アンリミテッドデザイア(完結)

□#7
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ゴキグモンの巣と化したホテルアグスタは、ファイヤーボムを使用した地上本部の手で、内部に産み落とされていた卵を一つも取りこぼさずに焼却され、被害者も六課の活躍で奇跡的に0にとどまった。なのはがあの事件で保護した子供も無事保護者のもとへ返された。
彼女たちとウルトラマンの活躍はミッド中にもニュース番組などを通して知れ渡り、六課の株がだんだんと上昇しだしていた。

しかし、今回の件には世間では知られていない落ち度が存在していた。
それはスバルを誤射してしまいかけ、さらにその失敗を独断で清算しようと一人で独走したティアナ。ゴキグモンの繭につかまったなのはを、自分の勝手な判断で救出に向かったことは、彼女なりに必死だったことは確かだ。でも、同時に無謀な行動にでたということもまた事実。
ティアナはこの件で部隊長室にてはやてに呼び出された。リインとシグナムが彼女の横で仁王立ちしている。特にシグナムは厳しく目を尖らせている。
「なして呼び出されたか、わかる?」
「…はい」
「ティアナ・ランスター二等陸士、あなたは同期のスバル・ナカジマ二等陸士を自分のミスショットで撃墜しかけた。これだけならまだいい。でも悪いのは、さらにはその罪滅ぼしを自分の勝手な判断で、高町なのは教導官の救出という形で果たそうとした。
なんでそないな真似したか、話してみぃ」
彼女はソラから、なのはの居所を特定できるまで待機するよう言われていたはずだ。そして現場のみんなもそれを承諾した。一人でやみくもに突っ込んでも、広大な広さを持つ上に、形を見違えるほど変えたホテルでなのはを見つけるなんてことができるはずもない。はっきり言って成功率が0に近い、危険すぎる行動だった。
「それは…それが正しいと判断したからです」
間違ってはいないはず。そう思いたかった。そう考えれば楽になれたのだが、そうはいかなかった。
第一、それを目の前の上司たちが許すはずもなかった。
「判断やて?馬鹿言うたらアカン。
待機組だったはずのソラ君はわざわざ現場に来て、自分の手製のPCの探知機能使ってあなたを救出する導をくれた。彼の行動も勝手やったけど、あなたのしたことと比べると冷静で適切な判断やった。もしも彼がそうしなかたら、あんたはもう少しでホテルアグスタや怪獣の卵と一緒に消し炭にされるとこやったで?さらに仲間があんたを助けに来て間に合わなかったら、その子たちも巻き添えになっていた」
「私は、ただ…」
「口答えできるような立場だったか?ランスター」
シグナムの厳しい言葉に、ティアナは圧倒されて押し黙った。
「ティアナ、なんのために仲間がおるか考えや。あなたにとって仲間って頼るだけの価値もない人間だったんかいな?」
「そんなこと…」
「ないのなら、よくよく考えることや。なんのためにティアナが戦っているか、なんのために仲間って存在がおるか」
「…」

夕方、その日の訓練がようやく終わった。
「みんなお疲れ様。じゃあ今日の午後の訓練はお休みね」
なのはがフォワードに言う。フェイトも明日に備えてゆっくりするようにと言った。そしてなのは、フェイト、リインは隊舎へと入る。
フォワード5人も寮へと戻る。だが一番前を歩いていたティアナが足を止めた。
「スバル…私、これからちょっと1人で練習してくるから」
「自主練?私も付き合うよ!」
「あ、じゃあ僕も」
「私も」
「なら俺も。ちゃんとエスコートしてやるぜ」
スバルの参加の声に、エリオとキャロも、そして憐地も賛同した。だが、ティアナは首を横に振った。
「ゆっくりしてねって言われたでしょ。あんた達はゆっくりしてなさい。憐地さんも私なんかのために大事なお時間を使わないでください。それにスバルも、悪いけど1人でやりたいし」
「…う、うん…」
スバルはその言葉に、小さいながらも頷くしかなかった。

「…」
六課の隊舎ロビーにてソラは一人、自分の愛用するPCのキーボードを叩き、ネットを利用して、ある情報を集めていた。
その情報の検索項目は、『ジェイル・スカリエッティ』。ソラは彼のことを「ジェイ」という愛称で呼んでいる。もとは一緒に、ほんの約20年前まで世間的にコンピュータや機械などとは無縁の魔法文化に溢れた世界に、本格的なコンピュータをもたらした仲だ。一緒に設計し完成させた『クリシス』がその証である。
だが、四年前にソラが自分の世界から消えた頃には、ジェイも姿を消していた。そしてこの異世界ミッドチルダでは、だいぶ昔から違法研究などで悪名高い極悪人として名を知られていた。これは、ジェイルとは仲の良かったはずのソラにとってはショックな事実だった。
だが、その極悪人であるはずのジェイルとソラがいつ出会い、これまでの間に何があったのだろうか。
「…」
唸りながら、PCのディスプレイに映るジェイルの写真を見るソラ。すると、こちらに誰かが歩み寄ってきた。顔を上げると、それは憐地とエリオだった。
「くらいやっちゃの〜。少しは外に出てランニングしとけ」
「大きなお世話だ」
わざと田舎くさい喋り方になる憐地に、ソラはため息をついた。
「しかしエリオ。そのケダモノと一緒とは将来が心配だな」
「いえ、憐地さんは確かに解き時不純なこと言いますけど、戦闘の時とか的確なアドバイスをくれるんです。おかげで、今日の訓練もはかどりました」
エリオは邪気など全く感じない笑みを浮かべた。すると、急にその笑みが羞恥心を抱いたように赤くなった。
「それに、僕ちょっと悩みがあったんです…この部隊って、どちらかといえば女性が多いですよね?フォワードでは憐地さん以外で男なの僕だけだし、ちょっと気まずくって…」
まだ10に満たない純粋な少年が一人女性だらけ、それも美人揃いの部隊にいる。確かに考えてみれば気まずい環境だ。だが、中にはこんな考えも抱く者だっている。
「なんだよ〜俺だったらそんな部隊、入りたくてしょうがないってのに」
さすがは生粋のケダモノ。憐地らしい感想だった。ぶっちゃけエリオもそれを聞いて(この人にこのことを言っても無駄だった)と悟った。
ソラが代わってエリオの言葉に同調した。
「お前の不純な意見などどうでもいい。まあ、俺も女性ばかりだと気にしてしまうな…」
「ええ…今日なんか、またキャロに引っ張られて女子シャワー室に連れて行かれそうになって」
ピクッと、憐地の耳が動いた。そして、ブルブル震えだした。それに気づかずエリオは続ける。
「シャワールームに入れられた途端。スバルさんまで悪乗りして僕の体を洗ってくるんですよ。ティアさんも全然気にも留めてない様子で無視してるし、できればその…やっぱり一人で浴びたいのにあの二人は」
「だああああああああ!!!」
「「わ!?」」
ついに何かが爆発したのか、急に憐地は立ちあがって吠えた。それに驚いてエリオは飛び上がり、ソラもPCを床に落としそうになる。
「自慢か!リア充の自慢か!ああ!!?」
「れ、憐地さんくるじい…」
さらにはエリオの胸倉を掴んでぶんぶん振り回す。どうも憐地はエリオの言っている悩みがただの自慢話にしか聞こえていなかったようだ。
「やめろ。大人げない」
「ぶごぶ!?」
それをとめようと、ソラはPCの角で憐地の後頭部を殴る。言っておくが真似しないこと。打ち所が悪ければ相手を殺してしまいかねないので。
後頭部を殴られて憐地は床に倒れ伏し、エリオは解放された。
「エリオ、あまりそういう話は男にしたらダメだ。はたから見れば自慢にしか聞こえない」
「自慢だなんて、そんなつもりは…」
エリオは純粋な少年。決して自慢のつもりでこんな話をしたわけではないことをご理解願いたい。
「嫌なら、今度誘われる前に急いで男子用のシャワールームに急行するか、本人たちに直接断るようにするんだ。押しに弱くても、されたくなかったらはっきり言うこと。いいな?」
「は、はい」
「あれ、ここにいたのかい?」
そこへユーノがやってきた。
「ユーノ、ちょうどよかった。そこで倒れている馬鹿を俺の部屋に運んでおいてくれ」
「え、僕が!?」
なんで自分が運ばなければならないんだ!?納得しきれない様子で声を上げた。
「すまん、今度何か驕るからそれで勘弁してくれ。起きたらその途端に暴走しそうだし、その時は部屋に閉じ込めておくのは安全だから」
「わかったよ…はあ」
しぶしぶながらもユーノは憐地を担いでロビーを後にした。
「エリオ、何か悩みが他にもあるなら遠慮せずに言ってくれ。同じ男同士でないと打ち明けられないことだってあるはずだろ?」
「ソラさん…ありがとう!」
ぱあっと子供らしい輝いた笑みでエリオは頭を下げた。
「さっそくなんですけど、いいですか?」
「なんだ?」
「ティアさんのことなんです。最近、様子がおかしくなっているのが、気になってて…」
「ティアナ…あの子か」
「訓練以外でも自主練をやってるんですけど、ホテルでの一件以来さらに時間を延長してるんです。体に無理があり過ぎる…
もしまた見かけたら、そろそろ休むようにソラさんからも言ってくれませんか?」
「わかった」

「ふう…」
息を着いたなのはは、額をぬぐった。目の前の書類の束、そしてフォワードたちのコンディションをまとめた。
ふと、彼女はティアナの書類に記載されている彼女の顔写真を見た。そして、不安そうな表情を浮かべた。いつも彼女の訓練をその目で見てきたなのはもうすうす感じていた。ティアナの過剰なまでの焦りを。
「なのは、はい」
横からユーノの声が聞こえてきて、彼女の机の上にコーヒーの入ったカップが置かれた。
「ありがとう、ユーノ君」
「ヴィータから聞いたよ。記録映像での新人たちの動きと陣形を管理したり、訓練メニューを夜通し作ってるって」
「うん…相手はガジェットだけじゃない。怪獣相手にもっと対抗できるように、みんなを強くしたいから」
こうまで訓練に熱を入れるなのは、その理由はユーノにもわかっていた。
「…昔から、だよね。君が誰かのためにこうして無茶を続けるのは…」
「にゃはは…どうしても治らないんだろうな…」
「なのは…」
ユーノにはその笑顔はどこかつらそうに見えた。つらいことを限界まで背負う彼女を何度も見てきたから、なおさら…。
底の見えない不安を抱かされたユーノだった。
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