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□File2
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サイトたちは魅惑の妖精亭に身を隠していた。
案の定、ホークとオストラント号は銃士隊や魔法衛士隊の手によって回収されてしまっている。
街には巡査兵がサイトたちを捉えようと街を廻っている。
「まさかあんたたちが王宮に捕まってたとはね」
サイトとルイズを見てスカロンは言う。ジェシカも、彼らを見て呆れを通り越して褒めたくなるほどだ。
「貴族の位まで捨ててまで、全くバカっていうかあんたたちらしいというか」
「でも女王陛下にそこまで背いて捕まれば重罪よ。それでも行くの?」
スカロン言うとおりだ。女王命令に従わなかっただけでなく、脱獄とその手引きまでしたのだ。ただではずまされないのは丸わかりだ。例え相手が、あのアンリエッタとウェールズでも。
「もうここまで来たからには後戻りなんてできないわ」
「ルイズの言うとおりだ。必ず助けないと!」
「唯一無二の親友だもの」
ルイズに続き、サイト、キュルケ…彼らの目はこう語っていた。タバサを連れて帰ると。もう説得は無理だろうと悟ったジェシカとスカロンの親子はため息をついた。
「バカにつける薬はないか」
「しょうがないわね。ジェシカ、ちょっと手伝って」
二人が店の奥に行って、コルベールがテーブルの上にハルケギニア全体の地図を広げた。
「ではまず、作戦を練ろう。ガリアへは陸路で向かう」
「陸路ですか!?疲れちゃいますよ!?」
見るからに運動ができてないマリコルヌにとって、陸路で遠く離れたガリアに向かうなんて、地獄のようなものだ。彼にとっての血を吐きながら走るマラソンかもしれない。
「つべこべ言ってる場合か?」
「う…」
シュウヘイの言うとおりここでウダウダしていてタバサがもう手遅れになったらたまったものではないので、結局マリコルヌはそこで黙った。
「まず、二班に別れる。一方はオストラント号を操縦し、ゲルマニア近くの方からガリアへ向かうと見せかけて旋回する。つまり囮だ。その間にもう片方の班は陸路からガリアへ直接向かう。まずオストラント号は私が何とかする」
「ちょっとジャン!それ本気!?」
キュルケが反発する。今頃オストラント号にはかなりの数の見張りが付いているはずだ。無理やり奪おうにも、国の一軍を相手にするに等しい。
「そうです!危なすぎます!」
サイトも反論する。しかし、迷いなき目つきでコルベールは続けた。
「今最も危険なのはミス・タバサだ。彼女は私の生徒、それに仮死の魔法で私を救ったのだから少しでも体を張らないといけないのだ」
「先生、ならば僕も手伝います!」
「俺にも手伝わせてください!オストラント号の操縦で、必ず力になりますから!」
レイナールとギムリも彼に同行を申し出た。
「君たち…ありがとう」
「さすが私のジャン!かっこいいわ!」
惚れた相手にはとことんくっつきたがるキュルケは、飛びつくようにコルベールに抱きつく。女性に免疫のないコルベールからすればこれは職務上まずいことだが、キュルケからすれば全然たいしたものには見受けられない。
「ちょっ、止めたまえミス・ツェルプストー!」
「私はもちろん、サイトさんに着いていきます!」
シエスタもサイトに抱き着こうとしたが、その前にハルナとルイズがサイトの前で、立ちふさがる形で仁王立ちする。二人の黒いオーラに圧倒されかけるシエスタだが、女の意地で耐える。ちなみに最も圧倒されていたのは、サイトの方だったことには気づいてないの
だった。
「シエスタさん、どさくさに紛れて抱き着こうだなんで不謹慎です」
「その通りよハルナ。メイド、あんたに勝手な真似はさせないわ」
「いくら彼女だからって、サイトさんのご主人様だからって関係ありません。サイトさんはいずれ私の旦那様にするつもりですから、どこにだって着いていきます」
決意の意を表すシエスタ。しかし、シュウヘイがそこで口を挟んだ。
「ダメだ、お前はコルベールの班に行け」
「そ、そんな!どうしてです!?」
「お前はこの面子の中で最も戦闘経験が浅いうえに、戦場における取り柄がないからだ。足手まといについてこられると任務遂行が困難になる」
「でも、ハルナさんやティファニアさんだってそれは同じじゃないですか!」
「高凪はモンモランシと同様、現地での医務もできる。テファは攻撃用の魔法をヴァリエールから学んだし、とっておきの手段として『忘却』の魔法を持っている。俺と平賀は魔法が使えないが戦闘経験はある。だが、お前はどうなんだ?いきなり野盗に襲われたとき、
魔法も使えないだけでなく、剣もまともに振れない、そしてまともに戦ったことのない奴が平賀の力になれるのか?なるどころか、最悪の状況に陥って平賀を余計に苦しめてしまうんだぞ」
「…」
事実を突き付けられ、押し黙ってしまうシエスタ。そんな彼女を見かねてサイトがシュウヘイに言う。
「なあ、シュウヘイ。何もそこまでいわなくても」
「俺は事実を述べたまでだ。厳しいようだが、単純な私情だけで任務に着いてきたら荷物になる。もし手遅れになったとき、お前が一番後悔するぞ」
「…わかった」
一見彼は大人げないほど厳しいが、言ってることは全部事実だ。かわいそうだなんてことでは連れていけない。
「まあ、それでもついていくのなら、自己責任だ。もう少し考えながら決めるといい」
「…はい」
シュウヘイの言葉に、思い悩みながらシエスタは頷いた。と、ここでスカロンたちが倉庫から籠いっぱいに詰め込まれた何かを抱えて持ってきた。
「それは?」
「前に貧乏くさい旅芸人が食料と引き換えに置いていったのよん」
「これなら一目見ただけならバレないわ」
「つまり、変装ってことかい?」
「あ・た・り♪」
ギーシュの質問にジェシカはウインクした。
「さあ、男子は下、女子は二階で着替えなさい!」
それから十分後、サイトは平民たちが着る袖なしの薄着に、ギーシュは口ひげの生えた太鼓叩き、マリコルヌはピエロの格好に着替えた。
「「だははははは!!」」
あまりにもマリコルヌの格好がしっくりきていたため、二人は腹を抱えて大笑い。
「何で笑うんだよおお!?」
「だって…似合いすぎて…ぷぷ」
「その服といい、その鼻といい…」
「「だははははは!!」」
「二人とも酷いじゃないかああああ!!!」
二人の馬鹿笑いがあまりにも半端ないものだからマリコルヌはちょっと卑屈になった。
それから女性陣も降りてきた。ハルナとキュルケとモンモランシーは露出の高い踊り子服、テファとイルククゥもスカートのスリットが目立つ色気あふれる服装だった。
「恥ずかしいよ…平賀君…」
「…あんまり見ないで…ください」
「この格好着やすいのね♪」
「もう、こんなはしたない服でいかないといけないの!?おへそ丸見えじゃない!」
恥ずかしすぎて悲鳴に近い声を上げるモンモランシー。でもキュルケは慣れている様子だ。
「あら、別にいいじゃない?注目されてないのもいるけど」
「何よ?」
ルイズは特にこれといった飾りつけのない、ジェシカの服の色違い給士服だった。
「なあ…ツェルプストー。この格好しか本当になかったのか?」
シュウヘイがどういうわけか、恥ずかしそうに扉の向こう側から話しかけている。一体どうしたのだろうか?とサイトやテファは彼のいる方を見る。
「いいじゃないの、なかなか『かわいく』着こなせてるじゃない」
『かわいく』?一同がその意味を理解できぬままキュルケは彼の隠れている扉を開いた。開かれた瞬間、誰もが驚いていた。
扉の向こう側に、ここにいる女性メンバーにも引けを取らないかなりの美貌の女性がいたのだ。
「おおおお!!」
ここで真っ先にギーシュが飛び出し、モンモランシーの嫉妬で鋭くなった眼光さえ認識せず女性の手を取ってその甲にキスをしようとしたが、その手をあっさりと払われた。
「ったく、男にまでそんな真似をするのか?」
「…え」
今の声、シュウヘイのようだ。しかし、ギーシュは辺りを見渡しても彼の姿を確認できない。いや、今の声は目の前から聞こえた。つまり…
「まだ、気が付かないのか?」
目の前の美女が言った。それもシュウヘイの声で。
「「「「なにいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」」」」
直後、魅惑の妖精亭の建物全体に驚愕の声が轟いた。彼の格好はテファたちのようにスリットがあるが、彼の鍛えられた体をうまく隠した露出の少ない平民女性用のドレスに女性用タイツ、桃色の口紅、頭に着けられたかわいらしいカチューシャ。まつ毛にも手が加えられている。
「しかし、余ったからと言って俺にこんな服を着せるか…」
「え〜、結構似合ってるのに」
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