創作新選組

□狂れる
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巡察から帰って来た斎藤は、返り血がこびりついた浅葱色の羽織を脱ぎ捨て、急いで井戸に向かった。

井戸の水を頭から被る。

いくら夏とはいえ、夜は涼しいのにそんなことはお構い無しと言うように、何度も何度も水を被った。

「こんな時間に水浴びですか?」

「……総司、」

寒くないんですか? と聞きながら一歩近付く沖田。

「…血が…、血が消えないんだ。」

「何を言っているのです?」

「浴びた血が、匂いが、消えないんだ…。」

汚くて、汚らわしい。
どんなに水で洗っても、擦っても、ぬるりとした血の感覚は拭えやしない。

「どうして…、」
手先が冷たくなっても、擦り続ける。
「どうして、こんなにも汚い…!」
血が、匂いが染み付いて、消えてはくれない。


「ふふ、当たり前じゃあないですか。」

さも可笑しいと言うように、沖田が笑う。

「消えるわけがないでしょう。」
「…何故だ、」
「だって僕たちは人斬りだから。」
「人斬り…。」
「ええ。一度人を斬ったらもう、血なんて染み付いちゃうんですよ。」
「そ、んな…」
「綺麗になることなんて、出来ないんですから。」

一瞬、沖田の表情が無くなったかのように見えた。
だが次の瞬間、また、ふにゃりと笑う。

「どんどん汚れていくだけですよ。」


さぁもう戻りましょう。 そう言って斎藤の腕を掴み、歩き出す。


「こんなに冷たくなって…、風邪を引いてしまいますよ?」

ぎゅう、と力を入れ握られる。



(あ、でも馬鹿は風邪を引かないって言いますよね。)
(……俺が馬鹿だと言いたいのか。)
(ふふ、いいえ。でも、あんなに水浴びをするなんて…。)



(やはり貴方は馬鹿だ。)


腕に触れているところから、ぬるりと血の感覚がしたので、そっと目を伏せた。


狂れる。

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