彼と私と秘めやかな日々

□彼と私と新生活
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「なんや、そないに急いで…」
ソファーに彼を座らせると、その言葉を遮って私は口を開いた。
「秋斉さん、よく聞いてください。ここは京都じゃないんです。時代も、江戸時代…秋斉さんがいるはずの時代じゃないんです。」
正しくは秋斉さんは江戸時代でもいるはずはないんだけれど。秋斉さんはわけがわからないといったような表情になってから、すぐに真剣な顔をした。

「ここは東京…江戸に当たる場所です。で、年は2012年。えっと、私は歴史に疎いからよくはわからないけど…たぶん秋斉さんがいた時代のだいたい150年後くらい、ですかね。」
「……。」
「秋斉さんは、ゲーム…作り話の中の人なんです。秋斉さんが知っている"私"は、その作り話の主人公で。」
「……は、」
「本当なんです。私も信じられないけどそのお話の中とは逆に秋斉さんが時空と次元を超えて…」
「…まさか。」
「だって、そうとしか考えられないんです。」
私が、足りない頭をどんなに回転させてもそんな答えしか出てこなくて。でもきっと、この答えは合っているんだろう。でもそんなの普通ならありえないことだろうけれど。

私は黙り込んで何か裏付けできるような説明はないかと考えていると、不意に秋斉さんが口を開いた。
「―――…そうなのかも、しれへんな。」
諦めにも似たような声色での、呟き。そして彼の前に立ち尽くしている私の手を取って、両手でぎゅっと握りしめた。
「いきなりで申し訳あらへん。けんど、今のわてに頼れるのはあんさんだけや。どうにか帰る方法を見つけるまで、ここに置いてはもらえんやろか。」
その整った顔で、甘い声で、ねだるように言われては。否、なんて言うわけないし言えるわけない。
「もちろん、です。」
彼はふわりと微笑を浮かべ「おおきに」と言って私の髪をさらりと撫でた。

こうして、彼の私の新しい生活が始まったのだった。





新生活
(この頃私はこれからへの不安なんて全く感じていなかった)





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