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□恋が始まりそうな予感
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春、俺は高校生になった
受験した高校は地元より5駅離れた所にあって、毎朝、満員の車内でぎゅうぎゅう詰めになりながら電車通学をしている


「(……毎朝憂鬱だ)」


満員電車の中じゃ、いくら人より身長が高いからと言って本を読むわけにもいかないし
佐助は朝練で先に行ってしまうから話し合いて(ほぼ一方的だけど…)もいない
ボーッと痴漢に間違われないように配慮するだけ
なんでそんな学校に進学したのかなんて聞かれても、きっとみんなと変わらず"なんとなく"
あいつが行くって言ったからで、何回も「電車通学だよ?満員だよ?平気なの?俺様知らないよ?」って言われた
…なんてボーッとしてる間に、今日も最寄駅に着いた
ホームで電車を待つ…も、周りは殺風景で下を向いた人の列だけが異様な雰囲気をかもしだしている
いつもと同じ二車両目の真ん中のドア位置に並ぶ
いつもと変わらずに携帯を弄る


「(あ、またいる…)」


隣に人がきた気配がしたからチラッと横目で確認すると、
近隣の女子校の制服を着た女の人がたっていた
最近気づいたことだった
必ず俺と同じ時間帯の同じ車両のドアに並ぶ女の人がいるということは
アナウンスが響き、電車がきた
扉が開き、降りる人が数人出てくる
ぎゅうぎゅう詰めになりながらも、いつもの定位置、ドアの前を陣取る


「(…あ、隣にいる)」


先程の人は俺の右隣にいて、キツそうにサラリーマンと壁の間に眉間にシワを寄せて立っていた


「(…あーあ、せっかくの可愛い顔が台無しだ)」


それから何回が反対側のドアが開き、やっと俺が降りる駅になった
プシューと扉が開き、一歩足を出す


ぎゅ


なんだと思ってみると、先程の人が転びそうになっていた


「あっ、ご、ごめんなさっい」


いきなり掴まれた腕にびっくりはしたものの、すぐに現場理解をした俺はさっと手を出して彼女を支える


「っ、ありがとうございます…!」


体勢を立て直した彼女に小さく頷くと、足早に階段を上る
俺たちが乗っていた電車はとっくに発車していて、降りた乗客もほとんどが階段を上りきっていた








「えーそんなことあったのー?俺様超見たかったー」


所変わって今は昼休み
自分で作った弁当を屋上で広げながら淡々と今日あったことを佐助に話す


「隣の女子高はレベルが高いんだよー?俺様たちの学校の女子なんかきのこ以下になっちゃうんだから」


ねぇ可愛かった?可愛かった?としつこく聞いてくる佐助を無視して、上手に焼けた卵焼きを頬張る
俺様明日朝練休んじゃおうかなぁ…なんて言い出したので頭を小突いといた


「お前らが女子の話なんて珍しいな」

「おっかすがじゃん」

「なんだ?なんかあったのか?」

「小太郎ってば抜け駆けしてナンパしてたんだよ?」

「んな馬鹿な、どうせ絡まれたんだろ?」

「違う違う、ナンパしたんだって、ね?」


疑問を投げかけられたので、冷たい視線で返し、かすがにはなんとなく説明した


「へー…毎朝会うのか…」

「(コクコク)」

「かすが知らないのー?」

「んー…まぁ、顔見ればわかるだろうな」

「これは明日皆一緒に仲良く登校だね!」

「お前は朝錬だろう?」

「明日は病気!!俺様なんだってできるんだからっ!」

「…呆れた」


ちょうどよく終了の鐘がなり、そそくさと広げていたお弁当をしまう
明日結局皆一緒に行くのかな…なんて考えているうちにもう放課後になっていた








「…あ」


ホームで電車を待っていると、さっきのぼってきた階段のほうから声がした
振り向いてみると、そこには今朝会った彼女がいた


「かすがさん!」

「おーなな!久しぶりだな!今朝会ったのはななのことだったのか、小太郎」


知り合いなの!?なんていう言葉は二人の会話にもみ消された
あーうん、やっぱ可愛い
アナウンスと共に電車がやってきて、朝とは違う人が少ない車内に乗り込む
三人そろってつり革につかまり、話をする
今朝はあまり彼女の顔が見れなかったから今じっくり見ている


「小太郎さんって言うんですか…今朝はありがとうございました」

「(フルフル)」

「小太郎さんって、可愛いですよね」

「(!?)」

「意外と人気あるんだよな、小太郎」

「(?)」

「あー、わかります。私も最近ホームにかっこいい男子がいるなぁとは思ってたんです。でもまさかお話してみると可愛いだなんて」


くすっと笑う彼女
いや、君のほうが可愛いよ
なんて柄にもないことを思った
朝とは違い、電車はすぐに駅についた
改札口までのんびり他愛もない話をする


「じゃ、私はこっちなんで」

「そうか、私たちはこっちなんだ」

「…じゃあ…小太郎さん、また明日会えましたら…なんて」

「(コク)」


しばらく彼女の背中を見送る
かすががなんか話しかけていたが、ごめん、聞いてなかった


「・・・また明日・・・か」


途中なんか振り向いてまた手を振る彼女に、俺も手を振った















恋が始まりそうな予感







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