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□閑話1/誘惑と恐怖の砂浜
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学院長に呼び出されたサイトは、机の上に置かれた宝箱の中身をオスマンと見ていた。
「これって…」
「猿貴族の屋敷からでて来た者じゃが、これは君の世界のものでないかね?」
「ええ、でもこんなにたくさんは初めてです…」
「して、形からするとごにょごにょ…」
サイトの耳元でささやくオスマンだが、サイトは「いやいや」と首を横に振り、今度は彼がオスマンの耳元でささやいた。
「こ、これで水に入るじゃと!?」

一方、肌を突き刺すほどの日差しが空から差し込む中、ルイズたちは学院の外の木陰に座り込んでいた。
「あっついわね〜」
キュルケが手で自分を扇ぎながら言った。
「今年の夏はいつになく暑いわね」
ルイズも暑そうに言った。ハルケギニアの今の季節は夏。地球の夏と同じように、気温が高く、暑かった。
「今年の夏のバカンス、ロマリアの大聖堂見学を取り消して海に行くそうよ」
「海ですか!?」
モンモランシーの言ったことを聞いてテファは目を輝かせた。
「見たことないの?」
ルイズが尋ねると、彼女はコクッと頷いた。
「ええ、一度見てみたいって思ってたの」
「海はいいわよ〜特に夜の渚は神秘的でロマンチック…」
テファにそう言ってうっとりするモンモランシー。それに反応したか、どこからかギーシュが薔薇を手にモンモランシーに接近した。
「モンモランシー、僕と一緒に夜の渚で星を眺めないかい?」
「ふん!どうせ他の女の子を遊ぶんでしょ?お断りよ」
「え…」
グサリと彼女の言葉がギーシュの胸に突き刺さり、同時の彼の薔薇もしな…と無残に折れ曲がった。そのままとぼとぼと学院の方へ戻って行った。
「ヴァリエール、ハルナから奪い取るチャンスじゃない?夜の渚でサイトを誘惑して押し倒されて…」
「なっ!べべ別にそんなんじゃないんだから!!」
キュルケにそう言われ、ルイズは顔を赤くした。でも、どこかそういうことを期待してしまうのだった。

そしてバカンス当日、生徒たちは海にやって来た。
「久しぶりに見たなあ…海」
ハルナは波風を浴びながら呟いた。
「うわあ…海って青くて大きいのね」
燃えに飛び込む青の世界を見て、テファはキラキラと目を輝かせていた。
「しかも、しょっぱいですよ」
いつの間にかその場にいたシエスタは指先のつけた海水を舐めた。テファも同じように指先で一口海水を舐めてみた。
「ホントだ。しょっぱい」
「ちょっとシエスタ!何であんたがいるのよ!?」
「あら、サイトさんが行くなら私も行くだけですよ」
一度惚れた男がそこにいればどんなに離れても追いかける。シエス
タはルイズとハルナに黒い笑みを見せた。
「きい〜〜〜〜〜!!」
そんなシエスタにルイズは歯ぎしりした。
(また平賀君を狙ってるわね。それにしても…)
改めてハルナは水着を見た。女子は全員これを水着と言っているが、
地球出身の彼女から見たらこの『水着』と呼ばれるこの服、どう見ても一種の私服にしか見えなかった。
「あれが水着なのか?」
疑わしそうな目でサイトは女子生徒たちの水着を見た。彼もまたあれを水着とは認めたくない様子らしい。ちなみに男子は青い短パンと水色の半そでのぴったりサイズの服だった。
「そうだけど…違うのかい?」
ギーシュの言葉を、サイトはかたくなに否定した。
「違う!本物の水着はなあ…」
真の水着とはなんなのか?それをサイトはギーシュの耳元で囁く。それを聞いたギーシュは思わず絶叫した。
「なにい!?」
「ギーシュ、喜べ。みせてやるよ。手はあるからな」
サイトは不敵な笑みを浮かべた。その笑みの奥にある真意が果たして何なのか、まだこの時誰も気づいていなかった。
「手?」
「ねえサイト」
その時、テファがサイトの元に駆け寄ってきた。
「ん?どうしたテファ?」
「シュウは来てないの?今朝から見ていないけど…」
「ああ、今日はホークを貸してパトロールに行かせてるんだ。ごめん」
「そう…」
残念そうにテファがうつむいて立ち去る中、サイトは心の中で彼女に謝った。
(あいつがいると都合悪いんだよ。ごめんな)
しばらくして生徒たちは集合した。
「今日は女王陛下と皇太子も来ておる。身分にとらわれず仲良くするとよい」
まさかの女王夫婦の参加に、生徒たちはざわめき始めた。もちろんルイズもこれには驚いていた。アンリエッタとウェールズ、護衛としてアニエスが生徒たちの前にやって来て、生徒たちに演説する。
「皆さん、今日は皆さんとオスマン学院長が東方の文化を学ぶと聞き及んでおります」
「僕たちも王族として外国の文化を学ぶためにここにいるが同じ立場の人間として接して欲しい」
二人が演説を終えるとオスマンは砂浜に置かれた木箱を指差した。
「では、水に入る前に女子はあれに着替えておくれ。今から水の精霊へ祈りをささげるための儀式を行わなければならない」
言われるがままその木箱に集まって中身を取り出したのだが…。
「おへそが丸見え…」
テファが手に取っていたのは、首に巻く紐のない白いビキニだった。
「こ…こんな下品なのが…水着!?」
モンモランシーも紫の水着を取り出して顔を真っ赤にする。ルイズも赤の上に黄色いラインの入ったビキニを見て驚愕する。
「なな、何よこれ!?」
「こんなの、どこで…?」
ハルナも黒ビキニの水着を取って首を傾げた。この方がしっくりくるのはわかるが、この水着はどこからでてきたのだろうと。
どの水着も露出が彼女たちから見て、とても激しいものだった。
「陛下、まずはあなたが着れば生徒たちも続くでしょう」
自分の出した赤いビキニを手に赤面していたアンリエッタにオスマンは言うと、意を決した顔になった。
「わかりました」
「へ、陛下!?」
「あ、アン!本気か!?」
これにウェールズとアニエスは驚愕する。あんな破廉恥な水着を着るつもりなのか?と。
それから女子生徒は、木箱の中にあった水着に着替えた。女子生徒たちの中には全員恥ずかしそうに顔が赤くなる人が続出した。
「あれがサイトの国の水着!?下着じゃないのかい?」
ハルケギニアの男性陣は唖然とした。あんな露出度満載の水着が存在するとは夢にも思わなかった。
「どうだ?素敵だろ?」
サイトはニヤつく。戦っているときとは大違い、下心が完全に解放されている。
「ああサイト、君は何て素敵な国にいたんだ…」
鼻の下を伸ばすマリコルヌ。サイトは耳元で彼らに何かを囁いた。
「もっとすごいものもあるけどな…」
「「ええ!?」」
「じゃあ、学院長…ごにょごにょ…」
「うんうん…なるほど」
オスマンとサイトが悪巧みを働く中、ウェールズは水着姿のアンリエッタを直視できなかった。
「あら、どうなさいましたウェールズ様?」
「い、いや…」
この時、先に海に浸かって彼女に背を向けていた彼は鼻を押さえていたという。
それから十分後…。
「今から水の精霊にささげる儀式を行う巫女を、東方のスポーツ『ビーチバレー』で決めようと思う。ルールはサイト君、君から説明してもらいたい」
「はい、このスポーツは…」
サイトが砂浜にラインを引き、ギーシュの土の魔法で作った二メートルほどの棒を二本立て、その場に流れ着いていた漁業用の者と思われる網をつるしてバレーのコートを作った。
そしてサイトの口からビーチバレーのルールが説明された。
「参加者は女子のみとする。優勝者には水の精霊への儀式のための巫女服を着込む資格を与えよう。これは大変名誉なことなのでぜひとも参加してほしい。以上、質問はないかの?」
オスマンが言ったときに質問してくる生徒がいなかったので、さっそくビーチバレー大会が始まった。
まずはアンリエッタ&アニエスチーム対テファ&シエスタチームから試合が行われた。
「行きます!そおれ!」
シエスタからサーブが打たれ、アニエスがレシーブ、アンリエッタがトスを上げ、そしてアニエスがアタックを撃ち込んだ。
「きゃあ!!」
取りに行こうと走るテファだが、慣れない土の上を走り切れず、見事に転んでしまった。
「よし!」
「やりましたねアニエス!」
喜びのハイタッチをする二人だが、ジャッジを務めていたギーシュが明かに決まったにもかかわらず「アウト」と言い出した。
「今のは明らかに入ったではないか!あれのどこがアウトだというのだ!!」
納得できずジャッジのギーシュに抗議するが、ギーシュは口笛を吹いて全く話を聞こうとしない。
「審判の命令は絶対じゃ」
オスマンの学院長権力で結局アニエスは「くううう…」とおなり声をあげて引き下がるしかなかった。
「なんとしてもティファニアを勝たせようぞ」
「わかってますよ…ふふ」
いつになく悪巧みを企むオスマンとサイトだった。彼らのその眼の奥に、ある意味侵略者以上のやましき野望だった。
最終的に不条理なこのジャッジのせいで、アンリエッタとアニエスは一ポイントも取れず、明らかに実力が格下のテファとシエスタのチームが勝利した。
「テファ・シエスタチームの勝ち!!」
「「やったああ!!」」
高らかに宣言するサイト。シエスタとテファはルールの矛盾に気づかず、喜び合っていた。そんな中、妙にいやらしい笑みをオスマンと浮かべるサイト。
だが、そんな悪の野望もいつかは滅ぼされるのである。
「ほほう…ずいぶん楽しそうだな平賀」
「そりゃそうだろ。なんたってテファのあの…え゛?」
話しかけてきた人物の方を向いたサイトとオスマンは、『彼』を見て焦りのあまり固まってしまった。
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