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□F・ヤプールの巣窟ガリア/File0
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バルタンとの戦いから三日後のこと。
「じゃあハルナ、シュウヘイから何か連絡があったらすぐに知らせてくれ。訓練に行ってくる」
「うん、まかせて」
「さっさと戻りなさいよ」
放課後、ハルナとルイズに連絡待ちを任せ、サイトはギーシュらの待つ広場へ向かった。昼休みと放課後一時間と虚無の曜日に騎士隊は訓練を行うことになっていて、副隊長であるサイトも無論それに参加している。
隊舎から出ようとしたその時だった。ハルナの管理しているパソコンに着信音が鳴り出した。マウスをクリックすると、アンリエッタの顔が表示された。
「姫様!?」
『サイトさん、ルイズ。すぐ近衛兵を集結させ、連合皇国首都ロマリアに来てください。なるべく迅速にお願します』
「ロマリアに?」
『ロマリアの方に、怪獣の目撃情報が続出していると、ロマリアの教皇様からお聞きしたのです。詳しい事情はあなた方が向こうに到着してからお話しします』
「諸君、これは我々UFZがより栄誉ある戦士へとのし上がる好機である!なんとしても陛下のご命令通りルイズを、命に代えてもお守りするのだ!」
「「おおおおおおお!!!」」
翌日、学院の外に置かれたオストラント号の甲板の上で高らかにギーシュが活を入れながら杖を掲げると、マリコルヌとギムリも同じように杖を掲げた。
それを遠目で見ているのは、コルベールと一緒にオストラント号を動かすためにくっついてきたキュルケ、タバサ、ギーシュがほっておけないモンモランシー、そして今回護衛される側にあるルイズに、怪獣が出る可能性がぬぐえないとして、小型のノートパソコンを持って来たハルナである。
「お偉いさんは命令するだけで、方法までは言わないのね。オストラント号がなかったら一週間はかかっていたわ」
ロマリアはトリステインから大分離れた場所にあるため、空を飛ぶ船を動かすために必要な風石と、石炭をたくさん積めて少々お疲れ気味のキュルケはため息を着いた。一個隊にしては少ないが、これだけの人数で向かう上になるべく緊急で向かうのだから、サイトた
ち男性陣だけでなく女性陣の力も借りなくてはならなかった。おか
げで石炭や風石で詰まっているが、体力的に劣る女性陣は出発前にもかかわらず疲れてしまった。
「ひ、姫様たちに…き、期待以上の働きぼ…してこそ、ごほ!中臣というものだわ…」
「あなた大丈夫…?」
ルイズも息が切れかけ、言っている言葉がところどころ途切れている。彼女たちの後ろでは、オストラント号の蒸気機関が機関車のようにシュ、シュと音を立てながら動いている。
「と、ところでサイトは今どうしてるの?」
「平賀君なら、操縦室でコルベール先生を手伝っていますけど」
「そう…」
しばらくして、オストラント号は発進した。
ロマリアはガリアの南に位置している。ゲルマニアを経由してそこへ向かうことになっていた。現在オストラント号はゲルマニアの上空を飛行中である。
「オストラント号…すごいですね。機械がでまわってない世界でこんな飛行機を作れるなんて」
「ミス・ツェルプストーのご実家の協力もあって見事な仕上がりになってね。乗り心地はどうかな?」
「快適っす!」
操縦室から、変わっていく景色を眺めながらサイトは感嘆の言葉を言った。コルベールもサイトが喜んでくれてご満悦そうだ。
「どうして、この船に『オストラント』と名付けたかわかるかい?」
「え?」
「オストラントとは、『東方』と意味を成している。君の国の『ニホン』とは地球では東に位置しているそうだね。いつか君の世界に
て、遥か遠くの世界、それも東に飛んでみたいと願いを込めたんだ」
「へえ…俺でよければ、いつか案内しますよ。地球を」
「ありがとう。だが…」
突然コルベールは暗い顔になった。
「私は今でも、夢に見るのだ。ダングルテールを焼き払ったときの悪夢を。そしてハルナ君を一度手にかけた時、私に不気味な笑みを浮かべる悪魔を…。
こんな私が、君に『先生』と呼ばれ、仲良くしてもいいのかと…」
元々自分はサイトだけでなく、それ以前に他人から大事なものを奪い去った最悪のメイジであるという意識が、今でも彼の夢に出てくることがあった。こんなふうに、サイトほどの善人と気安く話してもいいのだろうか?いつも考えていた。しかし、サイトは優しい笑みを浮かべて言った。
「もういいですよ。ハルナは帰ってきてくれましたし、コルベール先生だって、自分の意志で好きに人を手にかけたわけじゃなんでしょ?
それでも罪を感じるなら、その過を知る心で、これから先の生徒たちにも伝えてあげてください」
「サイト君…」
「じゃあ、俺甲板に出てます。何か異常が見つかったら言ってください」
サイトはそう言って操縦室を後にした。
彼が立ち去ってから、コルベールはポケットから小さな小箱を取り出した。その箱を開けると、ルイズが持つ水のルビーと、ウェールズが持つ風のルビーに似た、炎のような赤い宝珠がはめ込まれた宝石が指輪の台座にはめ込まれていた。
宝珠の輝きはまるで、20年前に自分があの村を焼き払ったときに放った炎のような、メラメラと燃え盛る炎のようだ。
「火のルビー…」

船室でルイズとハルナはサイトの帰りを待ちながら休んでいた。ルイズはノートパソコンを睨み合うハルナをちらと見た。サイトから本当の愛情を受けている彼女。自分とは違って自分の気持ちをはっきり言える少女。そして容姿もその長くて美しい黒髪。自分も容
姿に自信がないわけではないが、彼女を見ているとどうも負けた感じがする。胸も背丈も彼女とは違って子供に近いレベルだからだろうか。
黒い髪はハルケギニアでは全く見られないほど珍しい。シエスタにもサイトが気軽に話したりすることがあるのも、その容姿から故郷の地球を思い出しているのかもしれない。
「ねえハルナ、あんたサイトの母様を知ってるんでしょ?」
「え?ええ、そうですけど…」
「帰りたいとか、言ってないの?」
ルイズにそういわれ、ハルナは一旦手を止めてルイズの方を見た。
「…平賀君は、元々怪獣災害で生みの両親を亡くしてるんです。私が知ってる平賀君のお義母さんは、自分を引き取ってくれた人で、とても優しい人。そんな人がいたから、誰にでも優しい彼になれたんじゃないかって。
本当は帰りたいって言いたいんだろうけど、今は宇宙警備隊の一員でもあって仕事も忙しい身。迂闊に帰ったところで自分が守っている場所が狙われるわけにもいかないし、あなたへの優しさも兼ねてずっと押し殺しているんだと思いますよ」
「じゃあ、あんたは恨んでないの?勝手にサイトをこの世界に呼び出した私を」
「それは、恨んでなかったと言えば嘘になります。だって平賀君は私の大好きな人だから、奪われたりしたらすごく嫌。ルイズさんだってそうでしょう?」
ルイズはコクッと頷いた。
「でも、もうすんだことだから気にしてないですよ。でも、平賀君は譲れませんからね」
と彼女が言った時だった。突然パソコンが警報を鳴らしだし、ハルナはすぐパソコンの画面に目を向けた。
「なに、この反応!?」
「どうしたの!?」
「『タキオン粒子』が、急激に…?」
しかし、その反応はすぐに途絶え、画面に映されたマップはいつものような、何の反応もない正常な状態に戻った。
「なんだったのかな…?」

だが、その夜から異変が起こった。
「すう…すう…」
「くみゅう…ん」
「くー…くー…」
ロマリアにつくまで操縦は交代制で回すことになり、サイトはベッドでルイズとハルナと一緒に寝ていた。
―――ゼロ
――――ウルトラマンゼロ
「…ん」
こんな夜中に誰だろうか。自分の名を呼ばれ、サイトはベッドから体を起こした。寝起きだったこともあって思考が数秒停止していたが、すぐ我に返った。
声の主は自分の正体を知っている。警戒し、扉の方を見ると、見知らぬ女性が扉の隙間から顔をのぞかせていた。
『目を覚ますのよゼロ。真実をその眼で確かめて』
「待って!」
サイトは二人を起こさないようにベッドから降りて部屋の扉から廊下に出た。廊下に出て物の、声の主とされる女性の姿はない。
甲板への階段の方へ向かうと、そこに声の主らしい女性がいた。鼠色の、独特の服装だった。
「君は…?」
『今から、あなたに真実を見せる』
「真実…?一体何のことだ」
『知りたくはないのか?なぜこの星の人間が他星へ密かに侵略の手を伸ばしていることを』
「!」
ブラック星人、そしてバルタン星人からこの星の人類が侵略者として目をつけられていることは聞いている。もしこの女性の言っていることが正しければ、その理由を知ることができるのではないか。
思考してから顔を上げると、いつの間にか女性は階段から姿を消していた。
「真実…?」
立ち尽くすサイトは小さく口ずさんだ。彼女はいったい自分に何を伝えたかったのだろうか。
コト。何かが落ちた落ちがして、サイトは床の上を見た。妙な貝殻が一つ、転がっている。気になって拾い上げた瞬間、貝殻が光を放ちながら開いた。中には真珠の装飾が施された小さな時計が付いている。
その時計は、急に逆回りし始め、サイトをまばゆい光で包み込んだ。

翌日、今日もオストラント号はロマリアに向かっていた。この船なら、通常の船や竜よりはるかに早くロマリアに辿り着くことができるはず。だが、おかしい。
(妙だ。このオストラント号の速度ならすでにロマリアが目前になるはずなのだが)
操縦していたコルベールは窓の外を見た。やはり妙だった。このあたりには街道が敷かれているはずだが、それがきれいさっぱりない。
一旦オストラント号を着陸させた。
「どうしてんです先生?」
起きたばかりで寝ぼけ眼でマリコルヌは尋ねる。
「ここにあったはずの村がなくなっている。地図の通りだとこのあたりにあるはずなんだが…」
コルベールは地図を広げて現在地を指差した。彼の指差した地点に無名の村を示す点がそこにある。自分たちはその村にいるはずなのだが、村どころか一件の家もない。草原がそのあたりを覆っていただけだった。
この村は知らない間に何者かに滅ぼされてしまったのだろうか?しかし、地図から顔を上げた瞬間辺りの景色は一変していた。
「!?」
いつの間にか自分たちはさっきまでなかったはずの村の真ん中に立っていたのだ。
「な、何よこれ!?いったい何がどうなってるのよ!?」
さっきまで草原だった場所が、いつの間にか村と化す。そんなありえない現象に誰もが動揺した。
「サイト、これどういう…」
ルイズがサイトに尋ねようと声をかけたが、返事がない。集合したメンバーたちを見渡したが、その中にサイトはいなかった。
「サイト?」
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