ウルトラマンアグル 英雄の子と魔導師たち(完結)

□#3
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(アルフ、見つかった?)
空を飛行しながらフェイトは地上を見渡し、合間を塗ってアルフに尋ねる。今アルフは別行動でジュエルシードを持ち去ったアグルを探している。
(ああ、見つけたのは見つけたけどさ…たった今地中に逃げ込みやがった)
(え?)
(ああ、おかげで見失っちまった)
(そっか…)
(ごめんよ、フェイト。あたしがもっとしっかりしていれば…)
(アルフは悪くないよ。悪いのは…)
私だから。フェイトはそう言ってアルフを慰め、逆に自分を責める。だがいつまでくいても始まらない。引き続き彼女たちはアグルと彼の持つジュエルシードの捜索を続けた。
(あ!)
突然アルフが声を上げた。
(どうしたの、アルフ?)
(巨人が持ち去りやがったのとは別に、ジュエルシードの気配を感じた。ここから…)

一方ジュエルシードを持ち去り、幼生に戻ったコッヴを手のひらに乗せて飛行していたアグル。彼はアメリカのグランドキャニオン上空にたどり着くと、地中に真っ向から突っ込み、地中の奥へと進んでいく。これが結果的にアルフの目を盗むことにつながった。
地下を掘り進んでいるうちに、彼は地下の空洞にたどり着く。そこにコッヴを優しく寝かせ、青い発光体となって地上へと舞い上がっていった。彼がコッヴを殺さなかったのは、むやみに生き物を殺したくなかったからなのかもしれない。

今日は高町家の面々と月村家、それにアリサとユーノが加わった一同が温泉旅館を目指していた。経営している喫茶店『翠屋』もせっかくの休みなので家族全員で思い切り楽しもうとの父、士郎の提案が採用され、なのはもアリサとすずかを誘って。
「…」
走行中の車の中、アリサとすずか間に挟まれて後部座席に座っているなのはは二人を誘っておいてものの、うつむきながら手の中のユーノの頭を撫で続けていた。
先日会ったあの少女、フェイトのことが気になっていたのだ。
彼女と交戦した時のあのフェイトの赤い瞳が、どこかもの悲しげに色あせていたように見えていた。他人にうまく心を許すことができず、そして幸せとは無縁そうな孤独の色。
(なのは)
念話でユーノが話しかけてきた。
(何?ユーノ君)
(あの子のこと、考えてた?)
(にゃはは、やっぱりわかっちゃうかな?)
(あの日に帰ってきてからずっと元気がなさそうだったから、やっぱり…)
(うん、なんか凄く気になるの)
(今はあの子のことは忘れておこうよ。ほら…)
ユーノが前足でなのはの右横を指さすと、心配そうな眼差しですずかが自分の顔を覗き込んでいた。
「なのはちゃん…?」
「あ、なな…なんでもないよすずかちゃん!あはは…」
ごまかしの笑い声をあげた時、アリサはなのはの笑みにどこか胡散臭く感じ、目をしかめていた。

アグルの持ち去っていったジュエルシードを一度諦めることとし、とある温泉地の河川にフェイトとアルフは来ていた。この時のアルフは、あの狼の姿ではなく人間の姿をしている。
「うーん、この辺のはずなんだけどね…」
「まだ見つからないね」
ふう…とため息をつくフェイト。やはり機嫌を損ねてしまったのかと思ったのか、アルフを慌てて
「ご、ごめんよ…あたしの勘違いだったかな…?」
「ううん、大丈夫。アルフは間違えたりしないって私は信じてるから」
薄く優しい笑みを浮かべるフェイトは、なのはに無口な表情を向けた時とは大きく違い、どこか天使のようだった。
「ん…?」
「アルフ?」
「温泉施設の方に、あの巨人の気配が…」
アルフは魔力探知の力を備えている。だが、アグルの力は並みの魔導士の魔力とは明らかに異質だった。アグルにジュエルシードを横取りされた時、彼を追っていこうと魔力探知を発動した際、彼からいずれジュエルシードを奪い返すために幾多の魔導士たちとは明らかに違う彼の気配と力をしっかりと覚えていた。
「逃げられる前に急いで追ってみよう!」
フェイトとアルフは急いで、アグルの気配を探知された場所へと急行した。人目につかないよう飛行し、たどり着いた先は、予想外なことに温泉施設だった。
「温泉…?」
どうしてこんな場所に青い巨人の気配を感じ取ったのだろうか。てっきりあの巨人がその巨体を現しているのかと思っていたのだが、どういうことなのだろう。
ふと、一台の車が彼女たちの横を通り過ぎた。視線を流されるまま車の方に向けるフェイト。その車から降りた人物を見たとたん、アルフを引っ張って庭園の松の影に隠れた。
(ど、どうしたんだいフェイト!?)
(あの子…)
いつになく慌てるフェイトに動揺するアルフ。松の影から車の方を指差していたからその方へ目を向けると、意外な顔ぶれをその目にした。
「すっごーい!」
ジュエルシードをめぐって一度争いあった、なのはだった。今回は彼女の両親や姉妹、友達と見られる少女たちも同行している。
「さあ、今日はゆっくり温泉に浸かっていけ!」
パシッと両手を叩いて場を盛り上げる士郎。まさにわーい!と言っているようにテンションを上げるなのはたち。フェイトはどこか切ない視線で彼女たちをじっと見ていた。そんな彼女を、アルフもじっと見ていた。
(そういえば、フェイトって父親の存在自体知らなかったんだよな…)
思考の中アルフがこう言ったことを考えると、フェイトは女手一つで母親に育てられてきたのだろう。だから父親という存在を知らず、父親のいるなのはをどこか羨ましく思っていたのかもしれない。しかし、どういうわけかなのはの母親を見た時も同じだった。慈愛に満ちた母の存在。妙に隠れ場として使っている松の幹を握る力が強くなっていた。
それを見たアルフは、怒りをかすかににじませた。それは決してフェイトではなく、彼女とは別の人物に向けているものだった。
(ったく『あの女』…フェイトのたった一人の肉親だってのに、酷い奴だよ…)
「アルフ?」
気づくとフェイトが自分の顔を覗き込んできた。
「あ、そうだ!あの子の目をなんとかくぐってジュエルシード探そうよ!もしかしたらこの温泉地の客が偶然持っているのかもよ?さっそくもう一回探知して絞り込んでみるね」
笑ってごまかすということが流行っているのだろうか?不可思議なアルフの笑みにフェイトは可愛らしく首をかしげた。
「う、うん…」
人目につかない場所へ移動し、そこでアルフはフェイトが見守る中魔法陣を展開して再探知する。
「見つけた。場所は…」
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