創作新選組

□嗚呼、口惜しや
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!死にネタ注意!





開けっ放しの襖から、風が通る。
さあ、と、風が髪を、頬を撫でた。

「総司…、」
「…ああ、土方さん。」

眉間にしわを寄せた土方が沖田の側に近寄った。

「なんて顔してるんですか?」

酷い顔してますよ、なんて言いながらくすくすと笑う。

「近藤さんからの、知らせは…?」
「……いや、まだない。…早く治して、近藤さんに元気な顔、見せてやれ。」


そう言って薬を渡し、部屋を出た。



受け取った薬を飲むために、水を手に取ろうと身体を動かしたら咳が出た。

げほ、げほ、こほ。

苦しい、痛い、苦しい。

湯飲みを取った自分の腕を見ると、骨と皮だけになり、なんとも醜い。

刀など、とうに握れなくなっていた。

僕は、なんのために、生きているのだろうか。

ふと、頭に過る愚問。

僕もまだ戦える。
前に、それを証明するために四股を踏む真似をしたが、体重が軽すぎて床は情けない音をたてた。


もう、自分の身体なのに、自由に動かすことが出来なくて。

刀も握れず、戦えず。

新選組にいることが、僕の全てだった。
誠の旗を挙げ、皆と共に戦うことが、
近藤さんを守る剣になることが、

僕の生きる全てだったのに。

「はは…っ」

今の僕は、役立たずじゃないか。

情けなくて笑えてくる。
なのに、なのに目からは涙が止まらなくて。
いずれ人は死を迎えることなどわかっていたはずなのに。
刀を持った時点で、もう命の使い道など決まっていた。

なのに、

「…こんなのって、ねえよ…。」

まさか病にやられるなんて。



僕にはまだ、やり残したことがたくさんあるのに。



嗚呼、口惜しや


出来ることならもう一度。


(近藤さんは、元気だろうか。)


慶応四年五月三十日


沖田は近藤の死を知らずに息を引き取った。





口惜し…悔しい。残念。感心出来ない。物足りない。


素敵なお題をありがとうございます。
隠江-こもりえ-

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