創作新選組

□戯れ事
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!死にネタ注意!

油小路事件。


俺はあの時、散々悩んだ末に御陵衛士(ごりょうえじ)として新選組を抜けることを決意したんだ。

冷たい風が吹き抜ける。
もう辺りは暗く、昼間よりも寒い。
はらり、と風で前髪が掻き上げられ、額の傷が見え隠れした。

「おい藤堂、大変だ…伊東先生が殺された…!」
一人の仲間が駆け付けた。
「な、なんだと…!?」
信じられないその発言に目を見開く藤堂は、急いでそいつの後を追った。
途中、同じ御陵衛士に加入した斎藤にも助けを求める。

「一くん、伊東先生が…、」
「…あぁ。」
知っている。 と続け、カチャリと刀の先を藤堂に向けた。

「…な、なにしてんだよ、一くん、?」
声が震える。
「俺らは、仲間だろう?」
手が震えた。

「…新選組に害をもたらす者は、斬るしかないだろう。」
斎藤はそっと目を伏せ、呟いた。

「そ、んな…っ」
「斎藤、お前、裏切りやがったな!」
男たちが一斉に斎藤に斬りかかった。
だがそれは全て返り討ちになり、あっという間に斎藤の周りには血溜まりが出来た。

「は、一くん…、」
「…俺は副長の命を受け、間者として御陵衛士に入ったんだ。」

一一おかげで、伊東は近藤局長を暗殺しようとしていたことがわかった。一一

斎藤が言ったその言葉に驚きを隠せない藤堂。
揺らぐ気持ちの中、藤堂はかつての仲間と対峙することになったのだ。
震える手を、身体を叱咤して、刀を握る。

直ぐ前を見ると、血塗れの伊東先生がいた。
その横には、槍を持ち佇む大石鍬次郎の姿が。
あいつが、伊東先生を殺したのか。

周りを見渡すと、浅葱色の羽織を纏った奴らが四〜五十人はいる。
それに比べ御陵衛士は七人しかいない。

「よお、平助…。」
「…新八っつぁん、左之さん…。」

見知った顔の奴らがいた。
ぎり、と奥歯を噛み締め、斬りかかる。

がきん、がきんと刀同士がぶつかる音。
永倉は攻撃を刀で受け、辛辣な表情(かお)をしていた。
近藤の言った言葉が、頭から離れないのだ。

『藤堂だけは、生かしておきたいものだ。』

ぽつり、悲しげに呟いた言葉。

俺だって、そうしてやりてぇよ。
何が悲しくて、平助とこんな斬り合いをしなきゃあいけないんだ。
こんな戯れ事、さっさと止めてしまいたい!

けれどこの新選組の人数だ。やはり、逃がすにしても難しいだろう。

がきん。再び刀を交える。

「平助、頼む、逃げてくれ…。」
「な、何言ってんだよ!」

短い時間だが、道を開けてやることは出来るかもしれない。

「なぁ、頼むよ、俺ぁおめえと斬り合いなんざ、したかねえんだよ…っ、」

「新八っつぁん…。」
ふ、っと平助の刀を握る力が抜けた。

「今だ、早く行け!」
別の声が聞こえ、振り返ると原田がいた。

隊士は他の奴らを相手にしているから気がついていないようだ。

「早く!」
「…新八っつぁん…、左之さん…っ、」
どん、と強く背中を押す。

「お前だけでも、逃げてくれよ…。」
頼み込むような視線に耐えきれなかったのか唇を噛み締め小さく頷いた。
それをみた永倉と原田は安堵し、他の奴らを斬りにかかった。

これで大丈夫だ。 そう安心してしまっていたのだ。
左之の援護に掛かろうと思いふと周りを見た時、叫び声と共に誰かが倒れた音がした。

奴らを倒したのか。 そう思って振り返ると。

「平助……、?」
倒れていた奴は、さっき逃がしたはずの藤堂が背中から斬られて横たわっていた。

「平助、平助ぇ…!」

傷は深く、駆け付けた時には絶命していた。

「…くそ…っ、くそったれがぁァァ!!」

怒りやら悲しみやらが混ざった複雑な気持ちで永倉は刀を、原田は槍をただひたすら振り回した。

そして藤堂に続き、毛内、服部が奮闘したが及ばず討死した。

残った同士は薩摩藩邸に逃げ、その後御陵衛士の生き残りは、相楽総三(さがらそうぞう)率いる赤報隊(せきほうたい)の二番隊として参加したと言われている。


「…ふざけやがって…っ!」

空がうっすらと白くなる頃、永倉は血に塗れた刀を握り平助の亡骸に目をやる。

伊東らの遺体は暫く放置されることになった。

悔しくて、悔しくて。

「…とんだ戯れ事じゃねぇか。」


刀に付いた血を振り払い、鞘に納めた。
勢いよく血を払ったため、自分の顔にも血が跳ねてしまった。

その血が、頬を伝い、地面へと落ちて消えた。


戯れ事。

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