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□File1
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ジュリオの来日から翌日のこと、彼女は突然やって来た。
「いだだだだた!!いだいでずお姉ざまあ゛!!」
ルイズは無理やり誰かに引っ張られている。あのルイズが逆らえないとは一体?朝早くなものだから少し霧が立ち込めてる。よーく目を凝らすと、その正体がわかった。
ルイズの姉エレオノール。金髪で目が常にすわってるように鋭く、いかにも女王様みたいなオーラが出ている。ルイズの性格拡大版と言える。でもよーく見ると引っ張られているのはルイズだけではなかった。サイトも無理やり引っ張られて逆らえずにいた。
「全く、軍事教導なんて魔法学院も物騒になったものね」
「お、お姉さま…これからどちらに?」
恐る恐る尋ねるルイズ。よほどこの姉が怖いのだ。
「何って家に帰るのよ」
「え!?」
姫様から頼られてるこの時に!?一体エレオノールはどういうつもりなのだ?
「あの、ルイズのお姉さん…」
サイトもエレオノールのプレッシャーに押されながらも恐る恐る手をあげる。
「何よ!?平民が気安く呼ばないでくれる!?」
「すいません…どうせなら、移動手段を早くできる方法がありますけど…」
「移動手段を早く?私は馬車で丸一日かけてきたのよ?平民なんかになにができるわけ?」
「あるから言ってるんですけど…」
「へえ、ルイズもずいぶん大きく出る従者を雇ったものね」
「従者じゃなくて使い魔…はっ!」
しまったとルイズはあわてて口を塞いだが遅かった。人間を、それも平民を使い魔にしたことは家族には内緒にしていたのだ。もし話したら余計自分が情けなく見られるし、特にこの姉に伝わったら…
その姉が、遂に知ってしまった。
「平民を使い魔に、へええ〜…」
「おおおおお許しくださいエレオノール姉様…」
冷や汗をかきながらなんとか許しを乞うが、ルイズの拡大版である彼女に通じるはずもなかった。
「騒がしい連中だな」
偶然それを見かけたジュリオは楽しそうに見ていた。

エレオノールとルイズをウルトラホーク一号に乗せ、一行はルイズの自宅『ヴァリエール邸』に向かった。
「なんで平民のあなたがこんなもの持ってるのよ!」
サイトのホーク一号は、タルブ村の戦いで有名になっており、無論エレオノールもそのことを耳にしている。まさか自分の妹の使い魔が操縦してるとは思わなかった。
「い…」
すごいでしょお姉さま!と普段のルイズなら調子に乗って自慢したくなるのだが、それが姉の逆鱗に触れてしまいかねないので止めた。ただでさえ今、エレオノールが彼女の頬を力強くつねったから真っ赤になっているのだ。痛くて仕方ない。
エレオノールはアカデミーでこのホークをサイトから没収して調べあげようと考えたが、止めることにした。以前キングジョーの一件での反省もある。また貴族として家名に泥を塗りたくはない。
今、戦争に巻き込まれようとしている妹ルイズを守るためにも。
ホークは長時間かけることなくヴァリエール邸近くの平原で着陸した。ハルケギニアの人から見れば怪しい飛行物体にしか見えないため、最初は衛兵や召し使いたちが集まって警戒したが、その中から自分たちの使えてる主の娘が二人現れたことで落ち着いた。
「こんなにでかかったのか…」
さすがは公爵家。地球では滅多に見られないほどの大公邸だった。庭には大きな池や小さめの森もある。そして家の中もシャンデリアがたくさん吊るされ、就寝時間以外に光が絶えることはなかった。
家の中に入ったときにルイズをエレオノールとは対照的に暖かく出迎えてきた人がいた。
「お帰りなさい。私の小さなルイズ」
「ちい姉様!」
顔立ちはルイズにそっくりだが、彼女やエレオノールのように勝ち気な雰囲気はなく、とても穏やかな印象を持つ女性。エレオノールの妹でルイズのもう一人の姉『カトレア』である。
「また見違えるようにきれいになったわね」
「そんな、ちい姉様には及びませんわ。それより、お体の具合は?」
「ありがとう、大丈夫よ」
その後、ルイズら三人の姉妹は母『カリーヌ』の待つ食堂で食事をとった。一応サイトも付き添いで来ていたのだが、貴族じゃないのでその場に護衛として立ってるだけ。腹の虫がグーっと鳴る。
(腹減った…)
「母様!ルイズに何とか言って頂戴!もう家でおとなしくしてろって」
食事中、エレオノールはカリーヌに言った。
「どうせ学院でもおちこぼれなのよ」
その一言でルイズは黙ってられなくなり、思わず椅子から立ち上がる。
「いつまでも昔のままの私じゃないわ!姫様、陛下が私を必要としてるのよ!!」
「成功率ゼロのあなたに何ができるのよ?さっさと婿でもとらせるべきよ」
「で、でも結婚ならエレオノール姉様が先にバーガンディ伯爵と…」
カトレアはそのルイズの発言に冷や汗か流れるのを感じた。何とかルイズの言葉を遮ろうとしたが、すでに遅かった。エレオノールから凄まじい獄炎のごときオーラがほとばっしっている。
「婚約は解消よ!か・い・しょ・う!向こうは『限界』なんて言うのよ!まったくどうしてかしらねえ!?」
(あんな性格じゃ相当のMが相手じゃないと無理ですよ…)
おそらくルイズ以上の嫉妬深い性格が、他の女性との何気ない会話すら許さなかったのだ。だから伯爵はエレオノールと結婚したら命がいくつあっても足りないと婚約破棄したのだろう。言葉には出さなかったがサイトはそう解釈した。
「この私に口答えなんて随分偉くなったものねちびルイズ!」
「お姉様おちつい…」
苛立ちのあまりルイズに八つ当たりしようと詰め寄るエレオノールをカトレアはなんとか止めようとしたとき、いきなりその場の空気が悪くなった。カトレアが倒れたのだ。
「ちい姉様!?」
サイトもこんな事態、予測の範疇になかったことだ。何か重い病に掛かっているのだろうか?試しにカトレアの体内を透視すると、思いがけないものを目にした。
(あれは…!?)「あの、俺が部屋まで運びますよ?」
「そんな、悪いわよ…」
きつそうに断ろうとするカトレア。エレオノールはサイトを睨みつけて怒鳴る。
「気安く私の妹に触らないでくれるかしら!?まったく無礼なへ「黙っててください!!!!」!?」
まさか、逆に自分が平民如きに…エレオノールだけでなく、ルイズもその場に硬直してしまう。最初は下心があったのかと思っていた。
美人とはいえ、病人の姉に手を出そうなんて鬼畜の極みだ!と。でも今の彼は全くやましい表情を浮かべてない。怪獣が現れたときと同じ、自分でさえ戦慄する真剣な顔だった。
(エレオノールを黙らせるなんて、あのような平民は初めてね)
カリーヌはサイトを興味深そうに見ていた。
カトレアの案内でサイトは彼女の部屋まで運んでいった。その部屋のありように、彼は目を丸くする。
「なんじゃこりゃあ!?」
動物だらけではないか!!!ウサギ、猿、鳥ならまだしも、熊や虎までいる。
「大丈夫よ、あの子たちは人を襲ったりしないから」
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