テイルズオブエクシリア外伝

□ヴィクトルside
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ルドガー・ウィル・クルスニク。それが俺の名前だ。歳は20歳。エレンピオスのトリグラフのマンションに、兄さん…ユリウス・ウィル・クルスニクと愛猫のルルと暮らしている。
俺は数日前、兄さんが出勤しているエレンピオス一の大企業『クランスピア社』の就職試験を受けた。クランスピア社は主に通信・医療の他に魔物との戦闘を仕事としている。兄さんを含め、彼らは『エージェント』と呼称される。兄さんから双剣術を叩き込まれた俺も、兄さんのようなエージェントになりたいと思い、試験を受けた。だが…。
「うわ!」
兄さんが試験監督を務める入社試験で、まるで炎で体が形成されたような魔物を相手にしたとき、俺は手も足も出なかった。危険を感じた兄さんが代わりにその魔物を倒してくれたが、その目は厳しいものだった。
「これは、お前の判断力を図るためのテストだったんだよ」
兄さんはそう言った。勇気と無謀は違う。勝てない相手に自ら挑むことは懸命ではないと。
俺はその判断を誤ったとして、兄さんから告げられた。
「ルドガー・ウィル・クルスニク。不合格だ」
不合格通知を。

正直兄貴からの不合格通知なんて凹まずにはいられない。トリグラフ中央駅の食堂に就職できただけマシかな。こう見えても俺は料理が得意だ。7歳の時やけどを負いながらも兄さんに振舞ったのが始まりで、それ以来俺は毎日料理を振舞ってる。
今日は初出勤だ。クラン社に入社できなかった分も頑張らないといけない。ルルがいつものように勝手に出た後、俺も服を整えてトリグラフ中央駅に向かった。
途中で、白衣を着た少年が困り顔で十字路上につっ立っていた。気になって話しかけると、彼は友達との約束をドタキャンされてしまったらしい。約束というのは、トリグラフ駅への案内だったようだが、道がわからず困り果てていたという。俺は放っておけず、彼を駅まで案内することにした。どうせ仕事先も駅だからなんてことない。
駅のホームにたどり着き、彼は俺に礼を言って車両の方へ走り出していった。
さて、俺も仕事に行こっかな。なぜか足元にルルがいる。いつもみたいに気まぐれで俺についてきたのかな。そう思ってると、ルルはなんと車両の方へ歩き出していった。まさか列車に乗る気か?流石にそれはまずいと思ったその時だった。
突然俺の周りを真っ白な煙が立ち込め、視界を遮った。
とたんに、銃声と駅にいた人たちの悲鳴が響く。
もしかして…最近エレンピオスとリーゼ・マクシアの和平に反対するようになったテロ組織『アルクノア』の仕業か?よくニュースでアルクノアのことはよく聞くようにはなったが、まさか巻き込まれるなんて思いもしなかった。
かろうじて伏せていた俺はなんとか助かった。横に血を流して倒れている人の姿が目に映ったときは、正直怖かった。俺もこんなふうになってしまうんじゃないかって。
ルルは身を隠すためか、列車の方に姿を消していたのかな。アルクノアの兵士たちが次々と列車に乗り込んでいく。ルルが心配だ。俺も行こう!
「くっ!」
改札口を飛び越え、俺はルルが逃げ込んだ列車に乗り込んだ。

列車の中は、地獄絵図だった。乗客たちは、女子供関係なく全員が射殺されていた。
思わず吐きそうになりかけた。なんとか口を抑え、俺はルルを探し出した。一回り見てみると、姿はまだ見当たらない。だが、俺にはそんな暇もなかった。
列車が勝手に走り出すと同時に、俺の背後からさっきを感じた。
「貴様!」
「!」
全身鎧で覆われ、いかにも危険そうな銃器を持つ兵士。アルクノアの兵士だ。奴はすぐさま俺に向かって銃を乱射してきた。なんとか座席の間に入り込んだお陰で一時は無事だった。だが、このまま隠れても殺されるのを待つしかない。
ふと、俺が隠れている座席の上に、ルルがいた。
「ナァ〜」
ルルが何かを指差すように前足を上げると、その先に馴染み深いモノが目に入った。
ちょうど一組の双剣。俺は双剣を手に取り、アルクノア兵士の銃弾を防いだ。
雨のように乱射される弾を弾き、俺はアルクノア兵に一発、真空の一撃をぶつけた。
「蒼破刃!」
「ぐあ!」
俺からの一撃を受け、そのアルクノア兵は力付きで倒れた。人を倒すというのは初めてで、気分は全然良くなかった。くそ…。
ともあれ危機は一先ず去った。
が、安心するにはまだ早かった。もうひとり、俺の前に別のアルクノア兵が銃器を向けていた。咄嗟に身構えたが、その兵は前のめりながら倒れだした。
「あれ?君は…」
そこにいたのは、さっき俺が駅を案内した白衣の少年だった。驚くことに、あの兵士を素手で倒したらしい。見るからにインドアっぽい格好をしていたが、人間見かけによらないことを改めて思い知った。
「見事ですな、ドクター・マティス。今のがリーゼ・マクシアの武術ですか。我が社の護衛にも習わせたいものだ」
拍手とともに、さらに二人組が現れる。ひとりは白髪と白ひげを持つ赤い服の大男と、もうひとり、俺の調子のいい同級生に似た黒髪の女性。
「といっても、リーゼ・マクシア人のあなたのように精霊術は使えませんがね」
「同じ車両に乗り合わせててよかったです」
「そちらもなかなかの腕前のようだ。私はクランスピア社代表ビズリー・カルシ・バクー」
大男は俺の方に目をやり、握手をしようと手を伸ばしてきた。俺もその手を握り、名乗った。
「ルドガー・ウィル・クルスニクです」
「ルドガー・ウィル・クルスニク?ユリウスの身内か?」
なんと大男の方はクラン社の社長にして大物中の大物。ビズリー・カルシ・バクー。
白衣の少年は『ジュード・マティス』。後で話を聞くと、エレンピオスで普及している黒匣は空気中に存在する精霊を死滅させることで発動していて、ジュードは精霊を殺さない『源霊匣(オリジン)』の開発をしている、まだ16歳の医学者だった。
この列車はアルクノアに占拠され、現在マクスバードへ超速急で向かっている。奴らの狙いは、この列車による自然工場『アスコルド』への自爆テロ。その前に列車を止めなければならないという。
俺が黒髪の女性…同級生のノヴァの姉でビズリーの秘書である「ヴェル」からの説明で兄さん…ユリウスの弟だと知ると、ビズリーは意味深なことを言った。
「では、私とも家族のような存在だ」
その言葉の意味を、俺はこの時理解できなかった。
いや、今はそんなことを考えてる場合じゃない。俺はルルを連れ、ジュードとともに列車の先頭車両に向かい、列車を止めることとなった。

幾人かのアルクノア兵と戦うことになったが、ジュードと彼がくれたアローサルオーブのおかげでなんなく切り抜けることができた。
「ひどい…」
「…」
車両内部に転がっている客の遺体と血は、見ていて気分が悪くなってしまった。何の罪もないはずの人たちの痛み、そして自分までこうなってしまうのではないかという恐怖。ジュードもまた、同じだったためか、表情が固くなっていた。
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