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□外伝
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これはサイトがハルケギニアに来る前の物語である。
とある世界のビルの上で、そのサイトにそっくりな青年がベンチに座っていた。
「お、サイマ君じゃないか?」
サイマと呼ばれたその青年は声の聴こえたほうを見ると、彼よりも年上に見える青年が目に入った。
「君はやめろよ『ケイゴ』。そっちはもう仕事終わったのかよ」
「余裕余裕」
ケイゴと呼ばれた青年はサイマの横に座る。
「もうお前が俺たちの仲間に入ってから結構経ってきたんじゃねーの?」
「なに思い出させてんだよ?」

思い出したくもない。自分をいいように奴隷扱いし、全てを奪ったあのクソ女の顔…左手に刻まれた忌々しい刻印はまだ残っている。そうだ、あの時から俺の日常は全て失われたんだ。あの日俺は異世界のとあるお嬢様に無理矢理召喚され、奴隷同然に扱われた。
「つべこべ言ってんじゃないわよ!あんたは黙って私に従ってれば良いのよ!」
逆らえば鞭でぶったたかれるわ、飯は固いパンすら与えられない。
誰も自分に手を差し伸べもせず、貴族は俺をあざ笑い、同じ平民は見て見ぬフリか同情か。
でもそんな時、コイツが、ケイゴが助けてくれたんだ。俺があのクソ女とその部下に逆らえない平民から『お仕置き』というリンチをかけられたとき、あいつ等を殺しはしなかったが追い返してくれたんだ。
「俺と来いよ。自由になりたいだろ?」
あいつのあの笑ってる顔には、どうしてか惹かれていったんだ…
「なにしてんの役立たず!さっさとあの侵入者を殺しなさい!あの下等生物も捕まえるのよ!」
クソ女の手から逃げてると、ケイゴは真っ黒な霧のようなものを目の前に出現させると、俺ごとその中に飛び込んだんだ。
その時から、俺は闇の世界に身を投じることになった。

「さて、着いたぜ」
「…!?」
気がつけば、ケイゴに連れて来られた俺は見たこともない場所に来ていた。
何かの建物だろうか?天井とか床とか全部コンクリとか鉄パイプとかでできてて、さっきのハリポ○みたいな場所とは全く違っていた。
「まだ名前言ってなかったな。俺はマサキ・ケイゴ。お前は?」
「え?」
「名前だよ名前。あんだろ?」
「あ、サイト。平賀サイト」
「サイトか。よろしくな」
俺は正直こいつの言ってることがワケわからなかった。なんで俺を助けるか、いきなりこんな場所に連れてきた理由がわからなかった。
「なんで俺を助けてくれたんだ?」
「まあ、そうだな…」
ケイゴと名乗ったその男は答えにくそうに、返答を思案しはじめた。
「素質のある奴を見つけたら連れてこい、って話」
「素質?」
「心にかなり強い闇がある奴を集めること。それが俺の仕事だった」
「…」
闇…負の感情なら沸き立つほど出てたさ。あのクソ女、ただ何不自由なく暮らしてた俺を故郷から引き離しただけじゃなく、罪悪感すら出すことなく俺を奴隷としてコキ使いやがった!いつかゼッテーぶっ殺す…
「…あのさ」
ケイゴが話しかけてきたので、俺はとっさに滲み出てた感情を押さえ込んだ。
「やっぱお前も何かされてたんだな?」
「あんたも見てたろ…一目瞭然だ!あのクソ女のせいで俺の日常はあっさり崩れちまったんだ…いつか絶対…」
殺したくて殺したくて仕方ない。俺はあのクソ女『ルイズ』に召喚されて『ハルケギニア』の『トリステイン』とかいう腐敗国家で暮らす羽目になってからこの恨みを忘れたことはない。いつか殺すと誓った。絶対に…
だが、あいつは「殺す」と言おうとした瞬間「止めろ」と言った。
「復讐なんてやめとけ。後悔しか残らない」
「はあ!?あんな奴ら死んで当然だろ!身分の違いなんかで人を人とも思わず腐敗した国のために働けとか…愚者の境地だ!」
「相当ダメージでかいな…」
ケイゴは参ったな…と頭を抱えた。
「今のお前は悪いことした奴らを殺すのは当然のように言ってて正義を掲げてるんだろーが、それは違う。悪いのは、人の心の奥にあるものだ。それを変えれば人は悪者にもなれりゃ、善人にもなれる」
「どういう理屈だよ…」
「とにかく、そうカリカリするなよ。体に毒だぜ?」
「なんであんたはそうユルユルなんだよ…」
そういや素質がどうこう言ってたな…
「なあ、素質って何のことだよ?」
「…ついてくりゃわかるさ」
言われるがまま俺はケイゴに着いていった。
ケイゴに連れて来られた場所にはたくさんの人間がいた。広く作られていることから、何かの訓練施設なのか?
「サイトだったな。お前は今日から自由を手にするために戦うことになる。こいつら全員にな」
「…は?」
いきなり何言ってんだこの変人は?俺にこんな、軽く『五百』はいそうな人間と戦えって!?
「こいつらの中でただ一人勝ち残れたら、お前は『闇の力を得る候補者』となれる。お前も変えてみたいとは思わないか?お前と俺の会った、あの世界を正しい方向に」
「…できるのか?そんなこと」
ケイゴは俺の言葉にコクッと頷いた。
「俺も以前、故郷が戦争に巻き込まれたのが原因で心に深い闇を背負った。その後、故郷を壊した連中への復讐を誓って、軍に志願したんだ。それからしばらくして俺は故郷を壊した奴をこの手で殺した。
でも…」
その時のケイゴは、まだ戦いを知らなかった俺でさえ演技じゃなかったことを理解できた。すっげー悲しくて、やるせない。そんな感じだったんだ…
「母さんも、妹も戻って来なかった。結局復讐もただの人殺しでしかない。しかも俺は、故郷を壊した張本人にも家族がいることを知って、そいつらからかなり恨まれた。『あいつを返せ』って。だから俺は軍を辞めたよ。そうしたら…」
「ここに来た、ってことか?」
「ああ、俺は前にここでたった一人勝ち残って候補者として残り、闇の力を手に入れたんだ。俺は復讐の愚かさに気づいてから、決めたんだ。闇の力って悪いイメージあるけど、だからこそできることがある。俺はそれをしようって」
「闇の力…」
闇って、ゲームとかじゃ悪いイメージとか嫌なレッテルが張られてるよな。確かにイメージ悪い…物語の悪者とかよく使ってたりするし。
ん?そう言えば…
「ところでさ、ここに集められてる連中は俺を含めて一体誰の指揮で集めてるんだ?」
「実は俺もよくわからない。ただ噂で『冥王』って呼ばれてる奴が、仲間を欲しがってるとか…後7人ほしいとか言ってたらしいぜ」
「曖昧だな…」
まあ人には知らないことも多いから仕方ないか…
「とりあえず、やってみりゃいいんだな?
でもどうして俺なんだ?俺のいたハルケギニア、まああの世界には他にも闇を抱えた奴いくらでもいただろう?」
俺がケイゴに言うと、あいつは笑っていた。
「実はな、お前にとって大事な人から頼むよう言われてたんだ。さっき名前確認して間違ってなかったみたいから安心したぜ」
それを聞いた俺は驚きを隠せなかった。全部奪われた今の俺に、その言葉は鬼門だったかもしれない。
「あいつがいるのか?あいつが…」
「『ハルナ』ちゃんだろ?お前より一足先に勝ち残って候補者になってたんだ。会いたいだろ?でも…」
ケイゴが横を向くと同時に、俺も他の連中を見る。数的に半端ない。ケンカとか得意っちゃ得意なんだけど…
「頑張れよ」
そう言ってケイゴは俺の肩をポンと叩き、そのフロアから立ち去っていった。
なんだかよくわかんないけど、会えるんだよな?あいつに…
とにかく俺は、できることをやるしかないんだよな…
「んにゃろおおおお!!!!」
俺は、雄叫びを挙げて五百人の人間たちにケンカを売っていった。

「んで、お前が残ったんだよな。新しく『サイマ』って名前を変えてな」
「ああ」
時を戻し、ケイゴがサイマの顔を見て言うと、サイマは笑った。
「それから、ハル…じゃなかった『ナツキ』やあんたと一緒に任務に出掛けるようになった」
「主な仕事は怪獣の回収、だったな。俺や他の『闇の戦士』が戦ってる間、サイマはまだ候補者だから隠れて様子を伺う。弱ったところをバトルナイザーに回収するって感じだったな。ナツキもそうだった」
「あんたがいなかったら、俺はあのクソ女にいいようにされた果てに、殺されるか捨てられてたかもな…。生き残ってたら完璧堕ちてた」
「おいおい、テンションさがること言うなよ。ほら」
ケイゴはそう言ってサイマの頬に、冷えきった缶を押し付けた。
「冷たっ」
「冷えてるうちに飲んどけよ」
カチッと缶の蓋を開き、ケイゴはジュースを飲む。
「あれ?早かったね二人とも」
そこにやって来たのは、ハルナに似たショートカットの少女。彼女がナツキである。
「遅いぞ、ナツキ!」
笑ってサイマは出迎えた。そんな彼にナツキも笑顔を返してサイマを、ケイゴと挟む形で座り込む。
「ごめん、今日ダーラムも手こずってた相手だったみたいだから遅くなっちゃった」
「あのおっさんも手こずるんだな…」
ケイゴは意外そうに言った。
「綺麗な夕陽…」
遠くに沈んでいく太陽を眺め、ナツキは感動していた。
「ずっとこんな風に二人と話してたいな」
とサイマ。
このときの彼は、まるで邪悪な面が見られない。後に出会うサイトと同じように明るい印象が持てるものだった。
親友と恋人との会話を心の底から楽しんでいる。
そんな彼が、なぜレコンキスタを裏で操り戦争を促すとか、怪獣を送りつけたり、果ては目の前で人殺しをしたのか。
この先を見ていけばわかるかもしれない。
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