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□File9
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「ここは…」
シュウヘイがネクサスの本を広げて、放たれた光の先にたどり着いた世界。
メリーゴーランド、ジェットコースター、観覧車、ショーに使われる屋根付きステージ、お化け屋敷…
「やはりそうだ!俺の世界にあった遊園地だ!」
最初はナイトレイダーの先輩でもある弧門に誘われ、休みの日はここでよくバイトしていたものだ。仮面ライダーの着ぐるみを着せられるわ落ち葉の掃除を何時間もやらされるわハンバーガーやたこ焼きの作り方を夜通し叩き込まれるわ…こうして立つと懐かしさが蘇ってくる。
「テファ」
普通なら彼女が何か感嘆に一言くらい言うはずだが、さっきから彼女の声が聞こえない。いや…
「いない!?」
彼女の姿すらどこにも見当たらないのだ。いつはぐれてしまった?
「世話の焼ける…まあ退屈はしないか」
そう言って遊園地を歩き出そうとしたときだった。
「シュウヘーイ!」
聞き覚えのある声が彼の耳に飛び込んできた。シュウヘイの友達で元デュナミスト、千樹憐。
「ちょうどよかった!実は楽屋に置いてきちまった荷物があってさ、俺今から着ぐるみ着て風船配らないといけないから時間ないんだ。頼むぜ!」
仮想とはいえ、久々の再会に彼はその時間すら与えず、どこかへと走っていった。
(相変わらず、騒がしいな)
どうしてあんなにハイテンションでいられるのかシュウヘイには疑問でならなかった。まあ、そこが彼らしいのだが。
「しかし、テファはどこに行ったんだ?」
辺りを改めて見回すが、姿が見えない。仕方ないので一旦楽屋に向かってみることにした。
その歩みが、彼が何かに引きずり込まれるカウントダウンになっていることを彼は知らない。

「ここ、どこ?」
その頃、シュウヘイとはぐれてしまったテファは豪華な部屋の中にいた。なぜか服装がメイド服になっている。どうやら今回は使用人の役割らしい。
「シュウ!どこにいるの!?」
もう一人にしないで。置いていかないで。味わいたくもない孤独感が彼女の心を塗りつぶそうとしていた。
すると、彼女の隣からバン!と何かが叩きつけられたような音がした。
「!」
シュウヘイなのか?彼女は気になってその部屋を出て確かめに向かった。

「これでいいのか?」
楽屋から憐に頼まれた荷物を持ってきたシュウヘイは迷子保護センターでその荷物を渡した。荷物はリュック詰めの風船でできた動物。
「わりいなシュウヘイ、助かったぜ!」
憐はシュウヘイに礼を言うと、センター内で親とはぐれてないている子供に風船のライオンを渡した。
「ほら、これで元気出しなよ。母ちゃんも今頃探してる頃だから、な?」
「…ありがとう」
しばらくすると、一人の若い女性が子供を探しにやって来た。先ほど憐にライオンの風船をもらった子供の母親らしい。彼女は憐に礼を言うと、その子供と共に帰っていった。
「やっぱり子供は宝だよな、シュウヘイ」
「…ああ」
宝、か。自分はそんな扱いを受けたことなどなかった。むしろその真逆、ゴミのように扱われた。もし自分を引き取った義理の親たちに愛されていたら、こんな性格ではなく、憐のように明るく振る舞えるような人間になっていたかもしれない。
すると、シュウヘイが右腕に装着していたパルスブレイカーが鳴り出した。この世界でもやはり元の故郷と同様、スペースビーストが現れるということだ。パルスブレイカーを開くと、小型モニターに副隊長である『西条凪』の顔が映った。
「こちら黒崎」
『黒崎隊員、ビーストが新宿市街地に出現したわ。直ちに現場で合流しなさい』
「了解」
命令を受け、シュウヘイは憐を見る。
「憐、もし長い金髪で胸が異様にでかい女の子を見かけたら保護してくれないか?」
「へ?」
憐は一瞬彼が何を言ったか理解できなかった。まず性格上女との関係などせいぜい友達止まりなはず。
「まさか、彼女!?」
遂にこいつにも春が来たか!と憐は期待する。
「はあ…そんなんじゃない。世話が焼ける奴だからほっとけないだけだ」
いつもこうだ。弱みを握るようなことがあるとよくからかってくる。シュウヘイは深いため息をつく。
「嘘言えよ。このヤローのろけやがって!このこの!」
憐はいたずらっ子のように肘で軽くシュウヘイを叩く。
「…とにかく見つけたら保護だ。名前はティファニア。尾白や瑞生にも言ってくれ。頼んだぞ」
「ああ、行ってこいよ」
シュウヘイは笑顔で見送る憐を背に、新宿市街地へ急行した。あの笑みが、自分の背中をよく押してくれたものだ。最初は過去のことで人としての道を拒絶していた自分が光に照らされた道を歩むきっかけとなった。その一人が、憐。シュウヘイにとって大きな存在だった。

暫くして、彼は市街地に辿り着いた。辿り着いたのは良いが、妙なことにだれも居ない。
「?」
おかしいと思ったシュウヘイはパルスブレイカーで凪に通信を入れた。
「こちら黒崎。西条副隊長応答願います。副隊長?」
しかし、ザザ…とノイズが走り、彼女の声が聴こえない。妨害電波でも出てるのか?とその時だった。
突然シュウヘイに向けて一発の弾丸が撃ち込まれた。すぐに反応したので何とか回避することは出来た。顔を上げた瞬間、彼は目を疑った。
「ターゲットを確認!目標は人型ビースト!一斉攻撃!」
孤門、詩織、凪、そして隊長の和倉。ナイトレイダーAユニットの仲間であるはずの彼らがシュウヘイにディバイドランチャーを向けているではないか!
「な、待ってくれ!待ってください隊長!みんな!俺が分からないのですか!?」
「惑わされないで平木隊員、孤門隊員。彼は溝呂木の様に闇に取り込まれた存在。哀しいけど…」
「…わかりました」
「悪く思わないで頂戴ね」
感情を押し殺したように詩織と孤門もディバイドランチャーをシュウヘイに向けて発射した。
「く!」
シュウヘイはブラストショットで撃ってそれらを相殺すると、一旦彼らの前から逃亡を開始した。
「逃がすな!」
和倉たちナイトレイダーたちもシュウヘイを逃がさないと、彼を追い始めた。
「ハア、ハア…」
暫くの逃亡の末、廃工場の壊れた機械の物陰に隠れたシュウヘイ。
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