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□File15
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五年前、リュティスの宮殿…
幼さを残した青い髪を持つ少女は寝静まった夜、寝つけなかったのか起きていた。トイレに行こうと部屋を出て廊下を歩いてると、自分の父ともう一人の男が居間で何か話しているのを耳にする。
『「空飛ぶ大鉄塊」か…結局子供だましの小説に終わってしまったか』
『何を言ってる。君の小説は我々の想像をはるかに超えた逸材じゃないか。それほどのものだから狙われもする。奴らにね』
『何としてもこの本に隠された真実を隠さなくては…しかし、本当に協力してくれるのか?』
『僕は家臣の悩みでさえ聞いてあげないといけない性分でね』
「…」
少女はこの時、一体自分の父ともう一人の男が言ってる言葉の意味を理解できずにいた。

「ん…」
ある朝、今日もタバサは常に心がけてるとおり早起きした。大事なものを失った分、今日は何事もない日々でありますように…
幼いころから彼女は本を読むことが大好きだった。時にお気に入りは『イーヴァルディの勇者』。平民出身の戦士イーヴァルディが自分と恋に落ちた少女を攫った悪いドラゴンを倒し、最終的に彼女を結ばれるというファンタジー小説。平民たちの読む小説の中ではベ
ストセラーに上るが、貴族たちからは貴族と平民の恋愛が快いものではないためか、一部の者にしか評価を受けなかった。
だが、タバサは自分を陥れた過去からこの小説のヒロインに憧れていた。自分の前にいつかイーヴァルディが現れることを、ずっと夢見ていた。
イーヴァルディ、その単語で彼女は自分の知る男子の顔を浮かんでみた。ギーシュはまずあり得ない。マリコルヌも趣味が変人級という噂だ。レイナールはいざというとき頼りなさそうだ。
最終的に残ったのは、シュウヘイとサイト。なぜシュウヘイが浮かんだのか、やはり彼の正体が原因だろう。
「ウルトラマンネクサス…」
今でも色あせることなく覚えている。彼と初めて会った時に見せた、白く輝く優しい瞳。二度目に会ったときはショックだった。まさか盗賊の手助けをしていたとは。彼がウルトラマンだと知った時、なぜ自分を助けた巨人がこんな真似をしたのかと思ったが、それは彼らが育てている子供たちを養うための生活費稼ぎにすぎなかった。
不幸な子供たちを守り、育む彼。自分が言うのもなんだが普段の冷たい印象と大きく違う彼の姿はまるでイーヴァルディのようだ。だが、なぜサイトまで残ったのだろう?シュウヘイにはもう守るべき人がいるからだろうか?確かに彼は他の人間にはない特別なもの
を持っているのは確かだ。でもさっき浮かんだとおり名はならない。
ギーシュと違って誠実さを保っている彼はそのことで妙にモテるし、恋人がいる。でも一つ気がかりなことがあるとすれば…
(戦い方がウルトラマンゼロそっくりだった。なぜ…)
いや、考えても仕方ない。
とその時、彼女の窓に一羽のフクロウが飛来し、足に掴んでいた手紙を彼女の足もとに置いた。
彼女は封を開き、中身を確認する。たった一枚の手紙にはこう書かれていた。

ガリア国境の岳付近にて謎の鉄の塊を発見した。各地に向かって移動中、その目的は不明。各国に悪影響を与えるやもしれないので排除せよ。もし命令違反、失敗をすれば、あなたの母上は…
シェフィールド

苦虫を噛むどころか、激しい憎しみで顔が歪んでいることに気が付いた彼女は冷静さを何とか取り戻し、窓際で指笛を吹いてシルフィードを呼んで乗ると、遥か彼方の空へ飛んで行った。

ガリアにて異変が起こったそうなので、ひとまず自分の自宅である屋敷に戻ってきた。
出迎えてきたのはただ一人、老練な平民の使用人ペルスラン。使用人の数は以前より少なくなった気がした。
「おかえりなさいませ」
「ご苦労様」
まずは母の元へあいさつに行ってみよう。実家に帰る以上、たとえどんな態度を示されても会わないといけない。だが、予想通り彼女は母から凄まじい剣幕で怒鳴られた。
「またしても現れたのか!!シャルロットの命を狙う下郎!」
彼女の母がこうなってしまったのは、すべて父を殺したあの男だ。
父シャルルの兄である伯父ジョゼフ一世。彼の臣下が自分に手渡されたグラスに盛られた、心を破壊する薬。父の死後の晩餐会で自分を庇って母はそれを飲んでしまった。それからは自分ではなく、自分が母からプレゼントされた人形を自分の娘だと錯覚してしまうようになった。
「恐ろしや、私たちがいずれ王座を狙うなどと…私たちは静かに暮らしたいだけなのに。下がりなさい!」
「…また会いに来ます。母様」
今でもこみあげてきてしまう。今日は自分部屋で違う本でも読んで気分転換してみよう。自分の自室に戻り、彼女がそう思って手に取った本の題名は…
『空飛ぶ大鉄塊・上巻』
そう言えば、今朝小さいころの夢を見た。まだ父が生きていて、母も今のように狂乱しておらず、優しい母だった頃。

あの夜、自分の寝室に戻るとき父の部屋の前を通っていた。扉は偶然にも半ドアになっていて、中はかすかに見えそうだ。
『父様、開いて…』
思わず自分はそこで言葉を途切れさせてしまう。半ドアの向こう側に見えた影が、父のでもなければ人間のものでもなかった。まるで、亜人がさらに不気味に変化したような、畏敬の影…
その影の主は…
(誰だったんだろう…それとも夢?)
その先の出来事を彼女は覚えてなかった。
とりあえず彼女はこの『空飛ぶ大鉄塊』を開いてみた。出版当時、あまりにも荒唐無稽な内容が受け入れられず、下巻が発行されないまま絶版となったその本を、幼い頃はよく父にせがんで寝る前に読んでもらっていたものだった。
『ガリア軍は、山の上に巨大な影を見つけました。防衛軍が大砲の砲弾を撃ち込むと、巨大な筒状の、鉄の塊のようなゴーレムが現れたのです。大鉄塊は未完成ですが、自由に動き回れました。ため込んだエネルギーを放つと、一つの都市を一気に壊してしまえるのです』
「父様…」
あの頃のように、父が自分に本を読んでくれることは、もうない。それは自分がもう15歳だからとかではなく、父は伯父の手によって亡くなってしまった。
しかし、彼女はこれまでの出来事の積み重ねで復讐を誓ったのだが、彼らが現れ、彼らに降りかかる事件、それらを通していくうちに、彼女の復讐心に揺らぎが現れだした。
憎しみでは何も変えられない。過去は変えられないが、未来を変えることができる。
自分はいったいどうしたらいいのだろう。結局復讐の道を行くべきなのか?それとも、彼らのような道を行くべきなのか?
懐かしい思いで上巻を読みふけるタバサだが、異変は突然起こる。大きな地震が起こり、彼女の屋敷全体が大きく撚れだした。
「!?」
すぐ玄関から外に出てシルフィードを呼び、急いで飛び立った。屋敷から一番近い岳の麓に、謎の物体が出現。
それを見て彼女はいつになく驚愕せざるを得なかった。
不格好さが見えない整った筒状の鉄の塊が、山肌から顔を出している。
「どうして…!?」
それは、今朝読んだ『空飛ぶ大鉄塊・上巻』の挿絵に登場したゴーレム「大鉄塊」の待機状態に酷似した姿をしていた。その鉄の塊は地面の中へと姿を消した。

「あれ?」
大鉄塊の出現は、学院のUFZ基地にも影響した。ハルナの管理するコンピューターにも大鉄塊に酷似したゴーレムの反応がキャッチされたのだ。
「何かあったのか?」
サイトたちUFZの男性陣も察知して彼女の元に集まる。
「ガリアの方面に強いエネルギー反応が!今映像に映してみるね」
彼女がキーボードのキーを叩き、画面に現場の映像が映された。山肌から筒状の鉄の塊が
顔を出している。あれはいったいなんだろう?
「あの塊からエネルギー反応が出てる…」
「なら俺、行ってくる」
サイトは基地から出てウルトラホークに登場してガリアに向かった。しかし、彼がホークで駆けつけた時に、あの塊は地面に潜ったのか姿を消した。
「いなくなってる。逃げたのか?」
ホークの操縦席から外を眺める彼は、そこで思わぬ人物を見かける。
シルフィードに乗って自宅に戻っていくタバサだ。
「タバサ?」
「…?」

とりあえずなぜ彼女がここにいるのかを尋ねに行ってみる。彼女の家は、林の中に囲まれていて、古くも立派な屋敷だった。しかし、サイトは彼女の屋敷の人たちが異様に少ないことに気が付く。彼女も貴族だから使用人がたくさんいるはずだが。
「御無事で何よりです。お嬢様」
いつものようにペルスランが出迎えてきてくれた。
「客人がいるから」
「はっ」
もてなしてくれ。そういう意味でも言ったのだが、彼女のその言葉の意味をペルスランは理解した。本当のことを話さないでくれと。キュルケ一人ならまだしも、誰から見ても気のいいサイトが知ると騒ぎが大きくなりそうな気がしたのだ。自分が、本当はガリア王族
で、政治権力争いで没落し、母が心を無くしたことにまで彼を干渉させたくなかった。
応接室のソファに腰かけるサイトに、ペルスランは紅茶の入ったカップと砂糖の入った小瓶をテーブルに置いた。その時、二人は視線が合った。
(なんだ、この爺さんは…普通の人とはどこか違う気がする)
(そうか、彼が噂の…)
「どうかした?」
横から本にしおりを挟んで尋ねるタバサに、サイトは思わず挙動不審になる。
「あ、ああなんでもないよ!それより、タバサはなんたってガリアに?」
「…」
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