創作新選組

□山崎と尾形
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似非関西弁ごめんなさい。



「……以上です。」
「ああ、わかった。下がって良いぞ。」

土方に報告を終えた山崎は、自室に戻るところだった。
空を見上げれば、美しい満月が目に入った。

自室の前に立ち襖を開けようとした時、誰かの気配を感じた。

殺気は感じないが…。

少し脅かしてやるかと思い、刀に触れ抜くふりをすると。

がさがさと音がして、月明かりに照らされた襖から影が動いた。

敵ではないと判断し、勢いよく襖を開けると。


「お、お、お、おかえりなさい。」
「なんでお前がここにいんねん…。」

部屋の隅に縮こまって震えている尾形がいた。

座敷わらしか。

意外な人物だったため、つい驚いてしまう。

「う、ふぇ…っ、」
「ああー、泣くなや、すまん。ちょっと脅かしただけやん。」
「…烝さん、刀で斬ろうと…こ、恐かった、ぐすっ」
「あー、悪かった。悪気はないから。」

恐かったよな、すまん。よしよし、と赤子を泣き止ますように頭を撫でる。

よくこんな泣き虫なくせに仕事をこなすことが出来るよなぁ、と、ある意味感心してしまう。

「…で、何しに来たん。用があったんやろ?」

その問いにこくこくと頷く尾形。

「薬を…貰いたくて、ぐすん。」
目を真っ赤にしながらそう答えた。

「なんの薬が欲しいねん。」

「んと、切り傷に塗るやつと、あと、これはなんだろう…?」
「ちょお見してみろ。」

はい、と見せられた腕と足。


「…お前、これでよくここまで来れたなぁ…。」

切り傷に痣。まだ血が止まりきっていないのか、雑に巻かれた布。

「だって手当ての仕方とか、わからなくて。」

「いい加減覚えろ。化膿したらどないすんねん。」

「その時は、烝さんになんとかしてもらうから…。」

その答えに、ため息しか出ない。

「なんでこないなことになってん。」

「いや、敵から逃げる時に、ちょっとばかりしくじっちまって……いった。」

「当たり前や。こんなになるまでやりよおて。」

「あー、いたい、いたいですすすむさん。」

ばたばたと暴れる尾形を押さえながら、的確に手当てを施していく山崎。

「我慢しい。お前一体どう逃げてきたん?」
「苦内と、煙玉を使って…。」

今日の仕事は、芸妓さんに成り済ましての潜入だったから、刀は使えなくて。
みんな刀を持ってたから逃げるの大変だったんですよー。あははは。ごつん!

「いったあー。」
涙目になりながら頭を押さえる尾形。
「な、なにも殴ることはないじゃんかあ。」

「お前の笑い方一々むかつくねん!どう考えても無茶やんけ。お前、煙玉使ってずらかったこと一度もないやん。自分が煙吸って噎せたことしかないやん。何度やってもその場に佇んでげほげほしてたやん。苦内しか取り柄ないやんお前!」

「う、!」

一気に喋ったため、ぜえぜえと息を荒くする山崎。

「ううぅ…、」
「あ゙ー、泣くなや!」
「が、頑張れば俺にだって、煙玉使えるもん、ぐすっ。」
「そう言って使えた試しないやん…。」

「お、俺は褒められると伸びる子なんだ!誰も褒めてくれないから…。」

「嘘こけお前は褒めたら余韻に浸ってますます物事に手ぇつかなくなるやろが。」

「そんなことない!褒めてみなくちゃわからないだろう。さぁ俺を褒めてみろ…あべし!!」

「くだらんことやってないでさっさと寝ろ。」

ほら、行った行った。 と部屋を追い出されてしまった。

「痛え…。」
叩かれた頭を再びさすり、自室に戻る。

歩きながら、ふと腕と足を見やる。

「…あ、礼を言うの、忘れた。」

踵を返し、山崎の部屋の襖の前に立ち、小さな声で、

「ありがとうな…。」

と、伝えた。

もう寝ているかも知れない、そう思ったが、今伝えたかった。


「……おん。」

山崎のぽつりと呟いた言葉に、尾形の顔に安堵の笑みが浮かんだ。

なんだかんだ言って一番心を許せる人は、山崎かも知れない。


久々に新選組の屯所に戻って来れたんだ、明日は何をしようかなぁ、などと想像を膨らましながら、尾形は眠りについた。

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