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□閑話2/眠れない戦士たち
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昼間はグレイの悪ふざけと、ミミー星人と彼の使役する怪獣で恐ろしい事態に発展したものの、被害者はほとんど出ることなく収束した。
だが、これから先にまた恐ろしいことになることを、この時誰も知ることはなかった。
その夜、海岸近くのホテルから今回は始まる。この時、サイマはどこかに勝手にいなくなり、アスカも「旅に出る」とすでにホテルから立ち去ってしまった。ZAPのメンバーも泊まりに来たわけではないので近くに停泊してあるペンドラゴンの方で一夜を過ごすことに。
宿泊する生徒や教師が全員集合したところでオスマンは生徒たちに、隣に立つ赤紫色の髪の若い女性を紹介した。
「紹介しよう。このホテルのオーナーを勤めるミス・ラベンダーじゃ」
「皆様、当ホテルをご利用ください、誠にありがとうございます。快適な日を皆様にお送りいたしますので、質問などございましたら是非遠慮なくお尋ねくださいませ」
遠慮なく質問と言ったとき、真っ先にギーシュがやましい衝動でラベンダーに近づこうとしたが、モンモランシーの鋭い眼光を見て縮こまった。
「へえ…このホテルでかいな」
シャンデリアの吊るされたホテルのホールを見たサイトは素直に感嘆した。これほど豪華なホテルには地球でも泊まることなんてめったにない。
「当然でしょ?貴族が泊まるホテルは常にこれぐらいなくちゃ」
自慢げに胸を張るルイズ。相変わらず平らな胸を見せつけているようにしか見えない。
「これぐらいのものを作れる金があるのに、一体今までお前たちの先代は何をしていたんだ?おかげで、貧乏暮らしが増える一方だ」
ここでシュウヘイからダメ出しを喰らってルイズは崩れかけ、ウェールズは頭の後ろを掻いて面目なさそうな顔をする。
「はは…貴族というものはどうしても豪勢さを求めてしまうからね。でも、これからは遠慮したほうがよさそうだ」
「あんたとサイマは本当辛口ね…」
ルイズは頭を抱えながら呟いた。
ここで立ち話もなんなので、とりあえずロビーのソファーにサイト、シュウヘイ、ハルナ、ルイズ、テファ、アンリエッタ、ウェールズ、キュルケ、タバサ、ギーシュ、モンモランシー、レイナール、ギムリ、マリコルヌが集まって座った。
「それにしてもこのホテル、係員が少なくないか?」
サイトは座りながらホテル中を見渡してみる。確かに彼の言う通りホテルのスタッフが余り多い、いや正確にはまるでいないような感じだ。
「サイトさんの仰る通り、確かに係りの者が少なく感じますわ」
アンリエッタもこのことが気になっている様子だ。
「そうでしょうか?ただここで働いてる人数が少ないだけでは?」
ルイズがアンリエッタに言う。常識の範囲で考えればその通りだが、ここでこの場にいないはずの一人の少年が飛び出してきた。
「いやいやそんなことないよう!!!」
「「「ぬわあ!?」」」
いきなり、それもサイトたちの座るソファに囲まれたテーブルの下からグレイが飛び出してきたものだから、その場にいたメンバーの大半がびっくりして飛び上がってしまった。
「び、びっくりしたあ!脅かすなよ!」
「ど、どこから出てきたの…?」
「細かいことは気にしない気にしない♪」
サイトとハルナの言葉に、グレイは答えになっていない返事をする。
今ZAPのクルーたちといるはずの彼がどうしてここにいるのだろうか?シュウヘイは尋ねてみた。
「お前、ペンドラゴンにいたんじゃなかったのか?」
「せっかくだから遊びに来たんだ。で、なんでホテルのスタッフが少ないかって?それはねェ…」
その時のこの少年の笑みは、昼間の時のようにどこか不気味だった。指をパチンと鳴らした瞬間、ホテル銃の明かりがどういうことかパッと消えてしまった。
「な、明かりが全部消えた!!」
ギーシュが騒いだと同時に、一つの蝋燭の火が一つ、ボウッ!と灯った。わざとグレイはその蝋燭の火を顎の下の辺りに持ち、より不気味な雰囲気を作り出す。
「このホテル…『出る』って噂なんだ…」
「で、出る…?」
ゴクリとレイナールは唾を飲み込んだ。
「うん、出るんだよ…」
「出るって、何が…?」
本当は今言葉を放ったギムリだけでなく、その場にいたメンバー全員がこの答えをわかっていた。でも、心のどこかで信じたくなかったためか、改めてグレイに尋ねてみる。
無論、答えなど最初から聞かなくてもわかりきっていたものだった。
「…幽霊さ」
「「「幽霊!!?」」」
「まあ!私、そういう話大好きですわ!」
誰もがまさか!?と言っているように驚く中、アンリエッタただ一人だけ喜んでいた。
「う、嘘でしょ…?」
ルイズでさえ今のアンリエッタの反応に驚いていた。幼馴染がお転婆で、以前リッシュモンの裏切りを暴くときに自ら大胆にも町に護衛もつけずに飛び込んだりするほど肝が据わっていることは知っているが、まさか怪談話が好きであることまでは知らなかったようだ。
だが以外な反応がもう一つあった。
「いや…」
タバサが震えながらサイトの左腕にしがみついていた。
「た、タバサ痛いんだけど…」
「幽霊、いや…」
(タバサって幽霊ダメなのよね)
もう第一話で説明したと思うが、今キュルケが小声でぼやいた通り、タバサが幽霊が大の苦手だった。サイトの腕にがっちり捕まり、痛がるサイトやルイズ、ハルナ、シエスタの殺意ある眼光を気にも留めていないほどしがみついている。
「ちょちょちょサイト!何タバサにくっついてんのよ!!」
「平賀君なに鼻の下伸ばしてるの!?」
「いやいや伸ばしてないから!大体一方的にしがみつかれてるだけだっての!!」
「幽霊か…怖いものだな」
あまり恐怖を表す表情を出さないシュウヘイの意外な言葉に、一同は視線を向けた。
「シュウもお化けが怖いの?」
「まあな…あまりいいものとは思ってない。でも襲ってきたら返り討ちにするしかない」
返り討ちって…。
誰もがシュウヘイの幽霊への恐怖を疑いだした。実際怖くないんじゃないのかと、しかも怪獣と同列に考えているのではないかと。
「幽霊なんかいるはずないでしょ、馬鹿馬鹿しい」
怖くないと言い張るルイズ。だがサイトはその様子を見逃さなかった。
「あ、ルイズ…もしかして…」
「なっ、何よ…」
「怖いのかぁ?」
「なっ!?//」
いたずらっ子のような笑みを浮かべるサイトに言われ、ルイズは顔を真っ赤にした。図星らしい。相変わらずの強がりでごまかしていたのだ。
「やっぱりそうなんだ!恐がりだもんなお前!」
「ちっ違うわよ!」
「嘘ばっかりはよくないわよヴァリエール。足が震えてるわよ」
キュルケにも指摘され、ルイズは余計に真っ赤になる。さっきサイトが見逃さなかったのはその足の震えだった。
「だから違うって言ってるでしょ!」
「あーん、サイトさん怖いです〜」
ここでシエスタがサイトの右腕に抱き着いて豊満な胸を押し付けだす。さすがはシエスタ、一度惚れた相手にはとことん接近する。ハルナとルイズという邪魔者のせいで接近回数が少ない分一回一回がアグレッシブ。
しかし、本命のハルナだって負けてるわけにはいかず、サイトの背中に抱きついた。
「平賀君は渡しませんからね!」
「何だか女の戦いに発展してますが…」
グレイは背筋に寒気を感じながら冷や汗をかいた。マリコルヌに至っては、サイトを睨み付けている。
「ハーレム野郎が…」
「と…とりあえず続けるね!この訳ありホテルの話」
強引にグレイが話を戻したことで話はようやく続行した。タバサがこの時凄まじくブルッ!と身震いし、シエスタとハルナ、そしてかろうじてサイトの服の裾をつかむルイズもだんだん顔を真っ青に染めた。テファもこの暗い雰囲気に耐えきれなくなり、シュウヘイの手をしっかり握っていた。ちなみにモンモランシーはギーシュの浮気癖のせいもあってか、意地を張って震えながらも一人立っていた。
「このホテルは元々、昔このあたりを領地にしていた貴族の屋敷だったのを改装したものなんだ。屋敷の主人はなかなかの名君でね、ここに住んでいた平民たちからも慕われていた」
でも、とグレイが言うと、さらにその場の空気が冷たくなった。

でも、領主はある問題を抱えていた。
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