捧頂

□浸食
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「副長、古高の居場所がわかりました。」
始まりは山崎のこの言葉だった。

「あの男、殺されるのでしょうか。」
尾形が聞いた。
「…さぁな。まぁ、新選組に害をもたらす者やからなあ。」
仕事の時に使っている江戸の話し方ではなく、気の抜けたような京言葉で返事をする山崎。

「なんや、人の死に怖じ気づいたんか?」
茶化すような山崎の言葉に、尾形はむきになった。

「そんなことはありません。…だけど、沖田組長や土方副長は、何事もなく人を殺していく。辛くないのかと思いまして。」

ぼうっと空を見上げる。
真っ青に澄み渡る空に、少し生温い風がふき抜ける。

「それはお前も同じやないかい。」
「それは、そうですけど。……やはり俺は恐い。」

人を殺すのが。
人を殺すとき、躊躇ってしまうのが。
けれど斬り続けていくと、何も感じなくなってしまうのが。

「俺、人を殺すことが快楽と感じるような、化け物にはなりたくない。」

「……そうやな。」

空が眩しく感じ、俯く。

「でもまぁ、あの男は殺されはしないやろうけどな。」

血に汚れた自分とは正反対の。

「本当ですか?」

さっきよりかは少し明るい顔になった尾形。

ああ、眩しいなぁ。
あの男にとっては、生きてることの方が苦痛になるというのに。
土方副長が、あの古高を簡単に斬り殺すはずがない。

血に染まり汚れた俺から見れば、この空も、花も、風でさえも眩しく感じる。
尾形のような無垢な考えすらも。

それはきっと、土方副長も同じなんだと思う。

「…ほんま、眩しいわ。」
ぽつり、呟いた言葉は、かすれ声になった。


元治元年六月五日。

「書簡に血判書が見付かりました!」
「武器弾薬まで!」

古高は、新選組に踏み込まれ捕縛された。



「あ、沖田組長、何してるんですか?」
「ああ、尾形さん。いやね、土方さんが持ってこいって。」
そう言って手の中にあるものを見せる。

「五寸釘に蝋燭?何に使うんですかね。」
「……さぁ、そこまでは聞いていないので。」
そう言ってそそくさと逃げるように背中を向けた沖田。

「あんな太い釘、どうするんですかね。どこか修理でもするのかなあ。」
「…土方副長が屋根の修理とか似合わなすぎて笑えるわ。」
「あはは、そうですね。永倉さんとかは似合いそうですけど。」
「そうやなァ…。」

何も、言えなくなった。


その日の夜、どこか疲れた顔をした土方副長に出会った。

「土方副長、お疲れ様です。」
「ああ、山崎か。」
「彼は自白、したんですか?」
「ああ、したさ。松平容保公らを殺害して、天皇を長州に連れ去るつもりだったらしい。」

ふう、と息を吐き、後頭部をぐしゃぐしゃと掻く副長。

「…一体、どのような方法で口を割らせたんですか。」

満月の明かりが、二人を照らした。

「…ふ。それをお前が聞くか。勘の良いお前ならわかっていると思うが。」

ああ、満月が、眩しい。

「五寸釘を使って、ちょっとな。」
「…そう、ですか。」

昼間とは違い、涼しい風がふく。

墨を垂らしたような真っ暗な空は、先程見た青い空とは恐ろしく違っていて。

闇に、浸食された。

俺らも、闇に飲み込まれそうだったので、

「…土方副長も今日は疲れたでしょう。身体を休んでください。では、俺はこれで失礼します。」

副長に軽く会釈をし、自室に戻った。


「…怖じ気づいたか。」
ぽつり、月を見てそう言った。
闇の中、たった一つの明かりの下で、一人佇む。

俺にとっちゃあ太陽も月も眩しすぎて仕方がねぇ。

「さしずめ俺の道を照らしてくれるのは…近藤さんか?」

自分で言ったことが可笑しくて笑った。
そして彼もまた、自室に戻っていった。


(俺が闇に飲まれる?…はっ、馬鹿な。)
(人の世なんて、もとから真っ暗などろどろの闇なんだよ。)
(今さら飲まれるも何もねぇだろう。)

(ああ、やはり土方副長は強い方やなぁ。)


浸食。



リクエスト作品。
お持ち帰りはチキン様のみで。
なんか訳のわからない話になってしまった…。
苦情はチキン様のみ受け付けます←
リクエスト、ありがとう御座いました!

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