
地上に墜落していたメルバが見るに耐えられなくなったのか、目から光弾を撃ってゴモラに直撃させる。ちょうどゴモラの顔面に当たり、ゴモラは思わずバモスから口を離してしまう。
「ぐぅ…戻れバモス」
バモスの首筋から血が流れ落ちているのを見てこれ以上は危険と悟り、首の痛みをこらえながらグレイモンはバモスをバトルナイザーに戻した。
「ヴアアア!!」
標的が減ったためか、かえってレイモンとゴモラは暴走を増していっていた。
「くそ…タチ悪いっての」
脂汗を額から流しながらグレイモンは首筋を押さえ、未だ暴走状態のレイモンとゴモラを睨んだ。
「ジュリオ…」
苛烈さを増すジュリオの豹変ぶりにジョゼットは段々不安を募らせていった。あの時突き放したことで、結果的に彼を歪ませてしまったのは自分のせいだ。
「ジュリオ!やめて!」
「ヴ…?」
ジョゼットの声が耳に届いたのか、レイモンは彼女の法に視線を向けた。
「目を覚まして!私のせいでそうなってしまったのなら、償うから…」
「ヴアアアアアアアア!!!」
「ダメだ、あいつ全然聞いちゃいない…」
「ジュリオ、あれほど言っていたのに、暴走を始めましたか…」
いつの間にか教皇ヴィットーリオが護衛の兵士を引き連れ、グレイモンたちの背後に立ち、口を開いた。
「教皇!?あんたいつの間に…」
「聖下と呼べ、この無礼者が!」
タメ口をきくグレイモンに、兵士の一人が憤慨する。だが、ヴィットーリオが「やめなさい」と兵士を黙らせる。
「いいのです、好きにさせてあげてください」
「…」
ゴモラは標的をゴルザにしぼって、果てしない闘争を続行、対するゴルザもゴモラと止めようと奮闘しだした。ヴィットーリオはそんなゴモラを狂気の高笑いを上げながら操るレイモンを、少し焦ったような眼差しで見た。
「教皇聖下!」
ここでアンリエッタとウェールズが彼らの前に走ってきた。戦いの激しさのあまり、少し砂ホコリでまみれていた。
「一体どうしたんです?さっきまでの彼とはまるで別人だ!」
「ジュリオのレイブラッドの血が暴れだしてしまったようですね…」
「あんた、あの状態がなんなのか知ってるのか?」
レイブラッド、という単語にグレイモンは食いつく。とその時、空から巨大な何かが迫り、彼らの頭上を影で覆い尽くした。その影は一体の巨人と一隻の飛行船として地上に降り立つ。巨人は光に包まれたかと思うと、一人の黒髪の青年の姿に変わった。
その青年、サイトとオストラント号に乗ってきたルイズをはじめとしたUFZの仲間たちは直ちに地上に降りた。
「ルイズ、皆さん!ご無事でしたか!」
アンリエッタはすぐ仲間たちの輪の中にいる幼馴染の元に駆け寄った。
「姫様も怪我は?」
「大丈夫ですわ。ただ…」
状況が状況である。ゴモラとそれを操っている主人があの通りでは、それを食い止めているグレイたちもいつまで持つかわかったものではないのだ。
「でも、お探ししていたものは見つかったのですか?」
「説明はあとです!姫様たちは避難してください!」
今はたとえ女王であるアンリエッタからの質問にいちいち礼儀正しく答えている暇等ない。すぐサイトは彼女たちに避難を促したが、ここでウェールズが彼らの前に一歩出向き、言った。
「彼を止めるんだね?ならば僕も加勢する!他の世界の者がこの世界のために戦っている時に、王族である僕が隠れているなど許されない!
アンと教皇聖下は兵士たちに避難誘導と援護を呼びかけてください!」
戦いを決意した彼は、背後にいたアンリエッタとヴィットーリオに言う。アンリエッタは力強く、ヴィットーリオは一大事なときに私情を挟むわけにもいかず仕方なく受託した。
「お気をつけて、ウェールズ様」
「…サイト殿」
ヴィットーリオはサイトに顔を向けて言った。
「彼はレイブラッドの血を持つ者、レイオニクスであることを今までずっと嫌悪していました。自分の当たり前の幸せを奪ったのは星人などがいるからだと思い込んでしまい、顔にまでは出してはいませんでしたが他の種族を、エルフやあなたがたウルトラマンでさえ
憎んでいました。だから、ガルト星人からこの世界における我々の正体を知ったとき、彼は多世界への攻撃を躊躇なく行うようになった。でも…」
「…今のあいつは度が過ぎてるから、止めてくれってことですよね」
「あなたにこんなことをたのむのは、恥であると承知しています。だから、ジュリオを」
「わかってますよ。それと、もう二度と早まった真似を黙認するようなことはやめてください」
「すみません…」
二人が直ちに持ち場に向かったところで、サイトはルイズたちを見る。
「みんなもこの辺の人たちの避難誘導を手伝ってくれ」
「終わったら、私たちも援護するわ」
ハルナが頷きながら言った。
「無謀だと分かっても、する気だろ」
「当たり前じゃない。あんた私との付き合いも長くなるんだし、それくらいもうわかってるでしょ?」
ルイズがため息を着いて言った。腰に手を当て、その様だけでいかにも「当然でしょ」と言っていることが分かる。
「聞くだけ野暮ってことね…わかった。でも無茶はやめろよ」
「そっくりそのままお返しするわ」
「気をつけてくれよ、サイト君」
「コルベール先生も。で、テファ、君は…」
彼女のことだから、もう答えは決まっているとは思うが、尋ねてみた。
「私、シュウのところに行ってるね」
「じゃあ私はティファニアについていくわ。彼を安全な場所に運ぶことになるからアリィー、あなたがおぶって」
「しょうがないな…やれやれ」
皆が去り、サイトとウェールズは暴れ続けるゴモラを見る。あれだけ暴れまくっているというのに、まだ疲れた素振りを見せていない。
レイモンもまだ狂った雄叫びを上げている。グレイモンは必死に踏ん張っているが、もう片膝を着いている状態から立ち上がろうとしない。
「あのチビ助、もう持ちそうにないぜ?」
「わかってるよデルフ。グレイ、今行ってやる」
「行こう、サイト君」
「はい!」
ウェールズは十字架模様の光に包まれ、サイトはウルトラゼロアイを身につけて、ミラーナイトとウルトラマンゼロに変身した。
「ジュ!」
変身してすぐゼロは背後から、ゴルザをボコ殴りにして暴れまわるゴモラに掴みかかる。
反対にミラーナイトが角を掴むが、ゴモラは乱暴に振り払う。そして背後に自身を捉えているゼロに体当たりした。
「うわ!」「グア!」
「キシャアアアアアアア!!!」
気性の荒い動物の比ではない。もはや凶暴な化け物となったゴモラはとにかく戦える相手と定めた者には容赦なく戦いを挑む。
乱暴にゼロの頭をぶん殴り、手刀を振り上げてきたミラーナイトを後ろ蹴りで突き放し、尾を回転して振るって二人まとめて吹っ飛ばした。
それでもゴモラを止めようとするゼロたちは、必死にゴモラにしがみつき、脳天にチョップを叩き込む。食らっている間、ミラーナイトが光弾をゴモラのガラ空きになった腹部に撃つ。
〈ミラーナイフ!〉
ゴモラが痛みをこらえたような鳴き声を上げた。決してこちらの攻撃が効かないわけではないようだ。だが、それは今のゴモラがあまりにもタフすぎるということも彼らに思い知らせた。
〈超振動波・ゼロシュート!〉
「ウワアアアアアアア!!!」
ゼロの腹に鼻の先の角の先を刺し、超至近距離から必殺の光線を放った。モロに光線を受けたゼロは、光線を打ち込まれた箇所を押さえながら、その場にドサッとダウンしてしまった。
ピコン、ピコン…。
彼のカラータイマーも、点滅を開始した。無理もなかったかもしれない。彼はつい数時間前にガルト星人たちと戦い、航行不能になったオストラント号を運んでほとんど休んでいなかったのだ。
避難誘導を終わらせたルイズたちはその光景を目の当たりにした。
「サイト!」
「平賀君まともに休んでいなかったから、圧倒的に不利なんだ…」
同じウルトラ一族に転生したハルナに体調管理を見切ることは造作もなかった。すぐ今のゼロが結果的にかなりの深手を負わされていることに気づいた。
「サイトと皇太子様が二人がかりでもこの状態じゃ…」
苦虫を噛み潰したような顔でレイナールはごちる。すると、タバサが口を開いた。
「あの怪獣は誰かの使い魔みたいなもの。主人は…」
「確か、あのキザなオッドアイの男なのね!急いで探してとっちめるのね!」
キザなオッドアイの男。それに当たる人物を、記憶の糸をたどりながら探っていく。
いや、これに値するのはたった一人だ。
「ジュリオね。自分の怪獣が暴れてるっていうのに…」
どこで何をしているのだ?そう思いながら辺りを見渡すと、ゴモラから少し離れた場所で吠えるレイモンと、彼の前で膝を着いているグレイモンと彼の肩に手を触れさせているジョゼットの姿が見えた。
レイモンの右手の甲に緑色に光るヴィンダールヴが刻まれていた。あのルーンを持っているのは一人だけだ。
「ジュリオなの…?姿がまるで違う」
「とにかく、あの怪獣を操っているのは彼だ!急いで止めよう!」
ルイズたちは直ちにレイモンの方に走り出し、レイモンを全員で取り押さえ出した。
「ジュリオ、今すぐ怪獣を収めて!」
背後からレイモンを取り押さえるルイズが叫ぶ。だが、その一言で目を覚ますことはさすがになかった。
「ヴ?ヴアアアアア!!!」
自分の両手足の自由を奪われ、束縛を嫌がるレイモンは自分の手足を振るって足にへばりついていたギーシュにマリコルヌを蹴り飛ばした。
「アイス・ウォール」
タバサが空気中の冷気を集め、発生させた氷の中にレイモンを閉じ込めた。
「おお、これなら!」
ギムリがこれは期待できそうだと声を上げたのだが、レイモンが氷の中に閉じ込められて数秒たった時、氷にたちまちヒビが入り、やがて氷がガラスのように砕け散った。
「ヴウウウウウ!!!」
なんとレイモンは中から無理やり氷を砕いたのだ。解放されたレイモンは、今度はあらかじめ呪文を唱えていたコルベールに突撃、彼を膝で蹴り飛ばした。
「うあ!」
「ジャン!」
キュルケが炎の魔法『フレイムボール』を飛ばし、レイモンを狙い撃つが、レイモンはそれを素手ではじき飛ばし、弾かれた炎弾はハルナの方に飛んだ。
狙われた彼女は平手を突き出すと、彼女のウルトラ念力で見えない壁のような盾が彼女の前に現れ、飛んできた炎をかき消した。
「ヴアアアアア!!!」
レイモンがギーシュに掴みかかる。彼を地面に押し付け、唸りを上げた拳を振り上げた。
「ギーシュから離れなさい!」
モンモランシーが水の魔法を飛ばしたが、レイモンにはダメージまではいかなかった。レイモンは邪魔をされて気を悪くしたのか、彼女の方に視線を向ける。
「ひ…」
「ヴウウウウウアアアアアアアア!!!」
ギーシュを投げ捨て、彼はモンモランシーに牙をむき出したように走り出した。その時の彼の拳は、まさに凶器以外の何にも見えなかった。
「も、モンモランシー!!」
「きゃあああ!!」
「やめて!!」
その声と共に、モンモランシーを襲いにかかるレイモンの前にジョゼットが無謀にも立ちふさがった。
「もうやめて!こんなこと…」
「ヴ…」
彼女の強い眼差しに動揺したのか、レイモンの動きがそこで動きを止めた。
同時に、ゼロとミラーナイトと戦っていたゴモラも動きを止めた。
「…え?」
「動きが、止まった…?」
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