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サイトたちがヴァリエール邸に来た時は、ホーク1号で予定よりかなり早く着いていたのでまだ朝の時間帯だった。その頃、ヴァリエール領に向かう1台の馬車があった。
「全く、今の世はどうかしておるわ。怪獣だの戦争だの…」
馬車の中で愚痴を零している、立派な髭の男。ルイズたちの父親ヴァリエール公爵だ。エレオノールと同じ金髪に、鋭い眼光はまさに公爵としてのオーラがみなぎっている。
そんな彼に魔の手が忍び寄っているとは誰が予想したのか…
「ここ、公爵様!」
「む?」
馬車の運転手がいきなり悲鳴をあげてきた。一体何事だと外を見ると、黒い影が彼にのし掛かるように襲い掛かってきた。
「な!?」
いきなり異形の何かに襲われ、彼は反撃に魔法をぶつけることも出来なかった。

「♪〜♪〜」
一方、ヴァリエール邸の庭で花の世話などをしている庭師の女性は鼻歌を歌いながら作業に当たっていた。久しぶりに三女のルイズが帰って来たので彼女の目に留められるくらい綺麗にして置かなくては。しかし、そんな彼女はある光景に目が留まった。自分と同じよ
うにここに使えている召使いの男とメイドの女性が何かを見ている。
「どうしたの?」
「見てくれよ」
男性があるものを指差す。そこには、いつの間にか岩の様な大きさの金属の塊が置かれていた。
「一体誰がおいたのかしら?ご主人様お厳しい方だから、早く片付けないと怒られてしまうわ」
メイドの女性はこんな重いものをどうやって運ぶべきか迷っていた。やはりメイジの同僚に手伝ってもらおうという結論に至り、彼女たちはそのメイジの元に向かった。彼らとすれ違う形で、サイトが偶然その金属を目にした。あれは?いつの間にこんなものが?透視してみるが…
(おかしい。透視できない?)
不可解なことに、その金属の中身を見ることが出来ない。まるで真っ白の靄にかかったように。
「どうした相棒?そんなにまじまじとその石ころ見て」
「ただの石ころじゃないから見てるんだろ」
光の国の資料で見たことがある。『チルソナイト808』。現在確認されてる情報では、ワイアール星でしかとれない特殊金属だ。その金属がなぜこんな場所に?でもこのままほったらかすわけにはいかない気がしてならない。

その夜、ルイズはカトレアと同じベッドで寝ようとしていた。
「まだ眠れないの?ルイズ」
「うん…」
「誰かのこと考えてたの?もしかして、あなたが使い魔にしたあの男の子かしら?」
それを言われたルイズは顔を真っ赤にしてガバッと起き上がり、大慌てで否定する。
「ちちちち違うもん!!ただの使い魔だもん!好きじゃないもん!」
「あら、誰もそこまで聴いてないわよ」
「ちい姉様なんか大嫌い…」
「あらやだ、嫌われちゃった」
再び布団にもぐりこんでいじけるルイズ。でもカトレアから見ればかわいい行動にしか見えない。布団を被るルイズの顔に手を添え、優しく語り掛ける。
「それでいいのよ。行ってらっしゃいな、あなたの居場所に」
「…」
カトレアは大抵の人間、特にルイズの事をなんでも見通してしまう。一見「この人には勝てない」と苦手意識が芽生えそうだが、それがルイズにとって一番の理解者となるきっかけにもなった。
言われるがまま、ルイズは寝室から抜け出し、サイトが寝室に使ってる物置部屋に向かった。
「べべべべ別に会いたいわけじゃないの!つつつつ使い魔が一人心細そうだから行ってあげてるだけで、ほほほホントにそれだけ…」
廊下を歩きながら必至に言い訳を考えるルイズ。1分くらいでサイトが居るであろう物置部屋に着いた。公爵家の三女がこんな場所にいるなんてばれたら不味いので辺りを見渡す。誰も見てないわね。ソローッと入り、彼の寝床にもぐりこもうとしたが、サイトは居な
かった。どこに行ったのだろう?あのボロ剣もはぼ常時持ち歩いてるので、誰かに尋ねようがない。とそのときだった。
「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
尋常じゃない悲鳴が屋敷中に響き渡った。

一方、サイトは用意された部屋、と言うか物置で寝ようと平民用の食堂から戻っていた。しかし、あのチルソナイト808がまだある。
(重すぎて運べなかったのか?それともただの金属だと思って気にも留めてないのか?)
その時、ルイズが聴いたのと同じタイミングで男性の悲鳴が聞こえてきた。サイトはすぐ現場に駆けつけると、木のような化け物が誰かを襲っていた。
「やめろ!」
すぐさまウルトラガンでその怪物の足元にレーザーを撃ち込む。怪物は、襲っていた召使いの男性から離れ、どこかへ逃げ出した。急いで追いかけるが、もう怪物の姿は見当たらなくなった。
「くそ、逃げられた…」
あの怪物、間違いない。『生物Xワイアール星人』だ。待てよ、だとしたら!サイトは急いでさっきの男性のもとへ戻った。悪い予感は当たっていた。
「きゃああああああ!!!」
さっきの男性の姿はなく、代わりに別のワイアール星人に似た化け物がサイトを探しに来たルイズに襲い掛かってきた。実を言うと、あれはワイアール星人ではない。さっきワイアール星人に襲われた
召使いの男性が突然変身してしまったもの『人間生物X』なのだ。ワイアール星人に襲われた人間は、彼らに似た怪物になってしまい、またその怪物化した人も別の人間を襲う。ねずみ算式でワイアール星人は仲間を増やしていく、恐ろしいエイリアンなのだ。
だが元々人間だった彼を攻撃したら死ぬ可能性が高い。ここは…
「地下水、出番だ!」
「りょ〜か〜い」
くるくると回しながらホルダーから地下水を取り出したサイトは呪文をぶつぶつと唱えていく。そしてルイズに怪物が迫る前に、自信のウルトラ念力と合成した水系統の魔法を放った。
「パーフェクト・フリーザー!」
そのサイトの掛け声と同時に、人間生物Xは一瞬にして氷付けにされ、固まった。
「ふう…大丈夫かルイズ!?」
「サイト…」
ルイズの身の安全を確認しに彼女の元へ駆け寄るサイト。でも妙に彼女の様子がおかしい。助けられたのにすごい不機嫌そうだ。
なぜか?朝、エレオノールから魔法成功率ゼロの意味で『ゼロ』と呼ばれてた矢先に自分の使い魔が魔法を使ったのだ。それも水系統で、氷を発生させるほどだ。しかもなにより、杖を使ってない。
「あんた、魔法使ってたわよね。一体どういうことなのかしら〜?」
引きつった笑みを浮かべながらなんとか許してもらおうとサイトは必死に自分の脳のシナプスを働かせる。
「じ、実は…このナイフが」
「ナ・イ・フ…ですってぇ〜?」
ルイズさんその目は怖いですから…でもそこで地下水が喋ってくれたのでその場を免れた。
「おう、初めて話すよな嬢ちゃん!旦那が世話になってんぜい」
「地下水は、使う奴に水魔法の力をくれるんだ。だから使えたんだ」
「そのとおり!嬢ちゃんも使ってみっかい?」
最初は使ってみたいと正直思った。これなら姉に認めてもらえるかもしれない。しかし彼女は伸ばそうとした手を引っ込めて我慢した。
「止めておくわ。自分の魔法でお姉さまを認めさせないとなんだか納得できない気がするのよ。それより…」
ルイズは再び氷付けになった人間生物Xに目を向ける。こんな怪物ハルケギニアのどこに住んでいたのだ?見たことも聞いたこともない。それに自分の家に使える召し使いがいきなり怪物化するなんて。いや、これは恐らくサイトがいつぞやに言ってた…
「宇宙…人?」
「あたりだぜルイズ」
とそこに、ルイズの母カリーヌと二人の姉エレオノールとカトレアが他の召し使いたちを連れ、大急ぎで駆けつけてきた。
「何が起きたのです?、それにこれは…」
カリーヌたちは氷付けになった人間生物Xを見て絶句する。サイトやルイズから騒ぎの一部始終を聞き、大方のことを理解した。
「まさかこのヴァリエール家に侵入者を許すとは…」
外壁を守る衛兵たちは決して不調ではなかった。でも一瞬の隙を突かれてしまったと言うことなのだろうか?首を傾げてる時、もう一人別の人物が彼らの前に姿を現す。
「父様!?」
ルイズたちの父、ヴァリエール公爵だった。
「明日の朝に着くつもりだったが、予定を早めて先ほど来たところだ。それにしても、一体衛兵は何をしておったのだ?」
「父様、ここは王室に連絡するべきと考えますわ。急いで…」
不安と焦りでいっぱいのカトレア。王都にいる軍の力を借りて解決すべしと考えたが、公爵は凄まじい剣幕で彼女に怒鳴り出した。
「止めろ!!」
「え…?」
「公爵家の家に侵入者を許したなどと知られたら、いい物笑いだ。いいか、絶対に知らせるな!」
「ですがあなた…」
カリーヌも一言もの申そうと夫に言おうとするが、「ならぬと言ったらならぬ!」と聞く耳を持たなかった。ヴァリエール公爵はいつもなら、彼の記憶の中でまだ病人の彼女に怒鳴ったりしないはず。カリーヌの言葉にも耳を貸そうともしていない。
「全く世も乱れたものだ。女王陛下も戦争を煽って、全く不愉快だ」
「父様!アンリエッタ様は戦争を煽ってなど…」
自分の知るあのアンリエッタが戦争を好きで行うはずがない。それを訴えようとするが、公爵はルイズにも怒鳴りつける。
「お前に何がわかる!いいかルイズ、無理に魔法を覚えんでもいい。学院など辞めて婿をさっさととれ。話は以上だ」
言い終えた瞬間、公爵はさっさと自室へ戻っていった。
(勝手な親父さんだな。まあ、自分なりに娘を気遣ってるつもりだろうけど…)
サイトは公爵の立ち去る姿を見ながら心の中で呟く。
「決まりね。明日の朝からルイズの縁談をまとめましょ」
「そんな、結婚ならエレオノール姉様から…」
とルイズが言うが、それはまた墓穴を掘ったことになった。血相を変えてルイズの頬を力強くつねりだす。
「婚約解消って言ったでしょ!」
「ごご、ごめんなひゃい…」
再び頬が真っ赤になったルイズ、痛くて涙が出てきてしまった。
「母様、お姉様。こんな大変な時に縁談の話なんてルイズが困ってしまうじゃない」
「そうね。その方も今は地下に収容しておきましょう。この事態が解決するまで夜間の外出も禁じます。皆にそう伝えなさい」
「はっ!」
召し使いのうち二人は氷付けとなった人間生物Xを地下牢に運び、他の者たちはこの事態と夜間外出禁止令を伝達にし向かった。
その夜は誰もが外に出ていたあの化け物、ワイアール星人に恐怖し、まともに眠ることができなかった。
ただ一人を除いて。
「邪魔が入ったが、まあいい…」
ヴァリエール公爵が自分の両手に乗っている、大きさは違うがあのチルソナイト808と同じ金属の塊を見て笑っていたことは誰も知らない。

翌日、公爵は再び王室へアンリエッタの政策の反対を訴えようと早くから出発の準備をしていた。
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