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□みほこねこ
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高校を無事に卒業して、私たちは大学生になった。家から通うには少し不便な位置に在する大学。それはあの人も同じ様で、バイトを挟みながらのルームシェアという結論を出すまでに時間は掛からなかった。

同じ学校、同じ学科、同じ職場、…同じ家。

あの頃から考えると、凄い事である。高校三年生の、夏。やっと会えた、話すだけで良かった。そんな人が、今は当たり前のように隣に居るのだ。

当たり前のように、手を引いてくれる。
当たり前のように、名前を呼んでくれる。
―…当たり前のように。

一緒の家に帰るようになって、もう半月が過ぎた。社交性に富んでいるこの人のお陰で、友達もできた。

最初は、傍に居られるだけで十分だった。だけど、特別になりたいと思った。高校を卒業する前に、其れは成就して、今に至る訳なのだが…本当にそれで満足だったのだ。

なのに、…何で今になってこんな事を考えて居るのだろう。







話は十分ほど遡る。

講義を終えて帰る途中、小さな公園の入り口に不自然に置かれた段ボール。

「…あら、…朝は無かったわよね、あれ。」

怪訝、互いに。一度顔を合わせてから、更に近付いてみる。薄い布の上に…真っ白な、猫。どうやら捨てられてしまったらしいその猫は、弱々しく声を出す。

―ニャー…。

繋がれた手が、容易に解けた。

「美穂子、猫。」

段ボールの前に駆け寄って、未だ汚れの無い、白い塊を手に収める。塊、それ位の大きさなのだ。…詰まる所、生まれてから日の経たない子猫だった。

「…少し、弱ってますね。」

あの人の後ろから、猫を覗く。動物は昔から好きだった。余りに大きかったり、獰猛だったりするのは苦手だけど、犬や猫はその類では無い。

「家じゃあ飼えないからなー…。」

子猫を胸に抱き、もう片方の手で頭を撫でる。少し持ち上げて、鼻先を子猫の額に当てて居る。

「こんなに可愛いのに。」



――チク、

「…ッ?」

慣れない感覚、瞬間的な痛み。

「このまま置いて行くのもちょっとなー…。如何しようかしら。」

子猫の方もすっかり懐いてしまったようで、あの人の胸元に体を擦り寄せている。確か自分の匂いを付ける、習性…みたいな物だった気がする。

先程から、胸が痛い。刺される様な、…或いは圧迫される様な、そんな痛み。同時に、何やら黒い感情が沸々と湧いてくる。

相手は猫で、それも不遇な生い立ちかもしれない。なのに、自然と甘えているこの子が、羨ましい。出会ったばっかりなのに、この人から愛情に似た物を注がれて居るのが悔しい。

あっさりと、当然のように、私の中の"当たり前"を崩してしまったこの子が。




私は何を望んでいるのだろう。それすら曖昧で、はっきりしない。この感情が何なのかも。―釈然としない。

 
 
 
 
 
 
 







 
 
 
 

 
 
 
 
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