GANTZ/ULTRASEVEN.AX(完結)

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「みんな、囲んで!囲んで撃つんです!」
ジンは汗だくの状態で指示を出した。
だが。
「計ちゃんどけ!」
一同の射線上に玄野は一人で立ってショットガンを構えていた。
「俺がやるって言ってんだろ」
玄野が言うと同時にショットガンの銃身から?ガンと同じ形のユニットが飛び出す。
そこに仁王像の拳が叩き込まれた。
玄野はそれを素早く身を屈めてかわし、更に返す拳を避けて後方へ飛んだ。
「くっそ!」
背中からぶつかるようにして加藤を押し退けながら、玄野は再び仁王像に向かっていく。
「計ちゃん退がれ!」
加藤は泣き出しそうな声で叫んだ。
「玄野さん逃げろ!」
玄野はそれにも構わず、仁王像の足元をぐるぐると走り回り、相手の背中に回りこんでショットガンの引き金を引いた。バレルがスライドして、作動音がギュオオーンと響く。
まるでそれを見越していたかのように、仁王像は射程をかわし、突然宙に舞い上がった。そうして、空中で座禅の様な姿勢を取り、取り囲む一同の真ん中へと落下した。
凄まじい衝撃が地面を波立たせ、近くにいた全員が空中に投げ出された。
仁王像は岡崎を標的に定め、彼を追いかけ回していた。スーツを着ていない岡崎は逃げ回るのがやっとで、反撃する余裕さえなかった。
「みんな連れて逃げろ!」
玄野が、加藤に声をかける。
「一人じゃ無理だ!」
だが玄野は聞かない。
「あいつは俺がやる!」
そう言うや、加藤たちを追い越して仁王像のもとへ走り出す。
「無理だって!」
加藤の声がむなしく響くなか、玄野は仁王像の足元に突進した。気づいた仁王像が振り返り、蹴りを繰り出す。が、玄野はスーツのジャンプ力でそれをかわし、さらに打ち込まれた拳を掻い潜って相手の股間を抜けながら、頭上に向けてショットガンを一発発射した。
「やれるぞ!」
岡崎がショットガンを構える。そこにスライディングしてきた玄野が、立ち上がりざま背中をぶつけるようにして岡崎を押し退ける。
「邪魔だっ!」
仁王像が玄野たちに向けて足を振り上げた。玄野はそれを悠々と見切ってギリギリのところで身を翻し、その場を離れる。一人取り残された岡崎は、頭上から降ってくる仁王像の巨大な足を見上げることしかできなかった。
バン!
その足が破裂音と共に吹き飛んだ。巨大を支える足を失った仁王像は、そのまま岡崎の上に倒れ込んだ。
「きゃ!」
岸本の悲鳴を聞きながら、玄野は動きの止まった仁王像を正面から狙い撃った。咆哮を上げながら拳を叩き込もうとした仁王像は、あっけなく破裂、自らの血肉を撒き散らして絶命した。
「は…はあああ…ハッ、ハッ…」
桜井はXガンを取り落とし、地面にへたり込んだまま、ただ喘ぎ声を漏らしていた。
ジン・加藤、それに岸本もまた、飛び散る肉片の中、銃を構えたまま呆然としている。
玄野は自慢げに笑みを浮かべ、倒した仁王像を見やっていた。
「これで文句ないだろ?」
「全然ダメだよ!仲間が死んだんじゃ…」
玄野はギラリとした目で加藤をねめつけた。
「それ、お前がちゃんと逃がさなかった分だろ」
加藤は玄野の視線にも怯まず、まっすぐ相手を見返していた。玄野もじっと加藤を見つめ、諦めたように言った。
「ま、いいや。次からはしっかり全員逃がしてくれれば、敵は俺が全部やっつけるから」
玄野が明らかに見下すような視線を向ける。加藤は視線を落とし、ショックを受けたように押し黙っていた。
「あとジン、見ただろ俺の実力をな。もうお前の力はいらない。故郷に帰っていいぞ」
ジンは言葉を失っている。
二人の反応にはは、と乾いた笑いを漏らした玄野は不審そうに体を見回した。
「あ?なんだよ、まだ部屋戻んねーのかよ」
星人を仕留めたのに、転送がまだ始まらない。
その時、扉が開く音が聞こえてきた。玄野はその音に反応して素早
く振り返り、ショットガンを構えた。同じく振り返ったジンたちも
その音を立てた主に気付いて、博物館の正面玄関に走った。
ドアを開けてまろび出たのは、全身傷だらけの徳川だった。
そのまま崩れるように倒れる徳川を抱き起こし、加藤は声をかけた。
「おい…」
しかし、徳川はそのまま息を引き取った。加藤の目が悔しげに細め
られる。
「死んじゃったの…?」
尋ねる岸本に、加藤は答える代わり、厳しい目になって俯いた。
その二人の向こうから、不敵や笑みを浮かべる玄野がやって来る。
「まだいた」
そう呟いて玄野はショットガンを構え直し、たった今徳川が出てき
たガラスをはめ込んだ大扉から、警戒しつつ博物館の中へと踏み込
んでいった。
奥には大階段と、半開きの金色の扉が見える。玄野の後からジンに
加藤、そして岸本が入っていく。早くも、玄野は階段を小走りに駆
け上がっていた。
開いた扉の隙間から、中の様子はすぐにわかった。展示室の中は一段低くなっていて、入り口の左右に設えられた短い階段を降りて入
る構造だった。
入り口付近に隠れ場所が無さそうなことを確かめて、玄野は展示室
に入り込んだ。その後からジンたちも入ってくる。
岸本が後ろ手に扉を閉じると、彼らはそれぞれ二手に別れて展示室
の中に降りていった。
「…」
玄野は床に徳川のものと思われる血溜まりを見た。
さっきの徳川の傷を思い出すと、ここに潜む星人は刃物を使うよう
だ。
玄野はなおも余裕のまま、展示室の奥へと進んでいった。
表の仁王像が星人だったことを考えれば、やはりここで何らかの仏像に星人が擬態しているはずだ。
玄野はいつでも発射できるようショットガンを構えた。
しかし、辺りを見渡しても動きそうな気配のあるものは見当たらなかった。もしかしたら、敵はすでにここを出て、外にいるのではないか…そう考えて玄野が気を抜きかけた時だった。
「玄野さん後ろ!」
「?」
ジンの声に振り返った玄野は、そこに、たった今までいなかったはずの仏像が立っていることに驚いた。仏具や武器を持った何本もの腕を後光のように広げ、穏やかな表情を浮かべてたたずんでいた。
確か、名前は千手観音だったか。
とっさにショットガンを向けた。が、玄野は撃たずに様子を伺う。
短い間があった。
不意に、どう見ても作り物にしか思えなかった千手観音の腕が、ま
さに生き物のように一斉にうねりくねった。かわす間も与えず、い
くつもの腕が、握った刃を玄野の頭上から叩きつける。
「くあ!」
玄野はとっさに掲げたショットガンで攻撃を受け止めたものの、その攻撃の重さに耐えきれず膝を着いてしまった。反動でショットガンは弾き飛ばされ、身を翻して逃げようとするが、膝を着いた状態から敵の攻撃をかわして脱出する可能性は皆無だった。
玄野は四つん這いの姿勢で背後から剣の猛攻を受けていた。ひやりとする感触と共に、燃えるような激痛が玄野の両足を襲う。
「ぐああ…あ…ぅ」
「玄野さん!」
「計ちゃん!」
ジンは再び迫り来る千手観音の刃を玄野の時のように盾にしてふせぎ、その隙に加藤が玄野の上半身をつかみ、無理やり引きずって部屋の向こうへと逃れていった。
「先に攻撃してきたのはお前たちだ…」
攻撃を防ぎながら加藤を見送るジンに突然、千手観音が言葉を発した。
「お前たちは仲間を殺した…」

思わずジンのショットガンを握る力が鈍り出す。
「復讐する」
(しまっ…)
さっきの千手観音の一言でショットガンは割れ、ジンは肩を切られた。
「っぐ!」
こうなったら、変身するしかないとスーツの内側からアックスアイを取り出したが…
ズン!
アックスアイを握った手が千手観音の発したビームによって貫かれ、アックスアイは床にカラン!と音をたてて落ちた。

「うくっ…ああ…くっ…そ…」
別室まで加藤に抱えられた玄野は、太い血の帯を引きながら物陰に押し込まれた。苦悶の声をあげ続ける玄野を青ざめた顔で見下ろし、加藤は決意を込めて言った。
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