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□File9
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ある日の闇夜の中、とある人物の屋敷で一人の老貴族と、目の前でひざまずく四人の人物がいた。一人は少年のように小柄な、一人は奇妙な格好の、ある一人は筋肉質の男、最後の一人はルイズたちと変わらない少女。
「君たち頼みごとがある」
「なんでしょう?我々にできることなら何でも」
「陛下だけでなく、数多くの平民たちから英雄視された男を知っているか?」
「ヒラガサイト…ですか」
「奴を殺せ。最近行方不明と聞いてるが、陛下に悟られぬうちにな」
「仰せのままに。して、報酬の方は?」
「高くついてやろう。あのガキを殺せば陛下もご理解いただける。自分は平民という下せんな輩に毒されていると」
サイトが、人間としてトリステインで上げた功績は高く、いつしかだんだんと平民たちから英雄視されていた。アニエス以外で貴族になった数少ない平民だからである。しかし一方で彼を非難する者もいた。平民貴族関係なく彼の出世を妬む者たち。貴族の中には、『
陛下』が毒されているという言いがかりでサイトを暗殺しようとする輩がいたのだ。

―誰だ…?
―誰だ?俺を呼ぶのは?
暗い闇の空間、ダークフィールドともまた違う場所に『彼』はいた。辺りには誰もいない。ただ自分という存在がそこにあるだけ。だが、背後に何者かの気配を感じた。
―お前は…?
『彼』は振り返ってみると、体つきは人間に似てるが、その姿が人間と大きく異なる戦士が自分をじっと見ていた。上半身は青、下半身が赤で目は金色。胸は鎧に包まれ、額にエメラルドグリーンに輝く宝珠。
―お前は誰なんだ?
『彼』は尋ねるが、戦士は何も答えない。ただじっと自分を見てい
る。
―なぜ何も答えない?答えてくれ!
とその時だった。自分の周りをメラメラと燃え上がった炎が包み込もうと迫ってきていた。
―助けてくれ!
『彼』が戦士にそう言った瞬間、戦士の額の宝珠が、新緑のまばゆい輝きを放ち、『彼』を包み込んだ。
「はあ!は…」
『彼』はそこで起き上がった。額から汗が大量に出て、心臓がバクバクいっている。窓の外はまだ夜で、真っ暗だ。自分の横で、まだ
十歳ほどの少年が眠っていた。
(…俺は、誰なんだ?)

アンリエッタとウェールズの二人は先日自分たちの元に届いた一通の手紙の主の元へ来訪した。
手紙の主の名は聖エイジス32世=ヴィットーリオ・セレヴァレ。ロマリアの教皇にして、最高権力者である男。その美貌と慈悲深さで市民たちからの多大な支持を得ていた。しかし一方では改革を試みているため、保守派の者たちから『新教徒教皇』と呼ばれている。
ロマリアは国家都市郡で他国から『光の国』と呼ばれてもいるが、ウルトラマンたちの故郷である光の国とはかけ離れていたものだった。ヴィットーリオ以前の教皇たちの世俗まみれな政治が原因で貧富の差が激しかったのだ。この件については現教皇のヴィットーリオも頭を悩ませている。
ガリアの南にあるロマリアの『宗教庁』にて二人はヴィットーリオと、そのお目付け役のように彼の護衛をしているジュリオと対談した。
「私たちのような夫婦をお招きいただき、感謝いたします。聖下」
アンリエッタはヴィットーリオに頭を下げた。
「あなたとお会いするのは初めてでしたね。初めましてアンリエッタ殿。そして、お久しぶりです、ウェールズ殿。ご結婚なされたと聞きました。おめでとうございます。
そしてあなた方の門出を直接見ることのできなかった私をお許しください」
「いえ、仕方がありません。現在のハルケギニアの情勢からみれば」
祝福と謝罪を込めてヴィットーリオも二人に頭をさせ、ウェールズも気に留めないよう宥めの言葉をかけた。
「ええ、確かに今回あなた方を単純な世間話をしたくて招いたわけではございません。現在、ハルケギニア各地で現れる怪獣のことは、我々もよく知っています。いまだ怪獣被害のないこのロマリアに難民が頻繁にやってくるのですが、食糧不足が起こりそうで簡単に手が付けられる状態じゃない。にもかかわらず、多くの為政者たちは自分たちの保身をひたすら図っている。」
「私にはそんなはずないなんてことは言えません。現に我がアルビオンは、クロムウェルという始祖の虚無を語る愚か者が王家を潰しにかかった。その原因が我が国の為政者の怠惰と無知と、私の非力さです。父も救えなかったことは、今でも夢に出てくることがあり
ます」
「気を病みになされないでください、ウェールズ殿。私たちがやるべきことは、ここで我々人間が犯してきた罪を悔やむことではない。現に、このハルケギニアはもうじき危機が訪れるのですから」
「危機…怪獣は異星人による侵略でしょうか?」
「それだけではありません。このハルケギニアの大半が、自然消滅するのです」
自然消滅?じゃあ侵略者がいなくても、いずれこのハルケギニアは勝手に滅び去るというのか?アンリエッタとウェールズは驚愕した。
「我々が空に船を飛ばす際に使う風石が、地下から採掘されるのはご存知ですね?
大陸の地下に眠るその大量の風石が暴走し、アルビオン大陸のようにハルケギニアの大地の、予測ですが五割ほどが空に浮かび上がる『大陸隆起』が起こってしまうのです。もしそうなれば、我々の住む町は空に消え、たくさんも命が消えてしまう」
「それは、本当のことでしょうか?」
アンリエッタの問いに、ヴィットーリオは躊躇うことなく頷いた。
「ええ、始祖は虚無の魔法で未来を詠んだ際、その未来を見てしまったといいます」
「未来を詠む!?そんなことができるのか?」
驚くウェールズに、ヴィットーリオは再び頷く。
「『未来予知』の魔法…それで始祖は未来を知り、現代の私たちに、未来を刻んだある記録を残したとされています。その記録は、エルフの手中にある聖地にあると」
「聖地に、未来の記録が…」
未来を記した記録、そんなものが存在し、しかも自分たちが始祖とあがめている存在がそんなこともしていたとは、途方もない事実に夫婦は言葉を失いかけていた。
「その記録から違う未来を築くため、始祖は聖地にもう一つ、この状況を打開するもの『魔法装置』を残しました。しかしそれを手にするために何度も我々はエルフに聖戦を仕掛け、そして敗れていった。その敗因は、我々が怪獣や侵略者に対抗できないことと全く同じ…力と英知の圧倒的な差です。
しかし、我々は対抗できる術となる力を授かりました」
「虚無、ですわね」
自分の幼馴染であるあのルイズにも目覚めた、恐ろしくも時刻を救いもした力。もしかしたらウルトラマンでさえ越えられるのではとも大げさに考えさせられる力を、小さくつぶやくアンリエッタに、ヴィットーリオは笑顔を見せる。
「そう、この私も持つ力、零番目の系統『虚無』です。神は我らにこの力を、6000年前に聖地に降り立った始祖は、当時とてつもない戦いに巻き込まれ、自分の召喚した使い魔たちとその激動の時代を戦いました。
その強大な力を三人の子供『トリステイン』『アルビオン』『ガリア』そして弟子である『フォルサテ』の四人に、四つに分け後世に託した」
だが、彼女は虚無の力がいくら始祖が持っていたからと言って快いものだとは思わなかった。あれほど強大な力、誰だって欲しがるはずだ。もし宇宙で今頃自分たちを見ている侵略者だってあの力を侵略のために使いたくて仕方ないかもしれない。現にクロムウェルは
偽りとはいえ、力を悪用し自らの願望を果たそうと考えた。ガリアの王であるジョゼフも、ルイズからの話でシェフィールドの暗躍を通してこの力を狙っているのも確か。
自分たちより優れているエルフが畏怖するほどの力。
「そんな力を私たちが制御できるのですか?」
「力は、何も知らない無垢な子供です。それを善にも悪にも、育て方で決まります」
「ですが過ぎた力は人を狂わせます。虚無の力が、エルフが恐れるような力が悪の力と化して、私たちの手で止められるんですか?」
「もしそうなれば、我々はウルトラマンの抹殺対象となるでしょうね。悲しいことですが…」
物悲しげに顔を伏せながら言うヴィットーリオ。
「力の話で、少し話がそれましたね。長いようですがまだ話は終わっていません」
「「はい」」
「実は、私はエルフたちの目を盗んで部下を派遣し、は聖地へのルートの確保に成功しました」
聖地へのルートを確保した?これはつまり、聖地を自分の目の届く場所におくことができたようなものだ。いつの間にそんなことが…。
「始祖が残した記録こそは発見していませんが、その地に転がっていた…仮に『場違いな工芸品』と呼ぶ多くの武器、そして魔法装置を確保いたしました。ですが魔法装置を起動するには四人の虚無が必要です」
四人の虚無、その四つに値するのはルイズ、ティファニア、ヴィットーリオ、そしてジョゼフ。だが四人すべて揃っていない。テファはシュウヘイとともに行方不明で、ジョゼフに協力の意志など期待できない。現にこちら側の虚無が狙われてしまっている。
「ジョゼフに以前協力を求めましたが、拒否されました。ハルケギニアの危機に、彼は目もくれておりません。この手は使いたくなかったのですが、現在ジョゼフの支配でガリアは腐敗しつつある。彼を討つためにガリアに進軍しなければなりません」
「「…!」」
ジョゼフを倒すために進軍、つまり戦争でガリアと戦うことになるのだ。戦争の愚かさを身に染めて思い知らされた二人は反対したい気持ちでいっぱいだった。ヴィットーリオは二人の顔からそれを察知した。
「私もできれば戦争を避けたいですが、今は一刻を争う大切な時です。それを重要な立場でありながら無視するのなら切り捨てるしかありません。
もし我がロマリアに協力するなら、あなた方に協力する虚無と使い魔を、『始祖の秘宝』を持って連れてきてください」
「始祖の秘宝…?」
「始祖が後世の我々に残したものです。指輪と『始祖の…』と名のつくアイテムを上手く揃えることで新たな虚無の魔法が使えるとされています。
ですが私は『始祖の円鏡』を持っていますが、指輪がなければ何の効力もない。そして『土のルビー』『始祖のオルゴール』『始祖の香炉』は現在ジョゼフに回収されています。
ですから残された『水のルビー』『風のルビー』『火のルビー』、『始祖の祈祷書』。これの中からできる限りお願いします」
「はい、ですが一国の猶予がないと言われましても…」
「わかっています、アンリエッタ殿。未来のために戦争を起こすことになるので気に病むことも仕方ない。しばし時間を置いてご返事を」
彼らの対談はそこで終わった。夫婦が帰国したあと、ヴィットーリオとジュリオは二人になった。
「心苦しいですね。平和を愛するあのお二人さえ巻き込まなければ…いえ、これはジュリオ、あなたにも当てはまりますね」
「いえ、いいんです聖下。僕はあなたの手でここに召喚され、『ヴィンダールヴ』の力を受け入れた以上覚悟を決めたということです。僕の育った場所に残して以来会っていない幼馴染を、そして姉の命さえ未来のために捨てたのですから…」
ジュリオはヴィットーリオに言うと、自分の右手に刻まれ、緑色に光る『ヴィンダールヴ』のルーンと、手に持った『ネオバトルナイザー』を見つめる。蓋が開くと、『ゴモラ』『リトラ』そして『エレキング』が自分に元気よく鳴いている。
ヴィンダールヴ、それはいかなる幻獣を操る力があり、それは怪獣でさえ例外ではなかった。言い聞かせるように彼は続けた。
「こうなった以上僕は、この体に流れる血と、あなたに与えられた力で、あなたを導きます」
「つらいでしょうが、活躍に期待していますよジュリオ。いや…『レイ』」
二人の会話を、密かに謎の人影が見ていた。見たところ、ここで働いているなんてことのない神官のようだが、その眼の奥に底知れない何かを感じる。
(すべては、『アカシックレコード』の意志…)
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