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タキオン粒子の謎の増幅事件の翌日、一行は引き続きオストラント号でロマリアを目指した。
「また勝手にいなくなって…心配したんだよ。今度こそ…もう…」
甲板の上で、涙目でサイトを睨みハルナは彼の胸の中に飛び込んだ。
「ご、ごめん…」
ここしばらく彼女を抱擁を交わすようなことがなかったのでサイトは動揺しながら彼女に謝罪した。
「全くだぜ。俺っちたちまで忘れていきやがって」
サイトの背中に担がれたデルフ、そして腰のベルトのホルダーにしまわれた地下水も憤慨している。無論ルイズもご立腹だ。
「悪かったって。だからハルナも泣かないで…」
必死に宥めるサイトだが、ハルナが泣き止むのに時間を有した。仲間たちはそれを悪戯な笑みで見ていた。
「あはは、君はやはり女泣かせだね」
「あんたが言うな!」
ギーシュの一言でモンモランシーがするどい突っ込みをかましたことも平和な日常の証だ。
しかし、サイトの思考の中に不安がよぎっていた。あの女性、あくまでも予測だがおそらくヴァリヤーグの女性だ。
6000年前の時代、ブリミルは彼らを「悪魔のような技術を持つ者」と言って畏怖していた。だがあの女性はエルフのビターシャル同様ブリミルこそ悪魔だと言っていた。あの時代に自分を案内したのもそのためだろう。だがブリミルを悪魔と決めつけるには情報が
足らない。せめて自分たちが持つ情報を自分に仕えたのだ。きっと今頃新たな情報を手にするため暗躍しているかもしれない。
ヤプールに石堀、ただでさえこの二勢力も危険だというときに、より大きななにかがうごめいているような気がしてならなかった。
ギーシュたちと再会した時の、彼女の言葉はサイトの記憶にしっかり刻みつけられていた。
『この世界の人間の大地は、我々のものだった』
『今この星で人類を名乗る一族たちがこの星に侵略の手を伸ばしたその日まで』

とある知的生命体の住む惑星。
その星は何者かの手によって襲撃を受けていた。
「うあああああああああああ!!!」
その惑星の街はまだ地球ほど発展しておらず、その惑星独特の文化的な街並みが揃っていた。しかし、それは突然滅び去られることとなる。
建物から炎が沸き起こり、破壊されて美しかった町はただの瓦礫の山と化していく。
「始祖ニ仇名ス者ノ、抹殺…抹殺…」
どこからか、機械的で心が抜け落ちたような声が聞こえる。何も疑問に思わず、何のためらいもなく、ただ命令を実行する人形のような、冷たい声。
言葉を切らした「彼」は、破壊力に満ちたその戦斧を町の人に振り降ろした。
赤いラインと、強靭かつ硬質な鎧、赤いランプで輝くその眼。彼の姿を見た者で生きていられた者は誰もいなかった。

ロマリアに横着後、とある酒場。そこでは一種の修羅場が展開されていた。
「今すぐ出て来いこの異端者め!このロマリアの街を荒らす侵略者ならば許すわけにはいかん!無駄な抵抗はやめておとなしく出て来い!」
酒場の中は横転したテーブルがならび、その影にサイトたちが隠れていた。外にはロマリアの兵士が、翼の生えた馬型の聖獣『ペガサス』にまたがり、酒場を取り囲んでいる。
「ああもう!だからロマリアの連中は嫌いなんだよ!」
マリコルヌが悲鳴を上げる。
「だああ!!お前のせいでやばいことになったじゃないか!!!」
サイトは手に握っているデルフに怒鳴る。
「全く、デルフさんは短気で困りやすねえ」
地下水も呆れたよにつぶやいた。
「だ、だってよ。昨日は相棒に置いてかれるわ、さっきも荷物の中に押し込まれてイライラしちまって…それに俺この国嫌いなんだよ。この国を建てたフォルサテってのがどうもいけ好かなくて…」
「んな昔のこと水に流せよ!」
こうなった理由を、時間を戻して語ることにしよう。

ロマリアの南に位置する港、『チッタディラ』。積荷を詰めた快速船でも一週間かかる距離を、邪魔が入っていながらわずか三日でオストラント号は辿り着いた。
大きな湖の隣に発達した城塞都市。普通に海にもある船が停泊すること以外、特に珍しいことはない。しかし、それはオストラント号が来るまでのことだ。
オストラント号が来ると町の人々は人だかりを作ってしまい、サイトたちは困ってしまった。アンリエッタたちが秘密裏に命じたことなので表向きは学生旅行。
不味いことに融通の利かなそうなロマリアの官史に、コルベールが入国手形を見せると、官史は怪しそうに見上げる。見たこともない煙突にプロペラ。見たこともない。
感嘆にコルベールが魔法ではなく蒸気機関で稼働していることを教えるが、これが彼らの視点からすると異端の疑いがあるように見えたようだ。
「なんだこの船は?学院の生徒がこんな怪しい船、異端ではないか?」
「異端ですと!?」
官史の助手が眉を顰め、聖具を握る。
でも辛うじてコルベールが決して異端のつもりではないなどあれこれ説明し、なんとか流してロマリア行きの馬車に乗り、都市ロマリアに辿り着いたのはいい。
この国の慣習では、町の門をくぐる前に杖や武器をそれぞれ好季に詰めなくてはならない。が、サイトはそうとは知らず、武器を手元に所持したまま門をくぐろうとした。当然のように衛士に呼び止められた。
「おい!そこの貴様、そこの田舎者だ!この街で武器をそのまま持ち歩くことは許されん!」
注意するまではいい。だが衛士はサイトの背中からデルフを取り上げ、それを乱暴に捨てたのだ。いくら規則だったとしても、初対面に対する態度とは思えない。
「な、何するんだ!」
さすがにサイトも相棒をいきなりとられ捨てられるなんて、不愉快極まりない。衛士はサイトのいつもの格好の上から羽織っているマントを見て言う。
「なんだ。貴様なのか?それでいて剣士などおこがましい。北の国では平民が貴族になったそうだが、神への侮辱にもほどがある!」
「なんだと…」
いくら自分の身分に誇りを持ってるからって立場の弱い人間を馬鹿にするような言葉は道徳的におかしい。正義感の強いサイトはよりムッとした。
「貴様、なんだその眼は?とにかく袋にでも詰めておけ。携帯はダメだ。しかし、堂々と剣を携帯するとは怪しい奴め。話がある。こっちにこい」
と、ここで落ちていたデルフが口を開いた。
「この罰あたりの祈り屋風情が!いきなりこの俺っちを投げ捨てるたあ何様のつもりだ!!ああ!?」
「インテリジェンスソードか。貴様剣の分際で神と始祖に仕えしこの私を侮辱するとは、万死に値するぞ!」
かなり喧嘩腰の口調のデルフは追い打ちをかける。
「まったくブリミルもかわいそうだな。こんな、自分の名を乱用する乱暴な一兵卒がいるとしれば、一晩泣いちまうぞ」
口には出さないが、サイトもこれには同意した。あの時代では会わなかったが、デルフも初代ガンダールヴであるサーシャの剣。だいぶ昔で記憶がないとはいえ、ブリミルとは面識がある。あのように優しい男がこの衛士を見れば、嘆く可能性を否定できない。
「うぬ…許せん!」
怒った衛士はデルフを取り上げようとしたが、無論怪獣や異星人との戦いを共にした相棒が持ち去られるのを黙っていられず、デルフを引っ張り上げた。
「それを渡せ!ドロドロの塊にしてやる!」
「おうよ!やれるもんならやってみやがれ!」
「待てよ、こやつらまさか…でませい!怪しい上に不敬の輩がおりますぞ!」
すると詰めどころから次々と衛士たちが溢れた。手に持つ聖具を見てキュルケが言った。
「まずいわね。あいつら聖堂騎士よ」
その一言で反応したタバサは口笛を服と、空からシルフィードが飛んできた。彼女とキュルケ、そしてサイト、ハルナ、ルイズを乗せて飛翔する。
「みんな、どこかで篭城しましょう!あいつらに捕まったら宗教裁判にかけられるわ!下手したら何されるかわかったものじゃないわ!」
「「「籠城!?」」」
声を揃えた三人。
そのまま彼らは目に付いた酒場に籠城、テーブルをバリケード代わりに立てて聖堂騎士たちを迎え撃つ羽目になり、現在に至る。
すでに酒場の状態は悪化していた。ガラスは次々に外にいる聖堂騎士たちの魔法によってパリンパリン!と割られ、店主は怖気ついて逃げてしまった。
いつの間にか指揮官としての権限はキュルケに委ねられ、タバサは副官。レイナールとギムリはエア・シールドでバリアを作り、ギーシュがワルキューレを作って彼らに前衛を構え、背後でタバサが呪文を唱えている。あのコルベールも黙認しているため、は…ちおサイトは突っ込まないでおいた。
作戦はとにかく時間を稼ぐこと。それまでにサイトはビデオシーバーでアンリエッタと連絡をとってみた。
「姫様!聞こえますか!?」
『何か騒がしいのですが、何かあったのですか?』
「聖堂騎士の人が誤解で俺たちを犯罪者扱いして、姫様の言葉なら彼らもわかってくれると思って…」
『なんてこと!待っててください!すぐにそちらに頼れる方をお呼び致しますので』
ルイズは怒りで身を震わせていた。無実なのに誤解で不敬扱いされ犯罪者扱いされていることが、プライドの高い彼女の癇に触ったようだ。
ガラスの破片が飛び散り、体を傷つけもする。向こうはかなり聞いていたらしい。
「なんでこんなことに…」
ギーシュが愚痴をこぼしている。
最初は様子見だったのか、さらに激化する一方だ。炎や風、水球が飛び込み、バリケード替わりのテーブルもボロボロになっていく。
サイトが皆を背にデルフを構え、刀身に魔法を吸収し、その間にタバサがウィンディ・アイシクル、コルベールが炎の蛇を放つ。
小一時間…タバサの精神力も、コルベールの精神力も切れてきてしまった。
「この、異端どもめ!おとなしくでてこい!」
外から聖堂騎士の怒鳴り声が響く。
「ルイズ、出番よ!」
キュルケの指示に、ルイズは頷いた。なるほど、時間稼ぎの理由はこれにもあったらしい。ルイズの虚無の精神力を一気に暴発させるというものだ。
「さあ、思い切りかましなさい!」
「エクスプロージョン!」
くるか!そう思って全員伏せた。ルイズの魔法は、たとえ失敗の魔法でさえ威力が大きいことがある。特に不機嫌な時がそうだ。しかし、杖を振り下ろしたら小さな爆発が聖堂騎士の前の地面をえぐった程度だった。
「お…終わり?」
「ど、どうして?」
予想もしない事態にルイズはその場で固まってしまう。
「最近怪獣相手にぶっ放つことが多かったせいで精神力がたまりきってねえみてえだな。その状態で魔法を使ってもショボイもんしかできねえさ」
「そんな…」
デルフの一言にルイズは落胆する。強力なのはいいが、我ながら使い勝手の悪い系統と思わされた。
キュルケはハルナに近づいて何か耳打ちした。
(ルイズは多分嫉妬とかしたら精神力があふれるのよ。その時は…)
(へ!?ほ、本気で言ってるんですか!?)
みるみる顔が赤くなるハルナ。一体なにを言われたのだろうか。
「こんな時に一体何を話してんのさ!?」
「乙女のひ・み・つ」
この事態にこそこそとお喋りするなと言うようにマリコルヌは怒鳴り出した。対するキュルケは人差し指を唇に当てて目配せした。
「もう奴らの精神力も残り少ないはず。こうなったら突撃すればおしつぶせる」
「待て」
突撃を提案した兵士を退けるように、黒っぽい髪のひとりの聖堂騎士が目に入った。ずいぶんとキザったらしい態度にくいくい顔を上げながら近づいてくる。
「うわ、ギーシュみたいだ」
「一緒にしないでくれたまえ」
サイトの感想にギーシュは反論する。さすがのギーシュも今酒場に近づいてきた騎士と同じ目で見られるのは、人のことが言えないとしても嫌に感じるらしい。
顔立ちのいい優男だ。長い黒髪が額の家で左右にたれている。
「アリエステ修道院付き聖堂騎士隊長カルロ・クリスティアーノ・トロンボンティーノです。酒場内の諸君、あなたがたは完全に包囲されています。神と始祖との卑しきしもべたる我々は争いを好みません。
逆らっても無駄です。我々の力をご覧になったでしょう。おとなしく投降してください」
「私たちの身の安全を保証するならそうしてあげてもいいわよ」
「できればそうしておきたいですが、最近このハルケギニアの大地に異星人が紛れ、侵略を企てているそうではありませんか。しかも始祖の子である我ら人間に汚らわしくも化けてどこかに潜んでいる可能性も捨てきれない。
怪しいものは捉えて宗教裁判にかけなくてはならないのです。あなたがたの無罪が神によって証明された後、そうさせていただきましょう」
キュルケの言葉に、カルロと名乗る男はそう答えた。しかし、マリコルヌは乱暴に反論した。
「宗教裁判?やはり身の安全なんか考えてないだろ!」
「知ってるんだぞ!お前らの宗教裁判は、結局名を変えただけの処刑だってな!」
ギムリも喚く。彼らのこの様子だと、カルロの意図はとっととサイトたちを裁判にかけて死刑にしてしまえばいいということらしい。ロマリアの聖堂騎士たちは、以前からこの力押しすぎた正義と通してきたことが原因で、他国から快く思われていないのだ。これもヴ
ィットーリオ以前の教皇たちの権力乱用による残り香なのかもしれない。
「僕もおとなしく表に出るわけにはいかない。あなたたちが思わなくても我々はトリステイン貴族だ!」
ギーシュも同調して叫んだ。
「トリステイン貴族?ならばなぜ酒場に立てこもるなんて野蛮な真似をなさるのです?貴族らしく裁判を受けて身の潔白を証明させればよろしいではありませんか。できなければ、あなたがたも結局異端ということなのですが」
「くっそ…姫様たちはまだなのか?」
ビデオシーバーで連絡をとってから未だアンリエッタたちの援軍は来ていない。もうずいぶん時間がかかっている。早く彼女が放った誰かがこないと本当に自分たちは異端扱いだ。
「そこまで裁判を拒むなら致し方ありませんね」
カルロの、さっきまで温厚さだけは保っていた顔が、容赦ない苛烈な顔に歪み出した。内心ではいつまでたっても異端者を捕まえられないイライラを抑えていたようだ。
「異端どもを始祖の名のもとに捕えよ!」
「「「うおおおおおおおおおお!!」」」
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