ウルトラマンゼロ サーヴァント(完結)

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「痛っ…朝か」
サイトは藁の寝床から起きた。
「目が覚めたら元の世界に戻ってた、なんてことにはならなかった
か…」
薄い藁の上で寝ていたものだから背中が痛い。背中をさすりながら
ルイズを見た。ぐっすり気持ち良さそうに眠っている。
「くそ…のんきにぐーすか寝やがって。こっちの身にもなれよ。お
い、起きろ」
ルイズを揺すって起こそうとするが、全然起きる気配がない。
「このクックペリーパイ美味しい〜…」
「まだ寝てやがる……」
起こされる身になったことが、これほど腹立つものになったのは初
めてだ。
「おい!!起きろーーー!!!!!!!!」
「にゃふ!?」
サイトの突然の雄叫びによってルイズはベッドから落ちた。
「何!?何事!?」
「朝だ」
ルイズはサイトの顔を見てギョッ!とする。
「誰よあんた!?」
「平賀サイトだ。忘れんなよ」
「あー昨日召喚した使い魔ね。着替えさせて」
ルイズはタンスを指差してあくびする。
「それくらい自分でやれ。使い魔は奴隷じゃないんだろ。五歳児でもできることもしないのか、貴族ってのは?」
「う〜…わかったわよ!自分でやればいいんでしょ。部屋から出なさい。でも洗濯はしときなさいよ」
「はいはい」
サイトはルイズの服で一杯の洗濯籠を抱え、部屋を出た。



「洗濯するところってどこだ?」
芝生の校庭を歩き回るが、予想以上に広い。一体どこなのか…
「あっあのー…」
「ん?」
サイトは振り向くと、そこには黒髪のメイドの少女がいた。年は、
同じくらいだろうか。ルイズのように勝ち気なところは見受けられ
ず、少し大人しい印象だ。
「あなたはミス・ヴァリエールが召喚した使い魔さんですか?」
「知ってるの?」
「ええ、平民が召喚されたと学院中で噂になってますから。
あの、お名前は?」
「サイト、平賀サイトだ」
「ヒラガサイト…さん?変わった名前ですね」
「かもな。君は?」
「私はこの学院でメイドをしているシエスタといいます」
「君もメイジ…って言うのかな?」
「いえ、まさか!私はあなたと同じ平民です。同じ平民同士仲良くしましょうね。
ところで、何をなさっていたのですか?」
「あー、洗濯するところを探してたところなんだ。どこか、教えて
くれる?」
サイトは洗濯籠を見せて言った。
「どうして?それは私たちの仕事なんですよ。なんなら私が洗濯し
ましょうか?」
「いいの?」
「ええ、遠慮なく」
シエスタは明るい笑みで答える。
「ありがとう!女の下着だからちょっと違和感があったんだ」
「いえ、気になさらないでください」
「じゃあさ、俺にも手伝えることないかな?やることあまりないか
ら」
「じゃあ後程にやってほしいことがあったらお伝えします」
「わかった」
サイトはルイズの部屋へ戻った。



ルイズの部屋の扉の前につくと、キュルケが赤い巨大なトカゲ連れ
ていた。しっぽには火が灯っていて、まるでポケ○ンのヒ○カゲをリアルにしたような感じだ。
「あら、ルイズの使い魔じゃない」
「あっ昨日の…えーと…」
なんだったっけ…とサイトは思考する。
「キュルケよ。あなたは?名前まだ聞いてなかったわね」
「平賀サイト」
「ヒラガサイト?変な名前ね」
「ほっとけ」
ムッとして目を背ける。目を背けたのは、怒っていたわけではなく、キュルケの胸元が妙に目立っていたからだ。
「そのトカゲは?」
「サラマンダーのフレイムよ。仲良くしてやってね」
「きゅるる〜」
「へえ、危害は無いのか?」
「大丈夫よ。使い魔は主人には忠実だから」
その時ルイズの部屋の扉が開かれた。
「あんた、何ツェルプストーと話しているのよ!」
「なんだよ。話すくらいいいだろ」
イチイチ怒るようなルイズの態度にサイトはどうも好印象を持てず
にいた。
「それより朝食は?まさか行かないの?」
「言われなくたっていくわよ」
「そう、じゃあ先に行ってるわね。ゼロのルイズ」
キュルケはフレイムを連れて食堂に向かった。
「うぅ〜」
ルイズはキュルケの背を見て悔しそうに歯噛みしていた。
「どしたんだよ」
「キュルケはサラマンダーを呼び出したのに何で私はこんな平民な
んかを…」
「仕方ないだろ。呼び出したのお前だし。
そういえば、「ゼロ」ってなんだ?昨日から気になってるけど」
「気にしなくていいわよ!」




「朝食はやっぱり焼きたてのクックペリーパイと、お肉たっぷりの
子羊のスープね」
アルヴィーズの食堂。こかで生徒たちは食事をとる。ルイズはナイ
フで肉を切り分けながら朝食を取り始めた。
「ねえルイズ」
「何よ」
「いくら使い魔だからって床で、それも固いパンだけはないんじゃない?」
サイトは床の上に置かれた皿を見た。固そうなパンに不味そうなスープしかない。
「いいのよ使い魔だし。貴族がどれほど偉いか、きっちり教えなくちゃならないもの」
ひもじそうに正座されるサイトを無視するように、ルイズは肉を口
に含む。
「私が言ったこと完全に無視してるわね…あんたの言う貴族って、
そんなに弱いもの苛めが好きなの?」
「あんたなんかに説教されたくないわよ」
ルイズはキュルケを嫌っていた。女性としても自分より魅力的で、
男子からも人気がある。魔法に関してもだ。
そして何より、自分の出であるヴァリエール家とキュルケのツェル
プストー家は犬猿の仲だ。先祖代代、恋人をツェルプストー家に盗
られてばかりな話を聞かされている。
しかし、最後はただのひがみ話で先祖とは言っても他人事なのに、
ルイズはそんな理由でキュルケを嫌っていた。
「ふざけるな…こんな横暴許されないぞ」
サイトもさすがに怒っていた。身が震えている。
「何よ。あんたなんかが貴族の食堂で食事ができるだけでも感謝す
る事なのに!!」
「それがふざけてるって言ってんだよ。このパン固くて食えねーし。
もういい。こんなのしか用意できないならいらない」
サイトは固いパンを食べながら食堂を出た。
「待ちなさいよ!!」
ルイズは止めようとしたが、それでもサイトは話を聞かずに食堂を
出てしまう。しかも、食堂にいた生徒たちに笑われた。
「見ろよ、ゼロのルイズが使い魔に見捨てられてるぞ」
「まあ同情するわね…床の上のご飯食べさせるなんて…少なくとも
私はやらないわね」
「うぅ〜、使い魔の癖に貴族に恥をかかせて…覚えてなさい…」
ルイズは立ち去るサイトの背中を睨んだ。
「まっ当然よね」
(こくっ…)
キュルケの呟きに、隣に座っていたタバサはひそかに頷いていた。
自業自得な癖に、ルイズはサイトの行為に苛立ちながら、食事を終えて授業に向かった。



サイトは学園の庭にある、小さな二階建ての家にきた。
「ここかな?にしても腹へったあ〜」
「サイトさん。どうかしました?」
そこに、シエスタが走ってきた。仕事が忙しいのか、結構息が切れ
ている。
「あーちょっと腹減ってね」
「すみません。賄い食しか用意できなくて…」
シエスタは厨房のテーブルの椅子に座るサイトに、賄いとは思えぬ
料理を用意した。
「これが賄い?うまいじゃん。なんで残すんだか不思議なくらいだ
よ」
サイトは美味しそうに飯を平らげた。
「ご飯貰えなかったのですか?」
「固いパンだった。イラッときたから出てきたんだ」
「大丈夫なんですか?貴族の方にそのような態度で」
「貴族がなんだよ。魔法が使えるからとか身分が高いからって威張りやがって!」
昨日の夜から正直サイトは苛立ちの境地だった。見知らぬ場所にい
きなり呼び出され、謝りもせず、藁で寝かされ、朝食は固いパンに
まずいスープ?誰だって嫌になるわ!
「すごい!サイトさん勇気あるんですね。貴族に媚びたりへつらっ
たりしない立派な姿勢。尊敬しますわ!」
シエスタの言葉は決してお世辞ではなかった。憧れに近い眼差しで
サイトを見ている。
「いやぁそれほどでも」
シエスタの明るい笑顔に、ちょっぴりニヤケ面になってしまうサイトだった。
「だってメイジとしての能力と、プライドの高いあの方たちを怒らせてしまったら…魔法の使えない私たち平民は、どうすることもできないんですもの…」
その時のシエスタの顔は、メイジに対する恐怖心で満ちていた。
「…ところで手伝いたいことない?」
沈んだ女の顔が苦手なのか、サイトは話を切り替えた。
「じゃあお昼にまた厨房に来てくれますか?お食事の時間ですので」
「わかった。飯ありがとう!」


「ルイズは教室かな?」
校舎に戻ろうとしたとき、爆発が突然起こった。
「なっなんだ?」
サイトは現場に行くと、
無残になった教室にルイズがいた。魔法の失敗で爆発したらしい。
その後、ルイズは教室の後片付けを命じられた。
一緒に授業に受けていたキュルケの話によると、ルイズは魔法を使
う時、必ず爆発を起こすと言うらしい。
(なるほど、ゼロか。まともに使えないって聞いてたけど…)
彼女は魔法が使えない。
それはサイトにもわずかに衝撃的なものだった。
「片付けろよ。さぼらないで」
「うるさいわね。なんで私が…」
自分が教室をダメにしたくせにルイズは片付けをサボっていた。
「お前が教室吹っ飛ばしたからだろ。自分の尻拭いくらいしろ」
「あんた昨日から思ってたけどその態度は何なの?本当に無礼な使
い魔ね」
「うるせえ。魔法がまともに使えない癖に、自分のことを棚にあげ
て人を奴隷扱いするやつに言われたくないね」
サイトはルイズの苛立ちをそのまま返すように言った。
「ゼロのルイズか、笑えるあだ名ですこと」
ピク…
ルイズの眉間にシワが寄った。
「る〜る〜ルイズは〜ダメル〜イズ♪魔法な〜んかできましぇ〜ん
♪でも平気!女の子だも〜ん♪」
わざとらしくバカにするようにサイトはおかしな歌を歌う。
これも彼なりの、些細な復讐なのだろうか。
「あんたに、何がわかるのよ…」
ルイズの声が悔しさで滲み出していく。バカにされた悔しさは、彼
女にとってとても深いものだった。
「魔法が使えない貴族の苦しみが!平民のあんたなんかに!」
しまいには目尻に涙を浮かべている。目を真っ赤にしてルイズはサイトを睨み付けた。
そんなサイトの返答は、意外なものだった。
「知るかアホ」
「なっ、なんですって…」
「知るかって言ってんだ。魔法が使える使えないがなんだ?貴族だ
からなんだ?立場の弱い人間を見下していいのか?」
「……」
その考えは否定できなかった。ルイズはトリステインに、魔法を行
使して気に入らない平民たちに暴力をふるう貴族がいるのを見たことがある。彼らは貴族ではない、ただの暴君だと認知していた。
だが、今の自分は何なんだ?本当に彼らより立派な貴族なのか?
「今俺が下手の歌歌ったみたいに陰口を叩くようなバカなんかにいちいち構ってたらキリないだろ。
それ以前に、魔法が使えるようになったとしても、お前がそんなんじゃ、認めるやつの数なんて知れたもんだ」
「でも、私は…」
「…ルイズ、そんなに魔法でみんなを見返したいのか?」
「…見返したいわよ。当たり前じゃない」
国でも由緒ある公爵家ヴァリエール家の名に泥を塗るような才能の
無さ。拭い去りたくてしょうがなかった。
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