GANTZ/ULTRASEVEN.AX(完結)

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マーキンド星人との戦いから数日、バイトを終えた加藤がアパートに帰りついたのは夕方のことだった。
部屋の入り口に、人影があることに気づいて、加藤は足を止めた。
相手を見定めようと、目を細めてじっと様子を伺う。
「あれ?」
岸本だった。
「あ…ごめんなさい。偶然通りかかったら…」
それから二人はどちらからともなく歩き出し、川べりにある展望台までやってきて、そこで足を止めた。夕日が差し込む人気のない展望台で、ぼんやりと景色に目をやりながら、加藤が口を開いた。
「弟と会った、のかな?」
岸本は頷いた。
「でも、話しかけなかった。あの…なんて絶命したらいいか、わかんなくて」
加藤は下を流れる川を見下ろして、沈黙していた。
「加藤君」
呼ばれた加藤は岸本の顔を見る。
「あそこでおきてること、なんなのかな。私たち、本当に生きてるのかな…?」
加藤はただわからないと呟き、再び足元に目線を落とした。
岸本は続けた。
「私はあの部屋に着いた時、やっと死ねたって思ったんです。ずっと…死んでもいいって思ってた」
加藤は戸惑うように顔を上げ、岸本の横顔に目をやった。なんと言葉をかけたら良いのかわからなかった。
「でも加藤君に会って、もっと生きたい…そう思うようになった。
だから…」
「俺は、障害事件を起こして捕まったことがある」
加藤は岸本を遮るように口を開いた。
「叔母を殴った。しかも数針縫うほどのけがを負わせたんだ」
岸本の動揺が伝わってくるような気がした。だが、言わねばならないと、加藤は思った。自分にかかわる人間にははっきりさせたかったのかもしれない。
「母は看護師で、父は消防士だったけど、小さい頃に事故で二人とも亡くなった。それからは叔母の家ですごすことになった。その叔母は弟に毎日のように暴力を奮ってた…。俺は歩を救いたかった。
しばらく歩のそばを離れなけれはならなかった……だから、今度は弟を一人にしたくないんです」
今はアパートを借りて叔母とは疎遠になりましたけど、と一言付け加えた加藤は深いため息を一つついてから岸本に頭を下げた。
「ごめん。変なこと言って」
見返す岸本は何も言えなかった。加藤はゆっくり歩き出しながら言った。
「送ってくよ」
加藤は岸本を振り替えって微笑すると、岸本も微笑み返して小走りに加藤の後を追うのだった。

翌日、田中星人の時に訪れた現場がニュースで映し出されていた。
玄野がXガンで破壊したアパートはブルーシートで覆われ、捜査員らしき連中が大勢、機材を抱えて出入りしている。
『今月五日未明、東京都品川区八潮にあるアパートで発生した倒壊事故について、警察はアパートの老朽化によるものが原因ではとの見方を強めていますが、細かい原因の特定はできていません。また、警察では、多摩市、港区などで十年前から都内全域で報告されている、原因不明の破壊痕との関連も、事件、事故の−−』
不意に加藤はリモコンを取り上げ、テレビのスイッチを切った。
側で飯を頬張っていた歩は心配そうな口調で加藤に言葉をかけた。
「最近疲れてんじゃん?今日は休みなよ。俺もでかくなったらバイト始めるからさ」
加藤は小さい笑みを浮かべて弟をたしなめた。
「何を言ってんだ。歩はまず勉強だ」
歩は兄の顔を覗き込むようにようにして言った。
「やっぱ、嫌なことあったんだろ」
「ないよ別に」
苦笑まじりにかぶりを振った。
だが歩は加藤の心を見透かすようにじっと見つめている。加藤は観
念したように顔を伏せた。
「…最近怖い夢ばかり見ちゃってさ、…人がたくさん死んで、殺されて…でも兄ちゃんは何もできないんだ。誰も、救えないんだ…」
重い沈黙。
歩は食器を片付け、腰を浮かせながら言った。
「よかったじゃん。夢で」
「そうだな」
台所へ向かった弟の背にそう言い返す。。食器を洗う音が聞こえてきた。
「ていうか最近、俺も兄ちゃんがどっか言っていなくなっちゃう夢ばっかりなんだけど」
加藤は内心ぎょっとなって台所に顔を向けた。
「でも怖くないし。俺と離れて困るのは兄ちゃんだよ。メシ、作れる?」
「歩」
加藤も自分の食器の片付けを済ませ、台所へ向かう。
「兄ちゃんはどこにも行かない。いなくならない」
振り替えって歩は微笑して手を差し出した。
「わかってるよそんなこと…貸して」
食器を受け取った歩は慣れた手つきで食器を洗い始めた。
その弟の背を、兄は穏やかな笑顔で見守った。

その日の夜。
「じゃあ計ちゃん、またね」
多恵は少し顔を紅葉させながら、玄野のアパートから自宅へ戻って
いった。
単なる罰ゲームのはずが、知らぬ間に部屋に連れ込む関係にまでな
っていた。
(なんでこんななっちまったんだ…?)
一見地味な少女だが、彼女のどこかにある魅力に玄野は惹かれたの
かもしれない。
部屋に戻った玄野。
その時、彼の目は僅かに見開かれた。
頭の中に、あの音が響く。
キュイイイイン
「きた」
無表情だった玄野の顔に、どこか歪んだ笑みがのぼった。
「きたきたきた!」

予感があった。
加藤はすやすやと寝息を立てる歩を見下ろして、暗い部屋の中に一人たたずんでいた。
「歩……絶対戻ってくるからな」
その加藤の目が閉じられる。玄野の頭の中の音と同じものが、加藤の耳にも響いていた。

玄野は自信に満ちた目でガンツを見つめていた。
その隣の加藤は玄野とは対照的だった。不安を目に宿し、表情は固
く、明らかに緊張の色が見える。
「加藤さん、大丈夫ですか?」
ジンは軽く加藤に話しかけると、加藤は「大丈夫だ」と返した。
「…また、始まるんですか?」
「みたい…ですね」
岸本はガンツにじっと目を向けながら、不安げな鈴木の問いに頷いた。
「ここは極楽浄土に往生する者、無限地獄に落ちる者、死者が集い、いずれかに振り分けられる場所」
新入りらしき僧侶姿の男が合掌しながら進み出た。
「そう!神様は我々を見られ、裁きを与えようとされているのです」
慣れた様子で説教を始めるものの、短いモヒカンを金髪に染め、身につけた金のロレックスや派手な指輪が胡散臭さを強調している。
別の新入りはその似非僧侶の説教に目もくれず、ただガンツを見つめていた。
「みんな、落ち着いてきいてください。みなさんはまだ生きています。信じられないでしょうけど、間違いないです」
ジンは手を上げて新入りたちに注目を集めようとした。一人でも多くの人を救わなくてはならない。そう思った。加藤も動き出す。
「もうじき音楽が流れるはずです。ラジオ体操の歌だ」
何言ってんのこいつ?新入りたちはそう思った。
しかし、その疑いはすぐ晴れた。

あーたーらしいあっさがきた♪
きぼーおのあーさーが♪
そーれいちっ!にっ!さん!

「悪いが、あんたよりは先のことを見てきてる」
加藤は似非僧侶、徳川の顔を見て言ったとき、徳川は加藤を鋭い目で睨んでいた。
ガンツに敵の情報が現れる。そこに映し出されたのは、どう見ても仁王像にしか見えない写真だった。

あばれんぼう星人
特徴 つおい
好きなもの 狭いところ
口癖 ぬっ

おこりんぼう星人
特徴 おおきい
好きなもの 静かなところ
口癖 はっ

加藤は全員の視線が集中したところでスーツケースを手にとり、部
屋のみんなに聞こえるように言った。
「まず、このケースの中のスーツを着てください。俺たちは、これから起こることを経験してます。戦いたくなくても、戦わなきゃいけなくなる」
「喝!」
徳川が加藤の言葉を遮った。
「惑わされたらあきませんよ。みなさん、神様は言うとります。この人は煩悩の象徴だと!」
徳川は自信たっぷりの口調で加藤を見やった。もちろんそれが嘘なのは事実を知ってる加藤にはよくわかっていたが、それを他の人間にも納得させるのは簡単ではないということもわかっていた。
「俺を信じてください。みんなで絶対に生き残るんです。スーツを着てください!早く!」
「加藤」
それまで沈黙していた玄野が、加藤のもとに歩み寄り、肩を掴んで
顔をしかめた。
「初めての奴らに説明したってムダだって」
加藤は驚き顔で玄野を見返した。
「計ちゃんはこの人たちを助けたくないのか?」
「だから、俺一人でやるんだよ」
「それじゃ死んじゃうよ。あの西みたいに」
玄野は鼻で笑い、手にした長柄のショットガンを構える仕草をして
見せた。
「俺はあいつとは違う」
その言葉に加藤だけでなくジンも表情を固くした。
「大丈夫だ。お前らも俺が守るから」
「俺はいいんだよ!もう誰にも死んで欲しくないんだ!」
ジンも堪えきれずに玄野に強く言った。
「玄野さん、あなたはスーツの力に魅せられてるだけだ!あなた一
人で勝てるなら誰も苦労しない!」
ジンと加藤の言葉に玄野は呆れ声で応じた。
「お前らさ、お前本気で言ってんの?自分が元の世界に帰りたいだ
けなんじゃない?」
二人は言葉に詰まった。
加藤にはまだ小学生の弟がいる。一人でいられるような年齢じゃな
いし自立もしてない弟を一人にするわけにはいかなかった。
ジンも元々故郷からの任務でこの地球を訪れただけでガンツ世界と
いう危険な領域を踏み込むつもりはなかった。
帰りたい、その気持ちは欠片もないわけではない。
「…い、いや」
「図星かよ。二人揃ってただの偽善者か」
ジンは抗議するように玄野の背中にすがった。
「そんなつもりじゃ!」
「お前疑問に思ったことないのかよ?本当に自分の意思で戦ってるのか。そんなんじゃお前の故郷の都合のいい飼い犬だな」
玄野の投げつけた言葉にジンは彼の肩に手をかけたまま、呆然と凍りついた。
「ほら、手を放せよ!」
じっとにらみ会う二人の間に岸本が割って入った。
「平賀君!」
「ふ、二人とも、今はそういう…」
遅れて鈴木も前に出る。
転送が始まったのは、その時だった。にらめっこしたままの姿勢で玄野とジンの体が消えていく。
岡崎という名の新入りがショットガンを抱えたまま呟いた。
「嘘やん…」
もう一人、あの西と同じくらいの学生、桜井が鈴木に近づいて尋ねた。
「あっ、あの、ヒトミは?さっきまで一緒にいて…」
鈴木は桜井を見返し、スーツケースを取り上げて差し出した。
「スーツを着てくれるかな?さっきの彼を信じてあげて」
混乱した様子の桜井だったが、鈴木の言葉に、じっとスーツケースを見やるのだった。
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