ウルトラマンアグル 英雄の子と魔導師たち(完結)

□#5
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「妙な奴…だったね」
海鳴市の高級マンションの最上階の部屋。フェイトとアルフはそこを潜伏場所としていた。一見金持ちが住んでそうな場所なのだが、彼女たちの住んでいる部屋は思ったほど業火な家具はない。ごく普通の生活が送れる程度のものとテーブルの上に置かれた写真立て…。少し悪い言い方かもしれないが、簡素な部屋だった。
窓から差し込む月夜を見ながら、アルフはフェイトの手を見る。あれだけ血を噴出していたのだ。手当が必要だと思っていたのだが、その必要はほとんどなかった。傷だらけで血まみれなはずのフェイトの手に、傷跡はほんのわずかしか残っていなかったのだ。
思い出せば、フェイトが無理やり素手でジュエルシードを封じた時、ソラが変身したアグルの青く光る手に自分の手が包まれていた。あの時、アグルが彼女の傷をも癒す魔法でもかけたと想像付いた。
「うん、不思議。でも、悪い人じゃなさそう」
確かに彼は、フェイトにとっても何者なのかまるでつかめない。
でも、確かなことを彼女は知っていた。
(手…とても温かかったな。昔の母さんみたいな…)
それにあの時自分に投げかけた怒鳴り声。初対面の時とは違ってかなり気が立ってもいたが、言葉に込められた意味は慈悲深いものだった。
でもアルフの問いには何も答えずどこかに消えてしまった。
俗で言うブキヨウサン…というものだろうか?
「そう、だね。ねえフェイト、本当に明日報告に行くのかい?」
「うん。手当してくれてありがとう。……早くジュエルシードを一つでも多く集めないと母さんが心配するしね」
自分に嘘をつく。
「心配、するかなぁ?あの人が……」
アルフが目を逸らす。
フェイトにとって、その『母』とは優しかった人。だが今は、まるで違う。アルフの場合は違うようだ。フェイトの抱く優しいイメージが、全然沸かなかった。
「母さんは不器用なだけだから、私には、ちゃんとわかってる」
「報告だけなら私が行ければいいんだけど……」
「母さん、アルフの言うことあんまり聞いてくれないからね」
彼女の言葉で、アルフが肩を落とす。そんな彼女を気遣うように、フェイトはアルフの頭を撫でてあげた。
「アルフは、こんなに優しくていい子なのにね」
フェイトの母とこの二人の少女たち…
一体どういう関係なのか…。

最近奇妙な噂が、海鳴市中に流れていた。
ある女子高生は言う。
「ねえねえ、見た?今朝のニュース」
「うん、見た見た」
「あれ、チョーキモいよね」
「あれをキモくないとかいうやつなんかいないって。だって」
巨大な目玉だから。
その女子校生たちが歩道を通り過ぎた時、ボロボロになった新聞紙の切れ端が風に流され、宙に舞う。風が病んで地面に落ちた時、その記事には見出しで大きくこう取り上げられていた。
『怪奇!謎の巨大目玉!』
記事の写真には、地面に埋められているかのように巨大な目が顔を出していた。
「目玉…か」
その切れ端を拾い上げ、ソラはポツリと呟いた。
『人間のために戦う。またそんな上っ面の大義名分で戦うのかい?』
「!」
彼は辺りを見渡した。今の声、以前も聞いたことがある。あのマントの人物の声だ。
一体どこにいる?ソラは自分の周りにいる人間たちに目を通していくが、彼らの中で誰も自分に話しかけている人物などいなかった。
『もう我々がこの世界にいる時点で、この世界は狂いだしている。いや、正しくは「真に正しくある世界」になろうとしているというべきか』
「違う…」
『この世界は我々の救済を待ち望んでいる。もう首を突っ込むのはやめてもらおうか』
「断じて違う…!この世界はお前たちの言う『救済』など望んでいない!」
『では、こうしようか』
彼の頭の中に響く、マントの人物が次に発した言葉。それを聞いてソラは目を見開いていた。

――海鳴市・私立聖祥大学付属小学校前
ジュエルシードの反応を追い、なのははユーノと共に夜中の学校に来ていた。
「…」
まだ9歳の少女に夜中の学校。できれば映画やテレビだけの縁にしておきたいことだったが、神は非情にもそれを許さなかった。
不運にもここからジュエルシードの反応があったのだ。
『なのは、怖いなら僕がやっぱり…』
「う、うううん!だだだだだだいじょぶ…だいじょおぶだからゆうのくうん…あはははは…」
全然だいじょぶじゃないとユーノは悟った。無理な笑顔で言葉が異様におかしいし、彼女の顔には嫌な汗がダラダラと流れ落ち、足もバイブレーションのように震えてしまっている。
さすがの彼女でも女の子らしく、お化けの類が怖いようだ。
夜中の学校というものは、何かと怪談話というものがよく存在する。トイレの花子さんといったベタなものから、その学校独特の怪談と様々。なのはの学校でもある噂が広がりつつあった。これは彼女の学校で勤務している、ある警備員が体験したことである。
夜中に誰もいないはずの教室から誰かの声が聞こえると。

その声の正体は、意外な人物だった。
声の正体は、なんとソラだった。定住場所のない彼は密かになのはの学校に隠れ住んでいたのだ。幸い家庭科室や保健室の存在もあって、衣食住ができる環境が確保できた。不法侵入であることに関しては、目を伏せておこう(伏せるな…)。
その彼は今、あのマントの男がその日の昼、彼に耳打ちした時の言葉の誘いに乗ったこと
でこの教室に足を踏み入れていた。
『合わせたい人がいる』。マントの人物はそう言い放っていた。
「…誰かいるんだろ?出てこいよ」
『どうしてあなたは戦うの?』
「!」
背後から誰かの…いや、聞き覚えのある声が聞こえてきた。背後を振り向くと、自分の立っている経壇横の、天井に吊るされたテレビ台の、テレビ画面に映っていた人物を見た途端、彼の顔は驚愕なものに変わっていた。
「お前は…!」
その画面に映っていた人物とはなんと…。
『会いたかったわ、ソラ…』
その画面に映っていたのはなんと、現時点で彼と言葉をまともに交わしていないはずのフェイトだった。

『なのは』
『うん』
一方、なのはとユーノは自分とは別の魔力を探知、目の前にある階段を登っていった。さっきまでの恐怖心がまるで嘘のようだ。彼女が向かった先、そこは『6−2』と記された教室。上級生の使う教室だ。中から気配がすることを考えると、誰かがここにいるのだろう。そ〜っと顔をのぞかせると、彼女は言葉を失ったように目を見開いた。
(あれって…フェイトちゃん…だよね)
(多分、でも…)
教室の入口から隠れてみていた彼女とユーノは絶対におかしいと思っていた。なぜならあのフェイトは現在の9歳の少女ではなく、今のソラとほぼ同年代の女性に成長した姿となっている。
そんな彼らを、またしてもマントをまとった謎の人物が彼らのいる後者とは別の校舎の屋上から奇妙な笑を浮かべた状態で見ていた。
『またこうして会えるなんて、夢みたい』
テレビ画面からホログラム映像として、成長した姿のフェイトはソラの元に歩み寄ってきた。
「どうして…お前が…」
『あなたを追ってきた。あなたと私が生きていた、「あの時代」から』
一歩ずつ近づきながら、フェイトは続けた。
『あなたは、私たちのいた時代を変えるために「過去」の時代へ飛んできた。すべて、私たちとあなたに降りかかった悲劇をなかったことにするために』
「…」
『でも、そんな必要なんかない。もう起こったこと…それを変えることなんて絶対に許されるものじゃない。それにあなたがずっと求めていた私は、こうしてあなたの前にいるじゃない。だからソラ、もう戦うのはやめましょう。
今ならまだ間に合うわ。私たちのいた時代へ帰りましょう。そして…』
彼のすぐ近くに来たところで立ち止まった彼女は、半透明で透き通った手でソラの顔を撫で、顔を近づけていく。
『あなたと私だけの世界で、ずっと一緒に…ね』
目を閉じ、顔を近づけていく幻影フェイト。ソラもだんだん彼女に惹かれて目を閉じ迎え入れていく。
物陰から見ていたマントの人物は、その顔に笑みの濃さを増していた。
しかし、その表情も一気に崩れ去る。
『!?』
幻影フェイトの悲鳴が聞こえてきた。マントの人物は目を見開いて何が起こったのか確認すると、信じがたい光景が目に入った。
いつの間にかソラが、幻影フェイトを光の剣で一太刀浴びせていたのだ。
なのはは目を疑った。彼が今使った光の剣…どこからどうみても…
(フェイトちゃんの…バルディッシュ!?)
これは一体どういうことなのだろうか。なぜフェイトしか持っていないはずのデバイスを彼が持っているのだ?
『なん…で』
胸を押さえながら、苦しそうに膝をついた幻影のフェイトはソラを見上げる。
『あなた、私を見捨てるの…?』
「今のお前は…俺の知るお前じゃない」
光の剣を向け、彼女を直視しないままソラは言った。
『苦しい…助けて…ねえ、助けてよ…ソラ』
彼女がそう言った時、だんだんと幻影フェイトの姿が足元から崩れ消えていく。それでも彼女はソラに助けを求めて手を伸ばしていく。
「黙れ…消えろお!!」
『ああああああああああああ!!!』
ソラがさらにもう一太刀振り下ろすと同時に幻影フェイトの姿は苦悶の叫びとともに消滅した。誘惑に打ち勝ったソラだったが、こらえるように全身を震わせていた。
「…」
なのはとユーノはただ自分の見ている光景を呆然と見ていた。そしてもの悲しげに身を震わせる彼の姿を目に焼き付けていた。
と、ソラの前にあのマントの男が舞い降りるように姿を現した。
『せっかく会わせてあげたのに、冷血だな』
「所詮、あれは幻影だ」
バルディッシュを待機モードに戻し、ソラは幻影フェイトが消えた床を俯いたまま見ながら言った。
『たとえ幻影でも、君は彼女がいればそれでいいとは思わないのかい?』
「幻にとらわれることは、『あいつら』に対する裏切りだ」
『…幻影とかそんなこと、世界の救済のためにはどうでもいいだろう?』
「なに…?」
顔を上げるソラ。マントの人物は続ける。
『現実など自分の思い通りに動かない。やがて現実の重みで人間はすぐ挫折し、拗ねては不幸になる。誰もが幸せであることが至上の幸福だと、君たち人間はそう思っているはずだろう?
だったら、なんでも思いどおりになる夢に溺れればいい。夢の中でならば不幸なことは自分の意思で軽く念じれば消える。そして幸福に満ちた夢が人の心を癒す。それが永遠に続くこと…それこそ知的生命体の絶対にして最高の幸福だ!』
「そんなのは…ちがいます!」
その声でソラとマントの人物は教室の入口の方へ視線を向ける。レイジングハートをマントの人物に向け、姿を現したなのはは言い放った。
「なのは…?」
「確かに、私も友達とケンカすることなんてなければよかったって思います。でも、それじゃダメなんだ。喧嘩もできないんじゃ、本当に大事なことも見失っちゃうだけです!」
『…愚かな。自らの幸福を捨て去るとは』
「まやかしだ」
ソラの口から否定の言葉が出る。
「幸福は誰かに与えられるものではない…自身で掴みとらなくてはならないんだ」
『…残念だよ。あの「ウルトラマン」の子で、君自身も強大な力を得ているから敵対するだけの関係はもったいないと思っていたのだが…どうあっても我々の邪魔をするというのか』
ついに愛想が尽きたようにマントの人物はつぶやくと、手に機械のようなものを取り出し、天に掲げた。
『戦国の妖術師の魂よ…我が呼び掛けに応え、我らに仇なす者を抹殺せよ』
【バトルナイザー、モンスロード!】
機械から男性の声を再現した電子音が鳴り響き、紫色の光のカードが宙に舞い上がって地に落ちた。不気味で巨大な目玉を持つ、巨大な怪人となって。
その怪獣が出たと同時に、マントの男は消えていた。
奇獣 ガンQ。
「新聞で見た目玉…!」
いざリアルに見てみると本当に不気味な目玉だ。その単眼は血走っていて、さらには肉体そのものも気持ちの悪い体つきだ。
「下がっていろ」
ソラはなのはにそう言うと、アグレイターのウィングを開くと同時にきらめいた青い輝きに身を包むと、ウルトラマンアグルに変身しグラウンド上に待ち構えるガンQの前にドスン!と砂煙を巻き起こしながら降り立った。
「…ウルトラ…マン」
なのははアグルの姿を見て、小さく呟いた。
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