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□File5
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「熱いな…」
砂漠のど真ん中で一人シュウヘイは呟いた。我ながら焦りすぎたかもしれない。目の前でルクシャナというエルフの女にテファを攫われ、仲間と自分の本心に従い、自分もそれを追いかけた。しかし、砂漠に辿り着いたところで砂嵐が発生、彼はルクシャナの乗ってい
た竜を不運にも見失ってしまったのだ。
「はあ…はあ…」
一旦地上に出て辺りを見渡すが、四方八方砂の丘しか見当たらない。ピュウ…と砂交じりの風が吹き荒れた。なんだか寂しい感じがしてならない。
しかし、その寂しい景色に一つ、刺激を与えるものが姿を現した。
それも砂丘の中から。
「!」
『宇宙有翼怪獣アリゲラ』。目を持たず、両肩の発光するパルス孔から発する超音波で辺りを確認でき、水中、空中を天馬の如き速さで駆け抜ける。
そのアリゲラの周りで、複数の艦隊が飛んでいた。
エルフの空中哨戒艦。ハルケギニアで製造されているモデルとは様式が異なっていた。馬車のように竜に牽引させている。風に任せなければならないハルケギニアの船の1.5倍の速度で走行できる。
数十頭の風竜に引っ張られる船体は水棲昆虫のように楕円形の形で、原則の装甲に間には大砲がいくつも覗いていた。
「砲戦用意!」
しかし、アリゲラの速度の方が上回っていた。ジェット機のように背中のパルス孔から気を噴射して速度を上げ、大砲をその身に受ける前に一機の艦を撃墜した。
「くそ!何なのだこいつは!」
『メスディエ号』の艦長は動揺するさまを隠しきれず叫んだ。アリゲラはこちらに気が付いたのか、餌を求める猛獣の目でこちらに光弾を撃ち込んできた。
「退避!」
退避を呼びかけたが、アリゲラの光弾は追尾式で、逃げようにも逃げられない。どんなに逃げても追いかけてくるのだ。砲撃も彼ら自慢の精霊の力を発動するまでの時間が間に合わない。
「ち!」
アリゲラの肩から発射された光弾が艦に当たりそうになったところでシュウヘイは、エボルトラスターを鞘から引き抜き、紅の光に包まれた。
「うわ!」
メスディエ号の船員たちは一斉に目を伏せた。が、何かが爆発した音はしたもののいつまでたってもあの恐ろしい光が来ない。
彼らが目を開いたとき、彼らにとって衝撃的な光景が目に映った。銀色の輝かしいマスクと力強さを現した赤の上半身、そして俊敏さを備えた青い模様の下半身。その右手から伸びた光の剣。
ウルトラマンネクサス・ジュネッストリニティだ。
「あの巨人は…!」
艦長はその勇ましい姿の彼をこう呼んだ。
「ノアの神…?」
背中のファンを利用し、空を駆けて一旦空中に逃げるアリゲラ。剣を消し、ネクサスはそれを捕まえ、地上にたたきつけた。
「フ!」
倒れこんだところで彼は拳をアリゲラに叩き込む。
「デュ!ダ!」
アリゲラも負けず、ネクサスを蹴りで跳ね除けて立ち上がった。アリゲラが立ち上がったところを、ネクサスはハイキックでアリゲラの顔を蹴りつけた。
アリゲラもカウンターでネクサスの腹にキックするが、逆に二発目のハイキックを喰らい、さらにもう一発殴られたところで背後に回り込まれ、拳を背中のパルス孔に叩き込まれた。
「すごい…」
艦隊からネクサスの戦いを見ていたエルフたちは、彼の雄姿に釘づけとなっていた。
今の一撃でアリゲラは超高速移動能力を失った。それに起こったのかアリゲラは光弾をネクサ
スに向かって発射、対するネクサスはバック転で避けた。
その隙に滑空して突進するアリゲラ。しかし、それは正面で身構えていたネクサスから見れば
自ら死地に向かうものに見えていた。
アリゲラをただその場で待つネクサス。アリゲラがついに眼前に迫っていた。そして…一閃!
〈シュトロームソード!〉
アリゲラがネクサスのいる場から抜けだしたときには、アリゲラは身を間二つに切り裂かれ、
砂漠の砂の上に堕ち、たちまちその中に埋もれていった。
「最近蛮人の世界にいたとうわさで聞いていたが…」
なぜ、このサハラに…?残された艦のエルフたちは呆然と立ち尽くしていたが、再び巨人の姿
を拝めようと顔を上げた時には、ネクサスの姿はなかった。
一方で変身を解いて地上にいたシュウヘイだが、砂漠の熱にそろそろ限界を感じていた。怪獣
との戦いで体に熱化こもっている直後の砂漠はきついようだ。
「さすがに、限界…か」
視界がぼやけてきた。ストーンフリューゲルを呼ぼうとブラストショットを天に向けようとし
たが、ついに彼は砂丘の上で倒れてしまった。

ハルケギニア大陸の東方面の砂漠。その向こうにエルフの国『ネフテス』が存在する。首都の
名称は『アディール』。海の上に浮かんで、会場にいくつもの円状の埋め立て地が並び、その間を船がいくつか通っている。ハルケギニアの国家に比べれば全くと言えるほど
進歩していた。エルフは人間の倍の長い人生を与えられ、その分個人が培う技術も多い。これだけ技術が優れていれば、ハルケギニアの人間を蛮人呼ばわりするのも無理はない。だが、同時に自分たちを自負しているとも見られるのでは?とも懸念できる。
地球ほどじゃなかったにしても、見事なものだった。
市街の中心部の塔「カスバ」から水路を通って十分の地点。
白い壁の建物の上に三角の旗。一番上の、海を現す青と砂漠を現す黄のものはエルフの水軍司令部の証。桟橋に水軍の軍艦が並んでいた。
いや、それはよく見ると軍艦ではなかった。ウルトラマンの倍近い巨大なクジラに似た『鯨竜』という、竜とクジラを足して二で割った生命体。
その上に、艦橋が乗せられている。
桟橋には、エルフの軍服を着込んだ少女が指揮をとっていた。驚くことに、その顔はテファにそっくりだった。しかし、彼女が優しさに満ちた瞳であるのとは対照的に、その少女の目は強い影を宿していた。まるでかつてのシュウヘイやアニエス、凪のような憎しみに
囚われた人たちのように…。まさに氷だった。
『鉄血団結党』。エルフは虚無の力を『悪魔の力』と呼ぶのは、以前ビターシャルの口から語られたことは覚えているだろうか?その党は、虚無の担い手、そしてエルフの裏切り者を問答無用で排除しようともくろむ強弁的組織だった。
「何をしている!」一人の水兵が、鯨竜の餌となる小魚の箱を落としたことに気が付い
た彼女は目を吊り上げる。
「も、申し訳ありません!ファーティマ・ハッダート少校殿」
「砂漠の民としての誇りを忘れ、たるんでいるからこんなチンケなミスを犯すのだ!いいか、敵は怪獣だけではない!あの蛮人共との戦で後れを取ればどうなるかわかっているのか!」
「ハッダート少校!」
一人の伝令が、息せき切って走りながらファーティマの元にやってきた。
「なんだ?」
「エスマイール様がお呼びです!」
その時の彼女の目は輝いていた。伝令を伴い彼女はその場を去る。水兵たちはそんな彼女の後ろ姿を見てため息を着いた。
「昔の水軍は、もっと風通しが良かったな。息苦しい…」
「ただでさえ怪獣相手にきついのに、これじゃこの先真っ暗だな」
エルフたちもまた、怪獣被害に悩まされていた。そして、この6000年間彼らが悪魔と蔑む者に奪われぬよう守ってきたが何者かによって奪われた地『悪魔の門』の件にも。

軍の司令部室に彼女を待っていたのは、エルフの評議会議員エスマイールという男だった。彼もまた強弁派の一人で『鉄血団結党』のトップ。ビダーシャルより幾分若く、短い前髪に吊り上った男。
「お待たせしました、エスマイール同志議員殿」
ファーティマは党の敬礼として、腕を胸に当てた。
「君に仕事を持って来た。同志少校殿」
「何なりと」
「先ほど帰還したメスディエ号からの情報によれば、砂漠にて『悪魔の門』から現れたとされる怪獣と交戦中、興味深い存在を確認したそうだ」
「興味深い存在?」
「君も耳にしたことはないか?6000年前の大災厄より我らを守ってくだされた『ノアの神』を」
「ノアの神!?」
彼らエルフはハルケギニアの人々とは違ってものの考え方も違えば信じている神も違う。はっきりとはしていないが、彼らは『大いなる意志』と呼ばれる神を信仰している。
「本当に実在していたのですか?大いなる意志が呼び寄せたとされるあの伝説の…」
「実を言うと、蛮人共の世界でもその存在が幾度か確認された事例がある。同族らしき個体も複数現れるおまけつきだ」
「そんな…!?」
「当然我々から見れば信じがたい事実だ。なぜ我らを守ったとされる存在が、蛮人の世界に現れたのか。
それについて密かに調査に行かせた者たちから意外な情報も手に入れた」
「意外な、情報とは?」
「悪魔の力を受け継いだエルフが蛮人共の世界に紛れていた」
それを聞いた時のファーティマの表情は、強い影を放っていた。悔しさ、憎しみ…それを味わうほどの辛い過去が彼女にもあるのか…。
「一族を裏切った…我が叔母の…?」
「『シャジャル』か…そのせいで君の忠誠に疑いを持つ者がいるからな」
「私は叔母とは違います!」
「わかっている。君の忠誠には抜きんでたものがある。だから君の一族の汚名を晴らす機会を与えようと思うのだ」
「では…!」
「穏健派の者たちはそのものを連れ去り、どこかに軟禁している。それを見つけ次第、抹殺するのだ。穏健派の者に悟られぬように。悪魔とそれに加担するものには死を与えねば。例え何度復活してもな」
「ありがとうございます!このような任務を与えてくださったこと、光栄至極です!必ずこの手で…」
仇を討ってやる…。そう心に誓うファーティマ。だが、エスマイールが話を終える前にファーティマがあることを尋ねた。
「ところで同志議員殿、例のヨルムンガンドのことは…」
「ああ、まだ一つ不完全な状態にある。だが、もしノアの神のお力さえあれば…」
たとえ悪魔が四人すべてそろっても歯が立つまい。その時のエスマイールの顔は一種の欲に駆られていた。

「ん…?」
知らない天井だ。彼は目を開いたときはっきりそう思った。普通にベッドに横たえていたのは確かだが、おかしい。確か自分は砂漠の真ん中で倒れていたはずだ。いつの間に運びだされたのだろうか。
実は近所の農家、なんてものじゃなさそうだ。なんというか、奇妙だ。白い壁には様々なものが飾られていた。絵画や人形、宝石の散りばめられた鏡。中には箒がさかさまに飾られ、その上になぜかバケツ、そしてその上に羽根つき帽子。ドレスはカーテン替わりに飾
られ、天井に傘が何本も吊り下げられている。
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