アンリミテッドデザイア(完結)

□#6
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「フェイトちゃん、…思いだした?」
「うん…」
就寝時間、自室にて寝巻に着替えたなのはとフェイトは、メザードとの戦いのことを振り返った。
あの戦いをきっかけに、自分たちは彼…アグルのことをほとんど思い出していた。
自分たちがまだ幼かった頃、『バット星人グラシエ』に捻じ曲げられてしまった歴史をただすために、奴と同じ未来から飛来した戦士。それからは共に戦ってきたこと、やってきた元の時代でも彼と自分たちは戦友同志でもあったことも、ほとんどのことを思い出していた。

そしてガイアとアグルの正体が、今もおそらく憐地とソラだということも。

「でも、ソラさ…ソラ君はまだ思い出していないのかな…」
もし、歴史を改変された時に出会ったことを思い出してくれているのなら、会った瞬間に自分たちが誰なのかに、とっくに気づいていたはずだ。
「たぶんまだ…」
フェイトも直接聞いてわからないと本人から聞いていた。彼がそういうのだから、思い出していないんだろう。
「そうなんだ…」
「でも、言ってくれたんだ」
フェイトは笑みを見せてなのはに告げた。
「懐かしいって…」
「そっか…」
それを聞いてなのはもどこか安心したような表情を浮かべた。少なくとも、懐かしいって思いを自分たちに抱いてくれていたのだ、それを知ってどこか安心した。
「でも、なんか変な気がする」
なのはがふと、意味深な言葉をフェイトに漏らした。
「変って?」
「憐地君はわかるけど、ソラ君…どうして研究者になったのかなって」
思えば、アグルに変身したときの彼は、戦闘員としても申し分ないことがうかがえたのだ。だが、にもかかわらず彼は「みんなほど戦えない」と、この六課に来た際はそう言って戦闘員になることを拒んでいた。まるで、戦うことを避けているかのようだった。
ふと、フェイトはあることを思い出した。
「そういえば、シグナムがさっき記録されたアグルとメザードの戦いの記録映像を見た時、こんなことを言ってた」
「何?」
「『あの青いウルトラマンの足が、少し震えているように見えた』って」
「…」
よくよく考えたら、自分たちは改変された歴史の上での彼を思い出しても、その彼が元はどんな人物なのかまるで分っていない。
それに足が震えるなんて、いつものソラを見れば別に病気ってこともないだろう。だとしたら、やはりできる限り戦うことを避けているのだろうか。
「まだほかのみんなには教えない方がいいね」
「…うん」
あの二人がいきなりウルトラマンですと言えば、ウルトラマンが味方になってくれたと思って士気が上がるだろうが、それ以上に危険があの二人に伴うことになる。真っ先に浮かぶパターン、それはあの二人がモルモットと化してしまうことだ。きっとウルトラマンの力の秘密を探ろうとする不届きものがでかいねない。
信じてもらえず、頭のおかしい奴と思われる方がどんなに幸せなのか実感させられる。
「それに、ティアナが」
「?ティアナがどうかしたの?」
なぜここでティアナの名前が出てきたのだろう、不意に思ってフェイトは尋ねるが、少し沈黙してからなのはは首を横に振った。
「…ううん、なんでもないよ。もう遅いし、そろそろ寝よ」
そう言ってなのはは毛布をかぶり、寝始めた。
「うん…」
長い付き合いだからか、フェイトはすぐに見切った。たった今のなのはの笑顔が、つらさを隠し通すための作り笑いだったことに。

『本局に戦力を集中させている今の管理局に、まともに根源的破滅将来体に立ち向かえるだけの戦力はほとんどない。これには「最高評議会」も無視はできまい』
「ええ…」
部隊長室にて、はやてはデスクに座り、モニターに映る老婆と深刻な顔を見せ合っていた。
彼女は『ミゼット・クローベル』。本局統幕議長で、法務顧問相談役である『レオーネ・フィルス』と武装隊栄誉元帥『ラルゴ・キール』と並ぶ「伝説の三提督」の一人。昔はやてが彼女の護衛任務を請けおって以来、はやてたちのことを気に入っている。
話の内容は管理局の今後の、根源的破滅将来体に対する対応。
『奴らがこの先も現れるとしたら、質量兵器の解禁もやむを得ないかもしれない。無論、お前たち六課の隊長たちのリミッターも外さなければならないだろうな…』
「できれば、使わずに済むことを願っていましたけどね…」
『じゃが、あれほどの驚異的な力を何度も突きつけられたら、我々に勝ち目も未来もない。管理局の、主に地上本部の連中も勢いづくことは間違いない。あのレジアスのことだ。羽目を外し過ぎて暴走しかねない。そのときのためにも八神部隊長、十分に気を付けて。困ったときは必ずウルトラマンが現れるなどとくれぐれも考えないでおくれ』
「はい。わかってます。でないと、この管理局が存在する意味がなくなる」
この管理局は、管理世界の平和を目的としている。その組織が怪獣相手に帆が立たない状況が続けば、ただでさえウルトラマンに自分たちの面子をつぶされかけているときに「ウルトラマンに頼ればいい」などと嘆かわしいことをほざく連中が余計に増えてしまう。
自分たちもこのまま自分の役目を投げ捨てて守られる側に徹するわけにはいかない。自分たちも強くならなければならないのだ。
『わかっていてよかった。では、管理局全部隊に「破滅将来体殲滅」の命令、確かに伝えたぞ』
今や管理局が『根源的破滅将来体』と総称された怪獣たちの脅威は管理局でも大問題となっていた。魔法では敵わない可能性が大きすぎる以上禁止されていた質量兵器の使用もやむを得なし。穏健派に押されつつあったタカ派のレジアスもこれを機に立ち上がることは目に見えている。
そのため、管理局全部隊に戦力増強と破滅将来体との交戦権を与え、日々の訓練にもより一層力を入れろと、今の連絡はそのためのものだった。
「平和って、どうしてこう手に入りにくいんやろ…」
本来ならロストロギア回収のための部隊が、怪獣退治も目的に加えられるとは…ため息をつくはやて。10年前の、闇の書の主だった自分の騎士たるヴォルケンリッターたちと過ごす前の、孤独でさびしくも平穏だったあの頃がこんなに懐かしいと思えたのは初めてだったのかもしれない。

「そういやお前、俺の知らない間に、戦いへの抵抗がだいぶなくなったみたいだな」
食堂でその日も食事にありついていた憐地は、横で電子モニターではなく、自前のノートPC を使ってデータの書き上げ作業をしているソラに話しかけている。
「…アグルの力を手に入れて四年間、『奴ら』を追っていてな。そのさなかに無理やり戦わせられた時もあったから、その影響だな。だが正直、殴るたびに胸にとげが刺さったような感じがする」
ディスプレイを見る彼の顔に影が差していた。
「…」
憐地は友の肩に軽く手を置き、表情を険しくしながらも、いつものいい加減な調子をまたく感じさせない言葉をかけた。
「無理すんなよ?」
「…ああ」
すると、以前もそうだったようになのはとフェイトが二人組で二人の前の席に座った。
「ソラ、憐地。ここにいたんだ」
「憐地君、今日はホテルアグスタで任務だって」
「「ホテルアグスタ?」」
ソラと憐地は声をそろえた。目の前に座っているフェイトとなのはは頷く。
「うん。今日はそこの警護が仕事なんだ。なんでも骨董品のオークションがあるってことで、そこに出品されるロストロギアをレリックと間違えてガジェットが襲ってくるかもしれないからだって」
「ガジェットって、リニアんときの?」
「うん」
憐地はまだシグナムからの特訓を受けていたため、リニアで護送されていたレリック回収任務には参加していない。だから話だけでも聞いておこうとしたのだ。
「そういえば、ユーノは?」
「ユーノ君なら、一足先にホテルアグスタに向かったよ。もともとそこのオークションに参加する予定だったって」
「あのね、三人には知っていてほしいの。先日分かったこと」
フェイトはそう言うとモニターを展開した。そこには様々な資料が映っている。莫大な量の文章は読む気が失せたが、写真に関しては見逃さなかった。
「これ、この前のリニアで戦ったガジェットか?」
憐地の言葉にフェイトは頷き、モニターを切り替える。今度は青い長髪の男が映し出された。
(…!)
その時、誰も気づかなったが、ソラの目が大きく見開かれた。
「ガジェット製作者、及びレリックを狙う人物の名前が分かったの。名前は『ジェイル・スカリエッティ』。違法研究で広域次元犯罪者に指定されている人物だよ」
「あ!」
そのモニターを見ていたなのはが、驚いた声をあげた。ゆっくりと画面に触れると、画像が出てくる。それは、青い宝石のようなものだった。だが仮にサファイアという宝石だったとしても、その形は異常だった。
「これって、ジュエルシード!」
「うん。このジュエルシードにもスカリエッティが関わってる。多分、私となのはを挑発してるんだと思う」
フェイトの言葉に俺はそれが何なのか思い出した。それはフェイトの夢で出てきたロストロギア。ジュエルシード。フェイトとなのははそれをめぐって何度も争った。フェイトは母の為に、なのははユーノの為に。そのために不毛な争いを繰り返した。
「…果たして、君たちだけか…」
「…ソラ?」
「いや、なんでもない」
いつになく彼の表情が険しくなっているのを察知したフェイトがどうしたのだろうと思って話しかけたが、彼は何でもないふりをした。
(やっぱりあんただったのか…『ジェイ』)
その写真の男…ジェイル・スカリエッティの顔を、ソラは知っていた。
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