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□File4
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「…」
アーハンブラ城から脱出して二日ほど経った。馬車を使い、サイトたちはガリアからトリステインに進路をとっていた。
その夜、みんなが寝静まった頃になってもタバサは起きていた。枯れた木の丸太に腰かけ、本を読んでいる。それに気が付き、サイトは彼女に近づいた。
「まだ起きてたんだ」
「うん、ちょっとだけ…」
「タバサって、本が好きなんだよな。前の時、大変だったみたいだけど」
前の時、それは大鉄塊のことだ。あの時、自分の執事を失うという最悪の状況から逃れることができてよかったと思う。それは光の戦士である彼のおかげだろう。
「俺も読めたらよかったんだけどな」
サイトはまだハルケギニアの文字を解読できない。だから今まで暇つぶしに本を読もうかと考えたこともあったが、結局一冊も読めないままで、召喚されてからの密かな悩みになりつつあった。若干文字の形がアルファベットに似ているが、地球の学校では英語の成績
は赤点ギリギリなほど苦手だったので、地球でのわずかな英語知識もあんまり役に立ちそうにない。
タバサの背後から覗き込んで本の文字をじっと見たが、やはり読めないままだ。その時のタバサの顔が、ほんのり赤くなっていたことにまでは気づいていなかった。
「教えてあげる」
「いいのか?」
「あなたは命の恩人だから」
「ありがとう!えっと…じゃあこれは?」
「イーヴァルディ、物語の主人公で勇者。ルーはヒロインで勇者に助けられる少女」
「へえ…」
「…心配じゃないの?」
「え?」
突然別の話に切り替わられ、サイトはキョトンとする。心配って?あ…そういうことか。
「シュウヘイたちのことか?」
サイトがそう訊くと、タバサはコクッと頷く。彼らも自分を助けに来た仲間だということもキュルケたちから聞いていた。だが、思わぬアクシデントで別行になってしまい、タバサは自分のせいでこうなってしまったのではと、彼らに対して責任を感じていた。
「心配じゃないっていえば嘘になる。さっきビデオシーバーで通信してみたけど、つながらなかった。でもあいつを行かせたのは俺たち自身が望んだことだし、俺はあいつを信じてる。必ずテファを連れて帰ってくるって」
「そう…」
「サイト…」
名前を呼ばれ、サイトは顔を上げた。もう寝たはずのルイズが、目の前に立っていた。彼女だけではない。
「平賀君、まだ起きてたの?」
「君たち、こんな夜に何騒いでるんだい?」
寝ぼけ眼でハルナとギーシュが、そしてマリコルヌが会話に入ってきた。
「もしかして、敵襲なの?」
「ううん、大丈夫。追っ手はない」
「よかったあ…」
タバサの一言でマリコルヌは安心し、再び毛布に身を包んで眠りについた。
「みんな、今日はもう遅いし、そろそろ寝た方がいいんじゃないか?」
「うん…」
サイトの一言で、ひとまず一同は眠りについた。

翌日の早朝、ジョゼフとシェフィールドは宮殿の一室にて、二人で話をしていた。
「余のミューズ、今回の任務はわかっているな?いや、至って単純だから尋ねるまでもなかったな」
「任務内容は虚無の担い手の誘拐と、ウルトラマンの抹殺。それでよろしいのですね」
「失敗しても案ずることはない。失敗すればまた次に任せればよい」
「こんな私目に頼っていただき、ありがたき幸せにございます」
シェフィールドはジョゼフに頭を下げると、バトルナイザーから光のカードを飛ばすと、その光のカードが変化した一体の巨人の肩に乗って、トリステインの方角に進撃した。
(シャルロット、あの巨人でお前を手にかければ、俺はシャルルを手にかけた時のように心を痛めることができるだろうか?いや、もうそんな必要など、今の俺には必要ないのかもな)
――――ジョゼフよ。楽になりたければ心を捨て去ればいい。この私がお前の傷を癒してやろうではないか。そのツケはただではないがな…
(その声…我と一つになった…。お前は俺のこの乱れきった心を潤してくれるのか?)
――――お前が私を望み続ければな。

サイトたちを探しているのは、ジョゼフたちだけではなかった。現在ガリアの方角に向かってオストラント号が飛行している。甲板にはサイトの安否を気遣うシエスタの姿があった。
(サイトさん、どうか御無事で)
操縦室にて、コルベールが操縦を務めていた。ギムリは助手として同室、レイナールは監視室より外の様子を探っていた。
「レイナール君、怪しいものは見てたかね?」
『いえ、今のところ以上は見当たりません』
「そうか、そのまま監視を続けてくれ」
『了解!』
(アニエス君…)
ルイズたちの逃亡に手を貸していたコルベールら四人が、なぜここにいるのか。それは少し時をさかのぼる…
先日の夕刻のことだ。コルベールたちはアンリエッタとウェールズにサイトたちの捜索を命じられ、釈放された。任務に向かうために廊下を歩いているとき、自分を憎む女性アニエスと鉢合わせする。さっきまで彼女はオストラント号を監視していた。
「済まない。私が自分で行ったことだ。生徒たちを責めないでほしい」
「…私は彼らに救われたのだ」
アニエスが急に意味深な言葉を向けてきたので、コルベールは驚いたように彼女を見た。
「今でも私は、あの20年前に事件でお前に村を焼かれ、それを間違いだと気付いて私を助けた者もお前だとしても殺してやりたいと思っている。だが、サイトに言われた言葉とお前の生徒たちを見て気付いたのだ。
もしお前を殺せば、お前の生徒は、今度は私を恨むだろうと。そして私が彼らに殺されれば私を慕う者たちが今度は復讐を誓うやもしれぬ。そうやって憎しみの連さは続いていくのだと」
「その、サイト君から言われた言葉…私も支えにしている」
―――過去は変えられないが、未来なら変えることができるかもしれない。
自責の念と復讐心。二人の心に宿る、人を闇に引きずり込むその感
情は、その言葉で少しずつ和らいでいっていた。

そして時を戻し、現在。
「サイト君、君に言われた言葉通り、私も未来で生きていこう。だから何があっても、必ず生きていてくれ」

その頃、サイトたちはようやく国境に近づいていた。彼は昨日に引き続き、タバサにハルケギニアの文字を習っている。馬車に関しては、ギーシュとマリコルヌが手綱を引っ張っていた。
ハルナもなんかいい雰囲気になってたのが気にくわなく思ってたし、同じように字が読めなかったので一緒に学習している。
「「竜を倒したイーヴァルディは、洞窟の奥へ進みました…」」
「二人とも、だいぶ読めるようになってる」
タバサのコメントに、少し照れくさそうにサイトはほほを指先で掻いた。
「いや、タバサのおかげさ。ありがとな」
「私からも、ありがとうございます」
「あなたたちは命の恩人だから、これくらい当然」
「なあルイズ、俺たち結構読めるようなったって思わないか?」
いつものように気さくに話しかけるサイトだったが、ルイズが少々不機嫌気味だ。なにか俺、悪いこと言った?と思ったサイトはちょっと冷や汗をかいてもう一度話しかける。
「あの、ルイズさん?」
「ええ…だいぶ読めるようになってるじゃない…?」
心なしか殺意を感じるんですが、とは口に出さなかった。ハルナだけではなかった。サイトがタバサとちょっといい雰囲気なのが気にくわなかったのは。ルイズだから当然だろうが…。
「みんな、見てくれ!」
手綱を引いていたギーシュが、みんなに向かって馬車の前を指差して呼びかけた。それに反応してサイトたちはギーシュの指差す方を見ると、さっきまで荒野だった場所から橋を隔てて、緑の生い茂る山が見えてきた。
「国境だ!」
「橋を超えればトリステインだよ!」
「突っ走るなのね!」
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