彼と私と秘めやかな日々

□彼と私と新生活
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「何どすか、ここは。」

綺麗な着物、なめらかな黒髪、澄んだ瞳と、京言葉。
私が落とした携帯の横に立っている、私の心を奪っていた、彼。
「あき、なり…さん。」
"藍屋秋斉"さん。ゲームの登場人物。つまり、こんなところにいるはずのない人。

辺りをきょろきょろと見回していた彼は、自分の名前を呟いた私に気づいたらしく、視線を上げた。
「菜奈、はん…?またそないに珍妙な格好をして…ここは何なん?」
…私の名前を、呼んだ?
「私のこと、知ってるんですか…?」
「何を言うとるん。自分の店の子ぉを忘れるわけないやろ。」
「…そ、そう、ですね。」
どうやら、彼はゲームの主人公である"私"を認識しているらしい。姫川菜奈として。

「あああ、あの!事情、というか…説明はこっちに来てからしましょう。ここじゃ目立ってしまいます。」
階段を駆け降りて階段を拾ってから秋斉さんの手を取って急ぎ足で私の部屋に向かう。後ろから文句のような何かを言う声が聞こえたけれど、私は聞く耳を持たずに部屋に駆け込んだ。誰かに秋斉さんの格好を見られたらきっと怪しまれる。ゲームの中の"私"がそうだったように。






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