ウルトラマンアグル 英雄の子と魔導師たち(完結)

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海鳴市の街は荒れた状態が続いていた。その騒ぎを起こした犯人は、今まで地球のために戦ってきたはずの巨人アグル。
「どうして…どうしてこんなことを…!?」
上空に浮かび上がってそれを見ているなのはとユーノはただ驚くしかできない。そして、生まれて初めての、まだ年行かない少女にはキツすぎる『裏切り』という感覚に苛まれた。
「ウルトラマンさん!やめてください!」
必死に呼びかけるなのは。信じたくなかった。自分を助けてくれたウルトラマンが、こんな暴挙に出る現実を絶対に受け入れようとしなかった。彼女の呼びかけも虚しく、光弾を連発してビルを破壊し、暴れ続けるアグル。
『なのは、彼は話を聞くつもりもないみたいだよ。心苦しいけど…』
ユーノはこれ以上彼の暴挙を見過ごせなかった。このまま放って置いたところで、海鳴市が廃墟になるのを待つだけだ。
だが、それは一つの残酷な答えでもあった。
「それって…ウルトラマンさんと戦えってこと…?」
『…』
「無理だよ…そんなの」
心優しい彼女に、恩人へ歯向かうなんてことができるのか。いや、彼女の言うとおりできなかった。
と、彼女が迷っている間に上空よりミサイルが発射され、アグルの方へ直撃した。なのはの世界の自衛隊が、アグルの愚行を阻止すべく動き出したのである。自衛隊の機体が数機も飛び回りながらアグルに向けてさらにミサイルを連発する。
「やめて!やめてください!」
『ちょ…なのは!ダメだ!まだ結界を展開してないのにそんな目立ったら…!!』
ユーノがまだ結界を展開していないにもかかわらず恩人のアグルを攻撃されることを嫌がり、自衛隊の機体に攻撃の中止を呼びかけた。まず自衛隊の隊員たちになのはの声は聞こえるはずもない。うるさすぎるエンジン音が外からの音をほとんど遮断してしまう。しかも空の上に浮かぶ少女、逆に彼女が異系の存在として怪しまれてしまうではないか。
ミサイルがアグルに直撃し怯むが、アグルも対抗して光球を自衛隊の機体に向けて発射した。
〈リキデイター!〉
「デア!」
光球が自衛隊の機体に直撃し、たった一発で全機を粉々に打ち砕いてしまった。
火の粉を降らしながら、自衛隊の機体は瓦礫となって地上に落ちていった。まるで興味なさそうにアグルはそれに視線を向けようともせず、夜空へと飛び去っていった。
「……」
なのはの、レイジングハートを握る力が強まった。
さっきまで必死に、こんな馬鹿なことをやめて欲しかったというのに、アグルは全く聞き入れず蛮行を繰り返した。自分は彼への恩で甘さが生じて彼を止めることもできなかった。
自分の甘さが、人を死なせてしまった。その悔しさと自分への怒りが、アグルへの許せない気持ちが募った。

一方、時の庭園の地下の廃棄物の部屋。
全身が鉄のゴミで形成された怪獣『ユメノカタマリ』がソラの変身したアグルに立ちはだかっていた。
「ディア!」
ユメノカタマリに接近し、甲羅のように盛り上がった背中に正拳を放つと、拳が打ち付けられた箇所から奇怪な煙が噴出された。
(毒ガス…!)
煙に毒性があるのを感じたアグルはすぐ倒立回転で後方へと避ける。再び身構えると、ユメノカタマリがこちらに接近している。後ろは壁。押しつぶされまいと正面からユメノカタマリを受け止めたアグルだが、その判断はミスだった。
ユメノカタマリを両手で止めた瞬間、アグルが触れていたユメノカタマリの頭に、彼の手が吸い込まれてしまったのだ。
「!?」
必死に腕をユメノカタマリから引っこ抜こうとするも、なかなか抜けない。両手を封じられた隙に、ユメノカタマリの体から毒性のガスが再び噴出され、彼の顔に浴びせられた。
風圧で吹き飛ばされたアグルは壁に叩きつけられた。
しかし、まだユメノカタマリの攻撃が終わっていない。続いて自分の体を形成しているゴミの塊を礫としてアグルに放った。アグルはそれを発射した光球で打ち消そうとする。
〈リキデイター!〉
次々を撃ち込まれる礫を、彼の撃った光球は消し去り、ユメノカタマリに直撃した。
が、光球はユメノカタマリに触れた瞬間消え去った。否、正確には吸収されたのだ。
ならばと、アグルは額のクリスタルから青い光を発光させ、必殺光線としてユメノカタマリに発射した。
〈フォトンクラッシャー!〉
「ハアアアア…ディア!」
だが、その光線もやはりユメノカタマリに吸収されてしまう。
完全に光線を封じられてしまったアグル。しかも、光線がことごとく封じられて呆然としている間にユメノカタマリにのしかかれてしまう。鉄球さえも軽く感じるほどの巨体。
このまま押しつぶされてしまうのか。
だが、彼は諦めなかった。右手に青い光の剣を形成し、神速の裁きでユメノカタマリの体を切り裂いた。
〈アグルブレード!〉
「ハ!ジェア!」
その剣さばきでユメノカタマリの体はいくつかのゴミの塊と化し、崩れ落ちた。
「はあ…はあ…」
アグルは息を切らしながらも立ち上がり、青い発光体となってその部屋から抜け出し、再びプレシアのいる部屋に舞い戻った。
「さすがね。ウルトラマン。彼らが恐れるだけはある」
背を向けたまま、皮肉じみた言い方でプレシアはアグルに言った。アグルは一歩前に出てプレシアに尋ねる。
「答えてもらおうか。あなたが言う『彼ら』とは誰だ?」
「…」
「この世界に現れるはずのない怪獣がこの世界に現れたのは、あなたの後ろにいる何者かが暗躍してるんじゃないのか?例えば、俺の前に度々現れるマントの男とか…」
「…そんなことを気にしてる場合かしら?」
不敵な笑みを浮かべながらプレシアはアグルの方に向き直りながら言った。
「何?」
「今、あなたの影が街で暴れているわよ」
「!!」
「早くいかないと大変なことになるんじゃないかしら?」
「く…」
再び青い発光体となったアグルは時の庭園から去り、地球へ急行した。
「誰にも邪魔はさせない。私とあの子の未来を取り戻すためにも…」
遠い目で天井を見上げ、プレシアは一つの名を呟いた。
「ねえ、アリシア…?」
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