アンリミテッドデザイア(完結)

□#9
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「ふむ…」
アジトの研究室にて、ジェイルは腕を組みながらあるものをじっと見ていた。ちょうどコーヒーを差し入れに、入ってきたウーノがデスクにカップを置き、気になってジェイルの横に立つ。
「おや、コーヒーを持ってきてくれたのかい」
「ええ、私は非力ですから、ドクターのためにこれくらいは…ところで何をご覧になっておられるのです?」
「姉妹たちの新しい機能として使える能力の開発さ。でも急にこれを使うのはいささか危険さを感じてね。そこで…」
ウーノにないやら怪しげなことを説明するジェイルの目の前の机の上には、小さなボール状のカプセルが置かれていた。

その後の夜…。
ザフィーラは見張りのつもりで夜の隊舎の周りを出歩いていた。あまり出撃できるポジションにはいないため、これくらいはと彼自身から進んでこなしている。
彼は夜天の守護獣という立場の自分に誇りを持っている。だから、守るというのは自分が死ぬまでに課せられた使命であると悟っている。この六課にいる局員たちも、主であるはやてと同様守る対象の一つ。
が、そんな彼に一つの魔の影が忍び寄っていた。一つの怪しげな光が、彼の頭上から急降下し、ザフィーラの記憶はその発行体に気付いて振り向いたときに途切れてしまった。
「主……!!!」

「!」
ふと、悪夢から目を覚ましたのか、部隊長室のデスクに座っていたはやては起き上がった。
「あ…あかん、寝てしもうたか」
顔をパンパンと叩き、眠気を覚ますはやて。
「あの…はやてちゃん」
すると、リインが彼女の目の前に降りてきた。それもどこか焦ったように。
「ふあ?どないしたん?」
「30分前からお客さんがお待ちしてるんですけど…」
「なぬう!?」
寝てしまったがゆえにお客を待たせてしまったか!ひどく焦った彼女は直ちに部隊長室の扉を開いたのだった。
二分後…。
「まったく…部隊長たる者が居眠りとは」
待ちくたびれていたお客=ソラはひどく怒った様子で部隊長席に座るはやてを見下ろしていた。
「ほ、ホンマにごめん!」
両手で合掌しながら頭を下げて必死に謝罪するはやて。これが一部隊の全責任を担う部隊長の姿かと思わされる…。
「で…ガチて、正式に戦闘員になるっちゅうんか?」
「そうですよ、八神部隊長」
ソラの話を聞いたはやては目を丸くしていた。
「別に志願はかまわへんけど、ソラ君ってちゃんと戦えるん?戦うこと、嫌いっぽかったし…」
元兵士なのはイザク出現時に知っていたとはいえ、何年間かのブランクが彼の現役時代の力を落としていると考えるのが普通だ。うまく戦闘が行えるか不安がある。
「訓練して感覚を戻せば、なんとかなるとは思うが?それに、もう逃げたり中途半端な気持ちで挑む気もない」
彼の迷いのない目を見て、はやては彼がどれだけ本気であるかを悟って頷いた。
「…そこまでいうなら、わかったで。まずは試験で君の能力を溜めさせてもらうで」
「試験…具体的にどうすればいい?」
「そうやなあ…」
どうしようかと、はやては唸りながら考え込む。
「まず、どれだけ魔法が使えるか、見せてもらえへん?」
「私が見てあげるのです!」
「あ、あの!」
再び部隊長室の扉が開いた。入ってきたのはユーノだった。
「ユーノ君?そないなあわててどうしたん?」
「僕も、現場で戦いたいんだ。みんなと一緒に」
「ユーノ君まで…」
これには彼女たちは驚かされた。ソラはともかく、ユーノまで志願してきたとは。
「考えていたんだ。僕がここでできることを。ただ、調べものをするだけじゃ、嫌になってきたんだ。もうあのときみたいな後悔はしたくない。だから…頼む!」
ずっと悔やんでいた。なのはが11歳の時、無茶な戦いを続けた彼女が撃墜された時に自分が何もできなかった…否、しなかったことがずっと彼の心のとげとなって突き刺さっていた。もうあんな思いはしたくない。ソラがイザクとの戦いを乗り越えたのを見て、ユーノもそれに感化されて、彼もまた戦場に出ることを決意した。
「…わかった。リイン、ユーノ君も連れてってや」
ユーノの思いを察知した彼女は、少しため息をつきながらも頷いた。
「はいです」
部隊長であるはやては別の仕事にかかる必要があるため、代わりにリインが監督を務めることとなった。

リインに連れられ、ソラは訓練場に来た。すでにフォログラムの廃ビルが展開され、憐地やスバルをはじめとしたフォワード陣がそこでなのはやフェイトの監督のもと訓練を行っていた。
「あれ…ソラさん?」
リインに着いて行く形でやってきた彼の存在に気が付き、エリオとキャロ、スバルとティアナは思わず手を止めた。
「ほら、よそ見してないで訓練に集中!」
なのはの呼びかけでフォワードのみんなは再び訓練に集中した。
「そういえば」
ちょうどいい場所へ着いたところで、リインとユーノはソラに尋ねてみた。
「ソラ君の使う魔法はミッド式じゃないですもんね。ベルカ式でもないし…」
「それは僕も気になってたんだ。一体どんな魔法なんだ?」
「それはそうだろうな。俺の魔法はミッド式でもベルカ式でもない。俺の故郷で独自に発展したものだ。だから本来、デバイスなんて用いない。地球での架空の物語みたいに、杖を使うんだ」
「そんな魔法らしい魔法が、この世にあるんですねぇ…」
人差し指を顎に当てて納得するリイン。彼女でさえ杖で魔法を行使するなんて、空想の世界でしかありえないと思っていたようだ。
「どんなものか実際に見せてくれます?」
「そうだな…たとえば…」
ソラは立ち上がってアグレイターを装備した右手をかざし、それを振りかざした。
「燃えろ、ファイヤーボール!」
ためしに炎を出してみた。が、彼は周りをよく見ていなかった。そのため彼の右手から放たれた炎の弾が、ちょうどソラとリインの前に降り立っていた訓練中の憐地の尻にクリティカルヒット。
「あちいいい!!!」
あっという間に憐地の尻は火によってメラメラと燃え上がった。その悲鳴でフォワードやなのは、フェイトがびっくりして思わず手を止めてしまう。
「そして…スプレッド!」
今度は水の礫がソラの右手から放たれ、その火を消化した。
「えええええ!!!?」
「ちょ…何やってるんですかぁ!?」
あんぐりしてユーノとリインは大声を上げた。
「ちょうどいい実験体がいたからつい…」
頭の後ろを掻きながら露骨に笑うソラ。明らかにわざとであることがうかがえる。
「ごるぅうううぅぅああああああ!!!!てめぇぇぇぇえええええ!!!」
無論憐地がそれに起こらないわけがない。やけどを負ったバリアジャケットのズボンの尻が黒焦げに焼けている。
「俺を焼きだこにする気か、ああああ!!?」
「いや、すまん。つい、周りを見てなかった…」
「つい…じゃねえだろうが!シバくぞワレ!!」
「れ、憐地さん!怒る前にお尻隠してくださいよう!!!」
顔を真っ赤にしてティアナが悲鳴とも言える大声を出す。バリアジャケットの焼かれた尻の箇所が、ついにボロボロに崩れて彼の尻をあからさまにしていた。ソラとエリオ、そしてスバル以外の女性陣は全員顔を両手で覆っていたり、必死に眼を背けている。ちなみにスバルは腹を抱えて大笑いしている。あまりにも間抜けな憐地の姿に羞恥心を覚えるどころか、ツボに来てしまったらしい。
「あ゛!!!」
それ気が付き、憐地は直ちに自己修復機能でその尻部分を修復した。
「…ソラ、後でゆーっくりと『OHANASHI』しようぜ…?」
「いや、そんな暇なないし。第一わざとじゃないし」
さらっと流しやがった!人の婿入り前の尻を焼きやがってなんて奴…今すぐにでも殴りかかろうとして拳を突き出した。見事拳はソラの顔面にクリーンヒットし、彼は吹っ飛ばされた。
「あ〜あ。あんなことしちゃうから…」
やれやれとリインは呆れた。
「だ、大丈夫ソラ?」
自業自得とはいえ、殴り飛ばされたソラの身を案じてフェイトが降りて彼のもとに駆け寄ってみる。きっと顔が腫れあがっているだろうと思っていた。だがいざ顔を覗きこんでみると、それはただの人形だった。証拠に、彼の顔には『へのもへじ』で目と口が描かれている上に、あちこち縫い目が施されていたからだ。そう、以前も使った身代わり人形である。
「え!?」
「な、あの野郎!!!」
憐地はさらに怒ってどこに行ったのか辺りを見渡してみた。
「上か?」
故郷にもその類の魔法が存在していたから、あいつも魔法で空を飛ぶことはできる。上に逃げたのか?そう思って上を見上げると…。
「白…」
「!?」
なのはの…スカートの中が目に入った。ちょうど彼女が真上あたりにいた上に、さっきまでのごたごたで真下に男性がいることを完全に忘れていたのである。
鼻血を垂らす憐地の視線に気が付いたなのは。彼女の顔は見る見るうちに真っ赤に染まり…。
「き、きゃああああああああああああああああああああああ!!!!」
「うぎゃああああああああああああ!!!」
その後、訓練場は桜色の光で大爆発を引き起こし、煙が天高く立ち上ったという。
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