天魔(エンビル)

□農作業講座!
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「おら、ユームど…」

「ユーム様に仕える妖精、オームが…」

「「農作業講座、開きます!」」




きっかけはネルだった。

「ネルも野菜を育てたいのです!」

ユームの家に遊びに来ていたネルが、ふと野菜を見て放った言葉だった。
ユームは快く、ネルに野菜の種とスコップ、ジョウロなど、簡単な農作業グッズを渡した。

「土はごれ使うとええだ!牛の糞が混ざった肥料入りだべ」

ユームは土の入った麻袋をネルに渡した。ネルは土に触れてみた。ほのかに暖かい。

「ありがとうございます、なのです!」

「ネルちゃん、なんならそっちの家さ行って良いだか?おらが教えてあげるがら」

ネルは大喜びで頷いた。



ということで始まったのだった。

「まずは種を土に植えるだ」

「はいです」

ネルは土に小さな穴を開けて、そこに種を入れた。そして、土をかぶせて、かぶせた土をギュッと押した。

「ネルちゃん、かぶせた土はそのままにするだ。ギュッとしぢゃうと、芽が出てぐる時、苦労すっぺ」

「あっ、すみませんです」

ネルは土を掘り返し、また土をかぶせ直した。他の種も植え終わり、ネルは輝かしい笑顔となった。

「次は水やりだべ。水はな、あげすぎてもダメなんだぁ」

オームがジョウロを持ってきて、先程種を植えた土に少しずつ水をかける。

「毎日水をやらなくても大丈夫なんだよ!天界の空気は乾燥してないからね」

「毎日あげるものかと思ってました…です」

ネルは、自分の家にある花壇の花に毎日水をあげていたので、野菜もそうだと思っていたのだ。オームの言葉で、また一つ学んだネルだった。

「花も水あげすぎっと、枯れるのが早ぐなるだ」

「ユームちゃんも、オームちゃんもよく知っているんですね」

ネルは感心していた。ユームとオームは顔を赤らめ、微笑んだ。

「全部親から教わっだんだ。後、オームは木の妖精だから、植物について詳しいんだ」

「エヘッ、まあね!」

「すごいです!」

オームは、ネルが植えた野菜畑を飛び回った。

「野菜達が元気に育つよう、おまじないかけたからね」

「ありがとうございます、なのです!」

「さでと、野菜の芽が出てきだら、葉っぱでなく土に水をやるべ」

ユームは試しに、ネルの家の花壇に咲く花に水を少し与えた。その際、花自身ではなく、土に水をかけている。

「おらな、おとんとおかんみたいな農家になりたいと思っでるだ。ネルちゃんは、何が夢あるぅ?」

ネルは少し考え込んだが、やがて首を横に振る。

「考えてもなかったのです…」

「大丈夫!ネルちゃんなら、見づげられるっで」

ネルは笑顔で頷いた。

「日が経って、野菜が育ってきだら、害虫が寄ってくるかもしんねぇ。でもな、こいつがいれば大丈夫だ」

ユームは虫かごを手に取り、ネルに見せた。中には蜘蛛が入っている。
ネルはそれを見た途端、一気に顔が青ざめた。

「クモはな、虫を食べてくれるんだ!」

「え………あ、そ、そう…です?」

ネルの体は震え、汗をかき、歯をガチガチと鳴らしている。

「ん?クモ、苦手な人は多いけど、慣れれば大丈夫だど」

ユームがネルに一歩近づいた途端、ネルは逃げるように駆け出してしまった。ユームは首を傾げる。

「オーム、様子見てくるよ」

オームはネルを追いかけた。

「…そんなに苦手なのがな?」

ユームは、虫かごの中で眠る小さな蜘蛛達を眺めるのだった。



ネルは木の陰でため息をついた。その瞳には一粒の涙が浮かぶ。

「やっぱり…クモは好きになれないです」

木は風で揺れ、一枚の葉っぱが落ちた。その葉はネルの頭の上に乗り、まるで頭を撫でるようにゆっくりと揺れ動いた。

「ごめんね、クモが大嫌いってこと知らなかったから」

ネルは上を向いた。声が上の方向から聞こえた気がしたからだ。しかし、誰もいない。

葉はネルの頭からずり落ちるが、フワッと浮遊し、ネルの目から溢れた一粒の涙を拭き取った。

「葉っぱさん…?」

葉はネルの手の上に乗った。その途端、オームの姿になる。

「オームちゃん!」

「本当にごめん!」

オームは頭を下げた。ネルはオームの頭を撫でる。

「もう大丈夫なのです。こちらこそ、取り乱してごめんなさい、なのです。
さぁ、ユームちゃんの所へ戻りましょうです」




ユームは虫かごを袋に入れ、外からは見えないようにした。

「これでネルちゃん、大丈夫がな?」

「ユームちゃ〜ん」

ネルが手を振りながら、オームと一緒に戻ってきた。ユームも手を振り返す。

「ネルちゃん、ごめんなぁ。そんなにクモ苦手だどは、知らなぐてよ…」

「もう大丈夫なのです!気になさらなくて」

ユームは、ネルの笑顔を見て胸を撫で下ろした。

「農作業の続き、するべ!」

「はいです!」

「オームも手伝う!」

三人は互いに笑顔となった。





数ヶ月後、野菜は見事成長し、美味しそうな実を実らせていた。トマトやキュウリ、ナスなどが色鮮やかに畑を彩っている。

「ユームちゃんのおかげなのです!!ありがとうございます、なのです」

「どういだしまして」

ネルは小さなハサミを持ち、ナスを採った。綺麗な紫色で、みずみずしく、太陽の輝きに反射している。

「お礼をしたいのです!」

「そんなのいらねぇべ」

「ユームちゃんとオームちゃんを着飾りたいのです!」

ネルは、淡い黄緑と黄色のチェック模様のワンピースを魔法で取り出した。

「これ、似合うと思うのです!あげるので着てみて下さい、なのです」

「んん、似合うがな?」

ネルはユームにワンピースを手渡した後、オレンジ色のスカーフをオームの首にかけた。

「オームにもくれるの?嬉しい!」

「もちろんなのです!ネルの家の更衣室を使って下さい、なのです」

ユームとオームはネルに案内され、更衣室で着替えた。


ユームは可愛らしい姿で現れた。先程のワンピースに加え、ひまわりの髪飾りと、オレンジ色のリボンのついたネックレスをつけていた。

「可愛いのですぅ!!」

ネルは満面の笑みで大喜びした。

「何だか照れるだなぁ」

オームは先程のスカーフに加え、カラフルな花がついた小さな麦わら帽子をかぶっていた。

「オームも可愛くなった?」

「はいです!とても可愛くなったのです!!」

オームは辺りを嬉しそうに飛び回った。

「ユーム様もオームも可愛くなった、ワーイ!!」

ネルの手の中に、小さな桃色の花が落ちた。

「オームからのお礼だよ!」

「ありがとうございます、なのです!」

「こんにちは」

皆が喜んでいるところに、ジェルがやってきた。

「ネル様のために野菜の作り方を教えていただき、ありがとうございます」

「本当にありがとうございます、なのです」

ネルとジェルはお辞儀した。

「大したことしてねぇよ。こぢらこそ、ごなに綺麗にしてくれで、ありがどな」

皆笑顔で農作業講座は終わりを告げるのだった。


「ねぇねぇ、ジェル君!」

オームはジェルの周りを元気に飛び回った。

「ど、どうされました?」

「ジェル君って何の妖精?オームはね、木の妖精なんだよ!」

「僕は星を司っていますけど」

オームは目を輝かせた。

「星って、お空で光る星だよね!すごぉおい!!」

無邪気なオームに少し困惑を感じるも、ジェルは悪い気分ではなかった。






「何よ、何よ!アタイの出番がないじゃないの!!」

いきなりネルの家にやってきたリヴは、眉を吊り上げ、プンスカとふて腐れている。

「リ、リヴちゃん?!」

「誰だべ?」

「何、何?」

ユームとオームは首を傾げる。

「リヴちゃんなのです!ネルの友達です」

「ネルちゃん、悪魔のお友達いただか!すごいなぁ」

「オーム、悪魔初めて見た!!」

「友達の友達は、友達なのです!リヴちゃんもユームちゃんも、きっと仲良くなれるのです」
「アタイそっちのけで話するなぁ!!」

ユームはリヴに近づき、お辞儀した。

「おら、ユームと申しますだ。よろしぐな、えっど……リヴちゃん」

「全然よろしくない!アンタみたいなバカと仲良くなってたまるもんか!!」

リヴは家の外に出て、野菜畑を見た。

「こんな野菜なんて…」

リヴはトマトを引きちぎった。そして、握り潰そうと手に力をこめた。

「リヴちゃん、お腹空いてたのですね!」

「お腹空いでるなら、言ってくれれば良がったのに。美味しい野菜料理作ってやっから」

ド天然な二人の発言に、リヴは口をあんぐりと開け、唖然と立つことしかできなかった。

「いや、あのね、アタイは…」

「ささ、リヴちゃんも野菜の収穫、手伝って下さい、なのです」

「やり方はおらが教えるだ」

バカコンビには敵わないリヴなのだった。

結局、リヴは食べ物を貰えたので、満足げに帰ったとか…。

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