ウルトラマンアグル 英雄の子と魔導師たち(完結)

□#2
1ページ/2ページ

シンリョクがウルトラマンアグルに撃破された直後の事…。
路地裏にて、アグルの正体である青年、ソラは一人歩いていた。凛とした顔が険しくなっていて、平穏とは言い難い。
「さて、『奴』はどこにいるのか…」
そんな彼の頭に、何者かの声が響いてきた。
『なんておこがましい』
「!」
『それで救世主にでもなったつもりか?』
『どこの世界でも同じ、自分に従わない存在をただ排除するだけ』
『さっさと自分の世界に帰るがいい』
「…」
『なんとか言ったらどうだ?ウルトラマン』
ふと、ソラは咄嗟に背後を振り返り、自分の背後にいつの間にか立っていたマントの男に、アグレイターから形成されたビームソードを向ける。
「…おこがましいのはどっちだ。消えろ」
『愚かな…せめて邪魔だけしなければよかったものを…』
『ウルトラマンとは、つくづく我々の邪魔をする…』
まるで以前から「ウルトラマン」という存在を恨んでいるかのように捨て台詞を吐き、その男は霧のように姿を消した。
「タチの悪いゴキブリまでこの世界になだれ込んでいたか。やれやれ、この様子だとなのはどころか、他の連中とも鉢合わせしそうだな…」

次の朝、なのはは昨日メールですずかと会う約束をしていたことと、なのはの兄『高町恭也』もすずかの姉『忍』と会う約束をしていたため、共にすずかの家に向かった。月村家は高町家からは遠い為、バスで移動している。
ユーノはなのはの肩に乗り、流れていく景色が新鮮なのか食い入る様に見つめていた。なかなかこのような形で外を眺めることがなかったのだろう。

すずかの家は立派な屋敷でもあった。実を言うとアリサの家も金持ちであるため、立派な家を持っている。お嬢様の友達が二人もいるなのははこういった面でもある意味すごいとも見て取れそうだ。

バスから降り、彼女の屋敷の入口の呼び鈴を押すと、ドアを開けて現れたメイドが顔を出した。
「お待ちしておりました。お嬢様がお待ちです」
メイドの女性『ノエル・K・エーアリヒカイト』に案内され、なのは達は月村家の豪邸に入る。
天井も高く広い玄関ホール、その先へとノエルに案内されながら奥へ進んでいくと、途中で忍と鉢合わせした恭弥は彼女の方へ着いていった。すずか曰く、あの二人は代の仲良しとのこと。
なのははすずかとアリサの待つテラスへと案内され、二人を向かい合う形で椅子に座った。しばらくアリサやすずかと話をしていると、不意に二人が視線を合わせてなのは達にこう言った。
「あのね、今日なのはちゃん達を誘ったのにはワケがあるの」
「「ワケ?」」
突然すずかが言ってきた言葉に、なのはが首を傾げる。すずかの横では、アリサが腕を組んで目を瞑りながら頷いている。
「最近のなのはちゃん、なんだか元気無かったでしょ?ぼーっとすることが目立ってたし、だから……」
「ようは!何か悩みがあんなら、あたし達に相談ぐらいしなさいよってこと!わかる?」
すずかが遠慮しながら続け様とした言葉を、アリサが勝手に引き継いでズバッと言い放つ。
なのはは少し驚きながらも、互いに目配せしてすずかとアリサに微笑む。
「ありがとう、アリサちゃん。すずかちゃん」
「アリサちゃんは変な所で優しいよね」
「う、うっさいわね! 別に良いでしょ、心配するぐらい……」
なのはが連続で言ってきたことで、アリサは頬を染めながら明後日の方向を向く。
そうしてまた他愛も無い話をしていると、先程玄関で出迎えたノエルの妹、『ファリン・K・エーアリヒカイト』が飲み物を持って入ってきた。
「飲み物をお持ちし…」
だが運悪く、追いかけっこをしていたユーノと猫が彼女を囲む様にして走り回った。結果二匹は外に出て行ったが、その光景をじっと見ていたファリンは目を回してしまう。
「目が回るぅ〜」
「「危ないっ!」」
なのはとすずかが咄嗟に飛び出し、ファリンの体を支える。するとなのはは、窓から必死に何かを訴えるユーノが見えた。
(なのは! ジュエルシードが……!)
(っ! 分かった!)「二人とも、ちょっと待っててね!」
なのはは直ちに部屋を飛び出していった。そんな二人の背中を、アリサとすずかは少し心配そうに、ファリンは唖然としながら見送った。

「この辺りにあるはずなんだけどね」
すずかの屋敷から少し離れた木陰に二人組の人影があった。一人は黒い服を来た長い金髪ツインテールの少女、もう一人は相方の少女より年上に見られ、少し野性的なところが見える女性。ただおかしいのは、その女性の頭になぜか猫か犬のような耳が生えていることだった。
「根気良く探そう。ここにあるのは、間違いないから」
そう言った金髪の少女の手には、三角の金の塊のようなアイテムが握られていた。

人目には付きそうにない草の中に飛び込んでしまった二匹の猫。
その内の一匹は草の中になにか光るものを発見した。気になって近づくと、数字の彫り込まれた綺麗な石だった。それも、二個。
もう分かる人もいるだろう。その猫は偶然にも草の中に落ちていたジュエルシードを見つけたのだ。猫はジュエルシードを前足で軽く触れてみる。しかし、その猫は特に興味なさそうに歩き去っていった。
だが、その猫だけではなかった。密かに、普通の人から見れば明らかに異質な生き物が同じようにじっと見ていたのだ。まるで両腕が鎌のような形をしていて、口内の牙は凶暴な肉食動物よりも鋭い。その異質な生き物がジュエルシードに近付いてそれに触れた瞬間、ジュエルシードに触れた猫と同じタイミングでその体を輝かせた。

もう一匹が森の草をかき分けながら走る中、その猫は突然立ち止まった。草の生い茂る先に、もう一匹の猫たちが怪しい光に包まれていく光景だった。恐怖に駆られた猫はすぐ取って返してその視線から逃げだそうと来た道を折り返して走り出した。
前の方を見ないでただひたすら走ると、猫は見知らぬ男の足にぶつかってしまった。
「にゃ!?」
「?」
その男は猫に気が着くと、その猫を両手で持ち上げた。
「野良猫か?」
最初はそう思っていたが、鈴のついた首輪があるなら飼い主がいると見える。その猫は怯えてパニック状態なのか、彼の手の中で身を震わせながら暴れだした。
「落ち着けって、ほら」
猫を右腕でうまく乗せて、適当に近くに生えていたねこじゃらしをとると、その毛先を猫に向ける。すると、猫はそのねこじゃらしに気を取られ、それを捕まえようと前足を動かし出した。ようやく落ち着いたのを悟った男は、その猫を降ろし、猫はすずかの家の方へ去っていった。
「ここか、アル?」
『はい』
緑の生い茂る森の中、その男、ソラもそこに来ていたのだ。今彼が話しているのは、アグルへの変身にも使っていたデバイス、『アグレイター』だ。どうもなのはのレイジングハートと同様、彼も自我を持ったデバイス『インテリジェントデバイス』の一種のようだ。ソラは彼を『アル』と略して呼んでいる。(本当は英語で喋っているが、作者の英語力不足のため、ほとんど日本語に訳します。あしからず)
「シンリョクだけであればいいと思っていたが…」
『仕方ありません。こんな事態になったのは「奴」の仕業ですから。奴らの計画を何としても阻止しましょう』
「そうだな…」
アルの言葉に頷き、ソラは辺りを見渡す。見たところ、何も異常はなさそうに見えた。いたって静か…なのは普通の人間の視点だ。彼は気づいていた。ここに何かがある。その証拠に、この森で生活している鳥は飛び去っていて、小動物の気配さえなかった。
「…くるか」
ふと、地響きがとどろき出した。ソラはアグレイターのウィングを開き、変身の構えを取ろうとした時だった。
『マスター、待ってください』
突然アルが止めた。
「どうした?」
『二時の方向をよくご覧になって…』
「?」
一体どうしたというのだろう。彼は二時の方向に視線を向けると、いかにもおかしな光景が目に映った。
「…は?」
思わず彼は間抜けな声を漏らした。

さて、ジュエルシードと猫を追いかけて外に出たなのはたち。空の景色が変わった。これはユーノが結界を展開したことを表している。この結界を展開することで、人目につかず、結界が消えたあとも建物に損傷がないようにするための手段となる。

しかし、今回は妙と言えば、妙なものだった。
なぜなら…。
「にゃああ」
この鳴き声に聞き覚えのない人はいないだろう。
そう、猫。

猫。

THE CAT.

しかし、その猫の視点から見ておかしいのは、自分より大きかったはずのなのはや、辺りの木々が小さいこと。実はその猫、偶然草陰の中に発見したジュエルシードに触れて怪獣並みに巨大化してしまったのだ。
「これ…どゆこと?」
なにかのバラエティ番組のネタなのか?目を点にして唖然となるなのはは同じようにリアクションに困っているユーノに尋ねる。
『たぶん、あの猫の「大きくなりたい」という願いがジュエルシードに反応したからじゃないかな…?』
「どうしよう…あの子さっき逃げ出した子だよ。危害を加えちゃったらすずかちゃんが…」
『動きを止めて、その隙になのはが猫の体内にあるジュエルシードを封じるしかなさそうだ。非殺傷設定で攻撃すれば気絶程度で済むはずだよ』
「そだね。このまま放っておいたらまずいもんね」
彼女がク首から下げていたレイジングハートに触れたその時だった。巨大化した猫に忍び寄る巨大生物が近づいてきた。額や体中に宝石のようなものを埋め込ませ、両手が鎌のような形状に出来上がっている。さっきの異質な生物が巨大化したものだった。
『宇宙戦闘獣コッヴ』。
あのコッヴも巨大化した猫と同様、まだ幼生だった肉体をジュエルシードの力で一気に成長させたのだ。
「か、怪獣!」
『見て!あの怪獣の額!』
ユーノがなのはに強く言う。なのははコッヴの額を見ると、なんとコッヴの額にジュエルシードが埋め込まれているではないか。しかも見たところ、あの巨大化した猫に襲いかかろうと走り出している。しかもなのはの予想通り、その鋭い両手で猫を捕まえ、ヨダレまみれで飢えに飢えた牙をむき出した。猫はその鎌状の腕に頭を殴られて気絶している。
間違いない、あの猫を食べる気だ。もし食われてしまえば、すずかに申し訳が立たなくなる。
「レイジングハート!」
『All right』
危機を悟ったなのははレイジングハートを掲げて桜色の光に身を包み、バリアジャケットに身を包んだ。
『まずあの怪獣の注意を引かせておこう!猫から離れたところでジュエルシードを封印するんだ!』
「わかった!」
肩に乗っているユーノの指示に従い、杖に変形したレイジングハートをコッヴに向けるなのは。が、その時だった。
「ゴカア!?」
突然コッヴはどこからかはなられた青い光弾によって飛ばされ、猫から突き放されてしまう。すぐなのはは光弾の飛んできた方へ視線を向けると、自分を一度救ったあの青い巨人ウルトラマンアグルが立っていた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ