GANTZ/ULTRASEVEN.AX(完結)

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「ここは…どこだ?」
玄野は真っ暗な荒廃した惑星にただ一人、取り残されたかのように
立っていた。
辺りには誰もいなかった。
だが、玄野は後ろから誰かの気配を感じて振り向いた。
そこに立っていたのはジン、いや、ウルトラセブンアックスだった。
「ジン…」
「…」
名前を呼ばれたセブンアックスは何も答えない。じっとこちらを見
つめてるだけだ。
「ジン、どこに行ってたんだ!?なんであの大仏を倒した後に帰っ
てこなかったんだ!?」
玄野の記憶が正しければ、ジンはあの時少なくとも死に至るほどの傷は負わされてなかったはずだ。だが、彼は帰ってこなかった。
「何があったんだよジン…シカトしねえで答えろよ!」
セブンアックスはさっきから沈黙を貫いたままだった。すると、彼
の額のビームランプが目映い緑色の光を解き放ち、辺り一帯を包み込んだ。
「!」
玄野は目を覚ました。
「夢…か」
大仏との戦いから一週間経っている。あれから玄野は仲間たちを失った喪失感に浸っていた。
その時、部屋の窓に緑色の小さな光が玄野の背中に流れ込んでいた。

いつの間にか学校の授業は終わっていた。気が付くと、周りの生徒たちが通路を上がって教室を出ていこうとしている。
玄野はボンヤリと顔を上げ、しかし席を立つ気にもならず、ぐずぐずとそこに座り続けていた。
「あの…」
多恵の声だった。いつものように離れて左隣に座っていた彼女が席を立って近づいてきていた。鞄から書類封筒を取り出し、玄野に
向かって差し出してくる。
玄野は差し出された封筒に手をかけ、多恵に向かってノロノロと顔
を上げた。
それからしばらく、二人の姿は例の地下鉄のホームにあった。
先を歩いていた玄野は立ち止まり、わずかに距離を置いて着いてくる多恵を振り返った。
「…ごめん。今日はマンガ読む気分じゃなくてさ…」
玄野は言いながら再び歩き出した。
「玄野…君」
少し歩いたところで多恵は口を開いた。
「何か…あったの…?」
玄野は足を緩め、目だけを動かしてチラと多恵を見たが、何も言えなかった。答えられなかった。
「…こないだマンガ読んでもらった時、実は…玄野君喜んでくれたけど…あの、ちょっと、怖かった…」
多恵の言葉に、玄野は苦しげな目で、肩越しに振り返った。
「玄野君のこと、ずっと見てたから、わかるんです」
そこまで言って多恵はハッ!と顔を伏せた。
「あ、ごめんなさい…勝手に…やっぱり私みたいな地味な女の子が…気持ち悪いよね」
…そうだ。ジンが言ってた通り自分は勘違いしていた。スーツの力に魅せられ、胸の中で唇を噛み締めていた。
その物思いにふける玄野を呼び覚ますように、誰かが叫んだ。
「あ!落ちたぞ!」
その声に、玄野は生気の抜けた目を上げ、線路を見た。そこにあったのは、赤いつばのついた子供用の野球帽だった。
「僕の帽子とってよー」
男の子が、半泣きで訴えている声が響いた。
「ダメダメ。電車来ちゃうからね」
「いやだー、とってえ」
「でもほら、来ちゃうから…どうしよう」
母親は男の子をなだめようとしたが、男の子は聞き分けようとしない。
玄野は無言で鞄を下ろし、まるで目の前に転がってきたボールでも取りに行くような足取りで、線路に向かった。
周囲がギョッとなってその行動を見つめる中、帽子を拾って埃を払い、母親に差し出した。
「はい」
「どうもすみません、ありがとうございます…ほら、お礼は!」
「ありがとう」
玄野は力のない笑みを浮かべ、礼を言うその母親とその子とを見やった。
『間もなく、二番線に列車が到着します。危ないですから、黄色い線の内側までお下がりください』
だが、玄野は動かなかった。目を細め、薄笑いさえ浮かべて立っている。
ホームが騒然となった。
「玄野君?」
多恵がかすれたこえで呼び掛けてくる。
カーブしているトンネルの向こうが、次第にライトで明るさを増してくる。電車の巻き起こす風を感じながら、玄野は目を閉じた。
「なにやってんだよ!早く上がれ!」
ホームからどこかの親父が叫んでいる。玄野には、その切迫した声が、ひどく現実離れしたように聞こえた。
電車のライトが近づいてくる。
「玄野君!」
多恵が叫んでいる。
「死んじゃダメ!」
その声に玄野は現実に引き戻された。が、すでに遅かった。
電車はすでに目の前に迫っていた。
死ぬのか……
あの夜の時のように、今度こそ…
その時、一瞬玄野の額に、小さな緑色の光が灯った。
と同時に、ホームは信じられないほどの静寂に包まれる。
玄野と、直視できず目を伏せていた多恵は恐る恐る目を開けた。
信じられなかった。
ほんの数ミリ先で、かなり勢いの着いていた列車が止まっていたのだ。まるで時間が止まったように。列車の運転手がブレーキを使った訳でもなかった。
多恵は急ぐように玄野に手を伸ばし、玄野はホームに上がった。
「ごめん…」
力なく多恵に頭を下げた。多恵の目から涙がポロポロ溢れている。
「死んじゃ…ダメだよ…私、玄野君が好きなんだから…」
玄野はじっと多恵を見つめた。肩に触れた手が、温かかった。
生きてみよう、という気になった。生きるということは戦うこと。
それでもこの娘がいるなら。自分を必要としている人間がいるなら。
玄野は目を伏せ、小さく頷いた。
泣き顔の多恵が、泣きながら笑みを浮かべている。
玄野もつられるように笑みを浮かべた。
だが、玄野は疑問に思った。
なぜ、電車が時間が止まったかのように停車したのだろうか?

その夜、玄野は再びガンツに転送された。
桜井や鈴木はすでに転送され、玄野が来るのを待っていた。
「帰りたい…な」
桜井が、ガンツを見つめながら呟いた。鈴木が同情の目を向ける。
「彼女のところに帰りたい」
「待ってる人がいるんだ」
玄野の声に、桜井と鈴木の二人が振り返った。
桜井が、まっすぐ見返し、頷く。玄野は桜井たちに歩み寄り、微小して続けた。
「だったら、一緒に生きて帰ろう」
玄野の言葉に、桜井が表情を明るくする。
鈴木が、やはり笑みを浮かべ、口を開いた。
「私も、いいかな?君に着いて行っても」
玄野は物言いたげに首を傾げる。
「君といれば、私もできる気がする」
鈴木の言葉には、玄野への信頼が溢れていた。玄野は頷いた。

チビ星人
特徴 小さい
ねにもつ
好きなもの 仲間
口癖 コーッコーッ

今回新しいメンバーはいなかった。だが、生き残らなくてはならない。
玄野は帰り道で多恵と別れた後(余談だが交際に関して、という意
味ではない)加藤の家に行っていた。
『歩君、だね?』
『はい…』
歩は兄がいなくなってから、学校にも行かず兄をずっと探し続けて
いたらしい。ガンツのことを伏せながら、玄野は歩に約束したのだ。
加藤を連れて帰ると。
玄野の戦う理由が、いくつも生まれた。
一つは、加藤の弟、歩のため。
二つ目は、自分を支えてくれた多恵のため。
なにより、自分のために。
「行こう」

ゲームを続けますか?
(Y/N)
彼の選んだ答えは、「Y」だった。

その頃、とある宇宙の暗黒惑星に雷のような光が空に轟いた。
一瞬光った時、光を失った彼の姿が見えた。

地球で「ジン」と名乗っていた、赤い巨人の姿が。
その額から、緑色の光が雫石のように溢れ、空へと流れていっていた。

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