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□閑話3/魅惑の惚れ薬
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海に行く数日前。
「シエスタ!三番でいいなんて何言ってんのよ!」
「で、でもサイトさんにはあの二人が…」
「だから何!?あんたも魅力じゃ負けてないじゃない!少なくとも勝ってるところはあるんだから!」
シエスタはこの時、一つ下の従姉妹のジェシカと、叔父であるスカロンの働いている魅惑の妖精亭にいた。サイトとの関係について問われたところ、発展するどころか衰退状態にある彼女の現状に、肉親として黙っていられず怒鳴られたのである。
「そうだ!なんならこれ使って見なさいよ」
ジェシカは給仕服のポケットからハート形の小さな小瓶を取り出し、シエスタに見せた。
「ジェシカ、それは?」
「客から没収した惚れ薬。こともあろうかと私に使おうとしたのよ」
「え!?でもこれご禁制の品じゃない!」
人間の心を操る薬品は重罪だ。場合によっては、例えば王様にこの薬を盛れば、持った者は王様に気に入られて国の上官にまでのし上がれるかもしれないからだ。
スカロンはしーっと耳打ちした。
「効果は一日だけなのよ。だから大丈夫。バレないわよ」
「で…でも…」
「サイトがとられちゃって黙っていられるの!?」
「それは…」
今でもサイトへの好意は消えてないシエスタ。さすがにこのまま指をくわえることは難しかった。

当日、結局シエスタはジェシカから惚れ薬を受け取ってしまった。朝、ホテルの窓から光に翳しながら惚れ薬の瓶を見つめるシエスタ。
「なんて怪しい輝き。これを使えばサイトさんは…」
シエスタの妄想、何も知らず惚れ薬を仕込んだワインを飲むサイト。そしてグラスを落とし…。
『好きだよシエスタ!もうたまらない!!』
『いけませんわサイトさん…あ!』
サイトは大胆にもシエスタを押し倒し、彼女の体に顔を埋める。
「ああ!そんなところまで…はぅ!」
シエスタはそこで我に還った。道義的にもこんなことが許されるはずがない。普通に考えたら全くその通りである。
「ダメダメ!魔法の惚れ薬で人の心を操ろうなんて。でも…」
シエスタは再び惚れ薬を見つめる。
「少しくらい、夢を見ても…」
そして明日学院に帰る日、生徒たちは最後の海水浴を満喫していた。
「それえ!!」「あ!やったなあ!」
水を掛け合ったり、昨日のようにビーチバレー(ただし罰ゲームなし)をしたりと、生徒たちは楽しんでいた。
「いいかルイズ、こうやって目隠ししてくるくる回して…」
「ちょっと、視界がふさがってるからって変なところ触らないでよね…」
「触らないって。殺されたくないし」
サイトはハルナやギーシュたちと一緒で、ルイズにスイカ割りを教えていた。目隠しをされ、くるくる回転させられて、手にはギーシュが作った青銅の棒が握られている。砂の上にスイカ、これを割ればいいのは皆さんもご存じなはず。
「ルイズさん、右ですよ!」
「ルイズ、行き過ぎだ!一歩下がりたまえ!」
「うー、そんないっぺんに言われてもわからないわよ…」
ルイズは棒を持ってふらふらを見えない砂浜の上を歩く。そんな彼女の足もとに、器量な視線があった。
砂に顔から下の体を埋めていたオスマンだった。顔が凄まじくにやけ面になっている。その視界に映るのは、ルイズの赤いビキニに包まれた尻だった。
(ふぉふぉ、いい眺めじゃの…?)
一瞬にしてそのにやけ面は崩れ去った。ルイズがこちらに棒を振り上げている。
「ま、待て待て!わしじゃ!」
あわてて弁解しようとするオスマンだったが、時すでに遅し。ルイズが凄まじく唸りを上げた青銅の棒が、自分のドタマに落下し…。
「ぎゃああああああはあああああああああ!!!」
オスマンの自業自得な悲鳴が轟いたのは言うまでもない。ちなみに、乙女の勘でルイズはオスマンの破廉恥な視線に気づいていたらしい。
(このスケベじじい…)と恨めしそうに毒突きながら。
昼食の時間、海に来た生徒たちは用意された食事にありついた。
「ギーシュ、あれの準備できたか?」
「ああ、そっちは?」
「なんなら今でもいけるぞ?」
ギーシュとギムリは何かこそこそと、誰にも聞こえないように話し合っていた。
「肉うううう!!」
「お前は肉を食い過ぎだ…野菜も食えよ」
隣で普通に食事していたシュウヘイは呆れていた。
学院の生徒は自分の好みばかり優先して野菜を食べる人間が少なかったりしている。そのなれの果てがマリコルヌのこの脂肪の塊状態の体系。何とかならないのかと、脂っこい食事を見ながら思った。
「マリコルヌさん、ほおばりすぎですよ…」
テファもマリコルヌの食いっぷりを見て食欲がなくなりかけていた。
「びばー、ぼごぼんばぞんじゃっだがらずごいぼながずいじゃっで
(いやー、とことん遊んじゃったからすごいお腹すいちゃって)」
「それはそうですけど…」
「ばばぐばべないぼびびぐなぐばるよ(早く食べないとおいしくなくなるよ)」
「そうですね。いただきます」
「いや、なぜ通じたんだ…?」
テファの、マリコルヌの口に飯をほおばった時の言葉を理解できる語学人隙力の異常に、困惑するシュウヘイだった。
一方、サイトも困惑していた。
「あの、タバサさん。その格好は…?かわいいけど…」
「最近のサイト、疲れてる気がしたから…」
目の前にいるタバサが、シエスタが着ているものと酷似したメイド服姿だった。なんとなく萌え〜と言いたくなりそうだ。サイトにかわいいと言われ、タバサは顔をほんのり赤くした。
「その気持ちだけで元気でるよ。ありがとな」
「あと、これ…」
タバサは皿に盛りつけられた料理をサイトの前に置いた。ホカホカに温まっていていかにもおいしそうだ。
「これ、オムライス?もしかして、タバサが俺のために作ったのか!?」
「そう」
「へえ…うまそう!」
自分のためにメイド服を着てまで、これはうれしくないなんて言えるはずもない。と、ここでタバサはオムライスの上にケチャップで何か文字を書き始めた。大きい文字と、小さい文字での二行で分けられている。
「何書いてんの?」
「大きい方が『サイト』」
「俺の名前?じゃあこっちの小さいのは?」
「…///」
(なんだ?また顔が赤くなった)
まだサイトはハルケギニアの文字が読めない。ある程度彼女の教えで覚えているのだが、完璧からほど遠い。一体タバサが何を書いているのか気になった。
「ま、いっか。いっただきまーす!………うん!うまいよ!」
「よかった…」
口の中にオムライスを放り込んでサイトは、タバサの作った料理の美味っぷりに感激した。タバサもサイトが喜んでくれて思わず無表情なポーカーフェイスに笑顔がこぼれた。
「あら、いい香りね」
「この匂い、オムライス?」
オムライスの匂いに誘われたのか、ルイズとハルナもそこにやってきた。
「見てくれよ二人とも!タバサが俺のためにオムライス作ってくれたんだ!」
「「むう…」」
サイトの笑顔に目を曇らせる二人。
「あら、何か書いてる」
「あ…」
ハルナがオムライスの残った文字を見た時、タバサは思わず声を漏らした。ルイズもそれを見て何かあるなと確信し、ケチャップの文字を確認した。
「『あなたが、好きです』?」
「へ?」
間抜けな声を上げたサイトに、ハルナとルイズはじろっとサイトを睨んだ。
「ねえ平賀君…あんたが食べた箇所になんて書いてあったの?」
(や、やばい!目が据わってる!)「え、えっと…」
「最後に『ト』って書いてあるわね、犬?」
(だ、ダメじゃん!ばれてるジャン!)
二人のボルテージが上がっている証拠に、ルイズとハルナから怒りの業火が燃え上がっていた。
もう駄目だダメだおしまいだあああああああ!!!そう思ったその時だった。
横入りするようにやってきたシエスタがサイトの腕を無理やり引っ張りだした。
「ちょっとお借りしまーす♪」
「あ…シエスタさん!」
引き留めようとしたハルナの制止を振り切ってシエスタはそのまま去っていった。
「…何かたくらんでるわね」
「怪しいわね今日のシエスタさん…」
ルイズとハルナは互いにコクッと頷いた。
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