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□File2
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「それにしても、二人はどうしてロマリアに?」
久しぶりに再会したので話をしたくなったサイトはクリスに一つ訪ねてみた。
「ロマリアから伝書鳩が急に来てな。内容は異界からの侵略者に備え、力を貸してくれと。要するに同盟の使者として私が来たんだ」
「じゃあリシュは付き添いで?」
「うん、クリスさんの侍女として城に住んでるの。サキュバスとしての力もクリスさんに封じてもらったから、今は普通の女の子同然。これなら兄さんと付き合えるかな」
ヴィットーリオの待つ大聖堂へ向かう馬車を数台用意してもらい、
サイトはルイズ、ハルナ、クリス、リシュの乗る馬車に乗せてもらった。(正確には無理やり乗せられたが)
「それで…この子はなんなの?」
馬車に乗るなりハルナはとルイズから、なぜリシュから「兄」呼ばわりされた上に交際する意図がリシュの発言に混じっていたせいで尋問されてしまった。
久しぶりにサイトと話したいクリスはなんとか話を切り出そうとするが、自分の持たない女の威圧感が二人から放たれていたせいで口を出せずにいる。ただでさえ空気化の危機を感じる彼女には苦痛だった。
「だっだから、変な意味で呼ばれてる訳じゃなくて…」
「サイト、あんたそんな奴だったのね。見損なったわ」
「平賀君、不潔…妹キャラマニアだったなんて…」
(い…妹キャラマニアあ!?)
頭にレオキックを何発も喰らったような感じがした。いくら弁解しても全く話を聞こうとしない。ルイズはフン!とそっぽを向き、ハルナはショックのあまりハンカチに顔を埋めてしまった。
「なあクリス、リシュ。なんとか二人からも弁解してくれよ…」
「…」
沈黙は金。二人はついに口を挟むことを諦め無視してしまった。こうしてサイトは称号「妹キャラマニア」を獲得した。
「ふざけんなあああああああ!!!!!!」

「ああルイズ、それにみなさん。無事に来てくれてよかったわ」
ウェールズたちに連れられ、大聖堂にたどり着いたサイトたちを、笑顔でアンリエッタは出迎えた。
だがなぜこの国に呼び出したのかまでは離さなかった。説明については晩餐会で教皇が説明してくれるらしい。
でも昼間の騒ぎもあって仲間たちの中にけが人が出ていた。レイナールやマリコルヌあたりがそうである。本来ならハルナやモンモランシーの役目だが、せめてもの詫びとして教皇の与えた治療費で街の女医に治療を任せることになった。
二人はその診療所に来て、待合室で待っていると、「次の方どうぞ」と自分たちを呼ぶ声が聞こえてきた。まずレイナールが向かうと、彼は待っていた医師の姿を見てその場で硬直した。
「綺麗だ…」
待っていたのは彼でさえ心を奪われるほどの、紫髪の髪の少女だった。
「あの、私の顔に何かついてるのですか?」
「あ!いえ…なんでもないです」

治療が終わり、晩餐会は二つの部屋でおこなわれた。サイトを除いたUFZメンバーとコルベール、キュルケ、タバサ、モンモランシー、ハルナに与えられた部屋と、サイト、ルイズとアンリエッタ夫妻、そしてクリスと侍女であるリシュと、教皇ヴィットーリオが出
席する大晩餐会だった。キュルケたちはホストを付けられなかったが、何事もなく、気ままに晩餐会を楽しんでいた。
キュルケはコルベールの顔を見る。この国に来てからあまり顔色が良くない。何か考え込んでいる顔だ。
「どうしたのよジャン。ご飯が不味いの?確かのこのスープ、ほうれん草しか履いてなくて美味しくないけど」
「…」
「ジャン?」
「あ、済まない。なんでもないよ」
しばらくして、彼はポケットから出した小箱から、ルビーの指輪を取り出してじっと見つめた。
「その指輪がどうしたの?昔の女でも思い出してるの?」
「そう思ってもらっても構わないよ」
「それにしても…」
ハルナは廊下の方の扉を見た。廊下の向かい側にはサイトたちの招かれた部屋がある。彼が今なにをしているのか気になっていた。
「平賀君、何してるのかな…」
「さあ、何の話かしらね」

一方、サイトたちの方の晩餐会。ルイズの隣にサイトが座り、そのまた隣にクリスとリシュ、反対側にウェールズとアンリエッタ、そして護衛としてアニエスがいる。
最初は誰もが物思いにふけっていた。ただ黙々と料理を口に運んでいる。
ヴィットーリオは隣に腰掛けたジュリオから耳元で何か報告を受けている。
ルイズはヴィットーリオを見た。私欲を捨てた自愛のオーラに圧倒され、すべてを優しく包むような、そんなオーラだった。サイトから見てもどこかムカつく態度もない。これだけの若さで教皇の座に付くことができたのも頷ける。
しかし、さっきから話が進む気配がない。どうも教皇が自分たちに見せたいもの、話したいことがあるらしいが、一体何だろうか。
「私の使い魔がご迷惑をおかけしました」
「迷惑?」
ウェールズが尋ねると、申し訳なさそうにヴィットーリオが頭を下げた。
「昼間の我が騎士団との衝突です。星人が潜伏しているという情報を手にしましたが、どうもジュリオが騎士団の方に、あなたがたがそうであると間違った情報を与えてしまったようです」
「はあ!?」
サイトはジュリオを睨んだ。こいつは自分たちを知らない間に死地に追い込むような真似をしでかしたのだ。
「お前、久しぶりに会った相手を無実の罪で死なせるつもりだったのか!?ふざけてんのか!」
椅子から立ち上がってサイトはジュリオに怒鳴り出す。自分だけならまだしも、仲間たちまで手にかけられるところだったのだ。怒らずにはいられない。しかし、ジュリオはすました態度で言う。
「確かに僕は君たちを危険に追いやったのは事実だ。確かめる必要があったんだよ。君たちの力量をね。なにせ、これから相手にするのはとてつもなく強大な存在だから」
「ちょ、ちょっと待ってください聖下!」
急に驚いたように咳き込んだルイズはヴィットーリオに話しかけた。
「い、今『使い魔』と…?」
「ええ、そうですが」
「じ、じゃあ…」
「その様子だとジュリオから聞かされていなかったようですね。彼が私の使い魔『ヴィンダールヴ』…つまり私とジュリオは、あなた方と同じ『虚無の兄弟』なのですよ。ミス・ヴァリエール」
証拠に、ジュリオの右手に緑の光に輝く古代文字のようなルーンが刻まれていた。この教皇とその付き人であるジュリオも、自分たちと同じ虚無の使い魔と担い手だったのだ。
ルイズが傍らに置いた『始祖の祈祷書』、『水のルビー』。ウェールズが常時持っていた『風のルビー』、ヴィットーリオが持っていた『始祖の円鏡』を見てヴィットーリオは続けた。
「今ここに二組の虚無と、二つの秘宝と二つの指輪が揃った。
しかし、予定では本来この場にもう一組兄弟が揃うはずだったのですが、エルフも予想以上に手が早い…」
今ヴィットーリオの行った『兄弟』とは、間違いなく同じ担い手のテファと、彼女の使い魔であるシュウヘイのことだ。それ以外では、あのジョゼフとシェフィールドしかいない。
それを察知してウェールズはヴィットーリオに言う。
「ティファニアとシュウヘイ、ですね」
ヴィットーリオはそれを聞いて頷いた。
「あなたたちをお呼びしたのは、ほかでもない。この世界に迫る危機を打開するため、力を貸していただきたいのです」
一度は砕けたこの張り詰めた空気も、その一言で蘇った。全員ヴィットーリオに視線を向ける。
それからヴィットーリオの口から説明がなされた。
エルフに奪われた聖地。それを確保したのはいいが、いずれハルケギニアの大地に起こる『大陸隆起』に対抗するための魔法装置を発動できずにいること。大陸隆起が起これば自分たちのハルケギニアはアルビオンのように空に浮かび上がり、住む場所を失うこと。発動には四人の虚無の担い手と使い魔、そして四つの指輪と秘宝が必要となると。長きに渡る聖戦で取り戻せなかった聖地を取り戻したと聞いてルイズは凄まじく動揺していたが、その場の空気を考えて一旦落ち着いて話に耳を傾けた。
「今ハルケギニアに訪れている侵略者や怪獣の驚異がなかったとしても、我々の住むこの大地は大きな危険にさらされています。この事態を打開するにはエルフから取り戻した聖地にある魔法装置が必要なのです。
このことをガリア王ジョゼフに呼びかけましたが…」
「拒否されたと?」
アンリエッタがいうと、教皇はまた頷いた。
「ええ、挙句の果てに自らの正体を明かす真似まで…」
「正体を明かすとは、一体?」
今度はクリスが問いただした。
「怪獣を三体、このロマリアに送り込んだのです」
衝撃が、その部屋中に行き渡った。
「この世界に、いずれ起こる大陸隆起以外に大きな問題を、彼は人である誇りを捨てて起こしていたのです。聖地を、悪意を持って行動していたあのレコンキスタが興り、彼らが怪獣を操っていたことも今や彼の仕業だったことが判明しました」
サイトはそれを聞いて自分の至高な世界に入り込んだ。
彼やシェフィールドの仕向けた刺客には星人と怪獣、そして亜種に当たる超獣にビーストが数多く存在する。これから考えればジョゼフは既にヤプールや石堀とつながりがある可能性が高い。だがはっきりしないことがある。
なぜ、ジョゼフは自分の世界をこんな危険においやろうとしているのだ?
「彼が怪獣を操って、自らの願望のためだけに各地を荒らす可能性がある以上、彼を野放しにはできません。どうか、この世界の未来のためにも皆さんのお力を、この未熟な私に少しでもお貸しください」
「…聖地のことについ尋ねたいことがあります」
サイトが手を挙げてヴィットーリオに言った。
「なんでしょう?」
「聖地はエルフから見れば、どうも忌むべき存在のようです。それをエルフから取り返したとなったら、エルフたちも黙ってはいられないのではないですか?」
「心配には及びません。いくらエルフも、もともと我々にも、それどころか自分の同胞にもあの場所を知られないよう、警備を配備していませんでした。少人数ながら我がロマリアの騎士を配備に付かせています。
我々の魔法よりも強力な先住魔法を使う彼らにも弱点はある。彼らは各地に存在する精霊と契約を交わすことであの力を発揮させます。自分たちの身を守ることに関しては優位に立てますが、侵攻には圧倒的に不向きです。油断は禁物ですがね」
「もし、それでもエルフが聖地を取りもどすために軍を送ってきたら…?」
「その場合も私は考慮しています。だからこそあなたがたをお呼びしたのです」
自分たちを読んだ理由、この場にいる面々から考え、サイトの頭に一つの答えが浮かんだ。
「戦争…?」
「ことによればですが、その通りです」
優しげな口調を崩さないままヴィットーリオは続けた。
「この数千年我々は無駄に流す必要のない血を流し続けました。それは『心の拠り所』が失ったから。そのせいで自分たちの自信をなくし、その代わりにくだらない見栄や多少の領地の取り合いで殺し合ってきた。
そのために。我々の虚無の力で聖地を再び発動するのです。そうすれば我々は真の自信に目覚め、栄光の時を築くでしょう。そこには争いのない世界が存在せず、本当の『統一』が成されている」
統一、アンリエッタやウェールズ、各国の王たちが一度は夢見た言葉だ。
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