ウルトラマンアグル 英雄の子と魔導師たち(完結)

□#6
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「はあ…はあ…」
とある星の高層ビル街。遠く見ればとても立派な都市に見える場所に思えた。だが、実際にそこに住んでいる人は誰もいない。正式な定住者が一人もいないほぼ無人のゴーストタウンだった。
そんな街のハイウェイを突っ走る少女がいた。ツインテールの金髪に黒を強調としたバリアジャケット。見たところまだ二十歳になる前の女性のようだ。
彼女は自分の背後からノシノシを獲物を狙う猛獣のごとく襲ってきている怪獣に狙われていた。
『古代怪獣アーストロン』。
「グォォオオオオ!!」
「く…」
魔力はもう残り少ない。飛行もできないのならこうして走って逃げるのがやっとなのだ。
「あ!」
誤って彼女は頓いて転んでしまった。体を起こして顔を上げた時には、もうアーストロンは彼女の頭上からヨダレを垂らしながら見下ろしていた。
死の恐怖。体力の限界のほかに彼女はそれに支配されて身動きが取れなくなっていた。
ここまでか、と思ったその時だった。
「ギェエエエエェェェェ!!!」
アーストロンに複数のミサイル、そしてビームが放たれ、アーストロンは崩れ落ちた。
「お、とびっきりの美人のねーちゃん発見!」
振り向くと、大きめのバズーカを担いでいる茶髪の青年だった。如何にも軽い態度で女性を見ている。
そんな青年とは別に空から黒く塗りつぶされた戦闘機が降りてきた。着地すると、その機体のコクピットからもう一人、クールな雰囲気を漂わせた金髪の青年が二人の前に降りてきた。
「またナンパかこの宇宙バカめ。しかし、こんな場所に人がいたとはな…」
「おいこら!誰が宇宙馬鹿だ!」
「あなたは…?」
宇宙バカと言われて騒ぐ茶髪の青年を無視し、女性が青年に尋ねる。
「UFZのチームZリーダー…というのはもう随分前か。『ソラ・クロサキ』だ。君は?」
「私は、フェイト・テスタロッサ…」

「…!」
ソラは体を起こした。気がつくと、窓から東の空より登りし太陽の光が差し込んできている。
確か俺はガンQと戦って意識を失って…。
誰かが自分をここに運んできたのだろうか?
『マスター、お目覚めですか?』
右腕から声が聞こえてきた。自分の愛用デバイス『アグレイター(アル)』の声だ。
「ああ…ここは?」
『マイ・サー(フェイト)のマンションですよ』
「バルディッシュ…」
アグレイターとは別の、服の左腕の袖の中に隠していた待機モードのバルディッシュを手に取った。フェイトしか持っていないはずのデバイス。それを彼がどうして持っているのだろうか。
『マイ・サーがミスター(ソラ)をここへ運んでくださいました』
「そうか…フェイトが、か。…また俺は出過ぎたか」
彼はアグレイターの青く光るクリスタルを見つめる。その時の彼の青い瞳は、海よりも深い悲しみの色に染まっていた。
(果たして、俺は本当にここに来てよかったのだろうか?)
『マスター?』
「…あいつらはどこに行ったんだ?」
彼が二機に尋ねると、噂すれば影のごとく、ガタっと彼のいる部屋の扉が開かれ、黒い布地の私服を着込んだフェイトと、人間形態のアルフが入ってきた。
「よかった。起きたんですね」
「やはり君が、俺をここに運んできたのか」
フェイトはベッド脇の机に朝食の乗ったおぼんを置き、ソラは皿に乗せられていたパンにかじりつく。
「にしてもフェイト、最近まともに食べてないのにどうして飯をめぐもうなんて思ったんだい?」
若干呆れ気味でアルフは言った。彼女の言うとおり、フェイトはジュエルシード集めでほとんど休もうともせず、食事も怠っていたのだ。
「ちょっと食欲わかなくって…」
「…何も食べてないのか?」
口に含んでいたパンを飲み込み、水で口を潤したソラがフェイトの顔を見て尋ねると、彼女はコクっと頷いた。ため息をつきながら片手で自分の顔を覆うソラ。感謝しつつもフェイトの行動に若干呆れていた。
「あ…あの…」
「ちょっと、なんか礼でも言ったらどうなんだい?」
「感謝はしているさ。だが、少々呆れたよ」
ひねくれたような言い方をしながらも、彼はもう一個乗せられていたジャムパンをフェイトの方に差し出した。
「君も食べておけ。ジュエルシードを集める以上危険が伴うのが必然だ。なおさら飯を食ってしっかり栄養とっておくこと。いいな?」
「ご、ごめんなさい…」
厳しくも当然なことを言われ、フェイトは小動物のように落ち込んだ。そんな彼女を見てソラは、急に薄い笑みを浮かべ出した。
「こういう時は、『ありがとう』だ」
「あ…その…ありが、とう…」
どうして笑われたのだろうかとソラの顔を見て疑問に思ったフェイトだが、言われたとおりソラの差し出したジャムパンを受け取った。
(へえ、意外といい奴?)
どうも怪しい奴。そんなアルフのソラへの第一印象が塗り変わった時だった。

食事を終え、アルフは空になった食器を片付けに部屋を後にした。
「あの、教えてくれますか?」
顔つきを変えて、フェイトはソラに言った。
「あなたは、どうして私を知ってるんですか?それに、あの青い巨人の姿は…」
彼をここに連れてきてからずっと気になっていた。自分は名前を知られているほどそんなに有名人でもない。それにあの時、自分を怒鳴り散らした様からすると、以前から自分のことを知っていたような口ぶりだ。
彼がなにかを隠しているのは確実である。
「それを聞いてどうしようと?」
そっけなく目を背けてソラは言い返した。やはりとは思っていたが、警戒しているのかこの人は話すつもりはまるでないらしい。
「それをもし話したところで、君は俺をどうするつもりなんだ?」
「それは…その…」
質問に質問、返答に困る問いを突きつけられフェイトは困った。それでもなんとか聴きだろそうと言葉を探りながら続けた。
「別に、あなたをどうしようとは思ってません。ただ、知りたいんです。あなたが誰なのか、あの青い巨人のこと、それとあの巨大な怪物たちのことも…」
ジュエルシードを集める際に何度も現れた怪獣。まだ9歳の彼女だが、魔力を持つ巨大生物でもあれほど巨大かつ危険な生物を見たのは初めてだし、聞いたこともなかった。
「君が知る必要がそうまでしてあるのか?」
「あるから聴いてるんです」
「…」
「どうしても、話せないんです?」
「フェイト、もういいんじゃないか」
食器を片付け、部屋に戻ってきたアルフがため息を着いてフェイトに言った。
「悪い奴じゃないっぽいけど、本人には触れたくないことかもしれなし」
アルフは先ほどから話すことを拒み、だんまりを続けるソラを見て、本人にとってはキズモノのようなことではないかと思った。フェイトを間近で見続けてきた彼女だからそう考えたのだ。
「それは、そうかもしれないけど…」
「…本当は存在しないはずだった」
突然ソラが口を開いたためか、二人はギョッとした。
「怪獣もウルトラマンも、本来はこの世界に存在さえしないはずだった。だが、狂い始めたんだ。別世界からの干渉でな」
「『ウルトラマン』…それがあなたのあの姿…」
あの青い巨人の姿、それが彼のもう一つの姿。だが、『存在しないはず』とは一体どう言う意味なのだろう。彼があの姿で戦った。そして彼の戦った巨大生物。それが、『ウルトラマン』と『怪獣』という存在を証明しているはずなのに、なぜ自らの存在を否定的に言うのだろうか。
それに、別世界からの干渉とは…。
「まさか、それって『時空管理局』の連中じゃ…」
アルフが一つの仮説を立てたが、ソラはそれを否定した。
「いくら連中でも、世間に知られるほど深いところまで干渉しない。その世界から見れば侵略と見られかねないからな。それに奴らは管理世界の監視が目的だ。奴らの掲げる『正義』と大きくずれている」
「そう…だね。管理局から見ればあたしらは…」
「…あ」
フェイトが壁にかけられた時計を見て、気がついたように立ち上がった。
「お出かけか?」
「ええ、母さんに会いに行く約束してたんで…」
ソラが尋ねると、フェイトは頷いて答えた。
母さん…か。その時のソラの顔が一瞬訝しげなものに見えていた。が、その表情はすぐに消えていつもの真顔に戻っていた。
「母親はここに帰ってこないのか?」
そう尋ねるとフェイトは首を横に振った。
「私とアルフだけだよ、ここで暮らしてるの。母さんは…忙しいから」
「そうか…」
「また話を聞きたいから、申し訳ないけどあなたはここにいてください。お風呂とかも自由に使っていいので…」
「じゃあ、またね」
フェイトとアルフは一言ソラに言い残し、部屋を後にした。
だが、残るように言われたにもかかわらず、ソラはベッドから体を起こし、フェイトたちに気づかれないよう後をつけていった。
(もしかしたら、フェイトの母親とあのマントの奴…)

母へのお土産にケーキを買ってきたフェイトは、アルフと共にマンションの屋上にやって来ていた。フェイトがそのまま目を瞑って詠唱を開始すると、金色の魔法陣が彼女たちの足元に展開された。
「次元転移。次元座標876C……4419……3312……D699……3583……A1460……779……F3125。開け、誘いの扉……時の庭園、テスタロッサの主の下へ……!」
言い終えた瞬間、フェイトとアルフは金色の光の柱に包まれ、天へと舞い上がって行った。
「…バルディッシュ、覚えているな?『時の庭園』への座標は」
袖の内側から出した待機状態のバルディッシュに尋ねると、『はい』と返答が帰ってきた。
「俺たちも行くか。もしかしたら…」
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