GANTZ/ULTRASEVEN.AX(完結)

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田中星人との戦闘から数日、岸本は帰宅して玄野は今日も一人。
自分はヒーローだと、あの時は思った。だが今は力の源であるスーツを着ていないため、何の力も感じない。
軽くシャドーボクシングのような動きをしたが、今一つ実感がない。
玄野は台所へ向かい、コンロに出しっぱなしにしてあるフライパンを手に持った。試しに素手で曲げようとしたが、どう考えても曲がるものではない。自分の手が擦れて痛い。
「よし…」
玄野はスーツを着てからまたフライパンを手に取り、両手で押し潰すように力を込めた。
グニャッという感覚があって、フライパンはあっさりと自分の手の中でねじ曲がっていた。会心の笑みが浮かぶ。やはり夢ではなかったんだ。
それからスーツの上から服を着込んで、家の近くにある階段道の踊り場に立った。
「…」
かなり急な階段だ。
しばらくためらった後、玄野は短く助走し、思い切り踏みきった。
冗談のような勢いで体が宙に舞い上がった。そのまま体は円を描いてすぐ下の道路に着地したが、普通なら命の危険を覚悟しなければならない高さから落ちたにも関わらず、ほとんど衝撃すら感じなかった。
飛び降りた…いや、飛び上がった階段を振り返り、玄野はニヤッと笑った。
階段の一番上から見下ろす景色は、さっきとは明らかに違っていた。
高く、遠い。生身で飛べば、本気で死ぬだろう。
玄野は大きく下がって助走をつけ、跳んだ。飛んだと言ってもいい。
そう勘違いするほど玄野は高く、遠くへと跳躍していた。
ズン!と音を立てて着地してから、不敵な笑みと共に顔を上げる。
今度は、もっと高いところだ。
それからほどなくして、玄野が立っていたのは、市街地のビルの屋上だった。ここからどこまで飛んでいけるか。
「うおおおおおお!!!!」
飛んだ。
高すぎてチビりそうなほど地上の人が小さく見えた。いや、見えなかったかも知れない。
隣のビルに上手く着地に成功した。
「………」
夕日が見える。高いビルの上からそれを見つめる自分がなんとなくかっこよく感じる。
(いや、まだ俺はヒーローってわけじゃなかったな)
彼がそう思ったのは、ジンの存在による影響だった。よくよく考えたら、あいつに助けられてるところが幾度かある。
助けられてばかりじゃダメだ。自分だけでなんとかしなければならないんだ。
誰も見てない路地裏に飛び降り、自宅に帰ろうとした、その時だっ
た。
「返せ!それおっちゃんのだ!」
一人の学生が不良たちから金を巻き上げられていた。
(確か…米倉、だったか?)
玄野はその不良に見覚えがあった。自分の学校で一学年上の、不良
グループの一人。人としての評判もかなり悪い。
「うっせーんだよ!よこせってんだよ!」
米倉は学年を乱暴に殴り、学年はごみの山に突っ込んだ。
「待てよ!」
そこに玄野がやって来る。ヒーローの参上だ。
「なんだてめえ?まさかヒーローごっこしにきたのか?」
「ごっこ?違うね」
玄野は米倉の胸ぐらを掴み出した。その手は米倉の首を締め上げながら高くなっていく。
「は…離せ…!」
そして玄野はちょっと加減して米倉の腹を殴った。
「がは!」
米倉は血ヘドを吐きながら地面に横たわった。理解不能。こんな小
柄な奴にこんな力があるとは思ってなかった。
玄野は落ちていた石を指で摘まむと、ちょっと力を入れただけでそ
の石は砕け散った。
「…すりつぶす」
「ひ…ひいいいいいい!!」
米倉は金を捨て、怖じけついて逃げ出した。
「ほら」
玄野はそこらじゅうに散らばった札束を集め学年に手渡した。
「あ、ありがとう!これでおっちゃんの墓建てれる!!」
「墓?」
「おっちゃん、この大金遺して死んじまったんだ。
でも妙なんだ。職は数日前に手にしてほんのちょっとしか経ってないのにこんな大金…」
「ねえ、その話聞かせてくれないか?」
玄野には聞き覚えのある声が聞こえてきた。玄野がその声の方を振り向くと、そこにはジンが立っていた。

その後、学生と別れ、玄野とジンは喫茶店で話し合った。
「最近妙に脳が異常収縮して死亡する人たちが多発しているとニュースや新聞でも報道されてました。原因は不明ですが、一つ死亡者たちに共通点があるんです」
「共通点?」
「死亡する直接急に金回りがよくなってるんですよ。さっきの学生が慕っていた男性も」
「何か、心当たりは?」
ジュースを啜りながら玄野はジンに尋ねた。
「その男性の遺品の一つにこれが」
ジンは一枚の銀色に光る名刺を取り出した。それにはロゴでこう記されている。
「『タマル』…?」
「ええ、実は僕も彼、タマルに昼頃に会いました。『いい仕事を紹介しますよ』って」
「つまり、お前はこのタマルが脳ミソが縮まった死亡者たちとなにか関係があるって?」
「僕はそう睨んでます」
すると、二人は突如金縛りにあった。ガンツが自分たちを呼び出している。
みるみるうちに二人は頭から消滅し、ガンツの部屋に転送された。
偶然にも他の客たちには気付かれなかった。

「あ、計ちゃん」
玄野たちを最初に出迎えたのは加藤だった。二人が転送された直後、私服姿の岸本も転送されてきた。
今回も新たにガンツ部屋の住人となった人がいる。髪が薄くメガネをかけた男性が一人。
「あ…あの…ここは?さっきまで仕事してたんですが…」
男性は恐る恐る玄野たちに話しかけてきた。
ちょうどその時、ガンツからラジオ体操の歌が流れた。

あーたーらしいーあっさーがきた♪きーぼーおのあーさーが♪

そーれいち!に!さん!

ラジオ体操の歌が終わると、今回のターゲットが表示される。

タマル星人
特徴 へんなやつ
好きなもの わからん
口癖 タマルです、いい仕事紹介しますよ♪

「な…なんだよこれ…まるっきり普通の人じゃないか」
「まさか、この人を…」
加藤と岸本は映像に映った男が、明らかに人間の男性の姿をしていることに動揺している。まさか、一般人を殺害しろとガンツは言ってるのか?
「この人だ!」
突然ジンは声を上げた。
「この人だって、こいつがタマルって奴か?」
ジンはコクッと頷いた。ジンが昼頃にあったとされるこの男がタマ
ル。
(やはりこの人、何かたくらんでいる…)
「なあ計ちゃん、じゃああの映像の人は星人だってのか?」
「ああ、ジンの奴そこまで調べてやがったんだ」
(調べた…?)
それから玄野は加藤に脳が異常収縮して死亡した人たちとタマルの関係を説明した。
加藤はジンをチラと見た。
(いくらなんてもはっきりし過ぎてる…
ジン、君は何者なんだ?)
ガンツからスーツやXガンなどを納めたラックが飛び出し、岸本は見られないよう玄関に向かって着替え始めた。加藤も自分のスーツを取り出す。
「えっと、これ失礼ですけどあなたのですか?」
加藤は気まずそうにメガネの男性に尋ねる。加藤が手にとったスーツケースには『ハゲ』と書かれていた。新しいメンバーは彼だけなのでそれ以外考えられないが、いざ尋ねると本当に気まずい。
「は…はあ…」
男性はとりあえずスーツケースを手にとる。
ちなみにこの男性の名は鈴木良一。
「このスーツを着てください。急いで」
加藤に言われるがまま、鈴木は自分のスーツを着た。

一同はスーツを着てしばらくすると、ガンツによって現場に転送された。
転送先は何かの工場と思われる建物の前だった。
「ここが…タマルの職場ってことか」
玄野が言った。
「ここは…私の仕事場?」
鈴木が気になることを言った。
「仕事場って、おっちゃんもここで働いてたのか?」
鈴木は玄野の言葉を否定しなかった。
鈴木の話だと、ここの工場で仕事での過労死が原因でガンツ部屋に転送されたらしい。
「ますます匂うな…この工場」
「敵はこの中にいるようです。行きましょう」

一同は工場の中に侵入した。鈴木はおどおどしながらも玄野たちについて行った。
工場の廊下は薄暗く、どこか不気味だった。
「岸本さん、反応は?」
「この辺り、みたいだけど…」
タマルらしき反応は近くにあるが、その肝心のタマルはいない。と思ったら「わあ!」
「きゃあああ!?」
後ろからお化けのようにタマルが現れた。岸本はビックリしてコン
トローラーを落としてしまう。
「あ、君は昼間のお兄さんでしょ?もしかして鈴木さんの紹介もあってきたのかな?いや〜お友達も連れてきて、こっちも助かるよ」
タマルはジンを見ておどけるように言った。
「ええ、まあ」
ジンは嘘をついた。もちろんタマルの企みを暴くための演技だ。
「ジン!」
加藤はジンが何を考えてるんだ?と疑問を抱かせたが、ジンは目配せして「考えがある」と伝え、加藤を納得させた。
「仕事場はこっちだよ」
一同はタマルに着いていった。
「仕事は二種類ある。一つは給料はそこそこでキツイけどやりがいがあるよ。もう一つはその場で説明するね」
地下への階段を降り、扉を開けると、広い部屋に着いた。たくさんのパイプになにやら怪しい巨大な機械が壁に埋め込まれ、ヘルメットを被った作業員たちが荷物運びや清掃をしている。
「ここがキツイけどやりがいがある仕事」
「あの機械は?一体何を作ってるんです?」
「知ってどうするの?」
加藤が尋ねると、タマルは不思議そうに言い返した。
「いや、だって仕事の内容を知らずに働くのってなんか嫌じゃない
ですか?」
「意外だなあ。そんなこと言われたの初めてだ。
次行こっか。できれば、これから紹介する仕事をして欲しいな」
再びタマルは歩き出す。
「鈴木さん、あなたはどっちの仕事を?」
ジンは鈴木に尋ねる。
「私は確か、もう一つの仕事でお金をたくさん溜めたんだ。だけど
…」
「…あの部屋にいつのまにか…ってことですね?」
「ええ」
ジンは作業員たちが囲む巨大な機械を睨み、言った。
「どう見ても普通じゃないな…」
少し遅れてタマルに再び着いていく。
「ここが、もう一つの仕事」
さっきのコンクリートの仕事場とは違う、木製の部屋が仕事場だっ
た。
会議室のような円形テーブルを囲い、患者服のような服を着た人たちが頭に不思議な輪を身に付け、ただじっと座っている。円形テーブルの真ん中には、頭の輪のケーブルを通して緑色の発光した光が灯っている。
「これは?一体何を?」
岸本の質問にタマルは答える。
「見ての通りだよ。何もしてない。ちょっとエネルギーを彼らから貰ってるんだ。さっきの装置を動かすためのね」
「ふざけてるのか、こんな仕事、あるわけ…」
玄野がそう言おうとしたとき、一人の男性が輪を外してこちらにやって来た。
だが、どこか気力が抜けた口調だった。
「タマルさん、おかげでお金がたっくさん貯まった。これで一生遊んで暮らせるよ…」
そう言って立ち去ろうとした瞬間、彼は突然倒れた。
「おい!」
加藤は彼を起こそうと揺り動かしたが、全く動かなかった。いや、
動かないのではない。
「死んでる…!」
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