▽main
□呼称。
2ページ/5ページ
「失礼しますわ。」
ノックも無しに、勢い良く開かれる扉。同時に、窓から入る風が、カーテンを煽り、扉の先へと吹き抜ける。なびく綺麗な金糸と、視界の先に捉えた、居る筈の無い人物。それも、一人での御来訪。
「ええっと…、龍門渕さん、よね。どうかしたの?」
部室に設置している、ほとんど私しか使用しないベッドに、入る寸前の出来事。仕切りのカーテンを、取り敢えず端に寄せる。来客を気にせずに、意のまま眠れるほど、神経は図太く無い。
当の彼女は、しきりに辺りを見回して居る。確か和を随分と気に入ってたっけ。
「残念だけど、和なら今日は来ないわよー。部活、…休みだから。」
――硬直、彼女が。
私に言葉を返す事無く、少し俯いて、扉を閉める。どうやら未だ帰るつもりはないらしい。表情は見えないものの、会いに来た人間が居ない事実に、少しなりとも落ち込んでいるのだろうか。
私の前まで足を進めた彼女は、断りも無しに、ベッドへと腰を降ろす。伏せて居た顔が上がる。立ち位置のせいか、睨まれているような、そんな、感覚。
―そして、今に至る訳だ。