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□File16
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ずっと守られていた。彼は自分の傷をものともせず、ひたすら私を助けてくれた。
どうしてそうまでして傷つくことを恐れないの?どうして痛みをそんなに堪えきれるの?
私が、あなたの初恋の人に似てるから?その人を助けられなかった
ことを今でも後悔してるから?
もう私のために傷つかないで。
気持ちは嬉しいけど、それだけ私だって辛いから。
そう言ってもあなたがそんなこと、聞くはずないか…
せめて私も、あなたの力になれるだけの力があったら…
BYテファ

「はあ…」
朝から元気のないため息をつくテファ。自分の罪を自覚してから落ち込み気味だ。
その罪とは、自分の身勝手で彼を故郷から引き剥がし、この世界に縛り付けていること。
自分がもし、他の誰かに召喚されて使い魔になれ、などと言われたら嫌だ。自分が育ててきた子供たちと離れると考えると、自分がいなくなったら彼らはどうなるというのだ。
考えていくうちに自己嫌悪に陥っていくテファ。一体どうしたらこの過ちを正すことができるのだろう。彼もこんな風に悩んでいたのだろうか。自分が憎しみに身を任せたことで人殺しを辞さない悪になったこと、挙げ句の果てに恋人さえ手にかけた自分がこの先どうやって生きていくのかを。
そんな彼を自分は余計に苦しめている。使い魔の印であるルーンを刻み付けられたせいで、彼は一度自我を失い、悪魔そのものと化したことがあった。
せっかくかつての恋人のことを吹っ切れそうになったのに…あんなものを刻まなければ、彼は新たな悩みを抱えることもなかった。
「…」
どうにかして彼を解放できないのか?それか、彼にしてやれることがなんなのか…
「どうしたテファ。具合でも悪いのか?」
「え?」
実はさっきまで授業だったテファ。いつの間にか授業が終わり、シュウヘイが迎えに来てくれていた。
「あ、ううん。なんでもないの…」
まるで避けるかのように彼女は教科書の束を抱え、教室を後にした。最近彼女が自分を避けている気がする、何かあったのだろうか。それとも…
(俺とはもういたくないってか…)
自分の両手を見るシュウヘイ。いくら善人ぶって戦って、彼女を守ろうと思っても過去が消え去ることなどありえない。血でどっぷり塗れたことのある手を、彼は憎らしげに睨みつけていた。

「はあ…」
何をしているんだろう…こんなことしても全然彼のためにならないのに…彼は自分をとことん追い詰める人だから、やはり自分といたくないなどと誤解されかねない。
私が彼にできること。それがきっと彼への償いになる、いや、本当にそうなのだろうか?彼もたとえ、ウルトラマンとして戦っても本当は許されるわけではないとわかっていた。
じゃあ、どうして彼は戦うのだろうか?
やはり授業中に考えていた通りなのだろうか。
「何してんのよこんな場所で」
誰かに呼ばれ、テファは顔を上げた。自分を読んでいたのは、ルイズだった。二人は廊下を歩き、噴水の腰掛に座った。
「ねえ」
彼女に聞いてみよう。同じ人間の使い魔を召喚した彼女に聞けば、何か見いだせるかもしれない。
「なによ?」
「ルイズは、サイトを召喚したこと、どう思った?」
「急にどうしたのよ。そんなこと尋ねて」
「教えて、どう思ったの?」
「そうね…」
ルイズはしばらく沈黙し、再び口を開いてテファに言った。
「最初は嫌だったわよ。こんなへっぴり腰の平民なんか召喚するなんて情けないって。でもその時の私、『ゼロのルイズ』って馬鹿にされたこととか、ヴァリエール家の三女だからとか、そのせいかもしれないけど、何もわかってなかった。ただみんなに認められたい
ってそれだけを考えて、他の誰かの気持ちとか、自分の国のためなら相手を倒すことの罪の重さとかまるで考えようともしなかった。
でもサイトと関わるうちに変わったわ。
あいつはあの時からすごく優しかった。甘ちゃん呼ばわりされてもおかしくないほどにね。もちろんそれも気に入らなかったけどあの性格が、私のように国や自分の名誉のために戦うんじゃなくて、誰かのために体を張ることの方がよほど価値のあることに気付かされた。だから、あれだけのお人よしをこんな残酷な戦争が起こる世界に引き込んだことを後悔したことがあった」
ルイズもまた、テファのようにサイトを召喚したことを悔いたことがあった。
「でも、本音でいえば帰って欲しくない。ずっといてほしいって思ってる。
あ…べべ、別にあいつがすす、好きだからってわけじゃないわ!ただ、使い魔と主人は一緒にいるべきって考えてるから…でもあいつには心に決めた人がいる。私じゃ、踏み込めない領域に行きつつあるところにいるから、引き留める権利なんてない…」
それを聞いて押し黙ってしまうテファ。その通りだ。帰って欲しくないのは自分も同じだが。それを引き留める権利など自分にはないのだ。
「あんたも同じこと考えてるのね。でも私とはいい意味で状況が違うからうらやましいわ」
「え?」
「あんたの場合、使い魔と両想いだからよ」
それを言われてテファはボッ!と顔を真っ赤にした。両想い!?
「そそ、そんな…私たちは別に…」
「図星ね…」
自分もこんなだったか?そう考えると自分が結構単純な人間だと思い知らされ、ため息をつくルイズだった。
「あんたの場合、私とは違って選ぶ権利がある。未来をあいつとどう過ごしていくのか、それとも全く別の道か」
「選ぶ権利…そんなの私にはないです…」
そうだ、故郷から彼を無理やり引きはがした自分にそんな権利があるといえようか。しかし、次にルイズが言った一言で彼女は言葉を詰まらせた。
「もし、シュウヘイがあんたを手放したくないなんて言っても、そんなこと言えるかしら?」
「え…?」
そこまでは考えたことなかった。彼が自分を望んだら?
それは確かに嬉しいのだが…
「あんたは、あいつのことどう思ってるの?好きじゃないの?」
「嫌いじゃないんだけど、まだよくわからない。男の人と話したことなかったから意識したことなかった。でも、彼と話すと、今まで感じたことのない感情が入ってくる。他の女の子と話してるとなんだかそわそわして落ち着かないし…」
と言ったその時だった。彼女たちの鼻が、異様な匂いを感じた。まるで菓子、いや菓子ともまるで違う甘い匂いだ。
ちょうどそこを一人の生徒が通りかかった。しかし、妙だ。なぜか女子生徒を抱えてるし、抱えている生徒はマントを頭に被っている上、抱えられている女子生徒は寝ているように見えるし、どことなく怪しさを感じる。
「なんか怪しいわね。追うわよ」
「え、ちょ!?」
ほぼ強引ながらテファはルイズの、不審者追跡に付き合わされた。男子生徒と思われるその怪しい不審者はマントを頭に被ったまま学院の外壁の外側に辿り着き、そこで運んでいた女子生徒を降ろした。そして自分の顔を女子生徒に近づけていく。はたから見ればただの変態にしか見えない。が…
「グルル…」
その生徒から獣の唸り声に酷似した声が発せられていた。
そこにルイズがテファを背にした状態で現れた。
「待ちなさい!その娘をどうする気?」
「グル…?」
「「グル?」」
その怪しげな男の違和感のある返事に二人は一瞬戸惑ってしまう。と、そこで思わぬ真打が現れた。
「テファ、ヴァリエール?なぜここにいる?」
「え、シュウヘイ!?」
ブラストショットを手に現れたシュウヘイだった。すると、いきなり怪しげな生徒はシュウヘイに襲い掛かってきた。が、自分の方に伸びてきた腕を捕まえ、外壁に押し付けると、左腕に着けていた通信機『パルスブレイカー』を押し付けた瞬間、怪しげな生徒の体が
凄まじい勢いで発生した電撃を浴びせられ、地面に崩れ落ちた。パルスブレイカーには通信機能だけでなく、武器として扱うこともできる。今のはスタンガンの効果だ。
「まさか…殺したの?」
「…いや、まだだ」
彼の言うとおりだった。まだその男は死んでもいなければ気絶さえしてなかった。
立ち上がった瞬間、怪しげな男は逃げ出したが、シュウヘイが撃ち込んだブラストショットでバアアン!!と砕け散った。
「ちょ、あんたやり過ぎでしょ!人を…」
「お前の目は節穴か?あれはビーストだ」
「え?」
吹き飛んだその生徒、もといビーストの残した服の切れ端に、べとべとした体液が付着していた。
「人間に擬態するビースト、か…」

「生徒の中にビーストがまぎれていた?」
基地で先ほどの騒ぎを聞いたサイトは驚いていた。ビーストは夜な夜な人を捕食するのを基本的な繁殖方法としているが、人間のフリができるほどまで能力と知能が発達しているとまでは予想していなかった。
ちなみにさっき襲われた女子生徒はモンモランシーが看病していて、命に別状はなかった。
「恐ろしい化け物ね。人間に成りすまして、隙あらば食べる気だったなんて」
ルイズは顔をしかめて言う。同調するようにシュウヘイも言った。
「それが奴らの恐ろしいところだ。常にエグイやり方で獲物を捕らえる」
「結晶系がα型構造…」
ハルナはビーカーに詰めていたビーストの体液をコンピューターで調べていた。結果、あることが判明する。
「さっきの話と合わせると昆虫人間ってところかしら?」
「微弱だが、さっき俺のパルスブレイカーもビースト振動波を出していた。だから奴の正体を見破れた」(エボルトラスターにも反応があったしな)
それで…と、ルイズとテファは納得した。確かに、あの人間に化けたビーストは奇妙な唸り声を出していた。物まねにしてか行き過ぎてたし、第一この学院の生徒は全員貴族だ。化け物の物まねなんて野蛮なことをするわけがない。
「ブルードか」
「『ブルード』?なんだいそれは?」
シュウヘイの口から発せられた単語に、ギーシュが尋ねてくる。
「ん…?」
とその時、ピピ…パルスブレイカーからまた反応がある。胸の内ポケットにも隠しているエボルトラスターもこの時反応していた。しかもその位置は…
「二階か!」
シュウヘイはとっさに二階に上がって行った。ギーシュも、そしてサイトも(何かが来たんだ!)と確信し、後に続く形で二階に向かう。
「おおおい!!ブルードってなんなんだい!まだ聞いてないぞ!!」

二階では、学生服姿の昆虫人間が医務室の扉を開こうとしていた。『インセクトタイプビースト バグバズン・ブルード』。それが奴の正体だった。
「患者ならまだ寝ているんだが、何か用か?」
そこにシュウヘイ、後に続いてギーシュ、サイトが武器を手に立ちふさがる。
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