アンリミテッドデザイア(完結)

□#2
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四年後…。
はやてはロストロギアの回収を目的とした組織『機動六課』を設立、その組織の部隊長となった。なのはとフェイトもその組織での現場活動におけるチーム『スターズ』と『ライトニング』の隊長(リーダー)として赴任。はやての守護騎士であるシグナムはライトニングの副隊長(ライトニング2)、ヴィータはスターズの副隊長(スターズ2)となっている。他にもオペレーターの役割を果たすチーム『ロングアーチ』も存在している。
はやての設立した機動六課には他にも、将来的に大きな逸材となりうるであろう新人たちがその部隊に入隊することになった。
ここに、その新人を数人ほど紹介しよう。
四年前空港での火災でなのはに救出され、彼女にあこがれて管理局に入局した少女スバル。ちなみに姉は現在父のいる108部隊にて勤務中である。
その彼女と一緒にいるのは、オレンジ色のツインテールの髪の少女『ティアナ・ランスター』である。スバルが天真爛漫なのに対し、彼女は普段からツンとした態度が目立つ。この二人は魔導師訓練が終わった時にはやてからスカウトされ、その誘いに乗ったのである。
「うーん…」
「何考え込んでんのよ?」
屋上の芝生にて何か考え込むスバルに、ティアナはふと尋ねてみる。
「昔話したよね。あたしが空港でなのはさんに助けられたこと」
「それがきっかけで管理局に入局したんでしょ。でも、そんな昔のことどうして今掘り下げたわけ?」
「なんかさ、フェイトさんに助けられたギン姉があの日に見たっていう『青い巨人』のこと…なんで公表されてないのかなって」
あの事件後、フェイトの手によって助けられたギンガは、「青い巨人が私とフェイトさんを助けてくれた」と話したらしい。フェイトも実際に目撃したという。だが、ティアナがそれを否定した。
「あんたのお姉さんやフェイトさんには悪いけど、夢でも見たとしか思えないわ。だって、空港に巨人が入り込めるスペースなんかある?」
偶然吹き抜けに入り込んでいたとはいえ、確かにギンガが見た巨人の推定の体長は30メートル。とても巨人が空港に入っていけるとは思えない。それに急に得体のしれない存在が人間を助けるなんて話をまともに信じられるのは変わり者か、彼女たちとかなり親密な中にある人間くらいで、他の者からは「夢でも見たんだ」としか思われていない。だから、フェイトとギンガが見たという青い巨人のことは世間に公表されないままだった。
「そうだよね…でも、ギン姉が嘘つくとは思えないし…」

では、もう一組の新人を紹介するとしよう。
ミッドチルダにあるリニアの駅にて、赤毛の10歳ほどの少年『エリオ・モンディアル』が人ごみをかき分けながら、ある人物を探していた。
「ルシエさーーーん!キャロ・ル・ルシエさーーーん!!いませんかーー!?」
彼は数年前ある事情で親と引き離されて以来フェイトに引き取られて育ってきた、フェイトファンからみればあまりにもうらやましい少年…いや、これは失礼。
ともあれ、彼は今ともに機動六課に入隊することとなった『キャロ・ル・ルシエ』という少女を探している。彼女もまたフェイトに保護された少女なのだが、フェイトが二人が抱えている事情を考慮して別居としていた。
フェイトの話によるとキャロは明るい桃色の髪でエリオとは同世代、かつ肩に乗せられる大きさの小さな竜を連れているらしい。だが、さきほどからその特徴に該当する少女が見当たらない。
「うーん…どこにいるんだろ…」
この駅は初めて訪れる上に、予想以上に広いのだ。まだ土地勘のないエリオにこの場所での人探しは困難だった。
「「はあ…」」
エリオがため息をついたとき、同時に別の誰かのため息が重なった。それに気が付いたエリオが顔を上げると、そこには自分の髪よりも薄い赤茶色の髪の青年が立っていた。見たところ、フェイトと同じ年くらいのように見えるが…。
ため息が重なっていたことを思い出し、つい二人は吹き出してしまった。
「あ、ど…どうも…」
少し乾いた笑みを浮かべ、エリオは青年にあいさつした。
「あの、僕人を探しているんですけど…みませんでしたか?桃色の髪をした僕と同じ年くらいの女の子…」
「桃色の髪の女の子?」
青年は首を傾げ、いや…と首を横に振った。
「かわいい子なら絶対に忘れないんだけどな〜」
そのセリフでエリオは何となく気づいた。この人は、結構軽い人なんだろうと。フェイトからよく「怪しい人には気を付けて」と言われていたものだから、表面上には出さない程度に警戒した。
「ところで、そのキャロって子はお前の彼女か?シャレてんじゃん?」
にやにやしながら尋ねる青年に、エリオは顔を赤くする。
「な、な、何言ってるんですか!僕彼女と初めて会うのに…」
「わりぃわりぃ。冗談だよ。俺もちょうど人探ししてたんだけど、全然見つからなくてつい…な?」
「ついって…」
少し口をとがらせて青年を睨むエリオ。女性から見れば彼の睨み顔さえかわいらしく見えがちかもしれない。
「で、聞き流すだけでもいいから聞いてくれるか?」
「あ、はい」
「金髪に青い目の、俺と同じ年くらいの野郎を探してんだけど知らねえか?」
金髪に青い目の…?そんな人はあまり見たような記憶はないのだが…。
「すみませーん」
すると、エスカレーターの上から、可愛らしい声がした。
エリオが見上げると、フードを深く被ったどこかの民族衣装の様な物に身を包み、重たそうにケースを引き摺る少女が見えた。
が、バランスを崩した様に前のめりになる。
「きゃ…!」
「危ないっ!」
エリオは自分の腕時計型の愛機『ストラーダ』を一度見ると、ストラーダは応える様に煌く。
『ソニックムーヴ!』
エリオは閃光の様に走り出し、エスカレーターの壁にぶつかりながら直線的に進んでいく。
そして少女の前まで来たとき、ブレーキに失敗したのか少女ごと転がっていく。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「きゃぁっ!」
しばらく転がった後、エリオは後頭部に走る痛みに耐えながら少女を見る。
「いてて……。すみません、失敗しました……」
「いえ……こちらこそすみません……」
「……っ!」
互いに謝り合うと、エリオは自分の両手にかすかな柔らかい感触が当たっているのに気付く。見ると、それは確かに少女のあるのか無いのか分からないほどの胸を揉んでいた。真面目な彼が、それに固まらない訳が無かった。
「なんだよ〜お前さん初対面の女の子の胸もむとか、見せつけれくれんじゃん?」
「な、あああああのここここここれは…!!」
とっさにキャロから離れ、さっきよりもさらに赤くなったエリオ。どこから髪なのか顔なのかわからないほどだ。対するキャロもエリオに触られた胸を両手で覆って、少し恥ずかしそうに眼を背けている。
「パル、撮ったか?」
『ばっちりです、憐地』
その青年は、なんとソラの親友である地球人の青年『千樹憐地』だった。彼の性格を体現しているかのように少しチャラい感じの格好をしている。手には、金の逆三角形に青い宝石が埋め込まれたデバイスが握られている。
「ま、ここらへんでお邪魔虫なお兄さんは退散しときますか。んじゃ、ごゆっくり〜」
「あ、ちちち違いますって!て言うかなに撮ってるんですか!待て!まってくださーーい!」
わずかばかり泣きながら手を伸ばして懇願するエリオに、憐地はどこかへと走り去ってしまった。
エリオはその場で膝をついていた。『orz』←こんな感じで。初対面の相手の胸を揉むという痴態を見られた上に見ず知らずの青年にデバイスで撮影され…。
(デバイス…?)
そういえば、あの青年もデバイスを持っていたが、彼も管理局の人間だろうか?

ミッドチルダの中央都市『クラナガン』の繁華街の地下のバー。その店は、少し闇ルートに通してそうな人間が常連のような雰囲気を漂わせていた。光の差し込まない場所に、青く光るライトがちらつく。
あのライトに照らされ、地上からの階段を下りた黒衣のコートを着込んだ、右耳に小さな某を下げたピアスを付けた男性が、一人そこにやってきた。
「いらっしゃいませ。一名様ですね?どうぞ」
店の女性店員に案内され、青年はカウンターの方へ向かう。
「らっしゃい。ご注文は?」
青年が椅子に座ったところで、グラスを拭きながらバーテンダーの男は青年にオーダーを聞く。
「ミルクで」
「ミルクですか…ふん」
面白くなさそうに鼻で笑うバーテンダーがコップにミルクを注ぎ込み、青年の前に置く。
「マスター、少し話を聞いてほしいのだが」
青年は一枚の写真をバーテンダーの前に置く。
「この写真の男に、心当たりはないか?」
「ん…?」
バーテンダーはその写真を見ると、何か思い出したかのように、青年に忠告する。
「あ、あんたこいつにはかかわらない方がいいよ?たまにお客として何年か前にうちにきてんたんだけど…正直黒い噂しか聞かないよ。なにやらS級次元犯罪者だとか…」
「どこにいるかまでは、わからないしわかりたくもない…ということか」
「ああ、正直な。一応忠告はしといたが、気をつけろよ」
マスターがそう告げた時、バーに置かれているテレビに、ライブニューズが中継された。
『番組の途中ですが、ここでニュースをお伝えします。ただいま、クラナガンより南東邦楽の山岳地帯にて、未確認の巨大生物が出現しました』
巨大生物という単語で彼はそのテレビの画面に視線を向ける。画面には、とても人間が現実で目の当たりにすることなどない、巨大な肉体を持つ怪物が暴れていた。

「怪獣やて!?」
機動六課の部隊長室にて、108部隊のゲンヤから話を聞いたはやては驚きの声を上げた。
『今奴らはクラナガンの方に向かってる。今俺たちが足止めしているが、思った以上にすさまじくてとても歯がたたねぇ。地上部隊からの応援も遅れていてかなり状況は思わしくない。はやて、悪いが、腕に自信のあるやつですぐに動ける奴をこっちによこしてくれるか?』
「いるとしたら、うちのなのはちゃんやフェイトちゃんたち位やけど…それでもええとですか?」
『ああ!かまわねぇ!すぐに頼む!』
この知らせを聞いたはやての命令で、なのはとフェイト、シグナム、ヴィータの四人がバリアジャケット、または騎士甲冑を装備し、直ちに現場へ急行した。

一方で、機動六課隊舎のロビーではその日入隊式の予定だったのだが、怪獣出現とのことで延期という形になった。
怪獣出現の情報は、六課のロビーに設置されたテレビにも報道されていた。
「もー、せっかくの入隊式だってのに、なんで厄介ごとが起きるのかな〜」
憧れのなのはと同じ部隊に入ることにわくわくしていたスバルはつまらなそうにぶーたれていた。
「文句言うんじゃないわよ」
ティアナが言う。文句を言ったところで相手が自分たちの都合なんて知るはずもないのだから。
「フェイトさんも、大丈夫かな…」
不安そうにキャロは両手を握る。
「きっと大丈夫だよ、キャロ。フェイトさんならきっと大丈夫」
安心させようと優しい言葉をくれたエリオに、キャロは少し笑みをこぼした。
「そうだよね。きっと、大丈夫だよね」
「でも、怪獣なんて…ミッドにはいなかったはずだよね。なんで出たのかな…?」
スバルはふと疑問に感じたことを告げた。
実は、このミッドチルダに怪獣といえるような生物は存在していなかったのだ。
テレビに映されている、暴れる巨大な生物はさらにその勢いを増して、自分の周りに群がるように戦いを挑む魔導師たちに襲い掛かって行った。
そんな映像を見ていたティアナの目は、映像内で戦っている怪獣に向けられていた。どこか、怒りの炎をちらつかせながら…。

「くそ!なんて頑丈な奴だ!」
怪獣が暴れているという現場の山岳地帯。
数刻前、このあたりの空に突如、謎のワームホールが出現し、その中心から一体の怪獣が降りてきたという。
その怪獣は『凶暴怪獣アーストロン』。二つ名通り凶暴な戦いをする怪獣である。すさまじく燃え上がる火炎を放ちながら魔導師たちを圧倒していた。
「グゴオオ!」
アーストロンの吐く炎は紅蓮のごとく燃え盛り、管理局員やあたりの自然を次々と燃やし尽くした。
「ぎゃああああああ!!!」
「く!くそ!」
局員たちはいっせいにアーストロンの動きを封じようと、捕縛魔法『バインド』を仕掛ける。縛り付けることはできたものの、その直後にアーストロンが暴れ出し、無理やりバインドを引きちぎってしまう。
「なんて力…」
現場に出動していたスバルの姉、ギンガは顔をひずめた。
なんとかあの怪獣の弱点を見つけ、そこに全力を持って攻撃しなければ勝機はない。
目を攻撃すべきか?いや、その手段をもってしてアーストロンから視力を奪ったとしても、周囲の危険を排除するためにアーストロンがさらに余計に暴れることも懸念される。
これだけの強力な敵が相手ならば、質量兵器にも頼りたくなるが、あいにく管理局では質量兵器の使用も開発も許可されていない。
どうすれば…。そう思ったとき、頭上から四人の魔導師が飛来するのが見えた。
「なのはさん!フェイトさんたちも…」
このタイミングで、なのは・フェイト・シグナム・ヴィータの四人が駆け付けてきたのだ。彼女たちの噂は実力とともに管理局でも有名だ。ただ、闇の書事件やそれ以前のP・T事件の件で、なのは以外の三人は、『元犯罪者』のレッテルを張られつつあるため、彼女たちに対して俗で言う『アンチ・ヘイト』的な考えを持つ者も少なくない。だがこの状況を打開できるのなら、敗北寸前の管理局員たちの誰でも構わないと誰もが思っていた。
「いくよ、みんな!」
なのはの掛け声とともに、三人は同時に頷いた。
それを、一人場違いな雰囲気を持つ赤茶色の髪の青年…憐地が見上げていた。
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