アンリミテッドデザイア(完結)

□#8
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夜、ソラは自室で眠っていた。
「うう…」
額からは嫌な汗が流れ、苦しそうな表情だった。ひどいうなされようだった。誰もがこれを見ていたら、きっとこう思うだろう。
彼は、悪い夢を見ていた。

「ガゴオオ!!」
暗い森の中、『彼』は必死に逃げていた。自分に銃を向けている集団から。暴発する弾丸がいくつも自分の体に突き刺さり、苦痛と共に真っ赤な血が流れ落ちる。
「やったぜ兄弟!」
「絶滅種の『アルテスタイガー』ときたもんだ。こいつの毛皮は高く売れるぜ」
自分たちの利益のためなら自分のようなちっぽけな命に毛ほどの価値も見出していないような言葉だった。だがそんなことはよかった。『彼』はただ生きていたかった。自分が信じられる仲間や家族と一緒に。ただ幸せになりたいと思っていた。
そんな時だった。自分の目の前に明るい光が見えた。無意識に自分はその光へと、重い体を引きずりながら歩き出した。もっと生きていたい。それだけを願いながら。
「お、おい!あれって…!」
「召喚のゲート!?やばい!早く捕まえろ!」
密猟者たちの慌てふためく声と、自分を捕まえようと駆け出す足音が聞こえる。しかし、光に包まれた途端彼らの声と足音は聞こえなくなった。
気が付くと、『彼』はある部屋の籠に、タオルを布団代わりに寝ていた。起き上がると、体中が痛む。体を見てみると、包帯が自分の傷の上に巻かれていた。
「危なかったな。召喚をしてみたら、死にかけの絶滅危惧種が出てきたんだ。あわてたぞ」
自分の目の前に、金色の髪と青い目を持つ少年の姿が見えた。彼は身をかがめて自分の顔を見る。彼が自分を助けてくれたのだろうか?
「銀色の目…珍しいな。よし、決めた。お前の名前。お前の名前は…」

―イザク。

『彼』の命を救った少年は、自分の相棒となる存在を召喚するための魔法を使ったら、お前が来たんだと話し、契約した。契約したことで、彼はより人の言葉を理解できるようになるほど、知性に関して大きな進化を遂げた。
それから『彼』は、自分の命を救った『主』のおかげで楽しい日々を過ごした。彼の両親が経営する孤児院。そこで暮らす親を亡くして身寄りのない多くの子供たちは笑顔で自分と一緒に遊んでくれた。
「イザク、一緒に遊ぼう!」
「何言ってんだよ!イザクは俺と遊ぶんだ!」
自分を巡って子供たちがケンカするほど、『彼』は愛されていた。主の両親とその友人がきっかけで知り合い、仲良くなった幼馴染の少女もよく自分を抱いてくれた。もう一人、なぜか怪しい眼光を尖らせ、「頼む、この子をぜひ解…」「誰がさせるか!」「ち…」と主とけんかする変人くさい孤児の青年もいたが。この青年が主とは兄弟のように育ったとも聞いた時は驚いたものだ。
主も時々自分を散歩に連れ出し、いろんな場所を歩いた。森の中、川岸、海を見渡せる砂浜。
時には庭で訓練する主の姿を拝見することもあった。剣を振るう主は、どこか生き生きとしていた。人を守るために訓練学校に通っているそうで、まだ幼いのにその才能を大いに発揮したという。俗で言う『使い魔』としても、まだ幼い少年だった主の成長と活躍には誇りを持っていた。
だが、悲劇はその矢先に起こった。
主がある不届きものに誘拐されたらしい。狙いは主が血統と才能の奥に隠されたさらなる潜在能力。その力を振るい、自らが支配者になろうとした愚かな者がいた。
『彼』は主を救うために駆けだした。主の居場所は使い魔である自分の目を通してわかる。場所は古ぼけてはいるが気品と豪勢さを持つ、町から遠く離れた屋敷。
屋敷を守る兵をかいくぐり、彼は主のもとに辿りついた。主は牢で鎖に繋がれていた。牢こ噛み砕き、彼は主と共にその屋敷を抜け出そうとした。
しかし、追っ手が自分と主の前に立ちふさがった。これまで突っ走りながら逃げ続けていたことで、体力が限界に近かった。その証拠に主の体は傷だらけで息も上がっていた。
『彼』は主を助けたかった。だから、これ以上傷ついた主を放っておけなかった。牙をむき、『彼』は追手の兵士に向かって飛び出し、その鋭い牙で兵士にかみつきだす。
「ぎゃあああ!!」
「こ、この化け物め!」
あまりにも凶暴な暴れように兵士たちは恐怖し、剣を振るって『彼』を殺しにかかる。
「よせ、イザク!」
主のやめるように訴える声が聞こえるが、『彼』は耳に入れようとしなかった。主の害を成す者は誰であろうと容赦せんと言わんばかりに彼はさらにもう一人の兵士の首元に自分の牙を差し込みだす。
「や、やめろイザク!!今すぐ逃げろ!」
「バウウウウ!!」
『彼』…イザクは主を守るためにがむしゃらに暴れ続けた。だが、いくら強くても一匹の獣が大勢の兵士を相手に勝てるはずがなかった。
ついに、敵の放った矢がイザクの体を貫いた。それから剣が突き刺さった。同時に、せん結が草原に飛び散った。
「!」
倒れたイザクには見えていた。膝をついた主の絶望に溢れた目が。
やがて主は、吠えた。自分以上の獣のような雄たけびをあげ、彼はさっきまでの疲労がうすのように、ほとばしるオーラを放ちながら兵士たちに向かっていった。

ヴオオオオオオオオオオオオ!!!!

「は!!!」
ソラはそこで起き上がった。もう外からはまぶしい日の光が差し込んでいる。自分が寝ていたのは、自室の二段ベッドの上段。汗が額からポタリと流れ落ちた。憐地はすでに訓練場に行っていたためか、もう部屋にはいなかった。
あの夢か…。
あの時まで、自分は命がけで故郷を守った父に憧れ、彼のように強くなろうという子供じみた憧れの理由で剣術・格闘術・魔法を会得していった。才能もあると褒められ、エリオやキャロと同じ年くらいで防衛軍の兵士にも入隊し、年齢差など関係なく犯罪者や侵略者の討伐や逮捕もこなしていた。
その際は、相棒であるあいつも一緒だった。
「イザク…」
英雄だった父への憧れ。ただそれだけのために戦ってちやほやされていい気になっていただけの自分がどれだけちっぽけな人間だったのか思い知らされた。あの時に起こった悲劇が原因で…
(俺は、防衛軍兵士を辞めたんだ…)
それにしても、悪夢を見て起き出すとは我ながらなんてベタなパターンなのだろうかと、ソラは自分に呆れていた。
「汗だくだな…シャワーでも浴びて着替えよう…」
―ソラ…?
「…っ!?」
今の声、はっきりと聞こえていた。だが、部屋中を見渡しても、その声の主に当たる人物はどこにもいない。
今の声は…どこかで聞いたような…。
ふと、その声の主を思い返した時、『彼女』の顔が浮かび上がったが、ソラは急に自嘲気味の笑みを浮かべた。
(非科学的だな。ただの幻聴に感心するとは…)
彼はベッドから降りシャワーを軽く浴びると、局員服の上に白衣を羽織い、部屋を出た。
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