アンリミテッドデザイア(完結)

□#3
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「被害は予想以上だな…」
アーストロンとガイアが戦った戦場の現場に駆けつけ、ゲンヤはハンカチで額の汗を拭きとる。まさに現場は戦争の直後の状態に見えた。木々は燃えつくされ、辺りには生き残った局員と、アーストロンにやられた人間の遺体。
怪獣と比べて管理局はなんて無力だ。ゲンヤは悔しさをにじませていた。
「父さん。けが人の手配はもう全部済ませたわ」
右手で顔を覆っているゲンヤのもとに、ギンガが駆け寄って報告した。しかし、父は何も言わない。
「父さん?」
「あ、わりぃな。お前も一度戻れ。相手が相手だから、疲れたんじゃないか?」
「うん…」

六課隊舎。
帰還後、なのは・フェイト・シグナム・ヴィータは戦闘後の休息を終えてすぐはやてのいる部隊長室に呼び出された。
「無事でよかったわ…」
ソファに彼女たちを座らせ、大きなけがもなく一安心したはやては四人を見てほっと息をついた。
「ったく、ウルトラマンがきてなけりゃ、あたし今頃あの化け物の胃袋の中だったぜ」
冷や汗をかくヴィータに、ふと他の四人は彼女に視線を向けた。
「『ウルトラマン』…?知ってるの、ヴィータちゃん?」
なのはは尋ねてみる。
「知ってるって…あれ?なんであたし…」
「思えば、どうして私たちはあの時、あの巨人の名を…?」
シグナムも、アーストロンとの戦いであの巨人を思わず「ウルトラマンガイア」と呼んでいた。まるで、以前から知っていたような…。
「やっぱり…二人もやったか?」
予想していたのか、はやては意味深な言葉とつぶやく。
「二人もって…はやて、もしかして…」
フェイトはまさかと思った。
「うちも、あの巨人の名前がパッと浮かんだんや。『ウルトラマンガイア』やて」
それを聞いて、場の空気が一瞬沈黙した。
「見たことあるはずなのに、見たことない。もしあるとしたら、10年前にうちが起こしてしもうた『闇の書事件』のときやけど…」
あんなにでかくてパワフルな巨人が、はやてが管理局魔導師となるきっかけになった闇の書事件に出てきたとしたら、絶対に忘れるはずがない。たとえ10年も時間が警戒して体としても同じだ。でも、不思議だった。知らないはずの正体不明の巨人を、この場にいた者たちは全員知っているという感覚だった。
その矛盾に誰もが疑問を抱かされた。
「なんか、みんななら何か覚えとるかなとおもったんやけど…」
この様子だと曖昧なだけで誰も正確には覚えていないようだ。何かあの巨人について知りたいとは思っていたが…はやては少しがっかりした様子で肩を落とした。
「ウルトラマン…あ!」
何かを思い出したかのようになのはが声を上げた。
「ど、どないしたん、なのはちゃん?」
「確か、ユーノ君が暇なときにウルトラマンのことを調べてるって話を聞いたことがあって聞いたことがあるの…」
「ユーノ君が!?」
ユーノとは、本名は『ユーノ・スクライア』といい、なのはを魔導師の道へ走らせるきっかけとなった青年で、現在は数多の世界の情報を保存してある『無限書庫』の所長でもある。10年もの付き合いで、今でもなのはたちとの交流がある。
「もしかしたら、あのガイアって巨人のことも何かわかるかもしれないよ?」
「じゃあ、ユーノにどれだけウルトラマンのことがわかっているか教えてもらおう」
フェイト。
「それがいいよな。でも、今日はせっかくの入隊式だってのに、さっそく事件発生だよな」
アーストロンのことを思い出して、ヴィータが愚痴る。
「こういうこともあるということだ。そのくらい、我ら守護騎士は長年の間主の身の安全のために覚悟していたのではないか?」
シグナムが言う。
「それはそうかもだけどよ…どうせなら空気を読んでほしかったぜ」
局の正式な局員となる新人たちのせっかくの門出の式が怪獣のせいで延期になってしまったのだ。彼らを思うヴィータにとっては不快な話である。
「敵は時間も場所も、相手も選ばないものだ」
「それはわっーてるけど…」
「とにかく、スクライアにそのウルトラマンのことを聞いてみましょう。無限書庫の情報の中にもそれに関連することがあれば、あの怪獣のこともより知ることができるかもしれません」
「そうやな。怪獣の被害調査と、延期になっちゃった新人たちの入隊式も忘れずにこなそうな」
シグナムとはやてが今後について話している中、フェイトは一人自らの思考の中にいた。
(ウルトラマン…か)
不思議と、根拠はないが彼女はいるような気がした。
ウルトラマンが、それも青い体をした仲間が…。

それから、ミッドチルダでは突如として出現した怪獣のことや、突如姿を現した巨人『ウルトラマンガイア(機動六課がユーノから提供された無限書庫の資料から発表され、今後はその名前で呼ばれることになった)』のことで話題が持ち上がられていた。この先は管理局がどう対処するのか、そしてこれを機に、俗で言うタカ派の管理局の一派が旗を揚げたりと、騒ぎが起こった。それでも人々はいつもの平穏を取り戻そうと努力していった。
ただ、ある日を境に変わったことがあった。それはアーストロンとの戦いからわずか一日後…。
「この機動六課に来た理由…本当にナンパ目的じゃないよね?」
「ほんとだってばぁ!俺様今度ばかり命賭けるぜ!?」
部隊長室に呼び出され、ご立腹の様子でなのは・はやて・シグナム・リイン・ヴィータに問い詰められている憐地がいた。なぜ彼がここにいるのか?彼は、行方不明のソラを捜索してはいたが、あまりの進展のなさに業を煮やして六課の女性局員をナンパしたところをなのはに発見され、そのまま連行されてしまったのである。ちなみに口説かれたのはフェイトで、念のため彼女との隔離のために彼女だけはエリオたちの面倒を見に行ってる。
「ほんまに?」
怪しそうな目で憐地を睨むはやて。
「本当にただの人探しをしてただけだって…なんで信じてくれねぇのさ…」
あんたの日ごろの行いが原因です。
「その探している人を探してたら、急に緑色の光につつかれてこの世界に迷い込んだとか言うとるけど、なんか怪しいもんな…」
両手を組んで考え込むはやてに同意するように、横に並んでいたリインとシグナムもうんうんと頷いた。
「まずこの人、怪しいですもんね。今にも私たちを襲ってきそうなこのいやらしい目が…」
「そうやな〜、特にシグナムのナイスバディに今にも飛びつきそうな」
リインとはやてが口々に言う。
「あ、主…そんな変なことをおっしゃらないでください…」
隙あらばセクハラをやらかすようなこんな男が近くにいるだけでも、まともに休むこともできそうにない。シグナムは少し顔を染めて両手で体を覆う。
「ま、とりあえずてめぇが何者か教えろ」
ヴィータがアイゼンを突き付けて言う。
一見変態男の取り締まりではあるが、実ははやてにはもう一つ私的に近い思惑があった。

―うちはこの人を見たことがある

知らないはずなのに、以前からよく知っているような…。それが真実か虚実か確かめようとしていたのだ。
「いや〜形は何であれ女性から自己紹介されたら名乗らねぇわけにはいかねぇな、全世界で一番ナイスガイでクールの二枚目男…『千樹憐地』様とは俺様のことよ♪」
「「「!」」」
それを聞いてはやて・ヴィータ・シグナムはハッとなって彼に視線を集中した。
「おいおい、そんな熱っぽい目で見られたら俺胸キュンしちゃうって」
「んなわきゃあるか!」
気が付いたヴィータは向きになって怒鳴る。
「千樹…憐地…」
シグナムは復唱してみる。彼女も思っていた。
私はこの名を聞いたことがあると。
それから彼は自分はアナザースペースの地球出身で、『エメラダ星』の防衛軍に所属していること、そしてその世界のことも簡潔に話した。
「シグナム、さっきから黙っているんですけど、もしかして本当に…」
リインの一言でシグナムも我にかえって断固否定する。
「馬鹿者…そんなわけあるか!」
「なぁ…憐地君だっけ?」
はやては改めて憐地に尋ねてみる。
「君…どこかでうちらに会ったことなかった?」
「うーん…」
両腕を組んで記憶をたどってみるが、彼は首を横に振った。
「いや、君たちを知ってるなら俺はここに土地勘があったかも知れねぇだろ。それに…」
それに…?さっきとは違い真剣な顔つきになる憐地に、一同は注目する。果たして次に彼が言うことは…?
「こんな美人揃いの顔を忘れたくても忘れるわけねぇじゃん?」
ズササああ!小話の落ちのごとく、いっせいに憐地以外のメンツはズッコケてしまった。
「マジな顔してたから何かなって思ったら…んなことかよ!」
立ち上がってヴィータが突っ込む。
「ま、まあ美人って呼ばれるのはうれしくないわけじゃないけど…」
「リイン、顔が少しにやけてるよ」
「ひゃ!?」
美人と呼ばれてまんざらでもない顔をしていたリインがにやけていたことをなのはが指摘する。
「…あのさ、頼みがあるけどいいか?」
憐地が手を上げて言う。
「た、頼みって…?」
はやてがハンカチで額の汗を拭きとって尋ねてみる。
「俺をこの部隊に入れさせてくれ!」
「「「はい…?」」」
一瞬一同の思考が停止した。
「試験も無しに、それもお前のような軽薄な男がこの機動六課にか?」
この男はいきなり何を言い出すのだ?シグナムははっきりそう思った。
「確かに俺は軽薄な破廉恥野郎かもしれねえ。でもよ、この時空管理局は次元漂流者を保護してるとか言ったよな?だったら、もしかしたらその漂流者の中に俺が探している奴がでてくる可能性がある。どうせ宛もないんだ。だったら少しでも有効な手口を探るべきだろ?それに…」
「それに?」
再び、それもさっきとは違い嘘のない真剣なまなざしで彼は言った。
「あの野郎をとっとと探して連れ戻しとかねぇといけねぇ。あいつでも俺のダチなんだからよ」
「もしかして、友達を探しに?」
が尋ねると、彼は深く頷いた。
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