アンリミテッドデザイア(完結)

□#1
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一方、エメラダ星から離れた星雲に存在する世界『ミッドチルダ』。

その日、満15歳となった金色の髪に紅の瞳を持つ少女『フェイト・テスタロッサ・ハラオウン』がいた。
また今日も来てしまった。6年前に起きた闇の書事件が本当に終わった場所。自分が住んでいた地球(ただし、ソラの父が以前生活していた地球とは類似しているだけのパラレルワールドに当たる)の海鳴市全体が見渡す限り見える公園に似た、山の上にある公園。
「また来ちゃったな…」
6年前、その海鳴市から彼女の始まりといえる出来事があった。
一つの世界を破滅させてしまいかねない危険なアイテム『ロストロギア』。その一種である21個の『ジュエルシード』。今は亡き母『プレシア・テスタロッサ』が、魔法が使えるということ以外は何も知らない子供だった自分に集めさせていたもの。それをめぐり、今では親友である少女『高町なのは』と出会えた。
母が亡くなり、多くの世界を平和に保つために設立された組織『時空管理局』で新たな道を字自分の意思で模索し始めたころ、今度は『闇の書』と呼ばれるロストロギアによる事件が発生。なのはやユーノら『時空管理局』の仲間たち、そして新たに仲間に加わった八神はやて、闇の書より生まれた守護騎士シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの四人とともにこの事件も解決。
だが、彼女はそんな大活躍をして、今でも15という若さで執務官という役職についておきながら、一つあるものを抱え込んでいた。

喪失感。

かつての母であるプレシアのことだろうかと最初は思ったが、それもあるものの、彼女が感じる喪失感はそれとは別の何かだとわかった。
ならばリインフォースか?リインフォースとは、闇の書の管理人格…つまり闇の書の人格そのものである。守護騎士たちとともに長い時を生きていた、もう一人の守護騎士ともいえる存在だったのだが、闇の書事件ののちに、闇の書の厄介な防衛プログラムを二度と復活させないために自らの死を選んだ悲しき女性。
だが、彼女とも違う。確かに心優しい性格のフェイトからすれば二人が目の前から消えたことは決して笑えない。むしろ悲しくて仕方ないのだ。
それでも、どうしてなのだろうか。
あの時以来、強くいなければと凛とした態度を忘れずに、仲間や新たな家族とともに仕事を全うしてきたのだが、それでも彼女はその喪失感を埋めることができずにいた。
この、胸にぽっかり穴が開いたような感覚はなんなのか。
考えても、考えても何も見いだせずにいた。
(なんだろう…この感じ…私は、何かを忘れている?)
思えば、気になるのは…最近夢の中で青い体をした巨人の夢を見る。
その巨人の青から、まるで悲しみのようなものを感じ取っていた。
それもとめどない…。
「気のせい…って、これって何度目かな?」
苦笑しながらフェイトはその場から去って帰ろうとした時だった。
「…?」
目の前に、どういうことか不思議な石柱が立っていた。ちょうど人一人分の大きさで、少し緑かかっている色をしていて、中央のもっとも大きな石柱の周りを、四つの少し小さめの石柱が囲んでいる。
さっきまでこんな石柱があったのだろうか?不思議に思っていたフェイトが近づくと、歩き出した足に何かが当たった。足元を見ると、石柱に似た形の手のひらサイズの石が転がっていた。
フェイトはそれを拾いあげてみる。見たところ変わった形をしているだけの石ころのようだが、不思議な力と違和感を覚えた。
そういえばはやてからこんな迷信を聞いたことがあった。『石に願いを込めると、一つ願い事がかなう』と。
持ち帰って、ためしにでも念じてみよう。そう思ったフェイトはその石を持って帰って行った。

念じたことは…『顔も忘れているその人に会ってみたい』。

だが彼女は知らない。その石がただの石ではなかったことを。

それから数日…。
ミッドチルダ北部臨界第八空港。そこで大規模の火災事件が発生した。
現場には消化担当の消防隊や、取り残された一般人の救出担当の管理局員が空港の周りに多数集まっている。だが、現状は思わしくない。まだ空港の中には二名の、それもまだ幼い少女が取り残されているという。しかも火災が発生した時点の何倍にも燃え上がっていた。火災を消し止めるための人材がいまだ集まりきれず、救出は絶望的だった。
「くそ…」
炎を見上げながら、苦しそうに呟く一人の男性がいた。
彼の名は『ゲンヤ・ナカジマ』。地球人を祖先に持つ『陸士108部隊』の頂点にある男性である。
「ナカジマ三佐!」
空から一人の少女が降りてきた。その服装はとても変わっていて、手には剣十字の杖と背中からは黒い羽根が生えている。彼女は『八神はやて』。闇の書の元主ではあるが、闇の書事件における最大の被害者でもある。事件後の活躍は見ての通り、管理局員として日々精進している。その生活の上で力になってくれたゲンヤとも仲は良好である。
「現状は?」
「残念ながら、この通りだ」
悔しそうにするゲンヤを見て、はやては心苦しそうな顔をしたが。元気づけるように彼女は言った。
「大丈夫です。今なのはちゃんとフェイトちゃんが娘さんを助けに行ってます」
「そうか…」
それを聞いてゲンヤは少し表情が柔らかくなった。
「スバル、ギンガ…頼むから無事でいてくれよ」
実はその取り残された二人の少女というのは…彼の二人の娘だった。

燃え盛る炎の中、その一人で妹である10歳の少女『スバル・ナカジマ』は、銅像の前に座り込んですすり泣いていた。
体のあちこちに火傷や擦り傷ができて痛い。煙が充満していて息が苦しい。
「痛いよ…恐いよ…こんなの嫌だよ…帰りたいよ…!」
スバルは俯きながら弱々しい声で呟く。
その時、何かヒビが入るような音がした。振り向くと、亀裂が生じてズレた銅像が頭上から自分の方へ倒れかかってきていた。
「ひっ…!」
死への恐怖心から、スバルは身を縮こませ、目を固く閉じた。
とその時、桜色の魔力弾がその銅像を粉々に砕いた。
「もう大丈夫だよ」
優しい声が耳に届いた。恐る恐る目を開けると、白を強調したバリアジャケットを身にまとう、サイドテールの髪の少女がスバルの前に立っていた。
彼女の名前は『高町なのは』。15歳という若さで管理局でもその名をとどろかせていた『エースオブエース』の称号を持つ天才魔導師である。
この後、なのはの手によってスバルは無事救出された。
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