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□三美姫の輪舞・UFZの台頭/File14
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2011年10月の末…
「ふう…」
ここに何の影も秘めてなさそうな、箒を片手に太陽のように明るい笑顔で背伸びする青年がいた。
千樹憐。シュウヘイの数少ない親友の一人で、彼と同じように、ある超能力者のDNAから誕生したプロメテの子の若者。しかし彼が、シュウヘイがいなくなってからもう一年近くも経っていた。もうすぐ遊園地ではハロウィンイベントの飾りつけで忙しくなるというのに…いやそんな悠長なこと考えたら彼に悪いか。掃除道具を店の倉庫に押し込み、彼は休憩に店の客席に座って背伸びした。
彼が失踪した当初はさぼりとかの疑いがかけられたが、一か月、そして二か月と姿を現さない。もはや彼の行方不明はかなりの大問題に発展していた。
無論これを彼の所属していたTLT・ナイトレイダーのメンバーや作戦参謀長の吉良沢もこの件に頭を悩ませていた。そして心配していた。また彼が光から閉ざされた世界に身を投げたのではとか、または自分たち見てないところでビーストに襲われ帰らぬ人に…と縁
起でもないことを嫌でも描くようになっていた。
「過去に何があってもあいつは、また帰ってくる。俺は、一度も疑ってないからな」
空を見上げながら彼は友達の姿を思い返す。
最初に会った時の彼は、誰にでも牙をむく獣のようだった。でも、自分たちと関わるうちにだんだん心を開いていった。まだ自分がデュナミストだったころに出会い、遊園地でしばらく働くこととなったときは、とにかく自分のありったけの常識とか特技を彼に仕込ま
せようと張り切ったものだ。
もともと犯罪者である彼が社会復帰できたのはそれだけじゃなかった。
欠陥が生じていたとはいえ、プロメテの子をほぼ厄介払い同然にアカデミーから追い出し、心無い金持ちの元に押し付けて、結果的に犯罪者に育てたのは自分の責任だといった人が、彼をTLTの管轄下に置くことで責任もって更生させておきたいといった人物、海本隼人。プロメテの子たちの元となった超能力者。彼がシュウヘイの保護を上層部に進言したのだ。彼にとって自分のDNAから生まれた子たちは自分の子供同然だった。彼を失敗作だからという理由で捨てた果てに、彼を血まみれにしたのは自分だと後悔していた。それで当時、細胞崩壊で亡くなるはずだった憐と一緒に遊園地に置いて、憐と同時に監視していたのだ。
そして五代目デュナミストの孤門の変身したウルトラマンがすべての元凶を倒したのち、彼は身体能力を買われナイトレイダーに配属された。
やっと彼が光に満ちた未来を歩める。そう思った矢先に彼はいなくなってしまった。
「憐兄」
彼がいなくなってから定期的にこの遊園地に来る少年がいた。真木継夢。現在10歳の少年で、将来空を飛ぶことを夢見ている。以前も説明したと思うが、彼は初代デュナミスト真木舜一の息子だ。TLTに配属される以前からのシュウヘイと交流し、彼を兄のように思っていた。
兄のように慕う彼がいなくなったときはとても傷ついていた。
「シュウ兄はまだ帰ってきてくれるよね?」
「当たり前だろ?あいつなにかとしぶといし、そのうち心の傷だって治してひょっこり帰ってくるさ。そん時はきっと、俺たちに向かって笑ってくれる」
「そうだよね。僕、シュウ兄が帰ってきたらどうしようか考えてたんだけど、何がいい?」
「そりゃあもちろん、お説教と一か月トイレ掃除当番に決まってるだろ?」
身をかがめて意地の悪さを含めた笑みを憐は浮かべた。継夢も「大賛せ〜い!」と納得の様子。
「さ、せっかく退院して来たんだから友達ととことん遊んで行けよ」
「うん!」
継夢は笑顔を浮かべながら、通園地のあまたの遊具に向かって走って行った。
「子供の笑顔、悪いものなんて言えないな」
パシャ!背後からカメラのシャッター音が聞こえ、憐は背後を振り向いた。
姫矢准。真木の次にデュナミストとなったカメラマン。もともと純粋で熱血な性格で、ファインダー越しから面と向かい合って世界を見てきた。彼のそれはいつしか世界中の人たちを惹きつけ、多大な評価を受けた。しかし、真実を求めるうちに彼は人間の闇に踏み込
む、いや『踏み込まされる』ようになった。普通ならこれでよかったと割る切れることにも常人以上に悩み、自分を精神的に追い詰めるようになった。そんな中、自分に追い打ちをかけるように彼は内戦中の異国に旅立ち、戦争の悲惨な光景を撮っていた。
死と隣り合わせの危険な世界で生きる中、姫矢は『セラ』という少女と出会う。負傷した自分を彼女は必死に看てくれた。心が荒んでいた姫矢にとって大きな光を灯した、妹のようだった。だが、姫矢が再び戦地の撮影に向かうと、彼の身を案じて追いかけてきた彼女
は姫矢の目の前で爆死してしまう。このあまりにも酷な出来事、そしてその時に撮ってしまった写真が皮肉にも世界に評価を受けたことが、より一層彼を苦しめた。後に彼は死んだセラに導かれ、ウルトラマンとして『償い』という名の戦いに身を置くことになった。
孤門の変身したウルトラマンが元凶を倒してからの時期に、新聞社に復帰した彼はシュウヘイと知り合った。恋人を殺めてしまった、自分と似た過去を持つ彼に姫矢は彼と自分を重ねたこともあり、衝動的に彼を撮ったことで二人は仲が良くなっていった。
「姫矢さん、来てたんだな」
「ああ」
姫矢は近くのベンチに座り、自分が仕事やプライベートで撮った写
真をテーブルの上にばらまく。
「姫矢さんの写真、ほんとすごいよな。他の写真家にはない何かを持ってるような感じ」
「そうか?ところで…」
「あ〜、あいつならまだ…」
「そうか…」
もしまた、シュウヘイが苦しんでいるのなら、似た過去を持つ人間として彼を助けたいと姫矢は思っていた。しかし、彼はどこに行ってしまったのだろうか…
「おーい!」
今遠くから走ってきたのは孤門だった。
「孤門、仕事はどうしたんだ?」
「姫矢さんも来てたんですか。今日は休みだからここの手伝いに来たんですよ。ビーストが現れたら直ちに行かないといけませんけど。そういう姫矢さんこそどうしたんです?」
「ああ、あいつがまだ戻ってないのか、な」
「その様子だと、まだ…」
あの日以来、彼が行方不明になったことで、TLTは彼を捜索するためにメモリーポリスやホワイトスイーパーを派遣したが、手がかりは皆無。結局捜索は中断された。姫矢の様子から、シュウヘイがまだ戻ってきてないことを孤門は悟った。
「僕はあいつが戻ってきてくれる気はするんだが、なんか…」
「「?」」
「漠然としているけど、すごく不安なんだ。まるで、ビーストよりも恐ろしい何かが来るような…」
ビーストよりも恐ろしい?彼はいったい何に不安を感じてるのだろうか。
とその時、孤門が身に着けていたパルスブレイカーがピピピ!と音を鳴らしだした。こんな日に出動とはついてないと思うことなく、彼は電源を入れると、彼の所属するナイトレイダーAユニットの副隊長『西条凪』の顔が映った。
『孤門隊員、今すぐポイント377地点に急行して』
「ビーストですか?」
『いえ、もっと悪いものよ。さっきもCICのデータルームに侵入者がいたと報告があったわ』
「なんですって!?本当ですか?イラストレーターは!?」
イラストレーターは吉良沢の異名で、彼が予知能力に目覚めた時、イラストに未来を現した絵を描いたことでそう呼ばれている。データルームは彼の管理下にあるため、孤門は吉良沢に何かあったのではないかと懸念した。
『心配ないわ。一時コンピューターの機能が停止しただけで済んだそうよ』
「よかった…」
『とにかく早く来なさい!下手をしたら犠牲者が増えるわ』
凪からの通信はそこで途切れた。凪の話を聞いて三人は顔を見合わせた。ビーストよりも恐ろしいもの…彼らを苦しめてきたあの黒いウルトラマンたちウルティノイドだろうか。それとも別の何か?
「行って来い孤門。俺たちはここでテレビを通して見ている」
「はい!姫矢さんと憐も気を付けて」
孤門は大急ぎで二人の前から去って行った。ビーストの魔の手から無力な人々を救う。それが自分の使命なのだと言い聞かせながら。
「孤門の顔、以前よりよくなってきたな」
最初に姫矢が彼と会ったとき、人を守ることに何の疑いもなくまっすぐなのは確かだが、若さゆえかまだまだ未熟なところが多かった。だが今は、迷うことなく前に進んでいる。人間が忘れかけている美徳を彼は持っている。
「もうテレビで出てんのかな?と」
憐はテレビの電源を入れてみた。思った通り逃げ惑う人たちがパニックを起こして逃げている姿が映っている。だが、二人は次に画面に映ったものを見て驚愕を露わにした。
「ば、馬鹿な…」
「嘘だろ!あれって…」
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