ウルトラマンアグル 英雄の子と魔導師たち(完結)

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夕方――私立聖祥大学付属小学校
「なんでずっと黙ってんのよ!」
温泉旅行から数日の放課後。教室にアリサの怒号が響いた。怒りを露にする彼女に対し、なのはは彼女の目を見ることができず、俯いたままだ。
あれからなのは はボーっとすることが多くなっていた。あのフェイトと名乗った金髪の少女と青い巨人のことが気になっていた。
「ごめん……」
「謝るんなら事情ぐらい聞かせなさいよ!それともあたしと話するのがそんなに嫌!?」
「アリサちゃん!」
謝られてもなお、余計に怒りを募らせるアリサ。一年生の頃からなのはとの付き合いが当たり前になった今、彼女が何かを隠していることが癪に障っていた。そんな暴走気味のアリサを必死にすずかが止めていた。
「……」
「そう、そんなにあたしたちと話したくないのね」
「!アリサちゃん、私はそんなこと…!」
「行こ、すずか!」
そんなことない!と否定しようとしたなのはだが、もう遅かった。しびれを切らしたアリサはきせるを返し、カバンを背負って教室を出て行った。
「じ、じゃあね…なのはちゃん」
申し訳なさそうにすずかは取り残されたなのはに言い残し、アリサを追っていった。
「帰ろ…」
カバンを背負い、なのはも落ち込み気味で床と向き合いながら歩き出した。

とぼとぼと歩きながら帰り道を行くなのは。さっきから彼女の顔に日が差し込まない。とぼとぼとおぼつかない足取りで前を向かないまま歩いていた。
段々足取りがさらにおぼつかなくなり、立ち止まったところでビル街の歩道のベンチに腰掛けた。気が重くて家に帰る気も起こらない。家族に今の自分の顔を見られたくなかった。
なのはは自分の弱さをかたくなに隠す性格だった。
ふと、自分の左隣で誰かが座る感じがし、彼女は左隣を見やろうとすると、頬に冷えきった缶が突きつけられていた。髪の逆立った金髪の青年ソラが、青い瞳で自分を見ている。
「ほら、飲むといい」
「…あ、いいんですか?」
「いいからあげてるんだろ」
急に水知らずの自分に話しかけてきたものだから動揺していたが、自分に差し出されていたオレンジジュースの缶を受け取った。
「…ありがとうございます」
蓋を開け、缶の中に詰まっていたジュースを一気に飲む。嫌なことを忘れようと少しやけになったのか、ジュースは一瞬にして消えた。
「悩み事か?」
ソラの問いに、なのはは少し苦笑した。学校から不審者に気をつけるように言われていたため最初はそうではないかと思ったが、そうでも無さそうなのでどこか安心していた。
「…なんでわかったんです?」
「そんな深刻な顔したらひと目でわかる。君は少々顔に出やすいんじゃないか?」
「う…」
痛いところを突かれたようで息を詰まらせる。
「図星、だね」
「はい…」
なのはは自分が魔導士であることとその立場においてのことを隠しながら、自分がアリサに隠し事をしていることで彼女と喧嘩してしまったことを話した。
ソラはなのはの正体を聞くことは無かったが、少なくとも彼女が友達を巻き込めない事情を抱えていることを理解した。いや、正確にはそうではなかった。最初にシンリョクが現れた際に彼女の名前を呟いていたように、本当は…。
「私、アリサちゃんに話すべきだったのでしょうか。本当のこと…」
本当は話したかった。話してすっきりしたかった。だが、あの友達思いのアリサとすずかのことだ。自分の身を心配して危険な地に飛び込む可能性があるし、自分が戦いの場に行くことも無理矢理にでも止めに入るのかもしれない。ましてや相手が、人知を超えた存在であるものばかりだ。なのはは自分と同じ危険な場にアリサたちを巻き込むことなどできるはずもなかった。
でも、迷っていた。『話さない』という判断が間違っていたのではないかと。そしてこれをきっかけにアリサと疎遠になってしまうのではないかという恐れが彼女の胸を締め付けた。
「…話さなくていいと思うよ」
「え?」
ソラの返答に、なのはは顔を上げた。
「俺はただ隠し事をしないことだけが、友達でいる条件ではないと考えている。
誰にでも隠しておきたいことがあるんだ。それをどうしても明かせない理由はくだらないことから立派なものまで幾千もあって当然のこと。無理に話す義理などない」
「…」
「逆に話さないといけないこともあるのもまた同じようにある。話さないままでいることが自分以外の人に対する害になることも不思議ではない」
なんだか難しく話す彼の話に、まだ子供のなのははかえって判断に困った。結局話さないままが正しかったのか、それとも話したほうがよかったのか混乱してしまう。
「自分が最も後悔しない選択を、人間は常に選ばなきゃ後悔しか残らない。もし君が友達を巻き込みたくないと思うのなら、そのまま離さないでおいても間違いではない。知らないほうが幸せってことも世の中にはあるというからな。
だから、選ぶのは結局自分なんだ。自分が後悔しない選択をすればいい。その選択に誇りを持てば、どんな罵りも平気だ」
「選ぶのは…自分」
ぽつりとなのはは彼の言った言葉を復唱した。
ソラは立ち上がり、西の空に広がる夕暮れを見つめながら続けた。
「…頼りない説教だったな」
そう言って彼はなのはに背を向け、歩き去ろうとする。
「あの!」
なのはは引き止めるようにソラに声をかけた。
「ありがとうございました!なんか、わかった気がします。お兄さんに言われたとおり、自分が後悔しないよう道を選んでみます」
「そうか…」
「私、高町なのはって言います。また会えますか?」
「…さあ、いつかな」
はぐらかすような笑みを浮かべ、ソラは歩き去っていった。
その背中を見えなくなるまで追っていたなのはは、ふと彼の右手首のブレスレットに目を向けた。
(あれって…)
魔導士になって以来、魔力を感じることができるようになったなのは。あのブレスレットがただの装飾品ではないことを感じ取っていた。
(デバイス…?でも、魔力とは別の何かを感じる…)
それも以前、どこかで感じた…。
ぼーっとしていたら、ポケットに入れていた携帯電話が振動した。誰からのメールなのか確認しようと開くと、すずかからのメールが目に入った。放課後のことは気にしないで、アリサちゃんのことは任せてと、なのはを気遣う文が綴られていた。内容からすると、なんだかんだでアリサは自分のことを心配してくれていたようだ。
少し安心したなのははソラのいた方向へ視線を戻したが、もうソラの姿はどこにもなかった。
(不思議な人だったな)
でも、なのはは彼の温かみのある瞳を思い出した時、別の感情に囚われた。
(なんだかあの人の目、悲しそうだった…気のせい、かな)


「約束の日まであと二日、集めたジュエルシードはまだ四つ…」
海鳴市のビルの屋上。バリアジャケット姿でアルフと共に、街のライトに照らされた。
なのはのいる歩道のすぐ近くの車道で何か大きなものが大型トラックの荷台に運ばれていた。彼女と、彼女と同じようにソラもその荷台に、不意に視線を向けた。
トラックの荷台には、卵のような古びた化石と、なんとジュエルシードが乗っかっていたのだ。ジュエルシードが車の振動で寄りかかった途端、ジュエルシードが眩い輝きを放ちだした。その輝きを浴びた卵の化石は、石化する前の充分に成長しきった卵となって蘇り、ジュエルシードを吸収しひび割れていく。
「カアアアアアアア!!!」
トラックはその卵の中から生まれようとしている化け物の鳴き声が轟いた瞬間ひっくり返り、卵の中で成長しつつあった怪物は卵の殻を突き破って巨大化した。
頭が地面に、そして上半身に二つの尾を持つ怪獣『古代怪獣ツインテール』となって。
「「うわあああああああああああああああ!!!」」
無論街の人々がパニックにならないはずがない。ツインテールの姿を見た瞬間彼らは一目散に逃げ出していった。
「怪獣…!」
なのはは癖になってきたのか、すぐ人気のないビルの裏に移動し、自分の首元にかけていたレイジングハートに触れようと…と思いきや、首にかけていたはずのレイジングハートがない。そうだ。学校に行くときはいつも机の上においていたのだった。
(どうしよう…!)
念話でユーノを呼ぼうかどうか迷っていた時、いいタイミングでユーノがレイジングハートを首にくくりつけていた状態でなのはの元に走ってきた。
「ユーノ君!ちょうどよかった」
『怪獣が出てきた時にジュエルシードの暴走を感じ取っていたからね』
そう言ってユーノはなのはの肩に乗り、すぐ結界を街に張り出した。
「ありがとう。これで戦える!行くよ、レイジングハート!」
『All Right』
レイジングハートがなのはの呼び掛けに答え、彼女にバリアジャケットを纏わせた。
すぐ空中を飛行し、街で暴れだしているツインテールを見据える。いかにも奇妙な姿をした怪獣だ。顔が地面の方にあって、尾が上半身に生えている姿をした生物なんて。
ともあれ、あの怪獣がジュエルシードを吸収しているのは確か。ツインテール眼前に移動したなのははすぐレイジングハートをシーリングフォームに変形させ、魔力を集中させていく。
だが、なのはだけではなかった。
「ジュエルシード、シリアル19!」
「「封印!」」
桜色の光線と、金色の光線がジュエルシードを吸収していたツインテール飲み込む。一瞬眩しい光が辺りを包み込み、気絶したツインテールがアスファルトの道路に横たわり、停止したジュエルシードが空中に浮遊する。その真下はコンクリートがへこみ、クレーターが出来っていた。
なのはがジュエルシードの向こう側に感じた気配を追って目を泳がせると、バリアジャケット姿のフェイトが同じようにバルディッシュをシーリングフォームに形状を変えて反対側に浮遊していた。
「フェイトちゃん……私、なのは。高町なのはだよ!市立聖翔大附属小学校三年生!」
胸に手を当て、なのははフェイトに自己紹介した。
以前答えを貰えなかった時や、アリサの時とは違う。前はちゃんと聞くことは出来なかったが、今度こそフェイトがジュエルシードを求める理由を聞こうと思った。
このまま何も知らないまま戦うのは、どうしても許せなかった。
突然の自己紹介に構わず、フェイトはバルディッシュをサイズフォームにしてなのはに突進する。
「っ!」
なのははレイジングハートをシューティングフォームに変形させ、フライアーフィンを足元に展開し、空へと逃げる。
自身の体よりも大きいその鎌でなのはへ斬りかかるフェイトだが、なのはは空を飛び避ける。そのままお互いに結界内を飛び回り戦闘が始まった。靴に生えた羽で高速で動きまわり、牽制射撃を繰り返すなのは。一方でフェイトも鎌の状態を維持したまま魔力射撃を繰り返しつつ、隙を見てはなのはへと斬りかかっている。
『隙あり!』
すると、またしてもどこからか狼形態のアルフが突撃してきた。だが、ユーノもただ見ているだけのままではいなかった。なのはの肩からダイブし、魔法陣を展開してアルフの方へ飛び出す。二匹がちょうど眼前に迫った時、ユーノの緑色の魔法陣が出現、ユーノとアルフを同時に消してしまう。
「ユーノ君!?」
『マスター、あれは転送魔法です。彼はあの使い魔ごと離れた場所へ転移しただけなのでご安心ください』
急に自分ごとアルフを消してしまったものだから驚いていたなのはだったが、ユーノが無事だということに安心する。…のはまだ早かった。我に返った時、フェイトのバルディッシュが頭上から振り下ろされようとしていたので、なのはは咄嗟にプロテクションを展開してその攻撃を防御した。
前後左右に上下も加わり繰り広げられる立体的な戦闘が行われる中、突如なのはとフェイトは止まった。二人して、同じ方…地上を見下ろしていると、ビルから煙りが湧き上がっていた。
「キュアアア!!!」
ジュエルシードを封印し用途した際、体からジュエルシードを取り除かれた影響で気絶していたツインテールが目を覚まし、暴れだしたのだ。
とその時だった。
一瞬視界を遮るほどの青い光が発生、青い巨人となってツインテールに掴みかかった。
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